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カナリーン城攻略戦

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 霧が少しかかった今日、カナリーン城攻略に踏み切る。
 「じゃあ、皆よろしくねぇ~」

 分隊長達が、それぞれの持ち場へと就く。
 俺とテディ、エルガルドの隊は共に行動する。

 カナリーン城の正門の前に、捕まえてきた人間達全員をその場に座らせ、並べる。

 その数は百人を軽く超えていた。

 「よし! 野郎共! 全員武器を出せ!」
 「「「おおおおおおおおお!!」」」

 「いやぁーーーーーー」
 「やめてくれーーーー」
 「助けてくれーーーー」

 「よっしゃあ! いけーーーー!」
 手を上げた俺が号令と共に手を下げると、兵士達が剣を振り降ろした。
 振り下ろした剣は、座っていた人間達全員の首を胴体と切り離した。

 「クックック! クックック!」
 何百人という死体が一瞬で出来上がり、その周りにも三日間で積み上げた死体が沢山あった。

 「退却するぞーー!!」
 掛け声を上げ、全軍で退却をしていく。
 アウル軍だけではない、ルイス殿下、ロベルタもレオンも含めた全ての軍を退却させる。

 「オラオラー! さっさと動け動け!」
 「退却~! 退却~!」

 ルイス殿下が馬に乗りながら俺のもとへとやってきた。
 「ジャンこれでいいんだよな!?」

 「ええ、勿論ですとも!」
 「本当でしょうね!? ルイスが言ったから私は従ったけど、何も起きなかったらあなた死罪でもおかしくないわよ!?」
 「ルイス殿下が決めたことですから、私達は従いましょう」

 ロベルタとレオンも同時に隣にやってきた。
 「いいから本気で退却すればいいんだよ――」
 そう話をしていると、遠くから歓声のような雄叫びのような声と、馬の足音が聞こえてきた。

 (ユウタきたよ!)
 「キタキター! 殿下きたよ!!」
 
 「来たか! 全軍向きを変えろ!」
 退却させていた全軍の向きを元に戻す。

 そこにはカナリーン城の兵士達が城から出てきて俺達を追ってきていた。

 「本当に城から出てきたの!?」
 「見りゃあ分かんだろ!」
 「意味が分かりませんねえ」
 「どうでもいいから、さっさとやっちまおうぜ」

 「先にいくぜ! いくぞ野郎共ーー!!」
 「「おおおおおおおお」」
 俺は般若を被り先陣を切る。俺自身が一番に斬りかかっていった。

 「一番乗りーー!! あっちょーー!! 楽しいなぁーおい!」
 
 「ドドスコスコスコ、ドドスコスコスコ、ドドスコスコスコ、ハイペッポン!!」
 テディが変な事を口ずさみながら、いとまきまきの手遊びをするように腕をクルクル回し、ケツを左右にフリフリ動かすと、地面から二体のゴーレムが現れた。

 「ワッショイ! ワッショイ! 飛んでけーー!!」
 テディの掛け声にゴーレムは反応し、相手の兵士達に向かって攻撃を始める。

 「テディに負けてらんねぇ~な!」
 俺とエルガルド隊は前から来る兵士達を、正面から斬り伏せていく。

 ロベルタは炎魔法と剣で、レオンは氷魔法で敵を蹴散らす。
 (いいねぇ~! いいねぇ~!)
 (この状況なら別働隊がやりやすいだろうね)

 この作戦では別働隊を用意していた。ジェイドとグロッセ。リリアの隊は別で動いている。
 ルイス殿下の部隊の兵士達、ロベルタとレオンの部隊からも兵士を分けて待機させていた。

 魔法を使って霧を作り、相手からは発見しづらいようにしていた。
 今頃は別働隊が城内に入って城を攻略しているだろう。
 さらに、挟撃するよう指示もしてある。

 カナリーン城にいる兵士達をすり潰す。
 「全軍怯むな! 攻撃を続けろー!」
 ルイス殿下が声を張り上げる。

 敵であるカナリーン城の兵士達は、勢いだけは凄まじいものがあったが、実力も数もこちらが圧倒的で時間が経てば経つほどカナリーン城の兵士の数は少なくなっていく。

 勝ち目もうないだろう。それでもカナリーン城の兵士は俺達に向かってくる。

 「も~もたろうさん。ももたろうさん。お腰につけたきびだんご、ひとつ私にくださいな」
 「や~りましょう。やりましょう。これから鬼の征伐に、ついていくならやりましょう」
 「い~きましょう。いきましょう。あなたについてどこまでも、家来になっていきましょう」
 「そ~りゃ進め。そりゃ進め。一度に攻めて攻めやぶり、つぶしてしまえ鬼ヶ島」
 「お~もしろい。おもしろい。残らず鬼を攻めふせて、ぶんどりものをエンヤラヤ」
 「バーンバンザイ。バンバンザイ。おともの犬や猿キジは、いさんでくるまをエンヤラヤ」

 気付けば周りは、死体の山と真っ赤に染まった血だけになっていた。

 「主様ーー! 主様ーー!」
 リリアの声が聞こえる。

 「主様ご無事ですか?」
 「ああ、何も問題ない……それで? カナリーン城はどうなった?」

 「作戦のおかげで城内には殆ど兵士がいなかったので簡単に制圧出来ました」
 「そうか……分かった。後で追い掛けるから先に行っててくれ」

 「分かりました。主様お気をつけて……」
 「リリアもな……」

 リリアは先にカナリーン城へと向かっていく。
 「クックック。クックック」
 (ユウタどうした?)

