嘆きの王と沈黙の代償

tellkyeworks

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第五話 ここで止まるくらいなら

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「――おーい、こっちだ」

 ――眩い光と何かを呼ぶ声で意識が戻る……体が動かない。

「大丈夫かい?今出してあげるからね」

 ――再び遠のく意識を聞き覚えのある声が繋ぎとめる。
 ――誰かが俺を抱きかかえ瓦礫の中から引きずり出す。

 光で霞む視界で辺りを見渡すと、大勢の人影と瓦礫が目に映る。

「リアム、君が無事でよかったよ」

「……サイディル……」

 俺を抱きかかえる人物、その名前が自然と俺の口から零れる。

「よかった、意識も戻ってるみたいだね……それにしても随分と無茶してくれたみたいだね」

 次第に霞んだ視界が明瞭になる。
 周囲の人影は皆、武器を携え防具に身を包む。

「どうやら、少しばかり運がよかったみたいだね……私たちが此処へ出発する前日に本部からバーキッシュ支部の駐屯地へ人員補給のために向かっていたらしいんだ、偶然にも途中で私達が交戦している時に通りがかって今に至る訳だ」

「そうか……」

 助かったという事への安堵と同時にもし偶然が起こらなかったら等と思考が巡り自由の利かない体から更に力が、抜ける様な感覚になる

「支部長!……彼……なんですが……」

「あぁ、すぐに行くよ……すまないね、リアムを頼むよ」

 少し悲し気な表情を向けながら俺を近くの仲間へと受け渡す、遠のきながらも微かに声が聞こえる。

「……可能な限りは……集めたんですが……」

「そうかい……他に……身に着けていた……装備品とかは」

 鼓動が早くなる、全身から血の気が引いていく。
 脳裏に焼き付いた光景が再び蘇る。

 やっとの事で身体を支えていた膝は折れ、崩れ落ちる。
 嗚咽を上げる、声を上げるたびに走る胸の痛みも厭わずに、悲しみ、罪悪感、怒り、感情に任せ声を上げる――


 ◇◇◇◇◇◇


「少しは……落ち着いたかい?」

 日は沈み揺れる炎を眺める俺はその声で我に帰る。

「……あぁ」

「……何から話そうかな……と言いたいところだけど、君にはありのまま全てを話すよ。先ず私達の目的だった、消息を絶った兵達は生存が確認されたよ、多少の栄養不足だったりは診られたみたいだけど大事には至っていないみたいだ、そしてもう一つがこれだね……」

 渡された紙の束にはこう書かれいている。

『人間兵器化計画被験者の現状と今後について』

 状況を呑み込めず困惑している俺に対しサイディルは続ける。

書類それの件だが取敢えず今は何も聞かずに後で目を通しておいて欲しい……最後に……アロウの事だが……」

 困惑に対しては些か答えにならない返答をしつつ、口籠りながら再び続ける。

「先ず私は君に、そしてアロウに謝らなければいけない……何故なら私の下した判断故に大事な戦友であり部下を死なせてしまった。一人の命が失われた以上、謝って済むようなことではない事は重々承知しているが……本当に……すまなかった……」

 どのような言葉を掛ければいいのだろうか……きっと俺が同じ立場だったとしても同じ判断をしていただろう。

「サイディル……あんたは悪くないだろう……俺か、アロウかどちらかしか無かっただろう……俺は、あんたを恨んでなんかいない」

「……だけど」

 サイディルの言葉を遮るように俺は続ける。

「俺はアロウと出会って数日しか経っていないがアンタは違う、俺と出会う以前より一緒に過ごしてきたはずだ……あんたが私情を挟むような人間では無いと俺は思っている……これは俺の勝手な思い込みだが『王の死の真相』これを共に調査しているあんたが俺の事を無意識にでも残したんじゃないかって……なんてな……」

 正直なところ俺は心底 今生きているという事に対して、そしてあの時俺ではなくアロウを行かせる事を判断したサイディルに感謝している。

「……私情を挟まない……か……確かにその様な判断で行動、命令を下したつもりはないけど、実際私は君に自分の目的を重ねてしまっているかもしれないね……君となら、君なら『王の死の真相』に……いや、私の友の死の真相に辿り着けるかもと……君が思うほど私はできた人間じゃないよ」

