嘆きの王と沈黙の代償

tellkyeworks

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離反

第四話 いつかの感情

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――――――

 ランプの灯りを頼りに暫く周囲を探索していると背後で何かが崩れる様な音が響く。
 即座に剣へ手を掛け振り返る――

「ハハハ、すまない足を滑らせてしまった…」

 振り返った所でサイディルが、尻を着いて座り込んでいる……。

「大丈夫ですか?」

 座り込んだサイディルにアロウが手を差し伸べるとそれつかまり立ち上がる。

「すまないね、ありがとう」

 砂を払うような仕草をするサイディルに近づくと、暗くはっきりとは見えないが黒茶色の液体が体に付着している様に見える、それに気づきサイディルが液体を手で拭い自らの顔に近づける。

「……油だね、まぁいいやそれより何か見つかったかい?」

「いえ、こちらは特にこれといったものは……」

 束ねた紐の様な物を手に持ちながら申し訳なさそうにアロウが答える。

「こっちも特には見つからないな、布切れや割れた皿ガラクタばっかりだ……」

 それに対してサイディルが渋い表情を浮かべ続ける。

「うーん……私の方もこれ位だね」

 そう言い少し錆びついた『鍵束』を差し出す

「鍵か?どこか錠の付いた所なんかあったか?」

 少し間を空けアロウが続ける。

「もしかして、地下室の物ではないでしょうか?」

「そうだね、どうやら坑道の中には囚われた人達は居ないみたいだし此処で使われていた物だとすると地下室其処だろうね、まぁ全く関係無い物の可能性もあるけどね……取敢えず、君が持っていてくれるかい?」

 サイディルが鍵束を渡してくるが明らかに先程、転倒した際の油が大量に付着している……渋々と受け取り腰袋に収納する。

「さて、一通りの確認も終えた様だし出口に向かうとしようか」

 そう言い振り返るサイディルの口角が少し上がっていた様な気がするが気のせいだろう……気のせいだろうか?


 ◇◇◇◇◇◇


 出口に差し掛かった所で、サイディルが身を屈める様に俺とアロウへ指示を出す。

「二人とも聞いてくれるかい?坑道内に生存者が居ない事が分かった今、残る場所はグロース・モストロの近くにある地下室だけだ、だけど問題はあそこをどう調べるかだ……」

 少し深刻そうな表情を浮かべ話し続ける。

「と言うのも、前にリアムには話した通り魔族、及びエヴェルソルとの膠着状態は解けつつある、そして認めたくは無いが生存者の確認が取れていない今、正直人員を割くことは難しいんだ……もし応援要請をしたとしても現在私の管理する支部には最低限の人員しか配備されていない。従って、応援は本部に要請する事になるが、急行したとしても三日は掛かる……その間、生存者が居たとして無事は保証できない……」

 口籠るサイディルに対し俺はグロース・モストロの足元を指さし続ける。

「尻込みしている所悪いがあれを見てくれないか?」

「なんだい?……あれは発破作業用の爆薬かい?」

「あぁ、しかも少し離れた所には大量に積み上げれているみたいだ……」

 暫しの沈黙を挟み、サイディルが呟き始める――

「爆薬……油……そうだ!」

 何かを閃いた様に声を上げる。

「リアムッ、先程坑道の中で見つけた布切れに油を染み込ませて持ってきてくれるかい?」

 突然上がる声に驚きを隠せない……しかし。

「布切れに油?何に使うんだ?」

「いいから、いいから、良い案を思いついたんだ!」

 雰囲気に少し圧倒されながらも急ぎ足で坑道の中へ戻り、先程の布切れへ地面に零れた油を大量に染み込ませる、少し気持ちの悪い感触に表情を曇らせながら再び出口と向かう――

 ――ガシャン
 背後で何かが落ちる様な音がする、振り返り様子を伺うと……。

 老朽化だろうか、天井から吊り下げられていたランプが地面に落ち側面に張られていたガラスが飛散している。

「油の上じゃなくてよかったな……」

 安堵の声を漏らしながら再び出口へと進むと、何やら物陰でアロウとサイディルが荷物を広げている

「ほら、持ってきたぞ」

 サイディルに向かって投げ渡す……他意は無い、それを顔面で受け止めたサイディルは不自然な笑顔で答える

「あぁ……ありがとう……」

 アロウが下を向き肩を震わせている――

「……さて、じゃあ私の案を説明しようか。先ずはリアムに持って来て貰った『これ』だが矢に巻き付け簡易的だが火矢にする、そしてアロウが持っていた『束ねた紐』これは導火線だね、これの先端を爆薬に巻き付け、離れた所からこの火矢で着火し、奴ごと吹き飛ばす。地下室との距離も離れているし内部に被害は出ないだろう……唯問題は導火線を巻き付ける為に接近しないといけないという事だ……」

