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一章 醜いあひると盗賊

二 醜いあひると男

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 咄嗟に悲鳴を抑え込んだけれどその男の左肩からは血が流れていて顔色も酷く悪く唇などは紫色になりかけていた。

 今まで男性と話すことなどあまり無かったので最初は声をかけるのも躊躇したが、相手は酷く具合が悪そうだったので仕方なく駆け寄った。

「……大丈夫ですか?」

「くそっ、罠に引っ掛かって、毒が……」

 辛うじてその男性がそう答えた。

「毒とはどんなものですか?」

 男は首を左右に振るだけだったので、私は慌てて薬草園の中にある薬草小屋まで戻った。

「毒消しはどこだったかしら?」

 正直、毒の種類が分からないと毒消しはあまり効かない。

 それに万能な毒消しはとても高価なものであった。

 私は棚に置いてあった壺からいくつかの丸薬を取り出した。

 ここでの薬作りは修道院の大事な収入の一部となっていている。

 今は私が先代院長より秘伝の調合書を引き継いでいるので薬草の持ち出しは比較的自由にできた。

 私はなるべく急いで倒れ伏した男の元に戻ると既に意識が遠のきかけている男性の頬をやや強めに叩いて呼びかけた。

 このままでは確実にこの男性は死んでしまうという考えで一杯だった。

「これを飲んでください。毒消しです」

 意識がなくなりかけて弱っているせいか中々薬を口にしない男性に私は無理やり指で喉の奥まで毒消しの丸薬をねじ込んでみせた。

 そして持ってきた小瓶の水を男の口に注いだ。

 口の端から水は零れていくがなんとか男性は飲み込んだようだった。

 私は男性が呑み込んだことを感じるとほっとして今度は男性の左肩の傷を診てみる。

 そこには大きな裂傷があり、まだ血が流れ出ていた。

 応急処置も修道女が怪我した時に手伝っているのでなんとか私は傷口も手当てしてみた。

 しばらくすると男性の呼吸が楽になってきたように感じて私は彼の顔色を見た。

 しかし、どす黒かった顔色はあまり変わっているようでは無かった。

「……俺は、助かった、のか。ありがとう」

 男はそう擦れた声で礼を言ってきた。

 彼のこげ茶の髪はぼさぼさで後ろは肩を越すほどもあり、前髪の隙間から赤褐色の瞳がちらりと覗いた。

 私は初めて聞いた男性からの自分への礼に少し心が騒いでいたけれど毒消しが効きそうなことにひとまず安堵した。

 飲まそうとしたときに男が拒否したのは苦しかったせいに違いない。

 でもこのまま毒が抜ければいいけれど毒の種類が複数混ざっていた場合は難しくなるかもしれない。

 私は毒消しの効きを確かめるためにどこかでゆっくりと男性を休ませようと考えた。

「まだ、毒の種類が分からないし、毒消しが効いたかどうか、まだ用心したほうが良いと思います」

 立てますかと男を促した。この大柄な男性を私のような痩せて貧弱なのが担いでいくことは難しかった。

 この修道院の最奥の薬草園には他の者が来ることは滅多に無い。

 他の修道女達がここを毒草園と陰で言っていることも私は知っていた。

 だから、毒が抜けてないこの男性を看病するために薬草小屋で休ませても大丈夫だと考えていた。

 幸いなことに男性は私の勧めに従ってゆっくりと立ち上がってくれたので私は男性を支えようと右脇に入り込んだ。

「いや、……大丈夫だ」

 そう言うと彼はそっと私の体を避けたのだった。

 醜い私に触れられるのが嫌だったのかもしれない。

 そう思うと男の行動に少しショックを受けてしまったけれど治療をすべきだと自分に言い聞かせて男を小屋に案内した。
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