 サイディルの言葉に再び困惑する、そして少し顔を逸らしながら返答をする。

「……俺、一人じゃ無理だろう……」

「……君はそんなに弱気な性格だったかな?」

「今のアンタに言われたくないが……この先きっと何人、何十人の命の上に立ちこうして進んで行かなければならない、辛い判断を下さなければならない、唯一つ言えるのは命を踏み台にした以上俺たちは立ち止まる事は出来ない、真実に辿り着くその瞬間まで」

「まさか、君に奮い立たせられるとはね……そうだね、此処で立ち止まるくらいなら最初から……と言う事だね残された、いや残った私たちは全力で彼に報いなければいけないね」

 共に一つの命を踏み台にした以上俺たちはもう立ち止まる事は出来ない必ずアロウ《彼》に報いなければならない。
 命の上に立ち目指すその先に何が有ろうとも――



「――支部長、リアムさんまだお休みになっていないのですか?」

 揺らぐ炎が消え重く暗い空気が少し澄み始めた頃、どこからか声が響く。

「お二人ともこんなに遅くまで……自分の体の状態、分かってるんですか?早くお休みになって下さい」

 焦りと少々、怒りが混ざった様な口調で小柄な女性が俺たちに休息を促す……体の状態?。
 その言葉を聞くなり体中の痛みを思い出す、恐らく折れているであろう肋骨、瓦礫の一部が突き刺さっていた足、たちまち痛み……そして疲れで全身の力が抜けていく。


 ◇◇◇◇◇◇


 突き上げるような背中への衝撃で目が覚める、まだ痛みが残る体をなんとか起こし辺りを見渡すと、木々が立ち並ぶ景色がぼんやりと目に映る、どうやら馬車に揺られているようだ。

「おはようございます、体の具合は如何ですか?」

 昨夜の小柄な女性から声を掛けられる。

「……まだ痛みますが……」

 周囲の景色を見回しながら状況を理解できていない俺に対し女性が続ける。

「私たちは今、あなた方の治療及び人員補給のため〈リングランデ〉に向かっています。後二時間ほどで着きますのでその間も安静にしていてください」

 俺が頷きながら馬車の座席へと移る為に傍らの荷物に手を掛け立ち上がろうとする。

「あぁっ、無理はしないで下さい」

 少し慌てたような口調でそう促しながら俺の体を支える……その瞬間、馬車が急停車する。
 俺は体を支えてくれていた女性に覆い被さる形で倒れこんでしまう、両手を着きなんとか立ち上がろうとしたその時にサイディルの声が響く。

「流石だねー、怪我してるっていうのに元気で宜しい!でもまる見えだから気を付けてね」

 正直、今すぐ掴み掛りに飛び出したい気持ちだが体が言う事を聞かない今……。
 これ以上に無い位の力を目に込め睨み付ける。

「ちがいますからっ、やめてください」

 女性が顔を真っ赤にしサイディルに訴えながら俺の体を支え起こす。

「すまない、すまない冗談だよレイラ。リアム調子はどうだい?」

 レイラと呼ばれる女性に座席へと座らせてもらうと、その隣にサイディルが腰を下ろす。

「昨日の夜、いきなり倒れるから驚いてしまったよ」

「あぁそれに、あんたの冗談のせいで昨日よりか調子が悪くなったみたいだな……」

 皮肉交じりに返答を返すと、笑顔を浮かべながら続ける。

「うんうん、冗談を言える元気が有るくらい調子がいいみたいだね」

 互いに皮肉交じりの会話を繰り広げていると、乗っている馬車の前方から声が響く。

「おーい、車輪が抜け出せた、もう動けるぞ!」

 どうやら急停車は前方の馬車のトラブルが原因だったらしい、少しすると馬車が走行を再開する。
 ――それからまた一時間程馬車に揺られる中、まだ昨日の疲れが残っているのだろう心地よい陽の光で何度も襲ってくる睡魔に耐えていた。

「――――――アム、リアム?」

 船を漕ぐ俺はサイディルが呼ぶ声でハッとする。

「……なんだ?」

「疲れているところ悪いね、バーキッシュに着いたら私はすぐに本部へ今回の件を報告に行かなくちゃいけないから、今のうちに今後の予定を伝えておきたくてね……まぁ、取敢えず第一に君はまともに動ける様になるまで少し休息を取る事だ、そしてここからが重要だよ、私は本部から一、二週間戻ってこれないからその間に君はもう一つ片づけて欲しい仕事が有るんだ」

「仕事?」

「うん、とある村から相談があってね先の坑道の件と同じくかなりの被害が出ているみたいなんだ……正直、一刻も早く向かいたい所なんだが、人員の補給があったとは言え、やっと必要最低限と言った所なんだ……今回の件の事は重々承知しているが最低限の人数しか割けない……そこで君の腕前を買ってこの件を君に頼みたいんだ」

 坑道の件での出来事が、再び頭をよぎり俺が返答できずに流れる沈黙を破りサイディルが続ける。

「勿論、君一人でと言う訳ではないよ、もう一人私の信頼できる部下と一緒に頼みたい……」

 信頼できる部下か……別段、断る理由もない……それにラルフ国王を『友』と呼んでいた……。
 俺の『目的』に近づくためには一先ずサイディルこの男に協力するのが近道かも知れないな。

「……あぁ、分かった仕事とやらはあんたの代わりに片付けて置くとしよう」

「助かるよ、ありがとう」

 暫し考え返答を返すとサイディルは少し嬉しそうに礼を言ってきた。

「そして、最後にもう一つ……これだ」

 そういいながら、傍らの荷物から何やら重たそうな袋を取り出し手渡すと、俺に中を確認するように促す。
 俺は促されるままに袋の中身を覗く……すると中に入っていたのは大量の貨幣だった、一年は不自由なく暮らせる程の量だろうか、中身を確認し困惑する俺に対しサイディルが続ける。

「……先の戦闘で君の防具や武器が使い物にならなくなってしまったからね、其れは好きに使ってくれて構わないよ」

「ありがたく使わせてもらう」

 いまだに少々困惑が残る中、礼を返すと微笑みながら頷いている、その顔に何故だか安心感の様な物を覚え思わず口が開く。

「なぁ、そういえば直ぐに本部へ向かうとか言っていたが、あんた怪我はどうなんだ?」

 するとサイディルは少し驚いたような表情を浮かべ返してくる。

「うれしいねぇ、心配してくれているのかい?……しっかりと怪我しているよ、すごく痛むしね一応レイラ彼女にも止められたんだけどね……少しでも早く報告……それと更なる人員の補給を要請しなくてはいけないからね、これ位で休んでいられないよ……多分、肋骨が折れているだろうけど……」

 最後に愚痴の様な物をぶつぶつと零してはいるが、サイディルこの男の様な物を感じ取れたような気がする。

「そうか……若いわけじゃないんだから無茶すると、死んじまうぞ」

 再び皮肉を交えながら返答をしてやると、何故か嬉しそうにサイディルは続ける。

「ひどいね……年寄扱いとは……君こそ無理をして私みたいにはならないようにね」

 まぁ間違いなく、《この男》の様にはならないが……どうしてだろうか……この男と話していると自分が自分ではない様な感覚がする……今まで殆ど他人の心配をすることなど無かった気がするが……。
 そんな何時もと違う自分の言動、心情に不思議な感覚を覚えていた所で馬車が停車する。

 三日程離れていただけのはずの〈リングランデ〉が二、三ヶ月ぶりに戻ってきたかの様に感じる。
 最良の結果……とは程遠い結果だが一先ず俺の、ギルドでの初仕事は終わりを迎えた様だ……

「じゃあ、リアム頼むよ私の部下は多分昼間なら、居住地区の酒場にいるだろうから体の具合が良くなったら訪ねてみてくれ、私からの指示と言えば彼もきっと分かるはずだから」

 仕事についての補足をするサイディルに後ろ手で手を振りその場を去ろうとすると……肩を掴まれる。

「『書類』の件だが必ず目を通しておいてくれ、内容は私の部下にも共有しておいて欲しい……それ以外は他言無用だ……」

 そう耳打ちをしサイディルは再び馬車に乗りこれまでの道のりへと踵を返していった。

「さぁ、リアムさん早く診療所へ」

 他言無用か……。
 その言葉に何か引っかかる様な感覚を覚えつつも、レイラに手を引かれ俺は診療所へと向かい少々、休息を取ることにした。
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