社内恋愛の絶対条件!"溺愛は退勤時間が過ぎてから"

桜井 響華

文字の大きさ
15 / 31
条件7*規制緩和中は入室許可!

付き合っている事は確かなのだけれど、両想いだと言う確証はない。

片思いの恋人未満、暇つぶしの玩具が当てはまるのかもね…。

頭の中をグルグルと過ぎる想いに結論は出ず、再生されていたドラマが終わる。

「何を作ってくれるのか楽しみ…」

「…か、簡単な物しか出来ませんからっ」

停止ボタンを押して台所へと向かい、冷蔵庫の中身をチェックして、使えそうな食材を取り出す。

「助手なんで何でも言って下さい」

「じゃあ、玉ねぎの皮を向いて貰えますか?」

「かしこまりました」

返事の仕方が会社に居る時の相良さんみたいで、何となくおかしくなって思わず吹き出す。

指示された事を手際良くこなしていく相良さんを見て、この人に出来ない事なんかあるのだろうか?と思う。

天は二物を与えず───と言うけれど、相良さんには何物でも与えられている気がして、不公平だとも思う。

社内では頭痛明晰、容姿端麗で通っているし、ピアノの演奏も神業そのもの。

けれども、その何物にも与えられた事に対して相良さんは代償を支払っていた事を後程、知る事になる。

「…く、悔しいほど、包丁使いが上手いですね…」

相良さんに微塵切りを頼んだら、かなりの細かさで、料理にも貴重面さが出るのかと思うくらいに他の野菜も手際良く綺麗に切られていた。

私のメンツ丸潰れじゃないか、相良さん…。

まぁ、良いんだけれど…。

「洗い物するよ」

「後は私がやります。座って待っていて下さい」

材料が全て切り終わり、手持ち無沙汰な相良さんが洗い物をしようとしていたので阻止するが大人しく座ってくれそうもなく、
「…うん、じゃあ、ここで見てる事にする」
と言い出して、私の側に立って料理の工程を見ている事になった。

すぐ横で、じっと見られていると緊張して動きがギクシャクしてしまう。

冷蔵庫にあった材料で簡単なピラフにしようと思ったのに、緊張のあまり、バターではなく油をフライパンに敷いてしまった。

仕方なく、キッチンペーパーで油を拭き取り、今更のバターを冷蔵庫から取り出す。

段取りが悪いと笑われるかな?

「言ってくれれば取ってあげたのに!あくまでも俺は補助だから何でもするよ」

何でもするなら座ってて!と言いたいところだけれど、一緒に料理をするのは新鮮で楽しいし、側にいて貰える幸せは手放せない。

「…彼女が作ってくれるご飯っていいよね」

「…か、彼女って、」

「和奏は彼女でしょ?違うの?」

「…ち、違わない…けど」

"好き"とは言われないけれど、言葉に含まれる単語に踊らされ、胸がキュンとする。

相良さんの口から"彼女"だって言われた事が嬉しくて、感情が表に出てしまい、口元が緩む。

バターを溶かして玉ねぎ等の野菜とシーフードを炒め、ご飯を投入。

簡単ピラフを作っている間に相良さんが、「カトラリーはどこ?」と聞いてきたので、カトラリー?とは何でしょう?と思い、聞き返した。

「フォークとスプーンの事。テーブルに並べてくるから」

あぁ、そうか。

カトラリーとは食卓用のフォークやスプーンの総称をいうのか。

無知な私をさらけ出したのにも関わらず、馬鹿にもせずに受け流した相良さんはテキパキと食事の用意をしている。

単に呆れられたから何にも言わないのかな?

「…和奏、この並べ方、覚えておいてね」

自分1人だけで食べる時は、何を食べるにしても箸だけで済ませてしまうのがほとんどだけれども…相良さんはお店の様に綺麗にカトラリーとグラスを並べていた。

「はい、もっと勉強します。お店みたいですね、雰囲気変わりますね」

「…和奏が作ってくれた食事だから、より美味しく食べれたらと思って」

「そんな事言って、食べてみて不味いとか言うんでしょ?」

「言わないって。バターと塩コショウしか入れてないんだから、安全圏でしょ!」

「や、やっぱり、信用されてないー。相良さんの馬鹿ぁっ」

相良さんは私の事をいつもみたいにからかいながら「そんな事ないよ」と言って、大きな手で頭を優しく撫でる。

「…そうだ。今度、一般向けみたいなレストランじゃなくて、ドレスコード必須のレストランに連れて行くから、待ってて」

「ドレスコード?」

「うん、正装って事」

ドレスコード=正装、と言う事は高級レストラン?

「わ、私、いいですっ。緊張しちゃうし、行けませんっ」

「…そう。でも、行って貰わないと困る。大丈夫だよ、俺と二人が不満なら、副社長と秋葉さんを誘ってもいいよ」

「不満なんじゃなくて、私自身が不安なんです」

「…知ってる」

料理を並べながらの何気ない会話の中に隠されていた相良さんの本当の思惑。

その思惑を知る時、相良さんの事情も知る事になるが…まだ先の話。

相良さんには私の胸の内なんてお見通しで、安心させるかの様に再び、頭を撫でられる。

頭を撫でられるか、ポンポンされる事が日常化されている近頃、ドキドキ感よりも安心感へと気持ちも変化していた。

相良さんの手が心地よい。

二人で作った料理を運び、ドラマを見ながら食事をする。

簡単ピラフ、コンソメスープ。

夏は腐敗しやすく野菜の買い貯めは出来ないので長持ち出来る野菜と冷凍物しかなくて、自炊しているいつもの料理でも、相良さんと一緒に作って食べてるから特別感があり、美味しく感じる。

食後にコーヒーを飲んで・・・レンタルした2巻目のドラマもエンドロールへ。

「あっ、終わっちゃった…」

主題歌が流れ、思っていた事を言葉に出してしまう。

約束のお別れの時間。

「なるべく時間を空けないように、続きを見られる様にするから」

相良さんが帰ろうとして立ち上がったので、私も咄嗟に立ち上がる。

「はい、待ってますね」

「じゃあ、また明日、会社で…」

"また明日、会社で…"、とても素敵な響きだけれど、私にとっては見てるだけの時間に逆戻りするだけ。

別れ際に頭を撫でられるが、この優しさもしばらくお預け。

「…えっと、お願いがある…んですけど…最後に…ぎゅうっとして、もらえますか?」

「うん、これだけで良いの?」

私は寂しさを埋める様に恥ずかしながらも言葉に出して、抱き締めてもらった。

相良さんの存在を確かめる様に私も背中に手を回し、抱き締め返す。

『これだけで良いの?』と聞かれても、返答に困る。

何も言わずに相良さんの胸に顔をうずめて、目を閉じると心臓の音が耳に入る。

離れたくないな、ずっとこうして相良さんを近くに感じていたい。

「…おやすみ、和奏」

「おやすみなさい」

幸せな気分のままで居たいから、シャワーを浴びたら早めに寝よう。

会社付近の公園で抱き着いてしまった時は、すぐにベリッと音が聞こえるぐらいに勢い良く引き離されたが今日はプライベートだからか、くっついたままだ。

明日も仕事だから早く解放しなきゃいけないのに、いざとなると背中に回した腕を解けない。

「…帰れないんだけど」

「わわっ、ご、ごめんなさいっ」

相良さんの申し出により腕を緩めたが、今度は唇を絡め取られて、部屋に吐息が漏れる。

「今度こそ、おやすみ」

「…っ、おやすみなさい…。自宅に着いたらメールして下さいね」

「分かった」と言い残し、相良さんは玄関の扉を開けると振り返らずに外に出て、扉をそっと閉めた。

相良さんの居なくなった部屋にテレビの音だけが響き、画面の時間を見るともうすぐ23時になろうとしていた。

明日から仕事なのに遅くまで引き止めてしまっていた私。

相良さんが自宅に着く頃にはもう、午前0時を回るかもしれないな…。

そう言えば、住んでいる場所も聞いてなかった。

翌々考えたら、誕生日も何にも知らない。

次回会う時迄には、聞きたい事を箇条書きしておこう。

───自宅に着いた時、約束通りにメールをくれた相良さんだったが、シャワーを浴びてベッドでメールを待っている内に私は寝ていたらしく、気付いたのは次の日の朝。

焦りはしたが、朝起きて直ぐに返信をしたら、数分後には返信が来て、幸せなスタートを切れた朝だった…。
感想 0

あなたにおすすめの小説

絶交した幼馴染と大学の合コンで再会した。

孤独な蛇
恋愛
中学生の浅野春樹は上級生と喧嘩騒動を起こしたことがあった。 その上、目つきが悪く地毛は茶髪のため不良少年のような扱いを受けて学校では孤立していた。 そんな中、幼馴染の深瀬志穂だけは春樹のことをいつも気遣ってくれていた。 同じ高校に行こうと声を掛けてくれる志穂の言葉に応えたい一心で受験勉強にも力を入れていた。 春樹にとって、学校で孤立していることは問題ではなかった。 昔から志穂が近くにいてくれるから……。 しかし、3年生なってから志穂の態度がよそよそしくなってきた。 登下校も別々になり、学校で話しかけてくることも無くなった。 志穂の心が自分から離れていってしまっている気がした春樹は焦っていた。 彼女と話がしたい。笑った顔が見たい。 志穂と一緒に帰ろうと、彼女が部活動を行っている体育館へ向かったのだが……。 そこで春樹が耳にしたのは、自分の悪口を言って部活の友達と楽しそうにしている志穂の声だった。 その瞬間、春樹の中で志穂に対する想いや信頼は……消滅した。

それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。 「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」 その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。 恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。 まさにいま、開始のゴングが鳴った。 まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

先輩、お久しぶりです

吉生伊織
恋愛
若宮千春 大手不動産会社 秘書課 × 藤井昂良 大手不動産会社 経営企画本部 『陵介とデキてたんなら俺も邪魔してたよな。 もうこれからは誘わないし、誘ってこないでくれ』 大学生の時に起きたちょっとした誤解で、先輩への片想いはあっけなく終わってしまった。 誤解を解きたくて探し回っていたが見つけられず、そのまま音信不通に。 もう会うことは叶わないと思っていた数年後、社会人になってから偶然再会。 ――それも同じ会社で働いていた!? 音信不通になるほど嫌われていたはずなのに、徐々に距離が縮む二人。 打ち解けあっていくうちに、先輩は徐々に甘くなっていき……

ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に

犬上義彦
恋愛
『御更木蒼也(みさらぎそうや)』 三十歳:身長百八十五センチ 御更木グループの御曹司 創薬ベンチャー「ミサラギメディカル」CEO(最高経営責任者) 祖母がスイス人のクオーター 祖父:御更木幸之助:御更木グループの統括者九十歳 『赤倉悠輝(あかくらゆうき)』 三十歳:身長百七十五センチ。 料理動画「即興バズレシピ」の配信者 御更木蒼也の幼なじみで何かと頼りになる良き相棒だが…… 『咲山翠(さきやまみどり)』 二十七歳:身長百六十センチ。 蒼也の許嫁 父:咲山優一郎:国立理化学大学薬学部教授 『須垣陸(すがきりく)』 三十四歳:百億円の資金を動かすネット投資家 ************************** 幼稚園教諭の咲山翠は 御更木グループの御曹司と 幼い頃に知り合い、 彼の祖父に気に入られて許嫁となる だが、大人になった彼は ベンチャー企業の経営で忙しく すれ違いが続いていた ある日、蒼也が迎えに来て、 余命宣告された祖父のために すぐに偽装結婚をしてくれと頼まれる お世話になったおじいさまのためにと了承して 形式的に夫婦になっただけなのに なぜか蒼也の愛は深く甘くなる一方で ところが、蒼也の会社が株取引のトラブルに巻き込まれ、 絶体絶命のピンチに みたいなお話しです

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

水錵 咲
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった! 『推しのバッドエンドを阻止したい』 そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。 推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?! ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱ ◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!  皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*) (外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)

社長は身代わり婚約者を溺愛する

日下奈緒
恋愛
ある日礼奈は、社長令嬢で友人の芹香から「お見合いを断って欲しい」と頼まれる。 引き受ける礼奈だが、お見合いの相手は、優しくて素敵な人。 そして礼奈は、芹香だと偽りお見合いを受けるのだが……