土の下から君を呼ぶ

みや

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土の下から君の名前を呼ぶ

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【登場人物】

【月ノ瀬 椿 】
18歳   身長は170cmで細身で色白。
見た目の繊細さに反して男前でさっぱりした性格。8歳の時、親が離婚し都会から斑目村に引っ越してきた。高校には親友の宝良と一緒にバスで通っている。宝良以外友人がいない。窮屈な村に嫌気がさしている。

【斑目 宝良】

椿の親友。斑目村の名家、斑目家の長男。
身長は180cmで村1番の男前として、村の女性に人気を得てる。
母親は幼い頃死亡し、権力にしか興味のない父親に育てられたため、子供の時から少し変わっていた。斑目家は代々、この村を守り、村の土として生きていくと決まっているので村からは出られない。

【清水 凪沙】

村で唯一の宝良や椿と同じ歳の女の子
椿が好き。2人とは高校は別。
中学卒業後は県外へ出た。

---------------

-【月ノ瀬椿の記憶】-

俺は、この村にあまりいい思い出はない。

覚えているのは、
空がやけに低かったことと、
靴がすぐに汚れたこと。

都会では、コンクリートばっかりだから
靴が汚れることは、まぁなかった。
でもここでは、土が足に絡みついてくる。

「つーくん、友だちできるといいね。」

母親はそう言ったけれど、
俺は「できなくてもいい」と思っていた。

だから、あの日も、川で宝良と出会った日、
誰とも関わる気もなくて、ただ川で魚を見つめていた。そうやって時間を潰せば、いつか大人になって、ここを出れると思ってた。

魚を見ていると、背後でガサッと音がした。
見られてる、そう思ってちらっと見ると
村で1番偉い家の息子、俺と同じ歳の男の子がいた。
名前は確か、 まだらめ たから。

そこにいた子ども、
宝良は、最初から、ずっと俺を見ていた。

視線が、逃げない。
嫌な感じではなかった。

「ここ、深い?」

自分から声をかけたのは、
沈黙が長引くのが、ただ面倒だったからだ。

「深いところは、ふかい。」

「じゃあ、落ちたら死ぬかもね」

そう笑いながら言うと、
宝良は真面目な顔でこう言った。

「きみが落ちたら、俺が引き上げるよ。」

その言葉を聞いた時、
椿は思った。

(かっこいい、ヒーローみたい。)

それだけだった。

立ち上がって宝良の元へ行こうとしたとに
石の苔を踏んでつるっ、と滑った。
体のバランスが崩れて、川へジャボンと落ちてしまった。

(冷たい!!寒い!!苦しい!!!たすけて!!!)

ちょうどそこが深い場所だったのか、
足が届かずバチャバチャともがいた。
鼻に水が入って痛くて、息ができなくて苦しくて、死ぬのかもと思った。

すると、腕を掴まれて、水上へずるっと引っ張られ、石に捕まり水の外へ出ることができた。 体が必死に酸素を取り込もうと、咳き込みながら一生懸命空気を吸った。

「ほら、言ったじゃんか。
お前が落ちたら、俺が引き上げるって。」

宝良の声は震えていなかった。
 動揺すらしてなかった。

まるで、最初から落ちることが分かってたみたいだった。


-【斑目宝良の記憶】-


斑目宝良が月ノ瀬椿を初めて見たのは、
8歳の夏、村に同じ歳の子どもが現れた日だった。

夏なのに、長袖。
日に焼けていない肌。
土の匂いがしない。

「都会から来たんやとぉ…」

「なんや母親が男に逃げられて人間不信なったらしいんやわ。こんな辺鄙な場所にきて何を求めてるんやろかなぁ」

「心を癒す自然には困らんけどな」
「ははっ、ほんまやわ」

村の大人たちは陰でコソコソそう言っていた。面倒くさそうに、馬鹿にするような、
でもどこか警戒する声で。

俺はずっと、木の陰からその子を見ていた。

その子は、母親と一緒に村を散歩していた。
きょろきょろとしきりに周囲を見回していた。 

その黒くて大きな瞳は怖がってはいなかった。だけど、期待もしていなかった。

ただ、どこか冷めた目だった。

(……ここに、馴染む気ないな。)

それが、最初の月ノ瀬椿の印象だった。


数日後、椿は一人で川にいた。
俺は、近くには寄ってみたものの、
中々声をかけられずにいた。

「ねえ」

先に声を出したのは、椿だった。

「ここ、深い?」

声が出そうなくらい驚いた。
自分に気付いていたことにも、
当たり前みたいに話しかけられたことにも。

「……深いとこは、ふかい。」

「じゃあ、落ちたら死ぬかもね。」

それだけ言って、椿は川を覗き込んだ。

沈黙。

普通なら、ここで終わる。
村の子どもは、よそ者に深入りしないよう
親に言われているから彼を避けている。

でも俺は、つい思っていたことを言ってしまった。

「…きみが落ちたら、おれが引き上げるよ。」

椿は、最初キョトンと大きな瞳を見開いて固まったが、すぐに笑った。

「じゃあ、落ちてもいいなぁ。」

その瞬間、胸の中で何かが蠢いた。

俺を信用してくれている。

初めて話したのに。まるで俺を理解してくれてる気がした。

それから、二人はパズルのピースのようにぴったりはまり、一緒にいるようになった。

椿は、俺に村のことを聞かなかった。
俺も、椿に都会のことを聞かなかった。

それが、酷く心地よかった。



「 椿は、将来なにするの?」

出会ってから5年がたち、中学生になったある日、
椿と一緒に、田んぼの中を泳ぐ虫を見つめながら聞いた。

椿は少し考えてから言った。

「ここには、いないと思う。」

その言葉は、まるでここでの俺との思い出など、大したことがないかのようにさらっと言われた。

――その瞬間、世界から音が消えた。

「……ふーん」

「じゃあ、俺は?」

俺がそう聞くと、
椿は、不思議そうに首を傾げた。

「宝良は、ずっとここにいるでしょ。」

それは当然のことのように。

疑いも、悪意もなく。

俺は、その夜、眠れなかった。

梅雨の時期特有の土の匂いが、
やけに強かった。



村には、言い伝えがある。

「宝物は地下に仕舞う。」

宝良は、初めてその言葉を理解した。

(――ああ)

