6 / 14
離反
第六話 変わりゆく心
しおりを挟む
「右足大腿部の刺傷と左側の6番目、7番目の肋骨が折れていますね……」
リングランデに到着して後に、真っすぐ診療所へと向かった俺はレイラの診察を受けていた。
「……刺傷が癒合して胸部の痛みが引くまで……そうですね……最低でも二、三週間は安静にしていてくださいね」
「二、三週間か……取り急ぎ片付けなきゃいけない仕事があるんだが……」
俺の返答に対し呆れた様な表情を浮かべる。
「はぁ……まぁ、そんな答えが返って来るだろうとは思っていましたが……怪我をして私が診た人達は大体そう言うんです。無理に止める事はしませんが幾つか約束をして頂けますか?……約束して頂けるのであれば、行動の制限は掛けませんので」
「約束?」
少々を疑問を抱きながらも返答をするとレイラが続ける。
「はい、先ずは自分の体に異常を感じたら直ぐに私に診せに来ること、もう一つはどんな仕事であっても必ずあなたを含め二人以上で行う事、この二つが守れるのであればいいでしょう」
『約束』の内容を話す彼女の顔は呆れた様な表情から少々、何かを憂うような表情へと変わっていく。
「……分かった」
「必ず守って下さいね……では、胸部の固定をするので上着を脱いでもらえますか?」
俺は言われるがままに上着を脱ぎ傍らへ放る。
「動かないで下さいね……この紐で調整できますので、湯浴み等で外した際は再度、自分で着けて下さい」
レイラは説明を交えながら手早く革製の固定帯を俺の胸部へと装着する。
「固定帯は胸部の保護と固定をするものなので痛みが引いた後も暫くは着けておいて下さい。あと最後に、これを持って帰って下さい」
そう言いながら、レイラから小さな瓶を手渡される。
「それは、痛み止めですので酷く傷む時に煎じて飲んで下さい……では診察と手当てはこれで終了です、他に何か気になる事はありませんか?」
「あぁ、大丈夫だ」
「……では、約束必ず守って下さいね」
再び浮かべる憂う様な表情を尻目に上着を着ながら診療部屋を後にする。
「……さて、どうするか……」
疲労、眠気、仕事、空腹感など、様々な思考が脳内を巡る中、それらに整理をつける様に呟きながら傍らのベンチへと腰を下ろす。
「……腹、減ったな」
坑道に到着した日、以来ほとんど何も口にしていない事もあり思考を巡らせた結果そんな言葉がこぼれる――
「――リアム?」
先程まで様々な思考が巡っていた脳内が空腹感で満たされる頃、何処からか聞き覚えのある少女の声が響く。
「リアム、どうしたのこんな所で?」
声の正体はミーナだった、俺が此処に居ることを不思議がる彼女へ事の一部始終を説明する――
「……そっか……そんなことが……」
少し申し訳なさそうな表情を浮かべるミーナと俺の間に静寂が流れる。
「――そうだ、お腹空いてない?」
はじける様な声で静寂を破り俺に問いかける。
「そうだな、リングランデを出た夜、以来何も食べて無くてな……」
「じゃあ、決まりだねセラフィアでとりあえず、ご飯にしよっか」
今にも走り出しそうなミーナに手を引かれその場を後にする――
「戻りましたー」
「お帰りなさい……って、あんたも帰って来たのかい?」
ミーナが挨拶をするなり厨房の奥から顔を覗かせる女性は俺の顔を見て少々、驚いたような表情を見せる、そんな表情を見たミーナは俺が釈明をまでもなく早々に説明を始める――
「――そうかい……大変だったね、アタシはてっきり諦めて帰って来たのかと思ったよ……まぁ、落ち着くまで休んで行くといいさ」
「ありがとう、助かるよ」
