神紋と魔紋

霜野清良

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街の噂

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 街は人通りが多く、今日は特に賑わっていた。
 大通りの右も左も屋台で埋まっていて、客を呼ぶ声が、あちこちから聞こえる。
 街は良い匂いと良い雰囲気に満ちており、大人から子供まで笑顔で楽しみながら楽しんでいた。
 そんな中、ぱっと見三人兄弟に見える青年たちが歩いてきた。その中の一人、リュレンが周りを見渡して面白そうに笑う。

「おー。今日は賑やかだな。何かあるのか?」
 そう二人に問いかけたのを見て、串焼きの肉の屋台をやっていた人柄の良さそうな人が話しかけてきた。

「今日は開国祭なんだぞ!それを知らないって事は、兄ちゃんたち旅商人かなんかか?」

 店の人はリュレンとルレファが背負っている荷物を見てにこやかに問いかける。リュレンはその店の人の話す様子を見て、悪い人ではないと判断すると笑顔で話に応じた。

「そうなんだよ!兄弟であちこちまわって、品物を売ったりしてるんだ。この街も賑やかそうだから寄ってみたんだよ」
「兄弟かぁ。いいな、仲良しで。……ところで、昨日の噂、知ってるか?」

 三人の間に薄い緊張が走ったが、リュレンはそれを押し隠して首を傾げた。

「昨日の噂?いや、俺たちは今朝この街に来たから知らないな」
「昨夜、どうやら夜の見回りに行っていた使者様の部隊が何者かにやられたらしいんだ。それも、不思議な手段でな。使者様方は全員気絶していて、しかも全員軽傷。さらに、使者様方はその時の記憶が一切ないんだそうだ。な、不思議だろ?」
「そうだな。一体誰がそんなことをしたんだろうな?」

 誰がやったかはわかっておきながらリュレンはそう茶化す。

「犯人は『裏影の疾風』っていう噂だがな。兄ちゃんもそれぐらいは知ってるだろ?まぁ、どこにいるかもわからないんだから、兄ちゃんたちも注意しときな」
「わかった。ありがとう!」

 三人が立ち去ろうとすると、お店の人は待ってくれと言わんばかりに声をかけた。

「それと、ほら、持ってけ。そこのお嬢ちゃんと静かな兄ちゃんも」
 店の人は売っていた肉の串焼きを一人一本ずつ渡してくれた。
「わざわざすみません」
「ありがとうございます!」

 セフィネルが笑顔でお礼を言うと、店の人も嬉しそうに笑った。

「いいってことよ。それと、そこのお嬢ちゃんも気をつけるんだぞ。兄ちゃんたちと離れないようにな」
「はい!」
「ありがとうございました」

 三人が背を向けると、店の人は手を振って見送った。

「祭り、楽しんでいってな!」

 店から離れてすぐに、リュレンとセフィネルは肉の串焼きを口に頬張った。

「美味いな!これはコケットの肉かな?」
「あれ?コケットって何の生き物でしたっけ?」
「えっと……コケコッコー!って鳴いてるやつだよ」
「あれですか!なるほどです」

 二人が肉について盛り上がっていると、ルレファがため息混じりに二人に視線を向けた。

「何が入ってるかわからないんだぞ。すぐに食うな」
「大丈夫だよ。変な物なんか入ってないし、すごく美味いから食べてみなよ。ほら!」

 リュレンはルレファがまだ口をつけずに手に持っていた肉をヒョイと取り上げてルレファの口に突っ込んだ。
 ルレファは少し驚いたように目を見開いたが、肉を拒むことはせずにもぐもぐと口を動かした。

「な、美味いだろ?」
「……美味い」

 ルレファは丸め込まれて納得のいかない顔をしながら口から串を引き抜き、もう一口と口に入れた。

「ルレファさんも、美味しいものには弱いんですね」

 セフィネルはふふ、と笑いながら残った焼コケットを美味しそうに食べた。

「商人に扮して正解でしたね」

 今朝、裏路地を抜ける前にルレファが偽装用に持っていた売れそうなものが入った荷物を、三人で背負った。普通に動く分にはない方がいいが、ある程度荷物は持っていた方が商人だと偽装しやすい。