(最初から、決まってたんだ)

椿がこの村に来た理由も。
自分が出会った理由も。

宝良は、思った。

椿は、斑目家の地下によく似合う。

まだ何も知らない顔で、
何も疑わないまま。

宝良は、その未来を愛おしいと思ってしまった。

土は、その感情をずっと、覚えていた。


----【椿side】-----

この村は、夜になると音を失う。
虫の声すら飲み込むほどに、土が深く、古い。

椿はその静けさが昔から苦手だった。

 8歳の時、親が離婚し、都会の人間関係に疲れた母が選んだのは、母の叔母が嫁いだ辺鄙な田舎だった。叔母と旦那さんは旅行先で不慮な事故にあい数年前に亡くなってしまったらしく、その家の長女が都会に働きに行くから家を引き取って欲しいと母に連絡してきたとのことだった。

そしてその無駄に広い一軒家に住むことが決まった。
この村では、宝良という親友ができて、母が村役場で楽しそうに働いていて、俺自身も村に慣れた気もした。

自然も嫌いじゃない、寧ろコンクリートよりは好きになった。虫取りも、川遊びも、秘密基地作りも、楽しかった。


でも俺は、高校を卒業したら村を出る。

俺が村を出たいと思ったのは、何か一つが決定打だったわけじゃない。

朝、家を出るだけで嫌な気持ちになった。

「夏やのに長袖なんて着て、変な子やなぁ。」
「日焼けが嫌なんやって??女の子みたいやわぁ!」
「宝良くんとは、まだ一緒におるん?」
「彼女はできたんか?さすがに宝良くんにはおるやろ?」

近所の人は悪気なく声をかける。
毎日同じ質問を、毎日同じ距離感で。

俺がわざわざ答えなくても、もう知っているくせに。

出かける予定も、交友関係も、この村ではいつの間にか共有されている。

学校から家に帰れば、母は村役場の仕事でいない。
何故か夜もオシャレをして出かけていく。
朝に帰って来ることもある。


休日家にいても、母の目はスマホから離れない。
成績の話も、進路の話も、 俺から切り出さなければ出てこない。

切り出したところで、「こんな田舎で成績優秀でも、意味ないからねぇ。」と言った。

将来の話をすると、村の大人たちは決まって言った。

「ここにおったら困らん」
「出ていく必要なんてない」

でも俺には、その困らない未来が、気持ち悪く感じた。

仕事も、生活も、人間関係も、全部がこの村の延長線上にある。選択する権利も与えられずに、ただ生きる場所が決められているだけだ。

四六時中、窓を開けると、誰かの立ち話が聞こえる。
自分の名前が出ていないか、思わず耳を澄ませてしまう。


その癖に気づいた瞬間、吐き気がした。

ここにいたら、自分は自分のままでいられない。
そう思った時、村を出る決意をした。

実はここに来る前、父の電話番号とメールアドレスをこっそり紙に書いてくれたから、スマホを買ってもらってからずっと母には内緒で連絡をとっていた。

父に高校を卒業したら働きたいと相談すると
父が取締役を任されている会社にコネ入社させてくれるといった美味しい話が出たのだ。

汚い入り方かもしれないけど、
そこでのし上がれるかは俺の努力次第だし
入口なんて関係ないと思い、高校を卒業したら父の元へいくと約束した。

母に伝えてみたところ、実は母も隠し事があったことがわかった。

母は村役場で楽しく働いていて、入ってからずっと優しくしてくれている50代の男性と数年前から付き合っていて、最近になって再婚も考えていると言い出した。
たまに夜に出かけるのは、その人と逢い引きをしていたということがわがった。

「つーくんがここで幸せになれないなら、お父さんのところに行ってもいいよ。私はここで幸せに暮らすから」

そう俺にきっぱり言った母は、
今までに見た事がないくらい幸せそうな顔をしていた。

「………そうする。卒業したらすぐに出ていくから。」


そして、卒業式の前日に
親友である宝良にもこの事を伝えた。

「っていうことで、卒業したらここを出る。」

そう言った時、宝良は笑っていた。

高身長で整った顔。村の誰もが一目置く存在。老若男女に絶大な人気を得るこの親友は
何故かずっと、彼女や俺以外の親しい友人を作ろうとせず、ずっと俺の隣にいた宝良。


きっと怒ったり、泣いたりするんだろうなと思っていた。

でも宝良は微笑んでいた。 いつも通りの顔で。

「…………隠してたこと、怒らないのか?」

「ん?まぁ、何となく分かってたし。
ホントに嫌だよねこんな村、俺も大嫌いなんだ。」


嬉しそうに共感してくる宝良に違和感を覚えた

(でもまぁ、怒ってないならいいか。)

と、心から安堵した。



卒業式が終わって、春休み中に引っ越しの準備を済ませ、ついに一人で東京に行く日が来た。たいして多くもない荷物を持って、村で唯一の電車を待つ。
母は駅まで送ってくれて、もうすぐ仕事の時間だとあっさり去った。