 「いやぁ~。最高だなって思ってな!」
 (カナリーン城攻略が上手くいったから? それとも……)
 「人を沢山殺す事が出来たからだよ。クックック」
 (……)

 「ジャン! ジャン! 無事で良かった。怪我はないか?」
 「ルイス殿下……私は無事ですよ。ハハハ! 私の魔法は回復魔法ですよ? 怪我ぐらいならどうってことありません。カナリーン城は攻略出来たみたいです。行きましょうか」
 「ああ……そうだな」

 制圧を終えたカナリーン城の中へと入る。
 縛られているダル公国の兵士達の姿が。

 「ルイス殿下、城内にいる兵士はこれで全てかと」
 「分かった。ご苦労」

 捕まっている中の一人が口を開く。
 「殿下って事は、ロア王国の王子様か。ロア王国は騎士道の風上にも置けない教育をしているようだ」
 「貴様誰に向かって――」

 ロア王国の兵士が槍を突きつけたが、ルイス殿下が止めた。
 「お前は一体誰なんだ?」
 「ルイス殿下、カナリーン城の兵を率いていたダル公国のランツだと思います」
 ジャンが般若の仮面を外しながら殿下に説明する。

 「私の事を知っているなんて大したガキだな。もしかしてお前がこの残酷な作戦を考えて実行したやつか? 王子様があんな作戦思いつくはずないもんな~」
 「確かに私が考えた作戦だよ」

 「まさか子供がやった事なんて想像もしてなかったよ。どんな悪い奴が来るのかと思ったらまさかガキとは」

 「ルイス~。こっちは終わったわよ! ここはどうなっているの?」
 「後はここだけですね」
 ロベルタとレオンもここへやってきた。

 「ハッハッハ! 全員子供だったのか? 私はまんまと子供にやられたのか……?」
 「その通りだライツ。私達ロア王国の子供の軍に貴様は破れたのだ」

 「なあ、私はどうせ死ぬんだろ? その前に一つ聞いてもいいかい?」
 「なんだ? 答えられる範囲なら答えてやろう」
 「あの残虐な作戦を考えたそこの白い髪のガキに聞きたい……私が城から出てくるという確信があったのか?」

 「ジャン……話しても別に構わないぞ」
 ジャンは答えるのを躊躇っていたが、殿下の発言により少しずつ語りだした。

 「確信はありませんでした。あっても六割程度だったかと。ライツ将軍、あなたは頭も良く勇敢。さらには平民からのし上がった名将で民からの信頼も厚く、民の為に自らの剣を振るっている貴族だという情報が、私の所に入ってきました」
 
 「あのような罪もない人達に対して残虐な行為を行えば、きっとライツ将軍のいるカナリーン城の士気が上がると思いました。ロア王国の兵士共をぶっ殺してやると……」

 「しかし、正面から戦っても難しいと分かりきっているライツ将軍は、どれほど憎んでも我慢するしかありません。だからこそ隙だらけの撤退をしました。戦略というものを何も知らない部隊だと思わせる為に……こちらの兵士の多くは霧の中に隠していたので、これぐらいの兵力差なら、この機に背中を叩けば勝負になるとライツ将軍は考えるだろうと私は思いました」

 ジャンが考えた作戦の全貌を、全員が黙って静かに聞いている。

 「仮にライツ将軍が城から出てこなくて、そのまま撤退になったとしても、こちらの被害は殆どなく、ほぼ無傷なので軍の遠征訓練と思えばそれほどでもありません。カナリーン城を守っている防御魔法の威力もある程度確かめる事が出来ましたから、新たに軍を再編成してカナリーン城を攻めれば、陥落出来たと思いますし、その情報を手にしただけでも遠征としては悪くありません」

 「ただ、ライツ将軍はこのままロア王国軍を撤退させたら、近くにある村や拠点にいる人々がカナリーン城で行われたように虐殺されるのではないだろうか? と思うのではないかと。自分が城から出ないばっかりに全員死なせてしまうのではないか? と考えると思いました」
 
 「つまり隙を作れば、刺し違える覚悟で出てきてくれるだろうと私は考えていました」

 「ハッハッハ! 大したもんだよ本当に……性格も全部計算通りって訳か! 参ったよ完敗だ」
 (そんな事まで考えてたのかよ……)
 (だから今回の戦は楽勝というか、敗北らしい敗北はないんだよね)

 「……ここにいる捕虜全員を牢に入れておいてくれ」
 「「はっ!」」
 兵士達がライツやその他の兵士を牢へと連れて行く。

 「ジャン。今回のカナリーン城攻略では本当に助かった感謝する」
 「いえルイス殿下、とにかく被害も最小で攻略できて良かったです」

 「今日はゆっくり休んでくれ」
 「殿下、それではお先に失礼します」
 ジャンは城内の一室に案内され、久しぶりのベットに横になる。

 戦いが無事に終わったからなのか、緊張が解けたからなのか、一瞬で意識を失った。
 気付いた時には、もう朝になっていた。
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