社内恋愛の絶対条件!"溺愛は退勤時間が過ぎてから"

桜井 響華

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条件5*休憩中の密会禁止!

───忙しかった一日は残り僅かで終わりに近付く。

普段は受付カウンターの終了と共に退勤するのだけれど、今日は会議室の片付けをしていないので30分だけ残業の許可を得た。

片付けと言っても、使用した会議室に置き去りにされたペットボトルなどを片付けるだけなので30分もあれば充分だ。

最近、役職会議が立て続けにある為、受付カウンターに座ってばかりはいられない。

会議室の片付けをしながら、明日明後日の事を考える。

昼間は忙しくて決断出来ず、まだ悩んでいる。

中身の入ったままのペットボトルを捨てる為に給湯室に居ると、すぐ横を誰かが通り過ぎた。

見慣れた姿だったので、身を乗り出してみるとやっぱりそうだったので思わず呼び止めてしまっていた。

「相良さんっ!」

「……社内では接近禁止と言ったはずですが…?」

呼び止めたら立ち止まってはくれたものの、振り向いてはくれない。

低く冷たい声だけが廊下に響く。

「それに扉は閉めて作業して下さい。社長室が奥にある事をお忘れなく…」

秘書室の隣にある給湯室で作業していた私は、手早く終わらせようとしてドアを閉めるのを忘れていた。

「すみません…」

相良さんに注意をされて我に返った私は給湯室の中に入り、ドアを閉める。

接近禁止なんだから声をかけてはいけない事ぐらいは頭の中では理解していても、社内で会えると子供の様に嬉しくて行動を起こしてしまう。

反省しながら再び作業に取り掛かるとガチャリと静かにドアが開いた。

「お、疲れ…様で、す…」

接近禁止だと自分で言っていた人物が入って来て、ドアを静かに閉めて私に近付く。

挨拶だけをして姿を見ないように背を向け、空のペットボトルのラベルを剥がしてゴミ袋に入れていた私。

無視して作業をする私の頭の横から壁に手をつき、私は壁際に追い詰められた。

言わいる壁ドンってヤツ?

斜め下側を向いていた私の両頬を摘み、自分側に向かせて、上から見下ろされる。

「あ、あの…何でしょう、か?」

胸の鼓動が跳ね上がり、ドキドキしながら相良さんの顔を見ながら尋ねる。

持っていた袋を手から外してしまい、空のペットボトルが何本か床に転がる。

「…胡桃沢さんは言いつけも守れないし、社内恋愛は向いてないんじゃないですか?」

「…すみません。相良さんを見かけたら嬉しくて声をかけてしまいました…」

廊下で声をかけた時みたいな低い声で私を蔑む様に指摘されたので、ドキドキ感よりも怖いという感覚が増して涙が一粒、頬を滑り落ちた。

これ以上、涙が流れないように唇を噛み締めてこらえる。

相良さんはそんな私の姿を見て動揺しているのか、目を泳がせた。

「……泣かせるつもりはなかったんですが…」

私の身体を優しく引き寄せて、相良さんに抱きしめられる。

相良さんの胸辺りにコツンと頭が当たる。

「副社長に迷惑をかけると言うのは建前かも知れません…。話をかけられたらもっと話をしたくなるし、一緒に居たくなります。…だから、社内では話をかけないで下さい」

思いも寄らなかった返答にキュンとして、胸がときめく。

……けれども、納得がいかない点もある。

「……はい。でも、相良さんからは話しかけても良いのに、私からは駄目なんて不公平じゃないですか…」

相良さんの胸におでこをつけて下を向いたまま、自分の意見を通す。

「…不公平でも仕方ないんです。誰も居ないのを確認してから話をかけています。胡桃沢さんは周りを見渡してはいないでしょう?…それでは駄目なんです」

先程、相良さんに声をかけてしまった事は本当に迂闊だったと反省しているけれど、私だって相良さんに話しかけたい。

「……会える時間を増やすので、社内ではお互いに我慢しましょう」

「……はい」

会える時間を増やすと言われたら嬉しいのは当たり前だけれど、秘密の社内恋愛はとても窮屈で切ない。

誰かの目をかいくぐり抱きしめられて、優しく頭を撫でて貰って…、そんな秘め事は秘密の社内恋愛でしか味わえないときめきなんだけれど…。

大人の駆け引きが出来ない子供じみた私には、秘密の社内恋愛は難しいと痛感。

「あの…、1つ聞いてもいいですか?明日の事なんですけど…?」

「はい、決まりましたか?」

「それが全く決まらなくて困っています。どうしたら良いですか?それぞれ1日ずつ決めるとかは駄目…ですか?」

「…分かりました。明日は胡桃沢さんの好きな場所にしましょう。明後日は私が決めます。都合の良い時間にお迎えに行くので、後からメール下さいね」

別れ際に今よりも少しだけ力を入れて抱きしめられて、子供をあやす様に頭を撫でられ、いつもの様に頭をポンポンされてから身体が離れた。

まだ離れたくなかった私は相良さんのネクタイを取り出して、引っ張る。

両頬に両手をそれぞれ触れてキスをしようとしたのだけれど、背伸びをしても届かなかった。

必死な姿を見て、相良さんは吹き出すように笑った。

「…したいなら、そう言えば良かったのに」

な、何を平気で言っているの!?

そんな風に言われたら、私のした行動がとても恥ずかしく、顔から火が出そうなくらいに火照りを感じた。

言えるはずがない。

言葉に出すのには勇気がいるし、接近禁止と言われてるのに目の前にいる今の状況が奇跡に近い訳で、それに言ったところで怒られるのは目に見えているもの…。

「…では、また明日。胡桃沢さん、17時20分過ぎてますから早く終わらせて下さいね」

切り替え、早いな。

相良さんは私に軽めのキスをすると、何事もなかったかの様に給湯室から出て行った。

冷たくあしらわれたり、甘やかされたり、相良さんの態度一つ一つに振り回されている私。

ゆっくりと指で唇をなぞり、相良さんの姿を思い出す。

仕事中の冷酷な態度は、誰にも近寄って欲しくないからなのかな?

自惚れかもしれないけれど、私と居る時の相良さんはちゃんと笑ったりするもん。

相良さんの表と裏の顔、私だけが知っている特別感。

末長く一緒に居たいから、今の関係を壊さない様に私が気をつけなくちゃ。

クールで物静かな印象だったけれど、大事な事はきちんと言葉で伝えてくれる、とても優しい人。

大好き。

頭の中は相良さんの事で埋めつくされている中、手早く残りの仕事を終わらせた。

帰りに明日、明後日と着る洋服を買いに出かけて、自宅アパートに着いたのは22時近くだった。

電車の中で考えた明日のプランを相良さんにメール送信して、お風呂に入る。

お風呂上がりにはまだ返信がなく、23時を過ぎた頃にメールが届いた。

明日は、私がいつも利用している駅に10時に迎えに来てくれる事になった。

丸々二日間、相良さんを独占出来る。

私服はどんな格好だろう?

楽しみにしながらベッドでゴロゴロ寝転がっていたら、いつの間にか眠りについていた───……
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