何だか、そんなに悲しくないもんだなぁと冷めた気持ちで3時間に1本の電車を待った。

「おっそいなぁ…これだから田舎はい、」

いやなんだよと言おうとした瞬間
背後に気配を感じて振り返ろうとしたら
首にバチバチと衝撃が走り意識がプツンと途切れた。


~~~~~~~

目を覚ました瞬間、土の匂いがした。

湿った空気。石と木が混じった古い匂い。
俺は自分が座敷牢に場所に閉じ込められていることを理解するまで、数秒かかった。

「……ここ、どこだ」

声が反響する。
天井は低く、やけに豪華な布団と、
電球が一つ。

「俺の家の地下だよ」

聞き慣れた声がして、顔を上げた。

宝良が、牢の外にある豪華なソファに座ってコーヒーを飲んでいた。

いつもと変わらないムカつくほど整った顔。

だけど、違った。

「……宝良、冗談だろっ、?」

「冗談?」

宝良は首を傾げ、にんまりと笑った。

「椿が村を出るならさぁ、大事に、宝箱に仕舞っちゃおうって昔から決めてたんだよ。」

その瞬間鳥肌がたち、立ち上がった。

ざりざりざり……

鎖の音が鳴る。
椿の足首につながれた鎖が、座敷を引きずる音。

「あ、頭おかしいぞお前!
ここらか出せよ!親友だろ、俺たち!」

その言葉に、宝良が真顔になった。
なんだか、目が怖い。

「……親友?」

地を這うように低く、怒りを含んだ声。

「椿さぁ、お前が言う《親友》って、
              簡単に離れてもいい存在なんだ?」

宝良は牢越しに手を伸ばし、椿の青白い頬に触れた。指先は刃物のように冷たく、恐ろしいほどに優しかった。

「俺はそう思わない。
 俺は椿と離れたくないし、ずっと一緒にいたいのに、」

「…っ、宝良……」

「この村の噂、知ってるだろ。時々、人が消えるんだ。
それは、恋人だったり、親しい友人だったり、大事な家族だったり……」

椿の喉が、音を立てずに鳴る。

失踪、行方不明。
子どもの頃、宝良に聞いた噂話。

実際は、どこかの家の地下にこうやって閉じ込められてるのかもしれない。
恐怖に震えていると、宝良は優しく微笑んだ。

「安心して。椿は、俺がちゃんと守るから。」

「……お前のこれは、守るって言わない!」

「言うよ。だってここなら、誰にも奪われない。傷つけられない。」

裸電球が、チカリと揺れる。
その影の中で、宝良の笑顔だけが――
異様に、はっきりと浮かび上がっていた。

「椿、俺の椿。ずっと大切だったんだ。
大好きなんだ。椿。」

何度も何度も名前が呼ばれる。

逃げ道は、もう塞がれていた。


  宝良が鍵を取り出し、座敷牢唯一の小さな出入口の扉を開けて入ってきた。手に何かの容器やら色々と持っていた。

「……な、なんだよ……」

宝良を殴ってここから出てやろうかとも思ったが、如何せん足首には鎖が繋がれているし
スポーツしてる訳でもないのに細マッチョな宝良に、こんなもやしの俺が勝てる気がしなかった。

 近づく足音。

「椿震えてるね、どうしたの?怖い?」

宝良は、答えを待たない。
椿の顎に指がかかる。持ち上げられる。視線が合う。

「初めてだもんね。大丈夫、痛いのは最初だけだよ。多分ね」

 その言葉が、椿の中でひび割れる。

「…い、…いやだ、…たから、」

 声が喉で潰れる。
 宝良は笑わない。ただ、安心させるみたいに、ゆっくり距離を詰める。

 逃げようとした瞬間、背後の壁に行き止まりを感じた。

逃げられない

「椿はね、ずっと俺のだから。」

 囁きが耳に触れた、その瞬間。
 俺は全裸だということが分かった。

どうりで肌寒いと思っていた。

それに、なんだか腹がグルグルしてる。張ってるっていうか、気持ち悪い。
なんでだろう、分からない。

「あ、実はさ、椿が気絶してる間、
浣腸してお腹の中のもの全部出しといたんだ。初めて腸内洗浄したけど、結構簡単なんだぜ? 椿気絶しながら泣いたり呻いたり叫んだり…いやぁ、可哀想だったなぁ。」

「……は?………か、浣腸、洗浄…??」

「それに下の毛、まぁ全然生えてなかったけど一応ツルツルにしちゃった。そっちの方が可愛いし、」

「……は、?え、」

思わず下腹部に手を伸ばす。
大して生えてなかった毛がなかった
ツルツルだった。

それにこの下腹部の違和感は浣腸して便をすべて出されたからだと理解した

 「んっ!!」

陰毛が剃られたことに絶望してると、
ふと顎を持ち上げられて宝良の唇と自身の唇が重なった。

舌が唇をつついてくるので思わず隙間を開けると、宝良の舌が入ってきた。

「!?」

錠剤のようなものが舌に置かれ、そのまま唾液で喉の奥に流される。

「ごほっ!!おえっ、はぁ、はあ」

飲み込んでしまった……
一体何の薬なんだ

「なにのませ、……えっ、」


息を整えていると、体の力ががくっと抜けてその場に崩れ落ちた。

「えー、これ即効性すぎない?
うちの父さん、相変わらず趣味の悪い薬ばっかり集めるんだから」

仰向けに倒れる俺に、宝良がのしかかってくる。そして、宝良の顔が胸に近づき、男に必要ないと思っていた乳首を舌先で軽く舐めた。

「ひっ、」

 初めての感覚に思わずピクッと小さく体が跳ねる。それに気を良くしたのか、かぷりと乳首を咥えると、じゅる、と吸い上げ、先端は舌でぐりぐりと押しつぶすように舐められる。

「ひ、あ、やだ、きもちわる、い!」

下腹部がじんじんしてきた
嫌だ、気持ち悪い、でも、何故かじんじんする。

宝良は片方の乳首をぐりっと指で押しつぶし、次は撫でるように優しく触ってくる。

「は、う、っ、…うっ、」

その刺激に耐えていると、宝良がふっと笑って胸から顔を離し、首筋や脇腹、臍、
至る所を舐めてきた。

くすぐったい、でも少し気持ちいい。
認めたくない、でも、

「ふふっ、ちょっと反応してきたね。」

「っ、! せいり、現象だ!」

「あぁ、椿ってどこもかしこも甘くて美味しいんだなぁ。我慢できなくなってきた。」

すると、宝良が俺の脚を抱え上げ、ローションのようなものを絡めた指を、尻へと近づけた。

「おい、!!嘘だよな!、たか、ひっ!!」


 ぬるりとした感触が、普段は触れられることなどない場所を丁寧に撫で、少しずつ侵入してくる。

「い、…ぁ、や…、だ…!」

 必死に身を捩じらせても、些細な抵抗にすらならない。指は狭い場所を無理やり広げるような動きをし、異物感が耐えない。

弛緩剤のせいで穴にも力が入らないのか
もう2本入っているようで、
ぐちゃぐちゃとローションを孔内で掻き回される。

「うっ、やだ、気持ち悪い、いやだ!んっ!」

 本来指を受け入れる場所ではない粘膜は、物凄い違和感を訴える。

「大丈夫、すぐに慣れるよ。
このちっちゃな穴は、俺の形をすぐに覚えくれるからさ。がんばれ」

 宝良が何か言っているが、異物感感と戦う俺の頭には全く入ってこない。


「ぅ、はぁ、んん!!、」

さっきは反応していたけど、もう萎えているぺニスに触れられ、ローションでヌルヌルの手がぺニスをゆっくり扱き出す。尻の中にある指を思わず締め付けてしまう。前では快感を得られるようだった。

「あっ、はあ、さわ、んな…やめ、」

苦痛に満ちていた声に色が混じる
ぺニスが勃起してきて、段々気持ちよくなってきた。
そして、不本意だけど、中にいる指にも
小さな快感を覚え始めた。

前も後ろも一緒に動かされると
  気持ちよくて、頭の中がごちゃごちゃしてくる。嫌だ、気持ちいい、気持ち悪い、いやだ、助けて!!


 体が…自分のものではないみたいだ。
 弄られている部分を中心に、体中の熱がそこへ集まっていくようだ。

「気持ちよくなってきたんだ。
才能あったんだねぇ、椿は。」

また宝良は何かを呟き、反応を示し始めていたぺニスをギュッと掴んだ。

「…あぁっ、…ぅ…」

 今までに感じたことがないほどの衝撃が突き抜ける。
 
その瞬間、ぺニスからぴゅっと精液が出たのが分かった。

「ん…はぁ、は、いっ、ちゃ…?」

イッちゃった?俺が?レイプされてるのに…? そんなわけない!!気持ちよくない!

 ふつふつと怒りが湧いてきたが、またぺニスを扱かれ、体は裏切ってまた硬度を持ち始める。

「…そろそろひとつになろっか」

「えっ、な、ん、んんっ!!」

 途端、ズルリとすべての指が一気にその場所抜け出ていった。

「…! ん…、ぁ…」

 思わず引き止めるように内部が蠢いた感覚があり、愕然とした。

 しかし何かを考える間もなく、

 鎖がじゃらじゃらうるさい脚を大きく開脚させられ、脚の間から宝良がのしかかってくる。

いつの間かズボンを下げていて、
一瞬見えたブツは、俺のとは比較できないくらい大きくて、グロテスクだった。


「はっ、ぅ…、ッ、ああぁっ…!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

痛い!!!苦しい!!!つらい!!!

あまりの圧迫感と痛みに頭が狂いそうになる

いっぱい叫んだ、叫んで、叫んで、
外に聞こえて欲しいと願いながら。

宝良のお父さんでもいい、お手伝いさんたちでもいい!お願い、助けて!!!

「…はぁ、椿の中、暖かくてキツくて、気持ちいいなぁ。 」

 ゆっくりとした感嘆の声とは裏腹に、内蔵を穿つスピードは速い。
あまりの辛さにパニックになり、呼吸さえ整わないに俺には、もはや拷問だ。

「は、ぁあああっ!!!あっー!!!!!!あっー!!!!!!

 荒く喘ぎ、上体が傾く。
 
意識が遠のく


(死ぬのかな…このまま)

そして、俺の意識はそのままとぎれた、