「それなら自分が」

 間を開けずにアロウがそう答えると更に続ける。

「自分は二人より小柄なので僅かでしょうが見つかりにくいはずですそれに、仮に見つかった場合でもあの巨体なので的は少しでも小さいほうがリスクは少ない筈なので」

 暫く沈黙しサイディルが口を開く。

「……分かった、君に任せよう……くれぐれも視界に入らない様に気を付けてくれ」

「はい!」

「じゃあ、導火線の準備が出来たら此処に戻って来るか、危険であれば周囲で安全な場所へ身を隠して合図をしてくれるかい?」

 アロウが頷きながら爆薬の方へ向かう、周囲の岩陰や木の幹に身を隠しながら――
 どこか落ち着かない状態でアロウの様子を伺うサイディルの横で、有事に備え俺は弓を構える。

 何故だろうか……まるで止まっているかの様に時間の流れが遅く感じる――
 そして、後数歩といった所で『奴』が振り返る――

 ――一瞬の出来事だった

 アロウの元へと歩き出す巨体、それに気づきながらも恐怖に震え動けずにいるアロウへ向かって槌を振るう、無論巨体の半分にも満たない体は宙を舞う。
 俺は何かが破裂するような甲高い音と共に岩へと打ち付けられると同時に『何か』が離散したのを捉えると同時に、引き絞った弓を下ろし剣に手を掛け物陰から飛び出す。

 怒鳴り声が聞こえる――
 何かに腕を掴まれる――

 怒り、悲しみだろうか……何時か感じた事のある様な感情に突き動かされる体はその程度では止まらない、剣を引き抜き、喉が張り裂ける様な声を上げながら『奴』へと走る――
 此方に気づき俺の正面を目掛け槌を振るう、それを横へ転がり回避……大振りな攻撃によって出来た僅かな隙を見逃さない。

 そのまま懐へと潜り込み胸部へ目掛け渾身の刺突を繰り出す、剣を握る手に凄まじい衝撃が走る。
 殺ったとった

 否、金属が落ちる音が鳴り響く、本来『器官』が剝き出しになっている筈の胸部は装甲の様な物で覆われている、状況を呑み込めずに一瞬の放心状態になった俺に掌が迫る。

 「うおぉぉ!」

 雄叫びを上げながら巨大な掌と俺の間に何かが割って入る。

「リアムッ、逃げなさい!」

 自分の名前を呼ぶ声と同時に何かに突き飛ばされたのだろうか?……身体は前方へと転がる、感情と身体への衝撃で少し視界が狭まる中、掌に包まれたサイディルの姿が目に映る。
 迷っている暇は無い、俺は即座に腰袋から着火用の道具を取り出し『何か』が宙を舞った際に共に離散した少量の爆薬へと着火する、瞬き一つも要さなかった。

 全身へ衝撃が走ると同時に宙を舞う――
 再び狭まる視界は体勢を崩した『奴』とフラフラと走る人影を捉えると、闇に包まれる。


 ◇◇◇◇◇◇


 ――体の痛みで目を覚ます、ぼやける視界が捉えるのは『奴』とその周りを翻弄するかの様に動き回る人影、サイディルがまだ戦っている。
 俺が、痛みで言う事の聞かない体を無理矢理起こそうとしていると、一瞬サイディルと目が合う。

 その瞬間サイディルは、巨大な掌に包まれる『奴』はそのまま掌をゆっくりと握りしめた後に地面へと放り此方へと視線を向け進み始める。

 殺らなけらば殺られる。
 痛みで動かない体、朦朧とする意識の中でそんな言葉が頭に浮かぶ、少し辺りを見回すと、背後には坑道が見えるどうやら爆発の衝撃で此処まで飛ばされた様だ。

 考えている暇は無い、俺は立ち上がり足元の弓矢を拾い上げ坑道の中へと急ぐ、それを阻止するかの如く奴は巨体を大きく揺らしながら、此方へと突っ込んで来る。
 間一髪の所で坑道の中へと逃げ込む……だが安心できる状態では無い、奴はしゃがみ込み体をねじ込む様に徐々に中へと入って来る、最早ここまでだろうか……

「はぁ」

 諦める様な息を一つ吐き零れる。
 地面に膝を着き上を見上げる……曇ったガラスの中で炎が揺れている、地面に着いた膝には気持ちの悪い感触が広がる……。

「――そうか!」

 揺れる炎、膝の感触、俺は思わず声を上げ再び立ち上がり更に坑道の奥へと進む。
 奴は掘り進む様に此方へと向かってくる。

 大体半分くらいまで来ただろうか、俺は振り返り、巨体が迫っているのを確認し天井へ向かって弓を引き絞り――
 放つ。

 放たれた矢は鎖を絶ち、天井から吊り下げられたランプが地面へと落ちる……中の油が零れ瞬く間に炎が辺りへ広がる
 やがて炎は巨体を包み込み、そして周囲の爆薬へと広がる。

「……終わりだ」

 『奴』へ、そして自分に呟く。
 ――轟音、それが最後の記憶だった。
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