今までの疲れを忘れさせるかの様な笑顔を見せ、促すその女性もとい此処の女将に感謝を述べ、待ちきれないとばかりに手を引くミーナに連れられ店の隅のカウンターへと向かう
「じゃあ、すぐに用意するから待っててね」
何処か楽しそうに厨房へと向かうミーナを横目に壁へと寄りかかる――
柔らかなランプの光と厨房からパチパチと音を立てる炎に心地よさを覚え、再び眠気に襲われる……。
「――――――お待たせっ、できたよ」
「ん、あぁ」
ぼんやりとした意識の中に居た俺が少々、ぞんざいな返事を返しながら姿勢を正している間にミーナは手早く食事を広げている。
「さっ、食べようか」
今思うとミーナと共に食事をするのは随分と久しぶりかもしれない、どちらかと言うと俺が一方的に避けていただけではあるが……
何故だろうか王の死以来、失う事が怖くて誰かと一緒にいるのが嫌だった。つい先日も目の前で『仲間』を失う恐怖を、悔しさを感じているのに……何故だか今は誰かと、ミーナと一緒に居る事に少々、心地よさを感じている
「どうしたの、食べないの?」
物思いにふけり、手が止まっている俺にミーナが心配そうな表情で問いかけてくる。
「……あぁ、大丈夫だ……こうして食事をするのは久しぶりだな」
「どうしたの?急に」
不思議そうな表情で俺の顔を見つめているミーナから少し目を逸らしながら返す。
「……何でもない」
思考がそのまま口に出てしまった事に対し驚き、喉につっかえる食事を水で流し込む。
やはり疲れているのだろう、どうにも自分の感情に整理がつかない……そんな事を見透かす様にミーナが呟く。
「……ごめんね、やっぱり疲れてたよね……」
「どうにも頭が回らなくてな……」
少々、聞き苦しい言い訳に対しミーナは少し微笑みながら返す。
「ううん、食事は何時でもできるから、今日はゆっくり休んでね……そうだ、宿屋の店主さんが、お部屋そのままにしてくれているみたいだから、何時でも戻って来ていいよって」
「そうか、そいつは助かるな……じゃあ、また今度一緒に飯食おうな」
「……うん!」
見送るミーナの寂しそうな表情へ少し後ろめたさを感じながらも、俺はセラフィアを後にし宿屋へと向かう事にした。
日が傾き、一仕事終えた労働者達や今夜の夕食の話題で盛り上がる家族連れ様々な人々の喧騒が取り巻く商業地区を横目に。
「いらっしゃい……ってお前さんか、戻って来ちまったのかい?」
俺は店主に一部始終を軽く説明する。
「そうかい……噂は聞いていたんだが本当なんだな……あのデカブツを倒しちまうなんてな、大したもんだ……そうそう、お前さんの部屋だったな……出て行った後、よく一緒に居る嬢ちゃんからそのままにしといてくれないかって相談が有ってな」
「ミーナが?」
「ミーナって言うのか?お前さんの事えらく心配してたみたいでな、せめて帰るとこでもって事らしいぜ……まぁ、気のすむまでゆっくり休んで行くと
良い」
ミーナの計らいに感謝しつつ先程、まともに食事もしてやれなかったことに負い目を感じながらも、二人の計らいに甘えることにした。
「あぁ、それと代金は……その、何だ……あんたが目的とやらを果たした時にでも払ってくれれば良いさ」
「助かる……また世話になるな」
無理矢理、平静を装った様な口調、態度に少し違和感を覚えながらも礼を述べその後少々、店主と会話を交わし俺は部屋へと向かい、そのまま寝床へ倒れこむように眠りに就いた
◇◇◇◇◇◇
――窓から差し込む日の光で目が覚める。
軽く背を伸ばし寝床から立ち上がり手早く着替えを済ませ外へと向かう。
鉄と鉄がぶつかり合い鳴り響く音、建物の外からでも伝わる鍛造炉の熱。
「――よぉ、兄ちゃん、久しぶりじゃねぇか」
熱で揺らぐ建物の中から声が響く。
「ガッハッハッハッ、随分と久しぶりだな……ん、兄ちゃんが剣をぶら下げてねぇなんて珍しいな」
槌を担ぎ豪快な笑い声を上げながら此方へ向かって来るこの鍛冶屋の店主である『ガスパー・トレッド』に剣と鎧の新調をしたい旨を伝える。
「そうか、そうか、相変わらず無茶をしてるみてぇだな……鎧や剣はいくらでも替えが効くが体はそうはいかねぇぞ……まぁ、説教はこの辺にして作業するとしようか、どんな拵えをお望みだ?」
俺は先程の豪快な笑いとは一転した口調に少々、気怖じしながら自分の要求を伝える。
「……そうだな……鎧はいつも通りの胸甲で芯金を入れた三層構造、裏地は豚革で頼む……それと、剣の方は……」
俺は要望を伝える最中に、壁に立てかけられた一本の長剣が目に入り、自然とそちらへと手を伸ばす。
「……それか……強度は十二分なんだが、どうにも軽すぎてな……力が乗らなくていけねぇ、気になるんなら手に取ってみな」
剣を手に取り片手で無造作に振り回す――
両手で構えなおし再度、空を斬りつける――
傍らで俺を見つめるガスパーは満足げな表情を浮かべている。
「気に入ったか?」
「……あぁ、軽い上に強度もあって、リーチも稼げる……俺にとっては最高の出来だ……」
「ガッハッハッ、そうかそうか、じゃあソイツで決まりだな、となればさっさと作業に移るとするか……ちょっとそこで待っててくれ」
俺が返した所感で気分を良くしたのか再び豪快な笑いを上げ作業場の奥へと向かう。
暫し言われるがままに待機していると先程の物とは別の長剣を持って戻って来る。
「仕上がるまでコイツを持っときな、兄ちゃんが前に使ってた物の複製だ、何時も持ってた物が無ぇと腰が寂しいだろ?」
そう言いながらガスパーが手渡してきた長剣を俺は腰へと携える
「注文は終わりか?」
控帳へ書き込みながら問いかけるガスパーに俺は思い出した様に加えて要望を伝える
「外套も拵えて貰いたいんだが……何か良さげな物は無いか?」
「……外套か……俺は鍛冶屋だから本来専門外だが……そうだな、表地に鋲打ちの牛革、裏地に羊革……なんてのはどうだ?表地で強度を裏地で防寒性を、と言ったところだが……」
専門外と言いながら適切な回答するガスパーに感心しながら俺は頷き返す。
「じゃあ、決まりだな……と言いたい所だが、すまないが今回はかなり高く付くぞ」
少し心配そうに返答するガスパーに俺は、例の袋を差し出すとそれを不思議そうに覗き込む。
「……遂に危ねぇ仕事にでも手ぇ出したのか?」
俺は誤解を招くまいと間髪入れずに経緯を説明する。
「ハッハッハッ、すまねぇ俺ァてっきり……よしっ、代金しっかりと貰ったぜ……そうだな……こんな上客様だ、飲まず食わずの不眠不休だ、二日で仕上げてやるから少しばかり待っててくれ……ほら、こいつは釣りだ」
あまり申し訳なさを感じない平謝りをしながら勘定をした後に、袋から七割ほどの貨幣を抜き取り俺へと再び手渡す。
「ありがとう、助かるよじゃあ二日後にまた顔を出させてもらう」
「任せてくれ、最高の一品に仕上げてやる」
会話を交わした後に足早に作業場へと向かうガスパーを見送り俺は一旦宿へと戻ることにした。
リングランデに到着して後に、真っすぐ診療所へと向かった俺はレイラの診察を受けていた。
「……刺傷が癒合して胸部の痛みが引くまで……そうですね……最低でも二、三週間は安静にしていてくださいね」
「二、三週間か……取り急ぎ片付けなきゃいけない仕事があるんだが……」
俺の返答に対し呆れた様な表情を浮かべる。