~~~~~~~
~~


時間の感覚は、地下では鈍くなる。

ここにきてから、何日が過ぎたのか分からなくなっていた。食事は決まった時間に出される。水もある。体は生かされている。

ただ生かされているだけ。


宝良は毎日来た。
必ず同じ時間、同じ足音で。

「今日も綺麗だね、椿。」

うっとりとした顔で頬を撫でられる

「っ、」

毎日のように好きなように身体を弄ばれて、
少しでも体に触れられると、反射的に身構えてしまう癖がついた。

そんな情けない自分に怒りが湧き上がってきた

「……お前さ……俺を閉じ込めて、何がしたいんだよ。今頃警察とか探してるはずだし、バレたら逮捕だ。」


宝良は答えない。

代わりに、椿の髪を撫でる。


「椿ってさ、昔から何にもわかってないよね。」

「……何が」

「自分がどれだけ大切にされてるのか分かってない」

宝良の声は穏やかで、まるで子どもを諭すような口ぶりで。それが何より、怖かった。

「俺はずっと、椿を見てたよ。」

宝良は語り始める。

「椿が老人共に挨拶をするようになって、雑談までしたり、あの小さな学校で友達を作ろうとしたり、笑ったり、勉強したり、家庭に目を向けない母親の代わりに買い物に行ったり、料理したり、洗濯したり……、

それが全部、“俺から離れる練習”に見えたんだ。」

「……なんで、家の事知ってんだよ……」

そんな話、した事ないのに。
なんで知ってるんだよ。怖い、おかしい。

「椿が隠れて担任に進路相談してたことも、お前を捨てた父とずっと連絡をとってることも、ここを出て父親のところに行こうとしてたことも、全部知ってた。」

背中に、冷たい汗が流れる。

「……宝良、お前……そういうのって……、ストーカーって言うんだぞ…」

「愛してるよ」

その言葉に躊躇も、迷いもなかった。

「親友とか、そういう軽い言葉じゃ足りない。
 俺は椿の全部が欲しいんだ。人生も、人権も、思考も、戸籍も全部欲しい。」

宝良は大きな手で俺の青ざめた頬を掴んだ。

「逃げたい?」

その質問に、 答えなかった。


――答えられなかった。

その沈黙を、宝良は「肯定」と受け取った。

「そっか」

嬉しそうに微笑んで、立ち上がる。



「じゃあ、今夜だね。」

そう言って、出ていった。


------
---

恐らく夜になった頃、いつものように宝良が来なかった。

それが、逆に不気味だった。

全神経を集めて、音に耳を澄ます。

(……何も聞こえない。)

その時、ふと足元をみると、
鎖が、完全には固定されていないことに気づいた。

床の金具が、わずかに緩んでいる。

意図的だと分かるほどに、雑だった。


自身の体をパッと見る。

今日は珍しくパーカーだけ着せてくれた。
ズボンは着せてもらってないけど…

宝良サイズのパーカーのお陰で下半身は大して見えないし
夜の村なんて人に遭遇なんてしないはず…

  (逃げれる………)

(……でも、これは罠だ。)

そう思いながらも、体は勝手に動いた。

俺は必死で金具を外し、地下牢を出た。
階段を上り、何度も遊びにきたことのある、
よく見知った宝良のデカい家の中を、音を殺して慎重に進む。静まり返った宝良の家の中を抜けて、
子供のときに宝良に教えてもらった秘密の裏口から抜け出し、夜の村へ駆けた。

すでに春のはずなのに空気が冷たい。
久しぶりに走ったからか肺が痛い身体中が痛い。苦しい。


星が異様に近い。
今まで思ったことがなかったが、
この村から見える星はとても綺麗だった。

――逃げられる。
まずは母に助けを求めよう。
助けて貰って、警察に通報するんだ。
これは立派な犯罪なんだから。

希望を抱いたその瞬間、

足元の土が、崩れた。

「――っ!」

暗すぎて足元が見えていなかった。
深い溝があったのか、小川があったのか、
田んぼがあったのか、分からないが
今からどこかに落ちるのは分かった。

「ちゃんと足元見ないと危ないよ、椿。」

その刹那、背後から、腕が絡みつく。
体が固定され、地面に戻された。

「つかまえた」

耳元で、宝良の声がした。

「……っ、離せ!!」

とにかく死に物狂いで暴れた。
必死で、噛みついて、蹴って。

それでも宝良は、離さない。

「ねえ、椿。」

押し倒され、土の上に組み敷かれる。

美しい満点の星空をバックに、宝良の目は、恍惚としていた。

「外は怖いんだよ。
さっき、俺が助けなかったら怪我してた。」

「……殺せよ」

「殺さない」

即答。

「殺さないけど、壊そうとは思ってる。」

宝良は椿の顔を両手で挟み、額を合わせた。
俺は絶望からか、涙が溢れた。

(誰でもいいから、助けてくれ…)

その背後で、神社の方から鈴の音が鳴った。

斑目村に古くから伝わる、祭りの合図の音。

宝良は笑う。

「帰ろっか、椿。」

そして、俺は再び地下に戻された。

そして、目の前でガシャンと鎖を簡単に外される。

「つばきぃ」

宝良が耳元で囁く。

「もう一回、逃げてみる?」

「……」

「次は、もっと早く捕まえてあげるから。」

裸電球が消える

闇の中で、俺の名前が、何度も呼ばれた。
また今夜も一緒に寝るのだ。

ここに来てから、寝る時は一緒だ。
宝良の大きな体に抱きしめられて眠る。
トイレと風呂は宝良と一緒になら行ける。
自由なんて無い。ずっとこんな虫かごみたいな場所で生きるのか。

俺は宝良に抱きしめられながら、目を閉じた。

起きたらこれが全部夢だったらいいのに。と毎日のように願いながら眠った

------
-------
--

地下に戻されたあと、
俺はもう、日にちを数えなかった。

数えないことにした、の方が正しい。

逃げた。捕まった。
それだけで十分だった。

でも宝良は、以前のように毎日は来なくなった。
代わりに、必要な時だけ現れる。

「水、ここ置いとくね」

「ご飯置いておくね。椿の大好きな豚汁だよ」

「そろそろトイレいこっか」

「お風呂はいろう」

「今日は寒いから湯たんぽ使って」

「椿がここにいてくれるだけで安心するんだ。」


その言葉が、優しさが少しずつ効いてくるのが分かった。

ここは不便がない。衣食住、まぁ確保されていて
毎日掃除してくれて清潔な空間だし、柵越しにある小さなテレビも見れて、本もくれるし、退屈ではあるが精神が狂うレベルではないのかもしれない。

「ねぇ、椿」

ある日、宝良は牢の外にあるソファに座り、昔話を始めた。


「この村の人間はね、宝物を地下に仕舞うんだってさ。昔は、そりゃあもう酷い手を使ったらしいんだ」

宝良の声が、少しだけ低くなる。

「逃げる人間を縛って、手足を切って、精神を壊して。でも今は違う」

顔が近づく。

「自分から“ここに居たい”って思わせた方が、ずっと、ロマンティックじゃない?」

「……俺を、そうするつもりか」

宝良は否定しなかった。

「もう、半分できてるよ。」



その夜、 椿は夢を見た。

村の外にいる夢。
駅のホーム。
電車が来る。

――でも、誰の顔も思い出せない。
父の顔も、祖父母の顔も、母の顔すら…靄がかかったみたいに、ぼやけて…

でも不思議と寂しくなかった

だって、俺の隣には、いつも


宝良がいたから。

-------


逃げる機会は、再び訪れた。

宝良が2日に1回は俺を抱きに来る。

今日も2時間以上犯され、後孔から無遠慮に出された精液がたらたらと流れる。
喉が潰れて声が出ない、無理な体勢を強いられ体の隅々が痛い。

酷使された尻は、麻痺してしまい、もはや感覚などない。

宝良は「先に体洗ってくる。ちょっと休んどきなよ。あとで綺麗にするからさ。」

そう言って、上へあがった。

俺は寝たフリをしながらしっかりと見ていた

宝良が、鍵をかけ忘れたところを。

俺は、立ち上がった。筋肉が落ちた足は震えていた。
全裸であるとこは理解していたが、服が見当たらない。
気にしてられない。

(行かなきゃ)

理由は分からない。
ただ、「行かなきゃいけない気がした」。

牢を出て、階段を上る。
重く古い扉に手をかけた、その瞬間。

――立ち止まった。

外に出た自分を、想像できなかった。

寒い。
怖い。
誰もいない。

もう俺の事なんて誰も探してないかもしれない
母さんも、再婚して幸せに暮らしてるかもしれない。

俺が戻ってこない方が、幸せなのかもしれない。

そんなことを考えると、足が動かなくなった。

その時、重い扉の向こうから声がした。

「椿」

扉を開ける前から分かっていた。
宝良がそこに立っている。


「どうして止まったの?」

俺は答えられなかった。

宝良は扉を開き、ぽろほろと涙を流しながら震える俺に近づき、そっと抱きしめた。

「ね、逃げるのって、もう面倒でしょ」

その言葉が、
驚くほど自然に、胸に落ちた。

「……」

「大丈夫」

宝良は囁く。

「考えなくていい。選ばなくていい」

宝良は俺の額に口づけてこう言った

「俺が椿を一生大切にするから。」

その瞬間、
俺の中で、何かが静かに切れた。

(ああ。逃げなければ、捕まらない。
ここにいれば、守られる。)

それだけの話だった



地下牢の扉は、
その日から閉じられなくなった。

鍵は外され、鎖もない。

それでも椿は、出なかった。

宝良は嬉しそうだった。

「大好きだよ、椿。」

全裸の俺に、全裸でのしかかってくる宝良。
これから行われる行為には慣れてしまった

ただ与えられる快楽を受け入れればいい
痛いことなんてされない
苦しくもない

抱き合っている瞬間は体も温かい

じゃあ、心は…?

宝良は俺に挿入しながら、
まるで恋人のように手を繋ぎ指を絡める。

「ねえ」

「んっ、あっ、あっう、」

「親友だった頃より、今の方が好き?」


俺は快楽を受け入れつつ、ぼやけた頭で考えて、こう呟いた。

「……嫌い。」

宝良は笑った。

「ははっ、それでもいいや」

裸電球の下で、二人の影が深く重なる。

お互い余裕がなくなってきて、椿も達しそうになった時、
同じく息を乱した宝良が囁く。

「っ、椿、俺の名前を呼んで」

俺は、目を閉じて、小さな声で

「……宝良」と呼んだ。


今日も俺は、土の下で君を呼ぶ。


----【斑目宝良の記憶】------

椿と初めて喋った日

椿が川に落ちた日のことを今でもはっきり覚えてる。

ずっと気になっていた椿を追うと、川を覗いている後ろ姿を発見した。

会話しながらも、

(そこの場所は苔だらけで滑るんだけどなぁ、
川も深い部分だし。
ちょうどそこで落ちて死んだ子も居るって聞いた気がする。)

と悠長にそんなことを思ってたけど、あえて言わずに様子を見ていたら、案の定滑って椿は川に落ちた。

実際に落ちた瞬間、宝良の心臓は跳ねた。

「たすけなきゃ」

慣れた手つきで川に飛び込み、
沈みかけている椿を抱いて浅い場所へ移動した。

(…同じ年齢なのに、軽い。)

川から引き摺りあげ、よいしょと抱き上げた椿の体は、濡れて重いはずなのに全然軽かった。背が俺より低いからか、俺より脂肪がないからなのか。

「ごほっ、ごほっ、…あ、りがとう。」

必死に俺に抱きつく冷たい体に
胸がドキドキした。

縋り付くように、震える手で、俺の体にしがみつく。その手の力強さに、命の重みを感じた。

(ずっと俺だけを頼って欲しい。ずっとこうやってしがみついて欲しい。ほしい。欲しい。)

その日から、俺はおかしくなった。

    普通は異性を好きになるらしいけど、

  俺は多分、椿を好きになったのかもしれない。と思いながら、椿と一緒に成長してきた。

出会った日からずっと一緒にいた。
川の石の数も、悪かったテスト用紙を埋めた場所も、お互いの癖も、親すら知らないであろう精通も、全部共有している関係だった。

中学2年の頃、自分とは違うペースで椿の身体が少しずつ変わっていくことに、何故か戸惑いを感じた。
体育の着替えの時、お泊まりで一緒に風呂に入る時、
椿の体は俺とは全然違った。

俺は日に焼けた肌に、嫌でもついてくる筋肉、陰毛、大きくグロテスクな形になるペニス。ガッチリとした肩幅、声変わりした低い声。
中学2年生から身体の違いが出てきて、
椿の白くて細い、毛すらはえてない小さなぺニス。俺とは同じものがあるとは思えないくらい椿のすべてが綺麗に見えた。女子になんて目が向かなかった。

不意に見える白い肌に、思わず喉の奥が熱くなる。

それが何か分からないまま、夜になると落ち着かなくなった。ほぼ毎日のように椿を思いながら自慰をした。
犯す夢も見た。朝、当然のように夢精していた。

自慰のオカズによく使うのは、服のまま川遊びをしたときに、水で濡れたシャツが肌に張り付いていた時のことと、笑った拍子に触れた体の温度。

時々、椿の体に触ることを躊躇してしまう日もあった。



隣町の高校に入ると、村の人間は露骨に性を押し付けてくるようになった。

「宝良ちゃとと椿ちゃんは、まだ一緒なんか」
「小さい頃から一緒やもんなあ」
「でもそろそろ、お年頃やでなぁ。
 彼女とか作らないけませんやろ!」
「男同士で仲良くしたって、子供はつくれへんからなぁ!」
「男前2人が女に興味無いなんて、村が更に過疎ってまうわ!」

そんな汚い言葉をかけられるたび、宝良の中で何かが濁る。

そんな言葉を言われたあと、いつも椿は申し訳なさそうにこう言った。
「宝良、俺に気つかってる?彼女とか、作っていいから、別に俺、気にしないし。」

腹が立つ

村の奴らも、お前も、人の気もしらないで。
俺がどれだけ、椿を特別に想っているか。
女なんて興味ないにきまってるだろ。

俺が好きなのは

     椿だけなんだから。

高校1年生の夏、俺は椿への思いを自覚した。 椿が好きだ。友達としてだけじゃなくて、人として、好き、ずっと大切にしたい。


(離したくない)

俺はついに悟ってしまった。
もう誤魔化せないと。

会話をしながら、視線が勝手に皮膚をなぞる。白い首筋に汗がつたのをみて腹の奥が重くなる。

それでも俺は、昔と同じ顔で笑う。
幼なじみの仮面は、村では最強だった。

 
「なあ椿」

「俺たち、ずっとこの村で一緒にいようよ。」

椿が答えないのを見て、宝良は確信する。

椿は俺を置いてこの村を出る気だ。

そんなこと許さない
絶対に逃さない


これは恋か分からない。
でも、手放す気もない。


早く俺の事、全部知って欲しいな。
俺の醜い心も、欲も、身体も。

全部受け入れてくれ

------
---

俺の家には、昔から地下があった。

誰にも使われていない、
使ってはいけない場所。

でも俺は、最初からこの地下の意味を知っていた。

ここは、大事な宝物を隠す場所だと。

最初に連れてきたのは、怪我をした猫だった。


家の近くで、カラスに襲われたのか、足から血を流す猫を見つけて、愛おしく感じて、無意識に地下に連れていった。

餌をやって、名前を呼んで、大切にした。

でも猫は、外に出たがった。
必死に怪我した足を引きずって、外へ続く階段を登ろうとした。

だから、
出られないようにした。

しばらくして、父にバレて怒られて
猫は外へ放たれた…。

それはもう嬉しそうに、治りかけの足を跳ねさせて、 
森の中へ帰っていった。

(ここにいる方が幸せだったのに)