「俺の能力は荷物持ちのための能力ではないんだがな」

 ルレファの能力、『空間操作』で繋いだどこかの空間に、いつもは荷物を入れてもらっている。そのおかげで、ほとんど何も持たなくとも旅ができるのだ。

「まあ、いいじゃないか!ところで、この街の伝承はどこにあるんだ?」

 リュレンがそう尋ねると、ルレファは口の中の焼きコケットを飲み込んで口を拭った。

「ここには大きな図書館があるらしい。国内でも大きい図書館だ。そこなら何か良い資料があるかもしれない」
「どの辺りにあるんですか?」
「かなり大きな図書館なこともあり、街の中心部の辺りらしいな」
「じゃ、早速行くか~」

 駆け足で行こうとするリュレンを、ルレファは軽く睨みつける。

「足元に気をつけろよ。バカ」
「あ!バカとはなんだバカとは!」
 振り返って憤慨したようにそう言うリュレンを、呆れた目で見る。
「バカだろう?昨日の有様を考えればな」
「……昨日は、悪かったよ」

 セフィネルは昨日のことを思い出しながら苦笑いをする。
(昨日は、本当に大変でした。)

 昨日の夜、裏路地に入る前に起きたことだった。

「難なく街に入れたのはいいが、どの辺にいた方がいいかな?」
「夜の間はこの辺りで静かにしていればいい。明け方から、街の中心へ移動を始めよう」
「りょーかい。じゃ、とりあえずこの辺りを見てみる」

 そう答えて足の屈伸運動をしているリュレンを、ルレファは静止する。

「まて。上から見るつもりか?」
「ああ。その方が見やすいし」

 簡単にうなずいて跳ぼうとしているリュレンに、セフィネルは心配そうな眼差しを向ける。

「見つかるんじゃないですか?」
「派手な魔術使わなければバレないよ」
「……魔術は使うなよ」
「わかってるって。じゃ、行ってくる」

 しっかりと足に力を入れて、リュレンは高く跳躍する。おそらく、軽く六、七メートルは跳んだだろう。そして、建物の上に着地した。

「ん~。特にこれといったものはなさそうだな。少し遠くに使者はいそうだけど、道さえ気をつければ鉢合わせはしないはずだよ」

 建物の上からそう言われて、ルレファとセフィネルは少し安堵する。

「ほら、早く降りろ。少し遠いからと言って気づかれないわけじゃないんだ。気をつけろよ」
「わかってるよ。今から降り――る?!」

 注意された直後なのにもかかわらず、リュレンは足を滑らせて真っ逆様に落ちていった。

「――っ!!あのバカ!」

 リュレンはルレファの罵倒を聞く暇もなく落ちていったが、地面につく直前、火の魔術を発動させて勢いを相殺した。そのおかげで、相殺しきれなかった勢いで尻餅をつく程度で済んだ。

「だ、大丈夫ですか?!」
「ああ。大丈夫だ」

 リュレンは慌てるセフィネルに軽く手を振って、安全を知らせる。

「危なかったな……」

 ルレファはそう呟くリュレンを睨みつけた。

「魔術は使うなと言っただろ!俺たちはあれくらいの高さから落ちても死なないのを忘れたか?」
「と、とりあえず移動しましょう!気づかれた可能性が高いです!」

 慌てながら裏路地を指差すセフィネルにうなずき返し、ルレファはリュレンを助け起こす。

「そうだな。いくぞ、リュレン。気づかれていたらお前のせいだからな」
「……すまない」

(その後、案の定気づかれていて戦闘になったわけですけど、今後はもっと気づかれないように行動しなくてはいけませんね。)

「だが、何度も間違いを掘り返すのは違うと思うぞ!!」
「失敗を身に染み込ませておけ」

 ピシャリと言われて、うなだれるリュレンを、セフィネルは温かい目で見ていた。だが、目の前に見えてきた建物を見て表情がパッと明るくなった。

「目的地、あの図書館じゃないですか?」

 ルレファはセフィネルが指差している方向を見て、肯定するように頷いた。

「そうだな。あそこが、国の図書館の中でも三本の指に入る、『ライリフ図書館』だ」
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