社内恋愛の絶対条件!"溺愛は退勤時間が過ぎてから"

桜井 響華

文字の大きさ
1 / 31
条件1:業務外の報告禁止!

役員用の会議室は窓がない。

紺色のカーペットが広がる床の上に会議室のテーブルと椅子、部屋の奥にプロジェクターがあるだけで扉を閉めれば完全な密室だ。

この密室の中で本日、胡桃沢  和奏(くるみさわ  わかな)は決心した。

今がチャンス!…と。

「いつも綺麗にしていただき、ありがとうございます」

会議室を掃除している最中にお礼を言っているのにも関わらず、表情を一切変えないポーカーフェイスな彼、相良  大貴(さがら  だいき)が現れた。

眼鏡の奥には切れ長の瞳、鼻筋の通ったクールなイケメンと言う見かけだが、中身は堅物で融通が効かないらしいと噂の彼なのに私はときめいてしまうのだ。

相良さんは副社長専属秘書をしていて、会議室を掃除していると時々、覗きに来る。

「当然の事です。それより…」

仕事以外の会話はあまりした事もなく、高鳴る心臓を右手で押さえつつ、勇気を出して問いかける。

「相良さんは彼女居ますか?」

恥ずかしいので、若干、早口になりながらも言い切った。

我ながらよく勇気を出して頑張ったと自画自賛もする間もなく、返答は瞬間的に自分に戻ってきた。

「業務以外のプライベートの事は答える義務はないはずです」

こうなったらどうにでもなれと言う投げやりな感じで、気持ちをぶつけた。

「す、好きです!相良さんの事!」

「業務中ですので、お答え出来ません。失礼致します」

突然の告白にも驚きもせず、一礼して会議室を去ってしまった。

………玉砕。

完全なる敗北。

胡桃沢  和奏、25歳。

派遣の受付嬢をしていて、4月から彩羽(いろは)コーポレーションの本社に勤務になりました。

同じく、4月から副社長の専属秘書になった相良さんに一目惚れをしてしまい、7月下旬に勢い余って告白しましたが玉砕しました。

『業務中ですので、お答え出来ません』との返答を受け、振られたのかどうかも分からず、ただ落ち込むばかり。

突然の告白から相良さんには会えず、通りかかるのをただ見ているだけ───……

若い受付嬢が入社してくる中、私はもう潮時かな?と思っている。

他の仕事はした事がなく、辞めるにしても職が見つかるかどうかも不安。

特別高いスキルがある訳でもなく、英会話も挨拶程度にしか出来ず、いっその事、永久就職しちゃいたい。

永久就職するなら、本当に好きな人が良いな。

「先輩は誰が好みですか?私は断然、副社長ですけどっ!」

受付カウンターで隣に座る新人の奈子ちゃんが遠くに見えた副社長を見つけて、頬を赤くしながらはしゃぐ。

モデルの様な立ち振る舞い、時として小悪魔の様に微笑むカッコ可愛い系の若い副社長は通り過ぎるだけで女子社員の歓声が上がる。

婚約者が居るとの噂だが、女子社員はまだ望みがあると思っているのか、少しでも接近して自分に目を惹きたいらしい。

副社長は愛想も良く、自分から各部署にお邪魔しては社員の話を聞き、信頼も厚い様だ。

「王子の事、朝見れるだけでも幸せっ」

奈子ちゃんが嬉しそうに呟く。

「私は…相良さん…」

「えぇ!?相良さん!?た、確かにカッコイイですけど、無愛想だし、いつも無表情じゃないですか!…笑ったところ、見たことないかも…!」

誰も見た事がないかもしれない相良さんの笑ったところを私は見た事がある。

副社長といる相良さんは自然体で、お互いに信頼しているのか、友達同士のやり取りの様な感じに見える。

いつもはクールで仕事が出来る相良さんのギャップにキュンとして、もっと接したいと思う様になった。

眼鏡を外して、眼鏡の奥の瞳を見てみたい。

素の表情を見てみたい。

もっと話をしてみたい。

それなのに、恋は始まる前に終わりました───……
感想 0

あなたにおすすめの小説

絶交した幼馴染と大学の合コンで再会した。

孤独な蛇
恋愛
中学生の浅野春樹は上級生と喧嘩騒動を起こしたことがあった。 その上、目つきが悪く地毛は茶髪のため不良少年のような扱いを受けて学校では孤立していた。 そんな中、幼馴染の深瀬志穂だけは春樹のことをいつも気遣ってくれていた。 同じ高校に行こうと声を掛けてくれる志穂の言葉に応えたい一心で受験勉強にも力を入れていた。 春樹にとって、学校で孤立していることは問題ではなかった。 昔から志穂が近くにいてくれるから……。 しかし、3年生なってから志穂の態度がよそよそしくなってきた。 登下校も別々になり、学校で話しかけてくることも無くなった。 志穂の心が自分から離れていってしまっている気がした春樹は焦っていた。 彼女と話がしたい。笑った顔が見たい。 志穂と一緒に帰ろうと、彼女が部活動を行っている体育館へ向かったのだが……。 そこで春樹が耳にしたのは、自分の悪口を言って部活の友達と楽しそうにしている志穂の声だった。 その瞬間、春樹の中で志穂に対する想いや信頼は……消滅した。

それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。 「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」 その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。 恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。 まさにいま、開始のゴングが鳴った。 まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。

フリーランスエンジニアの優しすぎる無償の愛

望月 咲妃
恋愛
26歳OLの木崎茉莉は人生のどん底にいた。上手くいかないことに慣れ、心を凍らせることで自分を守る毎日に絶望した茉莉は、雨の夜に思わず人生の終わりを願ってしまう。そんな茉莉に手を差し伸べたかっこいい彼。茉莉は、なぜか無償の愛のような優しさをくれる不思議な男性に少しずつ救われ、前を向いていく。けれど、疑ってしまうほど親切な彼には、親切であり続ける理由があって……。雨の夜の出会いがもたらした、優しくも切ない物語。

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

水錵 咲
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった! 『推しのバッドエンドを阻止したい』 そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。 推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?! ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱ ◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!  皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*) (外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

社長は身代わり婚約者を溺愛する

日下奈緒
恋愛
ある日礼奈は、社長令嬢で友人の芹香から「お見合いを断って欲しい」と頼まれる。 引き受ける礼奈だが、お見合いの相手は、優しくて素敵な人。 そして礼奈は、芹香だと偽りお見合いを受けるのだが……

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。