負傷した猫など飢えた獣の餌になるだけだ。
ここにいれば、安心な生活ができたのに。

理解できない。どうして外に出たがるのか

「宝良、二度とこんな事をするな。」

そう父に叱られけど、

俺は、それを《失敗》とは思わなかった。

(今回はバレたけど、ただ俺の詰めが甘かっただけ)

次は、
もっと大事なものなら、違う。

椿を連れてきたとき、地下はすでに整っていた。

偶然じゃない。
ずっと、待っていた。

この宝箱に宝物を仕舞う瞬間を。



-------【同級生 清水凪沙の独白】------

「私は、椿くんのことが好きでした。」

月ノ瀬椿と出会った日のこと、よく覚えてる。8歳の頃、村の小学校だった。

この斑目村で同級生は、村の権力である斑目家の長男、宝良君だけだった。

斑目宝良くんも高身長だしお金持ちだし、爽やかで賢くてイケメンだから、周りの大人には将来結婚してほしいと願われた。

私も将来斑目家に嫁げたら…と思っていたけど、引っ越ししてきたよそ者と出会って考えが変わった。 

月ノ瀬 椿くん

私はどっちかというと椿くんが気になった。

雰囲気が違った。どこか冷たい空気を纏っていて、誰も寄せ付けないオーラがあったら。

女子の私よりサラサラで艶のある全体的に少し長めの黒髪
に、日に焼けたことのないような白い肌、
瞬きをする度に音がなりそうなほど長いまつ毛、大きな黒い瞳。

言葉のイントネーションも、服も、繊細な雰囲気も、
全部この村と噛み合ってなかった。

でも、だからこそ気になった。

小学校から中学校までの休み時間、ひとりで窓の外を見てる椿の横顔を見て、「話しかけたいな」って思った。
外でみんなと虫取りやドッチボールや鬼ごっこをしない姿が更に異様な雰囲気を際立たせていた。

けど、椿くんに声をかけようと一歩踏み出したとき、視線を感じて顔を上げると、

必ず宝良くんがいた。

教室の後ろ。
廊下。
下校途中の曲がり角。

宝良くんは、椿くんのことをただ見ているというより、
「見張っている」って感じだった。

直接何か言われたわけじゃない。
ただ、椿くんに近づこうとすると、
次の日には親から言われた。

「余計なことに首突っ込むな」
「宝良くんに迷惑をかけるな」

椿くんが来るまでは、宝良くんに気にいられるように媚びを売れとか容姿を磨けとか
女性らしい所作を身につけろってうるさかったくせに。
今は宝良くんの邪魔をするな、関わるなと言われる始末。

理由は誰も説明しない。

でも、この村ではそれで十分だった。

中学の卒業式前日、
私は彼らとは違う遠くの高校に通うことになったから、放課後、勇気を出して椿くんに声をかけてみた。

「椿くんは、この村好き?」

椿くんはゆっくりこっちを見て
微笑んだ

そして、ゆっくりと綺麗な唇を動かした

――その瞬間だった。

ガタン!!!!!

机を蹴った音が響く

教室にいた数人の子達は、ビクッと怯えた表情をして、机を倒した本人であろう宝良くんを恐る恐る見た。

「あー、ごめんね。躓いちゃった。」

いつもみたいに笑ってるのに、声が低い。
目が笑っていない。怖い。不気味だ。

その瞬間椿くんは、視線をまた窓に向けた。

そのあと宝良くんは、私を見て、
何も言わずに、ただ一度だけ首を傾けた。

それだけで、足がすくんだ。

あの時、私は分かったんだと思う。
椿くんは宝良くんに、「選ばれてる」って。


それから、私は県外の高校に進学して
居候させてくれている祖母と幸せに暮らしていた。
高校も卒業して、4月から大学に通うことになり、気分が舞い上がっていた。

だから、

久しぶりに村にいる弟に電話してみた。

「………………え、?今なんて…」

『え、だから、月ノ瀬椿が行方不明なんだって、』

行方不明??

え、 意味がわからない。

『何でも、東京行きの電車に乗ってから連絡が付かないらしい。父親が約束された日が過ぎても来ないって母親に連絡が入って発覚したんだ。母親は駅まで送ってから知らないと一点張りで……。村の婆さんたちが言ってたんだけど、母親は再婚考えてて、無愛想な息子が邪魔になって追い出したって噂があるらしい。家族に嫌気がさして遠くへ家出したのか、神様の祟りなのか…』

『仲の良かった宝良さんの証言でさ、
昔から毎日母親の愚痴を行ってて、家に帰りたくないとか、虐待を受けているとか、
夜になると男とデートだのお泊まりだので家の事を何もしない、ご飯も食べてないって言ってたらしいんだよ…。
警察もそれを聞いて、家出だろうってことで
とりあえず全国の交番には周知しておくってことになった。それで終わり。もう警察は動いてない。』

「……虐待…?まぁ確かに夏もずっと長袖着てたけど……優しそうなお母さんだったのに…」

でも、椿くんは家出をするような…
そんな人じゃない………

『でも誰よりも一緒にいた宝良さんの証言には、みんな、納得してたよ。
誰も疑ってない。だって実際、母親は村役場の奴と付き合ってたんだって。
再婚の話もしてたらしい。その男が皆に言いふらしてたよ。この調子じゃ、あの母親は村から出ていくだろうなー。』

「……………ちょっと体調悪いから、切るね。」

『ん?あぁ、じゃあね、大学がんばってね、姉ちゃん。』

プツン。

私は、中学の卒業アルバムを開いて、
椿くんが写ってるページを見て、泣いた。

椿くんの日常の写真には、いつも隣に宝良くんが写ってる。幸せそうな顔をして、椿くんに目線をむけて
肩を組んで、距離が近くて、気味が悪い。


そして、宝良くんのメッセージ欄の将来の夢には《大切な人とずっと一緒にいること》と
綺麗な字で書かれている。


確信した

――連れていったんだ。彼が。椿くんを。



あれから2年も経つのに、
今でも、夢に出てくる。

桜が降る駅のホームで、椿くんが立ってる。
声を出そうとしてるのに、口が動かない。

私は、いつも同じことを考える。

もし、宝良くんを無視して、椿くんの手を引いて、この村の外へ走っていけたら。

でも、たぶん無理だ。

だって私は、
椿くんより先に、この村に負けた。

宝良くんに勝てなかったんじゃない。
逆らおうとしなかった。

だから、今でも怖い。

夜、窓の外で足音がする。
宝良くんが私を見ている気がする。

『邪魔するな』

そう言われてる気がして。

椿くんがどこにいるのか、生きているのか、分からない。
でももう、それすら考えないようにして生きていなきゃいけないの。

――それが、この村での正しい生き方だから。

--------

-----
-------
                                 

【5年後】

「すみません、この辺で一泊できる場所ってありますかー??」

カメラを持った男は、古い地図を手に村に入った。
明日開催される、伝統の祭りを見に来たのだ。

アクセスも悪く電波も弱い。
けれど、不思議と落ち着く場所だった。

村に入ってすぐに目に入った、ここらで一等大きく立派な家は、やけに静かだった。

もう一度声をかけると
お手伝いのようなお婆さんが出てきて、
坊ちゃんとやらが、家主である父がここしばらく留守にしているから1日くらいなら部屋を貸せると言ってくれたらしい。


「お言葉に甘えて、お邪魔します!」

中に通され、和室に案内される。
布団も用意されていて、冷暖房もあり、テレビもある。まるで旅館だ。

その坊ちゃんとやらに挨拶したいと重い
部屋を出ると、さっきの老婆の隣に身長が高く、まるで芸能人のような、この村には似合わないハンサムな青年が立っていた。

「観光客の人ですか?」

そう聞かれ、
「はい!この度は泊めていただきありがとうございます!!」と頭を下げた。

爽やかな男はクスッと笑うと
「明日はこの村で唯一誇れる、大きな祭りがありますから、思う存分満喫してってくださいね、」と、優しい言葉をかけてくれた。

(いい人だ!!!ここはいい村だなぁ!)

そう内心喜んだ

男は明日の祭りを見に来た観光客だ。

その日は部屋で明日の準備をしつつ
早めに眠った。

夜、トイレを探して廊下を歩いた時、
声のようなものを聞いた。

低く、掠れた声。

「……た、   ら……」


男は声が聞こえた場所を探した。
屋敷の突き当たりに大きな扉を見つけた。
そこから聞こえた気がした。

外からだけ開けられるようになっている
忌々しい雰囲気を放つ重い扉

(まさか…誰か閉じ込められてるのか…?
そんな映画みたいな展開…ありえないか…)

そう思って引き返そうとしたがら
男の足は止まった。

(でももし、本当に人がいたら………助けられるのは……俺だけじゃないか)

(携帯もあるし、もし本当に人がいたら通報だけでもしよう……そうだ……これは正義だ…好奇心なんかじゃない…)

そして、男は扉を開けて
古びた階段を降りた。


そこには――ソファ、テレビ、水道、座敷牢があり、
その座敷牢の中には人が、いた。

人が全裸で布団の上で寝転がり
ぼーーっと人形のように石の天井を見つめていた。

髪がながくて白くて細くて、性別がはっきり分からなかったが、全裸だったので胸を見て男だと分かった。下の毛は綺麗に無くなっていて、同じ男だとは思えないほど清潔感がある。
黒くサラッとした髪が、白く細い腰の手前まで伸びていて、後ろ姿を見たら女性だと間違えるかもしれない。

瞬きをする度に、長いまつ毛が風を切る。

足にもどこにも拘束具はついていない。
この座敷牢の扉も、簡単に開く。

助けられる!!

そう確信した瞬間、ばちっと目が合った。

「だ、っ、大丈夫ですか!?監禁されてるんですよね!お、おれ、警察呼びますよ!!」

男が慌てて声をかけると、その人は一瞬だけ、戸惑った顔をした。

けれど、すぐに首を振った。

「……ちがう」

「助け、呼びますか?」

その問いに、
その人――椿は、微かに笑った。

「いらない」

その時、背後から声がした。

「こんばんは」

「ひっ!!!」

男は振り向いた瞬間、を硬いもので頭を殴られ、ゴッ!!!と鈍い音を立てて意識を失った。

  
「……、…この男を。椿が呼んだの?」


返り血で綺麗な顔を汚しながら、宝良が椿に問う。

その目は、狂気に染まっていた。
瞳孔が開き、まるでネコ科の動物が
獲物を狙う時のようだった。


「おれは、たからのなまえしかよんでないよ。」

椿がそう言うと、宝良はニッコリと笑って
頭から血を流す男を引きずってどこかへ行った、

翌朝、お手伝いのお婆さんが屋敷にくると、男は部屋にいなかった。どこに行ったのかと宝良に尋ねたら、

「夜にオバケを見たんだって。血相変えて、出ていって、
それからは知らないよ。」

「あらまぁ…、この家は幽霊が出るとよく聞きますものねぇ。幽霊を見たって、5年前に使用人のほとんどが辞めましたもの」

「父さんも愛人と旅に出てから長らく帰ってこないし、幽霊でも観光客でも、居てくれた方が寂しくなくていいよ。」

「まぁ坊ちゃん、ばあやがいるではないですか。」

「ははっ、ばあやには後100年生きてもらわないとね!」

「うふふ、可愛い坊ちゃんの頼みならば。」

ここ5年で、斑目家の使用人5名、観光客数名、椿の母親が突然姿を消したが、

村の誰も、気にしなかった。


「たから」



斑目村の土の一部となった少年は、

【土の下で君の名を呼ぶ】 


【END】 

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