トラガスとクリームソーダ

文月黒

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トラガスとクリームソーダ

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トラガスにピアスを開けた。
ヘリックスにも開けた。あとついでに耳たぶにも一個増やした。
元々両耳の耳たぶに一つずつ開けていたので、これで左右合計五個になったピアスだが、私はどうして一気に三つもピアスを増やそうと思ったのか。
これについては何となくの一言に限る。
可愛いし、前からやってみたかったし、何か、勢いで、つい。
けれどニードルを使って自分でやるような度胸もなければ、そもそも私は自分でもびっくりするくらいの不器用である。
なので普通に美容系のクリニックで開けた。
開ける場所の相談も出来るし、麻酔もしてくれるし、ケア用の軟膏もくれる。
クリニックでやれば後々炎症を起こしたりなどのトラブルがあった時も相談しやすい。
不器用かつビビりな私にはピッタリだった。
自分でやれば安上がりだとは思うけど、諸々を考えると石橋を叩いて走りたい私にはクリニック一択だった。

しかし、クリニックでやって貰うのは良いが、ヘリックスもトラガスも軟骨だ。
軟骨にピアスを開けるというのは、それはつまり骨折みたいなものだ。
麻酔があって本当に良かった。
あっても相当緊張するのに、無麻酔だったら多分泣いていた。
私はビビりだし打たれ弱い自信がある。
まぁ、麻酔って痛いんですけどね。
しかし私は幸か不幸か、何度か骨髄穿刺の経験があったので、この手の麻酔は慣れているのである。
慣れているとはいえ、痛いものは痛いけれど。
あと、耳たぶは冷やしただけでピアッサーでパチン!だったので、こっちの方が痛かった。

何とか処置が終わり、増えたピアスと耳のぼんやりした違和感を抱えて会計を済ませると、何だかどっと疲労感が押し寄せた。
あ、私すごく緊張してたんだな。そう直感した。
とりあえず何か飲み物でも飲んで落ち着こうと思い、近くのコメダに寄る。
普段ならコーヒーを頼むところだが、メニューを見てたら妙に惹かれて久しぶりにクリームソーダを注文。
あの長靴型のグラスに入ってるやつだ。
運ばれてきたクリームソーダの色鮮やかなこと! これだけで一気にテンションが上がる。そう、クリームソーダは私にとってテンションが上がる飲み物なのだ。
記憶より大きくなっているような気がするソフトクリーム。
そのソフトクリームとメロンソーダの境界の、シャリシャリになった部分をスプーンで掬って食べるのが好きだ。

メロンソーダを一口飲んだ瞬間、炭酸が身体に染み渡るようだった。
クリームソーダってこんなに美味しかったっけ。少し感動した。
その時、私はピアスを開けるのに緊張し過ぎて疲れていた事など忘れ……、いや、クリームソーダが私の疲労感を吹き飛ばしてくれたのだろう。

こうして私は無事にピアス穴を三つ増やし、クリームソーダ効果で元気に帰宅したのだった。
オチは特にない。
クリームソーダは美味しい。
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