「はぁ……まぁ、そんな答えが返って来るだろうとは思っていましたが……怪我をして私が診た人達は大体そう言うんです。無理に止める事はしませんが幾つか約束をして頂けますか?……約束して頂けるのであれば、行動の制限は掛けませんので」
「約束?」
少々を疑問を抱きながらも返答をするとレイラが続ける。
「はい、先ずは自分の体に異常を感じたら直ぐに私に診せに来ること、もう一つはどんな仕事であっても必ずあなたを含め二人以上で行う事、この二つが守れるのであればいいでしょう」
『約束』の内容を話す彼女の顔は呆れた様な表情から少々、何かを憂うような表情へと変わっていく。
「……分かった」
「必ず守って下さいね……では、胸部の固定をするので上着を脱いでもらえますか?」
俺は言われるがままに上着を脱ぎ傍らへ放る。
「動かないで下さいね……この紐で調整できますので、湯浴み等で外した際は再度、自分で着けて下さい」
レイラは説明を交えながら手早く革製の固定帯を俺の胸部へと装着する。
「固定帯は胸部の保護と固定をするものなので痛みが引いた後も暫くは着けておいて下さい。あと最後に、これを持って帰って下さい」
そう言いながら、レイラから小さな瓶を手渡される。
「それは、痛み止めですので酷く傷む時に煎じて飲んで下さい……では診察と手当てはこれで終了です、他に何か気になる事はありませんか?」
「あぁ、大丈夫だ」
「……では、約束必ず守って下さいね」
再び浮かべる憂う様な表情を尻目に上着を着ながら診療部屋を後にする。
「……さて、どうするか……」
疲労、眠気、仕事、空腹感など、様々な思考が脳内を巡る中、それらに整理をつける様に呟きながら傍らのベンチへと腰を下ろす。
「……腹、減ったな」
坑道に到着した日、以来ほとんど何も口にしていない事もあり思考を巡らせた結果そんな言葉がこぼれる――
「――リアム?」
先程まで様々な思考が巡っていた脳内が空腹感で満たされる頃、何処からか聞き覚えのある少女の声が響く。
「リアム、どうしたのこんな所で?」
声の正体はミーナだった、俺が此処に居ることを不思議がる彼女へ事の一部始終を説明する――
「……そっか……そんなことが……」
少し申し訳なさそうな表情を浮かべるミーナと俺の間に静寂が流れる。
「――そうだ、お腹空いてない?」
はじける様な声で静寂を破り俺に問いかける。
「そうだな、リングランデを出た夜、以来何も食べて無くてな……」
「じゃあ、決まりだねセラフィアでとりあえず、ご飯にしよっか」
今にも走り出しそうなミーナに手を引かれその場を後にする――
「戻りましたー」
「お帰りなさい……って、あんたも帰って来たのかい?」
ミーナが挨拶をするなり厨房の奥から顔を覗かせる女性は俺の顔を見て少々、驚いたような表情を見せる、そんな表情を見たミーナは俺が釈明をまでもなく早々に説明を始める――
「――そうかい……大変だったね、アタシはてっきり諦めて帰って来たのかと思ったよ……まぁ、落ち着くまで休んで行くといいさ」
「ありがとう、助かるよ」
今までの疲れを忘れさせるかの様な笑顔を見せ、促すその女性もとい此処の女将に感謝を述べ、待ちきれないとばかりに手を引くミーナに連れられ店の隅のカウンターへと向かう
「じゃあ、すぐに用意するから待っててね」
何処か楽しそうに厨房へと向かうミーナを横目に壁へと寄りかかる――
柔らかなランプの光と厨房からパチパチと音を立てる炎に心地よさを覚え、再び眠気に襲われる……。
「――――――お待たせっ、できたよ」
「ん、あぁ」
ぼんやりとした意識の中に居た俺が少々、ぞんざいな返事を返しながら姿勢を正している間にミーナは手早く食事を広げている。
「さっ、食べようか」
今思うとミーナと共に食事をするのは随分と久しぶりかもしれない、どちらかと言うと俺が一方的に避けていただけではあるが……
何故だろうか王の死以来、失う事が怖くて誰かと一緒にいるのが嫌だった。つい先日も目の前で『仲間』を失う恐怖を、悔しさを感じているのに……何故だか今は誰かと、ミーナと一緒に居る事に少々、心地よさを感じている
「どうしたの、食べないの?」
物思いにふけり、手が止まっている俺にミーナが心配そうな表情で問いかけてくる。
「……あぁ、大丈夫だ……こうして食事をするのは久しぶりだな」
「どうしたの?急に」
不思議そうな表情で俺の顔を見つめているミーナから少し目を逸らしながら返す。
「……何でもない」
思考がそのまま口に出てしまった事に対し驚き、喉につっかえる食事を水で流し込む。
やはり疲れているのだろう、どうにも自分の感情に整理がつかない……そんな事を見透かす様にミーナが呟く。
「……ごめんね、やっぱり疲れてたよね……」
「どうにも頭が回らなくてな……」
少々、聞き苦しい言い訳に対しミーナは少し微笑みながら返す。
「ううん、食事は何時でもできるから、今日はゆっくり休んでね……そうだ、宿屋の店主さんが、お部屋そのままにしてくれているみたいだから、何時でも戻って来ていいよって」
「そうか、そいつは助かるな……じゃあ、また今度一緒に飯食おうな」
「……うん!」
見送るミーナの寂しそうな表情へ少し後ろめたさを感じながらも、俺はセラフィアを後にし宿屋へと向かう事にした。
日が傾き、一仕事終えた労働者達や今夜の夕食の話題で盛り上がる家族連れ様々な人々の喧騒が取り巻く商業地区を横目に。
「いらっしゃい……ってお前さんか、戻って来ちまったのかい?」
俺は店主に一部始終を軽く説明する。
「そうかい……噂は聞いていたんだが本当なんだな……あのデカブツを倒しちまうなんてな、大したもんだ……そうそう、お前さんの部屋だったな……出て行った後、よく一緒に居る嬢ちゃんからそのままにしといてくれないかって相談が有ってな」
「ミーナが?」
「ミーナって言うのか?お前さんの事えらく心配してたみたいでな、せめて帰るとこでもって事らしいぜ……まぁ、気のすむまでゆっくり休んで行くと
良い」
ミーナの計らいに感謝しつつ先程、まともに食事もしてやれなかったことに負い目を感じながらも、二人の計らいに甘えることにした。
「あぁ、それと代金は……その、何だ……あんたが目的とやらを果たした時にでも払ってくれれば良いさ」
「助かる……また世話になるな」
無理矢理、平静を装った様な口調、態度に少し違和感を覚えながらも礼を述べその後少々、店主と会話を交わし俺は部屋へと向かい、そのまま寝床へ倒れこむように眠りに就いた
◇◇◇◇◇◇
――窓から差し込む日の光で目が覚める。
軽く背を伸ばし寝床から立ち上がり手早く着替えを済ませ外へと向かう。
鉄と鉄がぶつかり合い鳴り響く音、建物の外からでも伝わる鍛造炉の熱。
「――よぉ、兄ちゃん、久しぶりじゃねぇか」
熱で揺らぐ建物の中から声が響く。
「ガッハッハッハッ、随分と久しぶりだな……ん、兄ちゃんが剣をぶら下げてねぇなんて珍しいな」
槌を担ぎ豪快な笑い声を上げながら此方へ向かって来るこの鍛冶屋の店主である『ガスパー・トレッド』に剣と鎧の新調をしたい旨を伝える。
「そうか、そうか、相変わらず無茶をしてるみてぇだな……鎧や剣はいくらでも替えが効くが体はそうはいかねぇぞ……まぁ、説教はこの辺にして作業するとしようか、どんな拵えをお望みだ?」
俺は先程の豪快な笑いとは一転した口調に少々、気怖じしながら自分の要求を伝える。
「……そうだな……鎧はいつも通りの胸甲で芯金を入れた三層構造、裏地は豚革で頼む……それと、剣の方は……」
俺は要望を伝える最中に、壁に立てかけられた一本の長剣が目に入り、自然とそちらへと手を伸ばす。
「……それか……強度は十二分なんだが、どうにも軽すぎてな……力が乗らなくていけねぇ、気になるんなら手に取ってみな」
剣を手に取り片手で無造作に振り回す――
両手で構えなおし再度、空を斬りつける――
傍らで俺を見つめるガスパーは満足げな表情を浮かべている。
「気に入ったか?」
「……あぁ、軽い上に強度もあって、リーチも稼げる……俺にとっては最高の出来だ……」
「ガッハッハッ、そうかそうか、じゃあソイツで決まりだな、となればさっさと作業に移るとするか……ちょっとそこで待っててくれ」
俺が返した所感で気分を良くしたのか再び豪快な笑いを上げ作業場の奥へと向かう。
暫し言われるがままに待機していると先程の物とは別の長剣を持って戻って来る。
「仕上がるまでコイツを持っときな、兄ちゃんが前に使ってた物の複製だ、何時も持ってた物が無ぇと腰が寂しいだろ?」
そう言いながらガスパーが手渡してきた長剣を俺は腰へと携える
「注文は終わりか?」
控帳へ書き込みながら問いかけるガスパーに俺は思い出した様に加えて要望を伝える
「外套も拵えて貰いたいんだが……何か良さげな物は無いか?」
「……外套か……俺は鍛冶屋だから本来専門外だが……そうだな、表地に鋲打ちの牛革、裏地に羊革……なんてのはどうだ?表地で強度を裏地で防寒性を、と言ったところだが……」
専門外と言いながら適切な回答するガスパーに感心しながら俺は頷き返す。
「じゃあ、決まりだな……と言いたい所だが、すまないが今回はかなり高く付くぞ」
少し心配そうに返答するガスパーに俺は、例の袋を差し出すとそれを不思議そうに覗き込む。
「……遂に危ねぇ仕事にでも手ぇ出したのか?」
俺は誤解を招くまいと間髪入れずに経緯を説明する。
「ハッハッハッ、すまねぇ俺ァてっきり……よしっ、代金しっかりと貰ったぜ……そうだな……こんな上客様だ、飲まず食わずの不眠不休だ、二日で仕上げてやるから少しばかり待っててくれ……ほら、こいつは釣りだ」
あまり申し訳なさを感じない平謝りをしながら勘定をした後に、袋から七割ほどの貨幣を抜き取り俺へと再び手渡す。
「ありがとう、助かるよじゃあ二日後にまた顔を出させてもらう」
「任せてくれ、最高の一品に仕上げてやる」
会話を交わした後に足早に作業場へと向かうガスパーを見送り俺は一旦宿へと戻ることにした。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
背徳のミラールージュ(母と子 それぞれが年の差恋愛にのめり込んでいく鏡写し)
MisakiNonagase
恋愛
24歳の市役所職員・中村洋平には、自慢の恋人がいた。2歳年上の小学校教師、夏海。誰もが羨む「正解」の幸せの中にいたはずだった。
しかし、50歳になる母・美鈴が21歳の青年・翔吾と恋に落ちたとき、歯車は狂い出す。
母の恋路を「不潔だ」と蔑んでいた洋平だったが、気づけば自分もまた、抗えない引力に引き寄せられていた。
その相手は、母の恋人の母親であり、二回りも年上の柳田悦子。
純愛か、背徳か。4年付き合った恋人を捨ててまで、なぜ僕は「彼女」を求めてしまうのか。
交差する二組の親子。歪な四角関係の果てに、彼らが見つける愛の形とは――。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる