5 / 5
みんなから諦められた王子
後編
しおりを挟む王宮で両陛下と対面した際、王妃様は殿下の鼻が伸びているのを見てあまりの衝撃に気を失いかけていた。陛下は神妙な顔で私の話を聞いてくれた。
「そういうことだったのか…マーガレットには大変辛い思いをさせたな」
「父上、早く、婚約を解消してくれませんか!そして、もう一度マーガレットと婚約を結び直して下さい」
殿下の叫びに陛下は目を瞑り何かを考えていた。もうすぐ私の両親が王城に着くため、それをもって婚約の解消は出来るだろうが…ゆっくりと目を開けた陛下は真っ直ぐに殿下を見つめた。
「お前、1度婚約を解消すると同じ相手とは再婚約が出来ないようになっているが、それでもいいのか」
陛下の質問に殿下は「えっ?」と驚いている。
「お前にはせっかくこの国1番の後ろ盾と側近達をつけてやったのに残念だ」
その言葉にその場にいた全員が息を呑んだ。第一王子と言う地位を持つお前に国1番の後ろ盾と側近をつけることで王として何不自由なくやっていけるようにしてやったのにその婚約者達を蔑ろにしたお前には王になる器がなくて残念だと、そう聞こえた。
「宰相!以前言っていた件、許可しよう」
その宣言と共に、ベルン、ニアは殿下の側近から解かれることとなった。また、殿下との婚約を解消するにあたり、私の護衛であったジニーも役割を解かれた。
「何故ですか父上!」
そう叫ぶ殿下に陛下は「この2人は側近であるにも関わらず、お前を正しい道へと導くことが出来ず前々から側近を辞退したいと願っていたからな」と事も無げに言った。
「それでお前はどうしたい?そこの男爵令嬢と婚約するのか?彼女は嫡子なのか?」
「私は王になるために今まで勉強してきたのですよ!?」
「お前がそれを自らの手で壊したのだろう?勝手に側妃制度を作るだの、側近達からは愛想を尽かされ、婚約者との契約も守れず鼻が伸びてしまったのだろう?そんな奴がこの国の王になるなんて不安しかない。間違った道に進んだ時に自分を正してくれる周りの声を無視する王など独裁者にしかならんだろう。生憎うちには第二王子がいるのだから、王位は第二王子に継がせる。お前は好きな女と好きなように生きればいい。それがお前のしたことへの結果だ」
「そんな父上…!マーガレット…!」
そう言って殿下は私を見るが、私は無表情のまま殿下を見つめた。
「ベルン…!ニア…!ジニー…!」
彼等も無表情で殿下を見つめた。
幼い日の私なら「あらあら殿下」と優しく駆け寄り、ニアが「殿下ったらしょうがないな」と優しく微笑み「しょうがないですね」と言うベルンと「ほっとこうよ」と冷めた目のジニーがいただろう。今の私達は誰1人として殿下に近寄らず、ただ喚く殿下を無表情で見つめ続けた。そこに何の感情も湧いてこない。私達はこの数ヶ月間、少しずつ殿下への思いを諦めてきた。だから、今はもう殿下への気持ちなんてこれっぽちもない。最初に裏切ったのは殿下なのだから。
◆◆◆◆◆◆
それから無事に殿下の鼻は戻った。
婚約解消をしたことで契約魔法が切れ、すぐに元の鼻に戻った。鼻は戻っても私達の殿下に対する気持ちは戻ることがなく、学園で殿下を避けるように生活した。最初は殿下も私達と話そうと頑張っていたが、私達からするともう殿下はどうでもいい存在なので適当にあしらっているうちに殿下はショックを受けたようで私達に近付いてこなくなった。
その後、正式に第二王子が王位を継ぐことが発表された。カロン男爵令嬢には兄がいたため、殿下は王家から1代限りの男爵家の爵位をもらいそこへカロン男爵令嬢が嫁入りすることが決まった。
カロン男爵令嬢への虐めの犯人は結局見つからなかった。目撃情報があったはずなのに、その目撃情報があやふやだったため証拠にならずその後、虐めがおさまったため犯人不明のまま事件の幕は閉じた。
ただ、カロン男爵令嬢は殿下との華々しい暮らしを夢見ていたようで、領地を持たない名ばかりの男爵家になることを嘆いていたらしい。それに殿下の鼻が伸びてしまった一件は目撃者がいたせいで学園中に知れ渡ってしまい、今では大衆演劇にされ笑い者にされている。これから殿下もカロン男爵令嬢も社交界で生きていくには少々大変な思いをするだろう。
そして私はというとー
公爵令嬢の私に釣り合う家柄で婚約者のいない人など残っていないと思っていたが、ずっと婚約者のいなかったベルンに告白された。小さい頃から密かに憧れていたと言われて驚いてしまった。確かに昔から私の気持ちを敏感に察知してくれて、いつも細かなことまで気付いてくれるベルンとは殿下より気が合うと思っていたが、まさか私のことが好きでいつも見ていたからだと言われて思わず「ドキッ」としてしまった。
まだ幼馴染としてしか見れないけれど、ベルンなら浮気をせずに私のことだけを見てくれると思っている。
それからトントン拍子に婚約の話は進み、両家との顔合わせで婚約のための契約書を作成することになった。王族と違って普通の貴族の婚約では契約魔法は使わないので何かあれば随時更新していくことになった。最後にベルンが何か入れておきたい文章はないかと聞いてきたので私は少し考えたあと
「『もしベルンが浮気したらベルンの鼻が伸びるようにして下さい』って入れてもらえるかしら?」
と言うと、ベルンが珍しく大きな声を出して笑ってくれた。
応援ありがとうございます!
35
お気に入りに追加
33
この作品の感想を投稿する
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる