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籠の狐は自由を知らず2
籠の狐は自由を知らず2
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※前作を見てからご覧下さい
※無理矢理、暴力、殺人の表現があります。
※ドブカスヤンデレ兄貴が暴走しています
受けが可哀想ですので苦手な方はご注意ください
【九尾 梅 視点 】
私は九尾梅と申します。辺鄙な村の名家に嫁いだ普通の主婦です。
今日は、私の罪を告白します。
私は、我が子を捨てました。
銀色の髪で、金色の目をしたとても可愛い、可愛い我が子を。しかし、産婆はその姿を見て、主人に報告しに行きました。
すると険しい顔をした主人がやってきて
可愛い赤子を私から取り上げてこう言いました。
「これは呪われた狐憑きや。乳離れしたらすぐに使用人の婆さんに渡すんや。
この村で生きたいなら、絶対に情なんぞかけたらいかんぞ。」
この村では、九尾家では、女は男に逆らえません。それが正しいと教え込まれ、それ以外生き方を、私は知りませんでした。
狐憑きなど、そんな迷信のような噂を私は信じていませんでしたが、一族に伝わる呪いなのだと夫と村人は信じ、朧を邪険に扱うようになりました。でも唯一、5歳上の兄、宗珠だけは違いました。弟を可愛がり、周りにいくら注意されようとも幼い弟の傍を離れませんでした。そして月日が経ち、朧が6歳になった時のことです。いつものように楽しそうに庭で遊んでいた二人を遠くから見ていたら、突然宗珠が朧の頬を叩きました。
朧は崩れ落ち、大きな瞳に涙を溜めて
宗珠を怯えた表情で見つめました。
私には宗珠の後ろ姿しか見えなかったので
一体宗珠がどんな理由で、どんな表情で弟に手を出したかは分かりません。普通の家ならば、母である私がすぐに入って喧嘩を止めるのでしょうが、私はもう朧の母ではない。
宗珠はそれ以降、頻繁に朧に拳を振るいました。私は一度、人を叩くような人にはなって欲しくない。と宗珠に言いました。あえて朧を、とは言いませんでしたが、すぐに朧の事だと分かったのか、宗珠は私を一瞥だけしてこう言いました。
「じゃあお前が朧を躾るんか?」
と、まだ12歳のはずなのにまるで主人のような口ぶりで驚きました。
この家では男が王なのだと、改めて痛感しました。だから私は、それから更に朧から目を逸らしました。蚊の鳴くような声で呼ばれても返事をせず、触れようとする手を振り払いました。私は、周りの圧に負けて完璧に放棄したのです。
でも、栄養を与えなければ死んでしまいます。狐憑きを寿命以外で死なせてしまうと、怨恨の力で村を滅ぼすという言い伝えがあるのだと聞きました。なので最低限の食事はさせるようにと。
それは母である私の責務でした。
なので、あの子の部屋の前に私は毎日、食事を置きました。音を立てないように、そっと。茶碗一杯の白米と、汁物。ときどき少量のおかず。いつも綺麗に食べてくれるので、朧の食器を洗う時は楽でした。
ある日から、宗珠に「朧にしばらくご飯あげやんでええで。」と言われました。
何故かと聞かなくても分かります。きっと躾の為なのでしょう。でも、2日目にはやはりどうしても何か口にさしてやりたいと、
おにぎりを部屋に置いたことはあります。
でも、すぐにそれもバレてしまい、宗珠は私の髪を引っ張りながら
「俺の躾やぞ、勝手なことすんなや。」
と今にも殺されそうなほど凶悪な目で睨みつけられ足の震えが止まりませんでした。
そう言われて、次の躾の時も、しばらく食事を置いてはいけないと命じられました。何日も、期限は決められませんでした。
それでも私は、台所に立ちました。朧の分を用意するけれど、結局宗珠に逆らう気が起きず、自分で食べました。
夜になると、あの子の声が廊下から聞こえました。最初は小さな声でしたが、やがて泣き叫ぶ声になりました。私は布団の中で耳を塞ぎました。聞こえないふりをするたびに、私の中の何かが、少しずつ死んでいきました。
扉の前まで行ったこともあります。おにぎりを持って、立ち尽くしたことも。でも、開ければ叱られるのは私で、次は食べたあの子も酷い仕打ちを受けてしまうと分かっていました。だから私は、朧の泣き声を、ただ聞いていました。あの子が泣き疲れて眠るまで。
あの子が泣き疲れて眠った夜でした。
部屋の前に立つと、もう声は聞こえなかったので、障子をほんの少しだけ開けました。灯りを入れないように、息を殺して布団に近づいたのです。
薄い布団の中で、朧は丸くなって眠っていました。頬がこけて唇は乾いていました。
私は、指先でそっと銀色の長い髪に触れました。たった一度だけ、本当に一度だけです。
銀色の髪は、柔らかくて指に絡まるほど軽くて、美しい。
(どうして…どうして、こんなに可愛い子が、こんな目に遭わなければならないの?)
でも、それを声にすれば、心が完璧に崩れてしまいそうで、私は何も言えませんでした。
部屋を出たあ後も、朧に触れた手を見つめました。撫でた温もりが消えるのが怖い。
でもそれ以上に、私には朧に触れる資格はないと分かっていました。
あの夜、朧を撫でた瞬間だけでも私は確かにあの子の母でした。そして同時に、母であることを完全に捨てたのです。
そしてあの子が17歳になったある日、村から突然いなくなりました。祭りの前日にいなくなったのてす。少し前にやってきた新しい駐在さんも消えてしまいました。
きっと、あの方が助けてくれたのでしょう。
私も、村の人たちも、実は内心ほっとしていました。もう、あの子を無視しなくても済むから、もう胸を痛ませなくてもいいから。
も
それが、救いでした。
どうか、あの人と幸せになってほしい。
母として愛してやれなかった私が、今さら何を願う資格があるのか分かりませんが、
それでも、あの子がどこかで幸せでいてくれたらそれだけでいいのです。
しかし、朧が消えた日、夕方から宗珠の姿がなくなり、夜は祭りの前日で忙しいのにどこに行ったんだと主人も苛立っていました。
すると、夜中に隣町の警察から電話がかかってきたのです。
『隣町の駐在所で九尾 宗珠さんの足が撃たれました。加害者は目撃によるとお宅の村の駐在、三上悠真とのこと。加害者は逃亡しており、捜査を開始しております。息子さんは隣町の病院に運ばれました!命に別状はありません!』
確かに命に別状はなかったけれど
撃たれた足は後遺症が残ると言われた
走ったり、スムーズに歩いたりできないと。
退院しリハビリを終えた宗珠は家に帰ってきたが、とてつもなく荒れていた。私や、家の使用人らに怒鳴り、手当り次第物を壊し、宥める村人に掴みかかり、とにかく正気を失っていた。足を撃たれたことにじゃない、朧を連れていかれたことに怒り狂っている。
あの子がここを逃げたのではない、
三上に連れ去られたのだと。
必ず、連れ戻すのだと。
私は、その背中を見て思いました。
狐憑きの呪いが本当にあるのなら、
呪われていたのは朧ではなかったのだと。
呪われていたのは、兄である宗珠の方だったのだと。
そしてその呪いは、
今も、解けていないのでしょう。
足に後遺症を負ってしまってからも、宗珠が家にいない日が増えました。
朝に出て、夜になっても戻らない。何週間も戻らない時もあるけれど、どこへ行っているのか、誰も聞きませんでした。
主人はある夜、酒の勢いを借りて宗珠に言いました。
「もうあいつのことは忘れて、村の女を嫁に取れ。跡継ぎを作れ。」
宗珠は、ゆっくりと父を見ました。
宗珠が酷く冷たい目をしていて、私も主人も驚きました。
「……その女と…生まれてくる子供は、」
宗珠は淡々と続けました。
「朧より、価値があるんか?」
主人は言葉を失いました。
怒りでも否定でもありませんでした。
ただただ宗珠が理解できなかったのです。
消えた弟にうつつを抜かさないで、家を継ぐ血は作らねばならない。それが次期当主としての役割。けれど宗珠の目には、家族も、村も、血も、何も映っていませんでした。
私たちは、どれだけ恐ろしい化け物を生み出してしまったのでしょうか。
【九尾 宗珠視点】
最初から、壊すつもりだったわけじゃない。
それだけは本当った。
幼い頃の朧は可愛かった。
透き通るような銀色の髪も、キラキラ輝く金色の瞳も、世界で1番美しい子だった。
俺は兄として、朧を可愛がっていた。
撫でれば嬉しそうに笑い、名前を呼べば元気に後ろをついてきた。
親がこの子を気にかけてあげないなら、
俺が代わりに愛情を注ごうと決めていた。
――あの日までは。
些細なわがままを言われて、何故かその時は腹が立って、考えるより先に手が出た。
頬を叩いてしまった。
乾いた音がして、小さな朧はいとも容易く崩れ落ちた。そして俺を化け物を見るような目で見つめて、大号泣した。それはもう、村中に響き渡るような声で泣いていた。
その瞬間だった
胸の奥や下半身が、ひどく熱くなった。
怒りでもない、名前の知らない快感だった。
俺の手の動き一つで、尊く愛おしい子を泣かせることができるのだ。
震え、怯え、俺の顔を恐る恐る見つめる。
それが、どうしようもなく心地よかった。
「なんで泣くん?兄ちゃんが悪いことしたみたいやろ?これからもう兄ちゃんとは遊ばんとこか?」
そう言って朧から離れようとすると、
朧は必死に泣きじゃくりながら俺の足にしがみついてきた。
「ごめんなさい!!!ぼくがわるいからぁ!
おにいちゃんきらいにならないでぇ!」
耳を劈く悲痛な叫び声に気分が高揚した。
俺を気持ちよくしてくれたお礼に優しく撫でた。すると朧は泣きながらも俺の手にしがみついてくる。
「お前はええ子やな…朧。」
すると今度は涙で歪んでいた顔が笑顔に変わる。
「…えへへっ」
と褒められたことを喜んでいる。
朧を、泣かせたり、笑わせたり。
俺はそれらを自由に選べる。
何故ならば、俺の所有物[宝物]だから。
だから、あいつに奪われたとき、理解できなかった。
俺の宝物に手を出す阿呆は
三上悠真の前に、もう一人いた。
前の駐在だ
奴と最初に顔を合わせたとき、
しっかりと釘をさした
「この村には、この村のルールがあるんですわ。…余計なことはせんでええですよ。」
そいつは、ルールを飲み込み理解した顔をしていた。朧を見ても、声をかけなかった。
視線を逸らして、通り過ぎていた。
それで良かった、奴は賢かった。
それが正解だった
……なのに。
ある日から、様子が変わった。
朧に話しかける。
水や食料をこっそり渡す。
朧の怪我を手当する
(あかん)
そう思うとすぐに村の何人かに声をかけた。
奴らは九尾家に恩がある家で、「駐在が九尾家に逆らっとる」と言えば十分だった。
奴らを筆頭に駐在を背後から襲撃して
夜の山に連れて行った。目を覚ましたそいつは、最後まで理解していない顔をしていた。
「何が悪かったんだ!俺は法を守ったんだぞ!お前らがやっていることは人権侵害だ!虐待だ!!法律では――」
法律だの人権だの正義だのうるさかった
だから縛ったまま地面に埋めてやった
奴らに土をかけさせて、駐在の悲鳴は消えていった。
「俺言うたよなぁ?
村のルールは、守れって。」
村も警察も、失踪扱いにした。
もしくはもうどこかで自殺しているのではないかと。
しばらく、駐在の席は空いていた。
やっぱり余所者は村の空気に馴染めへんのやろうと老人たちも眉を顰めた
俺の管理は完璧やったはずや。
なのに
――三上悠真。
あいつは、最初から朧を見る目が違っていた
所詮はただの新米だと思った。
靴がまだ新しくて、制服の着方もどこかぎこちない。村に馴染もうとして、余計な笑顔を振りまいている男。
けど、違った。
悠真は、前の駐在とは違って最初から朧を“見ない”ことができなかった。若さ故の正義感の強さが滲み出ていた。
とにかくこの村とは相性が悪い奴だ。
優しさは、朧の心を動かす。
それは、俺が与えてきた恐怖より遥かに厄介だ。
「逃げても無駄やで、朧」
俺が教えたんや。
泣き方も、
笑い方も、
せやから――
取り戻す。
どこへ行こうが、
誰といようが。
あれは、
俺の弟や。
俺の世界や。
恐らく寄ったであろう近隣の宿を次々当たっていき、ついに情報がまとまってきた。
――北の方。
――山を越えた先の村
――地図にもあまり載らない村。
「遠いわよ」
「何もないところよ」
「冬は雪で行けないよ」
口々にそう言われた。
でも、それがどうしたとしか言いようがない。朧への執着は時間では薄れない。
むしろ、研がれる。
そして、朧が消えて2年が経ったあと、
ようやく辿り着いたのは、はるか遠くの辺鄙な村だった。
山に囲まれて、外の音が届かない場所。
警察に追われている三上が逃げるにはうってつけの場所だろう。
爽やかな秋の風に混じって、朧の匂いがした気がした。胸の奥がゆっくりと熱を持つ。
俺は、所有物(宝物)を奪った上に片足を不自由にした三上に復讐しに来た訳ではない。
三上にはなんのも興味も関心もない。
俺はただ、所有物(宝物)を返しに貰いに来ただけだ。
「見つけたで」
誰に言うでもなくそう呟いた。
朧はきっと、ここにいる。
優しい男の隣で、静かな幸福を噛み締めて
自分は一生この幸せと共に生きていけるんだと思っているだろう。
だけど、逃げても、他の誰かと幸せになっても俺は追いつく。
【三上 悠真 視点】
最初は、気のせいだと思った。
視線を感じる。最近はよく、村の方で犬が鳴いている。警戒するような声で。
家の周りで、風もないのに草が揺れた音がする。誰かに見られている、
背中に、冷たいものが這う。
朧は隣で眠っている。規則正しい呼吸で、やっと安心して眠れるようになった顔で。
――何があっても守る。
そう自分に言い聞かせて、窓を閉めた。
そのとき、窓の近くで枝が折れる音がした。
動物だ、きっとそうだ。
でも、俺はこの違和感が初めてではない。
あの村でも、何度もこの感覚を味わっていたことを思い出す。監視されているような視線に。
そしてその違和感に苛まれていたある日、
目が覚めたとき隣に温もりがなかった。
布団は乱れておらず、慌てて起きた形跡もない。ただ、そこだけが静かに空いている。
慌てて立ち上がる。冷や汗が止まらない。
すると。台所からかすかな音がした。
鍋に火をかける音
でも、朝食にしてはいつもより早い。
「朧?」
背後から声をかけると、一瞬だけ動きが止まった。
「……おはよう」
振り返った朧は笑っていた。
ちゃんといつも通りに。
でも、どこか違った。
食卓に並んだ朝食は、いつもと同じだ。
量も、味も何も変わらない。
なのに朧は、ほとんど箸を動かさなかった。
「体調悪いのか?」
心配になって問いかけると、少しだけ間があってから、ゆっくりと首を振る。
「大丈夫」
俺は、味噌汁の湯気の向こうにある朧の手を見た。白い指先がわずかに震えている。
10月だが特に寒い朝じゃない。むしろ朝陽が差し込んでポカポカしている。
「……怖い夢でも見たのか?」
朧は答えなかった。代わりに、
自分の長い銀色の髪に、そっと触れた。
自身で頭を撫でるような、無理矢理気持ちを落ち着かせるような仕草だった。
その仕草を見た瞬間、胸の奥が重くなった。
あの村で、朧の頭を撫でてくれた人なんていたのだろうか?
何処で、自身を落ち着かせる仕草を教わったのだろうか?
いや、1人いたじゃないか。
朧にすべてを教えて、朧を管理していた
九尾 宗珠が。
思い出したくない顔が輪郭を持ち始める。
きっちりと整えられた艶のある黒髪
切れ長の目は鋭く俺を睨みつける
常に弧を描いている胡散臭い笑顔
(…あいつはまるで、化け狐だ…。)
「朧、しばらく外には出るな。
俺一人で畑にも狩りにも行くから。」
俺はできるだけ穏やかに言った。
朧を怖がらせないように
理由は、あえて言わなかった。
朧は、少し驚いた顔をしてから小さくこくんと頷いた。
何かが、すでに来ている。
【 九尾 朧視点】
夢の中は久しぶりにやけに静かだった。
夜でもなく、朝でもない。
なのに真っ暗で、途方もない闇に包まれた。
嗅ぎなれた土の匂いがした。涙で濡れた畳。
閉め切った部屋の息苦しさ。
――懐かしい
そう思ってしまった瞬間、耳元で聞きなれた声が聞こえた。
「朧」
振り向くと宗珠兄さんが立っていた。
記憶の中よりも少し歳をとっていたけど
笑顔は何も変わっていない。
「元気そうやな」
足が動かなかった。
逃げなきゃいけないのに、体が兄さんの声を待っていたようにぴくりとも動かない。
宗珠は、ゆっくり近づいてくる。
何故か片足を引き摺りながら。
「ええ場所見つけたんやな。静かで、誰も邪魔せえへんような場所や。」
宗珠兄さんの手が伸びる。
躊躇いもなく当然のように、ぼくの髪に触れる。でも、これは優しい手じゃない。
1歩でも動いたら、髪を鷲掴む手だ。
「…俺から逃げて、幸せになったとしても」
低く耳元で囁く
「絶対に連れ戻すからな」
その言葉で、胸の奥がきゅっと縮んだ。
兄さんはもう、ぼくたちを見つけているんだ。最近悠真が常に警戒しているのを知ってるから。
いやだ、たすけて、ゆ、
名前を呼ぼうとした瞬間目が覚めた。
暗く見慣れた部屋。
耳鳴りと一緒に鳴り響く心臓の音。
隣では悠真が眠っている。
僕は布団の中で、自分の髪を強く握った。
撫でられた感覚が、まだ残っている。
――夢だ。
分かってる。でも、動悸が治らない。
もう2度寝できないと思って、早いけれど朝ごはんを作った。悠真が驚いた顔で起きてきて、一緒に朝ごはんを食べて、しばらく外に出ないでと言われた。
でも、今朝の洗濯物だけ干させてとお願いして、悠真に見守れながら洗濯をして、干そうと庭に出た。
すると、葉が動く音が聞こえた。
動物だろう、と気に留めなかった。
悠真の方も見てみたけど、気づいていないのか足元にやって来た猫を撫でている。
人影はない。足音もない。
気のせいだ、と何度も自分に言い聞かせた。
もう一度洗濯物に手を伸ばした、そのとき
視界の端に何か写った。
今度は、はっきりと「人の形」だった。
こちらを見ている、いや、見ている“気配”。
背中に冷たい汗が伝った。
勇気を出して人の気配がする場所を見た。
でも、何もいなかった。
ぼくは急いで洗濯物を終わらせて、急いで家に戻った。悠真は不思議そうな顔をしていた。
悠真の言う事を聞いて、家から出ないようにしようと、決心した。
【三上 悠真 視点】
今日の畑仕事は予定より少し長引いた
雨が最近降らないから、土が固くて耕すのに時間がかかったのだ。鍬を片づけようとしたところで、村のご老人達に声をかけられた。
「最近、不審者が彷徨いてるんじゃ。」
「最近夜に犬がよく吠えるんじゃ。」
「こわいのぉ」
胸の奥が、わずかにざわついた。
―朧は、家にいる。戸締まりも出る前にきちんと確認した。
「ありがとうございます、気をつけます。」
そう言って別れ道を戻る。
空が少し赤くなってきていた。
家に着いたとき、最初に感じたのは違和感。
音がなかったからだ。
いつもなら、足音や夕飯を作る音、衣擦れの気配がある。でもやけに静かだった。
「朧?」
返事はない
「っ!?!?」
玄関が開いていて、慌てて中に入る。
居間、台所、寝室。
どこにもいない
机の上には途中まで読んでいた本。
湯呑みの茶は冷えている
それなのに朧だけがきれいに消えていた。
「……朧」
玄関の鍵がの壊された跡もなく、
玄関も居間も、乱暴に連れ去られた形跡もない。朧は、自ら外に出て、静かに連れ去られたんだ。
理解して背中に冷たいものが走る。
居間に立ち尽くし、夕日が差し込む机をただただ見つめた。
【九尾 朧 視点】
朝から悠真が畑に行ってから、胸の奥がずっとざわついていた。嫌な予感というほどはっきりしたものじゃない。
悠真が出ていって30分後、戸を叩く音がした。
「……はい」
声を抑えて応じると、
外から男の声が返ってくる。
「悠真さんが畑で倒れてるんだ!!早く来てくれ!」
切羽詰まった声に一瞬、呼吸が止まった。
「……え?」
考える前に、体が動いていた。
鍵を開け戸を開ける。
(あれ、この村では名前変えてるのに、なんで悠真って………)
開ける瞬間そう思ったけど、遅かった。
立っていたのは、宗珠兄さんだった。
血の気が一気に引く
「……兄、さん……?」
「久しぶりやなぁ、朧。」
逃げなきゃ、と反射的に家の中に入ろうと背中を見せた瞬間、背後から強く腕を掴まれる。
「逃げんなや」
何か布のような物が鼻に無理矢理当てられる。ツンとした、薬品の重い匂い。
「……っ!」
息を止めようとしたけど遅かった。
肺が勝手に空気を吸うと視界が急速に滲んだ。
「悠……ま……!」
叫ぼうとした声は喉で潰れる。
足から力が抜けて倒れそうになった体を、
宗珠兄さんが抱き留めた。
「逃げれると思ったんか、阿呆。」
意識が暗闇に沈んでいく。
最後に見えたのは、日の光に照らされた家と、閉じられていく戸。
――悠真。
そして、意識は完全に途絶えた
【九尾 宗珠視点】
意識を失った朧は、きちんと食事をしていたのか、村にいた時より健康的な重さだった。
肉付きもよくて、健康的な美人になっていた。髪は昔より短いけれど、銀色の髪は相変わらず美しい。髪と同じく色素の薄い長いまつ毛も綺麗だし、肌も相変わらず白くて唆る。
村の女如きが朧の代わりになるはずがない
ひっそりと森の中に停めていた車の後部座席に意識のない朧をそっと寝かせる。
「なぁ、朧。」
返事はない、でもそれでいい。
「お前には俺がおらんなあかんやろ?」
泣かせるのも、笑わせるのも、傷つけるのも、触れていいのも、すべて俺だけだ。
村に帰るためにハンドルを握る
心が驚くほど穏やかだった。
口元が自然に緩む。
――幸せだ。
これが狂気だと言われようと関係ない。
アクセルを強く踏む
車は静かに走り出した
【九尾 梅視点】
宗珠の姿が、村から消えて3ヶ月が経った。
あの子は何も言わずに出ていった。
主人は何も聞かなかったし、村人も深くは詮索しなかった。
―宗珠はもう誰にも止められない。
皆、どこかで諦めている。
もちろん私もすべてを忘れたふりをして、
日々をやり過ごしていた。
あの銀色の髪も、金色の瞳も。
もう、思い出さないように。
それなのに
その日、村の入口が騒がしくなった。
「……九尾の長男や、戻ってきたで!」
「梅さん!よかったなぁ!」
「…?なんか持ってへんか?」
胸が嫌な音を立てた
外に出て村に走ると、穏やかな顔をした宗珠が立っていた。
そして、その腕の中には、意識があるように見えない、朧がいた。
昔より健康的になった体つき、昔よりは短くなった髪。でもあの髪色は間違いなく朧だ
村人たちも気付いて一斉に息を呑む
誰もが驚いている、それなのに誰も宗珠に声をかけられない。
私は、その場で立ち尽くした。
――ああ、
あの子は捕まってしまったんだ。
助けられたはずだったのに
外に出られたはずだったのに
哀れな、可愛い私の子。
宗珠は周囲の視線など、気にも留めずに片足を引き摺りながら軽快に歩く。
その表情は、少し前の荒れた表情とは違い、誇らしげで、満足そうで、まるで失くしたものを取り戻したような嬉しそうな顔。
宗珠が横を通り過ぎる時も私は何も言えなかった。目を逸らして、ただ祈る。
――せめて。
あの子が、これ以上壊されませんように。
それだけを心の奥で、何度も何度も。
【九尾 朧 視点】
目は開かないけど匂いで分かった。
土と、湿った木と、どこか重たい空気。
――あの村だ。
そう思った瞬間胸の奥がきゅっと縮む
目はうまく開かない。開いても景色が滲んで重なっている。頭が、ふわふわして何か考えようとすると、すぐに糸が切れる。
兄さんに連れ出されてから、何日経ったのか分からない。夜と昼の区別ももう曖昧だ。
よく分からない薬で眠らされて、意識がハッキリしてきたらまた飲まされての繰り返しで
意識が常にドロドロしていた。
「朧」
名前を呼ばれる
声はクリアに聞こえる
村の人たちの声が聞こえる
――帰ってきたんだ。
逃げられなかった
悲しい、という感情すらぼんやりしている。
ただ浮かんだのは、悠真の顔だった。
畑から帰る時間、空の家、名前を呼ぶ声。
気づいたとき、悲しかったかな、
傷付いたかな、ショックだったかな。
そう思うと胸がじわっと、痛くなる。
自分のことよりも、悠真が心配だった。
追いかけて来てしまうんじゃないか。
この村にまた、足を踏み入れてしまうんじゃないか。
――来ないで、今度こそ無事で逃げられないかもしれない。ここは危ないんだ。
ぼくだって、二度と戻りたくなかった。
逃げたいけど、体が言うことをきかない。
意識が、また沈んでいく。
最後に、心の中で何度も名前を呼んだ。
――悠真、悠真、悠真、ゆうま
どうか無事でいて、助けにはこないで。
それだけを願いながら、意識は再び闇に落ちた。
【九尾 宗珠視点】
朧を取り戻してから2ヶ月が経った。
朧は今、俺の部屋にいる。
それだけで、世界が正しく戻った気がした。
鍵は二重で、その唯一の鍵は俺が持っている。
昔とおなじ白い着物を着て、布団に座る朧は視線を畳に落としたままほとんど動かない。
連れて帰ってきた直後はまだ、怯えが残っていた。肩が強張って、俺の動き一つ一つにびくりと反応する。
でも、リラックスする薬を与え続けると
それもすぐに消えた。
「ほら、ちゃんと食べえや。」
おかゆを口へ運ぶと、素直に咀嚼して飲み込む。逃げようとはせず、拒もうともしない。
それが、何より気持ちよかった。
「ええ子やな、朧。」
頭を撫でても朧は反応しない
昔なら、嬉しそうな顔で微笑んだのに。
今は、ただ空っぽの人形のようだ。
俺の躾は完璧や。
叩く必要もない、怒鳴る必要もない。
躾が完了した証拠だった。
「外は危ないんや。」
毎日毎日、朧を抱きしめながら穏やかに言い聞かせる。
「みんな、朧を嫌っとる。呪いとかいうしょーもない理由で朧を邪険に扱ってきたんやで?
ほんま…、頭狂っとるやろ?」
「俺だけやで、朧のこと大事にしとるのは。」
返事はないがそれでいい
否定されないことはつまり肯定だ。
今日は何日か、外は昼か夜か。
そんなことを考える必要はない。
朧には、俺だけがいればいい。
何も考えず、何も望まず、ただ、そこにいれば。それだけで自分は満たされる。
誰にも渡さない、もう二度と。
白い着物を脱がせて、白く細い身体に触れる。冷たくて、すべすべしていて、気持ちいい。どこをどれだけ触っても、舌を這わしても、鬱血痕を残しても朧は抵抗しなかった。
キスをしても、胸を弄っても、太腿にしゃぶりついても朧は小さな呻き声を出すだけ。
小さな性器も特に反応しない。
(まぁ、昔みたいに使ったらええか。)
何度も犯したことはあるが、気持ちよくさせたことは一度もなかった。
潤滑油を指に纏わせ、後孔に触れる。
指を1本入れると、違和感に気づいた。
「………朧、えらい緩いやんけ。」
「………っ、」
朧が怯えたような反応を見せた
それが答えだった
胸の奥が一気に、冷える。
「……はぁ?」
低い声が、無意識に喉から漏れる。
頭の中で、勝手に映像が再生される。
仲睦まじく、交わう朧と悠真の姿が。
「この2年間、えらい頻繁にヤッてたんやなぁ。こんな緩くなるくらい….」
自分が必死に探していた時間。
山を越え、村を渡り歩いていた時間。
その間に、朧はあの男と呑気に交わっていた。
「俺がな」
「ぅっ!ぐっ!」
朧の細い首を片手で鷲掴む。
「どんだけ必死に探したと思ってるんや。」
虚ろな金色の瞳が涙を零しながら、ようやくこちらを見る。
怯えた瞳が更に火に油を注いだ。
「そんな時に、お前らは呑気にやっとったんか?」
首をギリギリと締め上げると、
朧が白目を向きながら気絶しそうになったので力を緩めた。
すると、ごほっごほっと死にそうなほど噎せる朧。
「……売女が。」
特に慣らしてもいない、軽く表面に潤滑油を塗っただけの後孔に己のいきり立ったぺニスを押し当てる。
さすがの朧も、噎せながらも抵抗しようとしたが、俺は容赦なく奥まで捩じ込んだ。
「っ、ぁア゙ア゙ア゙、っ、ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!!!!!!!」
朧の悲鳴が部屋に響き渡る
切れて血が滑りをよくしてくれたのか、スムーズに腰を動かす。腰を動かすたびに朧から悲痛な声が洩れるが、関係ない。
裏切ったこいつが悪いんだ。
「はっ、ははっ、反省しいや、俺を、裏切ったのはお前やねんから!」
「うっ、ううぅっ、」
ボロボロ泣きながら耐える姿に興奮する
(まぁええわ、貸してただけやと思えば。)
血が溢れるほど首に噛み付きながら中で果てる。朧はいつのまにか気絶していた。
首からは血が流れ、無理矢理暴かれた後孔からも血が出ていた。
シーツが血で汚れてしまい、舌打ちする。
「…ちっ、…おい。」
扉を開けると、案の定母親が廊下に座り込んでいた。恐らく朧の悲鳴が聞こえて外で様子を伺ってたんだろう。
相変わらずしょうもない女だ
行動に移す勇気は無いくせに中途半端に朧の母親を演じる偽善者
「朧の処置、頼むわ。」
そう言って血の匂いが充満する部屋を後にする。母親は扉の先で、全裸で至る所から出血して気絶する朧を見て、震えていた。
目を見開き、口元を抑え、今すぐにでも叫び出しそうなほど怯えている。
「変な情はかけんな。
処置と手入れするだけや、分かったか?」
「………………は、い。」
そして俺は、屋敷を出た。
----
【九尾 梅視点】
夕飯の片付けをしていると、宗珠の部屋から悲鳴が聞こえすぐに向かった。
何が出来るわけではない、でも、只事ではないと分かる悲痛な叫びを聞かないふりはできなかった。
すると、扉が開いた。そこで見た光景は、想像を絶するものだった。
真っ白な裸体は、更に青白くなっていて
まるで死んでいるように見えた。
首から血が流れ、シーツを汚していた。
そして何より驚いたものは、うつ伏せに気絶している朧の太腿には血がベッタリとこびり付いていた。女性だって性行為の際は血が出る時もあるのだから、余計にわかってしまう。
犯されたのだと
男同士で、兄弟同士で
禁忌だ。一族の呪いなんて関係ない
「うぅ、っ、うううう、」
朧の傍で泣き崩れる
私は何故、化け物を身篭り、
化け物を世に放ってしまったのか。
普通に子を授かり、普通に産んで、
普通に育てて、幸せそうな息子を見たかった。健やかに成長する姿を眺めながら
自分も幸せに老いてゆきたかった。
何故、何故こうなってしまったのか。
私が悪いのでしょうか
私がすべて悪いのでしょうか。
涙を流しながら、朧の血まみれの首に手をかける。ここで私もこの子も終わらせたかった。きっとここにいたら、この子は今度こそ壊れてしまう、だから私が助けてあげないと。
でも、駐在さんのように連れ出す勇気はない。だから、ここで、終わらせてあげる。
ぐっ、と細い首を掴む。
ぐぐぐっと締め上げると、朧が足掻くような仕草をした。爪が、私の手の甲をガリガリと引っ掻く。
まるで、苦しい、やめて
と言っているように
「うっ、ごめんねえ、ごめんなさいっ、産んでごめんなさいっ、母になれなくてごめんなさいっ!」
「………っ、あ、お、かあ、さ、」
!!!
驚いて手を離す
お母さんと、呼ばれたからだ。
噎せる朧に涙が止まらない
私はなんて酷いことをしようとしたのだろう
殺そうとしたのだ、この子は何も悪くないのに。この子に罪はないのに。
この子はただ、幸せに生きたいだけなのに。
泣き崩れていると、
小さな、蚊の鳴くような声が聞こえた
「……おか、あさ、ん、あり、がとう…たすけてくれようと…したんだよね…」
朧を見ると、金色の瞳は私を見ていた。
涙を流しながら微笑んでいた
もう我慢できなくなって、朧を抱きしめる。
初めて我が子を抱きしめたのが、19歳になってからなんて、なんて酷い母親なのだろう。
「…ううっ、ごめんなさいっ、ごめんねぇ、こんなお母さんで、ごめんなさい」
「…………あったかい…」
スリスリと顔を寄せてくる朧に涙がとまらない。もうどうやって償えばいいのか、分からない。でも今できることは、抱きしめることと、怪我の処置だ。
数十分抱きしめたあと、朧から寝息が聞こえ
慌てて止血とお風呂に連れて行って
血と宗珠の精液で汚れた後孔を軽く洗う。
全身綺麗にしてあげて、交換した清潔な布団に寝かせる。
穏やかな寝顔に、また涙が溢れる。
待っててね、
今度は私が、この子を助ける。
わたしにできることは、ある。
台所に戻って、包丁を取り出す。
「……私があの呪いを……祓えばいい……」
思い浮かべるのは、宗珠の顔だった。
「私は、狐を産んだ覚えなんてない。」
---------
------
【三上 悠真視点】
朧を奪われた俺は、北の村から出て
九尾家が牛耳るあの村の近くまでやってきていた。
潜伏先は、あの村の隣町にある交番。
あの駐在官にすべて話したのだ。
あの村で起こっていること、朧という少年が酷い目にあっていること。
その子を助けようと、連れ出し、ここで取り戻しに来た兄を撃ったのだと。
そしてまた、連れ去られてしまい
きっと酷い目にあっているということ。
「……そんなことがあったなんて…
少年の救助に協力するよ。お前は正義感の強い、可愛い後輩なんだから...。」
警察に捜索されている俺のことは上には黙ってくれると言ってくれた
早く朧を奪還して、山奥に引っ込めと。
機会を虎視眈々と窺っていた最中、
こっちの駐在所に通報が入った。
『隣の村の者なんやが、九尾の家がおかしいんや!!今すぐ来てくれ!!悲鳴が聞こえたんや!!!!』
その通報に、俺は帽子を目深く被り、
増員者として、駐在官と一緒にあの村へパトカーで向かった。
久しぶりの山道に嫌な汗が流れる
(無事でいてくれ、朧!)
その悲鳴が、朧のものではないことを祈りながら向かった。
村につくと、村人は九尾家の屋敷の前にいた。心配そうに中の様子を伺うように野次馬をしているのだ。
「警察です!どいてください!中に入ります!!」
屋敷の構造をよく理解している俺が率先して
中に入る。後から着いてきた駐在官は、キョロキョロと落ち着きのない様子だった。
「血の匂いだ!!」
居間のようなところにたどり着くと
濃い血の匂いが鼻をついた。
「誰か死んでるぞ!!!!」
駐在官の声がした方に急いで向かうと
そこには
「………ここの、村長だ、」
九尾家の当主であり村長、
そして宗珠と朧の父である男が背中から血を流して死んでいた。背後から心臓を包丁のようなもので突き刺されたと思われる。
「………朧は、朧はどこだ!!!」
「……おい、血の跡がある!誰か他に怪我人がいるぞ!!!!血の跡が続いてる!!」
血の跡はとある部屋に続いていた
その部屋を開けると、
そこには首から血を流して倒れている着物の女性、宗珠と朧の母である九尾梅が死んでいた。
目を大きく見開き、誰かを恨むような、憎むような酷い形相で絶命していた。
そして、その女性ともみ合ったような形で倒れていたのは
「…………九尾、宗珠っ、」
宗珠がうつ伏せで倒れていた。
2人が殺しあったのはすぐに分かった
父親を殺したのはどちらかは分からないが
2人は相打ちしたのだろうか
宗珠の方に近づくと、気絶しているものの息はあった。
恐らく急所を外したのだろう。
脇腹から血が滲んでいた。
(お、朧がいない?どうして、どこに、)
宗珠を救命すべく救急に電話する駐在官を置いて、俺は屋敷を走り回った。
どこだ、どこだ!!どこにいる!
そして、最後にたどり着いたのは、
物置のようなボロボロな部屋の扉だった
埃が舞う、まったく使われていないような部屋から人の気配がしたからだ。
扉をゆっくり開けると
中には、血塗れで震える朧がいた。
「朧!!!!!」
近寄って抱きしめる
朧に怪我はないようだ。
「大丈夫か!!怪我は!?下の惨劇は何だ!?何があった!?!?」
朧を覗き込むと、虚ろな目がゆっくり俺を見た。そして、朧の手には血に塗れた包丁が握られていた。
「………お、朧………それ、…お前が、」
「……お父さんの悲鳴が聞こえて、なんだろうって思ってたら、……お母さんが、血塗れで、部屋に入ってきたんだ……
ぼくに、もうだいじょうぶって言ってくれ……そしたら部屋に入ってきた兄さんと、お母さんが、揉み合いになって……お母さんが持ってた包丁を兄さんが奪って……お母さんを殺したんだ…………」
「…………あ、ぁ。」
「………兄さんがぼくに背中を向けてた………死んだ母さんを踏みつけて……酷いことばをたくさん言ってた………だから、ぼく……すごくかなしくなって…………足元に落ちてた包丁で
兄さんを後ろから刺したんだ………」
「………お前が、宗珠を?」
「……だって、だってさ……死んじゃえって、思ったんだ……っ、お母さんも、ころされちゃって、っ……かなしくて、」
虚ろな瞳から涙を零す朧を強く抱きしめる
強く、強く、もう離さないと言わんばかりに。
「………今すぐここから逃げよう。
宗珠は息がある、お前が殺したんじゃない……全部、宗珠のせいだ。だから行こう。」
朧を抱きあげて、下に降りる。
救急車と増員要請済みの駐在所にすべて伝えて、後は任せる。と言って俺と朧は
パトカーに乗って隣町まで戻り、
そこに停めてあった車に乗り込んだ。
九尾家の闇は暴かれ、宗珠はもう前よりも自由には動けないだろう。
今度は南に向かった。
外からの音が一切届かないであろう
南の、人口が少ない島に。
3年後、
俺たちはまた名前を変えて、のどかな島に住んでいた。
島民は最初俺たちを警戒したが、
更に成長した朧の美貌と、俺の愛想の良さで
すぐに受け入れられた。
朧は島の喫茶店で働き始め、
俺は漁師の弟子に入り、漁師見習として働き始めた。
俺たちはまた、親の虐待から逃げてきた兄弟として、別名を語り、生き延びた。
「雪くん!今日も綺麗だねー!」
「ねえ、それ染めてるの?オシャレだね!」
「目の色って、こんたくとってやつ!?
結構ロックなんだね!」
島の女の子に毎日囲まれる朧に思わず笑ってしまう。遠くから朧に睨まれたが、楽しそうに話す姿を見るとどうしても笑顔になってしまうのだから許して欲しい。
「いやぁー!雪ちゃんは人気だねぇ!
あんたもそろそろ、嫁候補さがさないとね!」
面倒を見てくれているオバサンに背中を叩かれる。俺ももう30歳になった。
そう言われるのはまぁ、仕方ない。
「………いえ、俺はずっと、雪と一緒に暮らします。もう、誰にもとられないように。」
そうハッキリ言うと、オバサンはキョトンとした後、納得したような顔で微笑んだ。
「………どうやら私は野暮なこと言っちまったみたいだね」
「ははっ、お気持ちは有難いですよ。」
「なによー!早く言っておくれよー!私お節介なこと言っちゃったじゃないのよー!」
「痛い、痛いっすよ!叩かないで!」
「あらっ!こんな立派な図体して!!!」
おばさんと笑い合っていると、
女子の集団から逃げた朧がやってきた
「なに話してるの?」
「雪ちゃんには内緒よ!」
「そ、内緒だ。」
「えー、…気になるじゃん!」.
わはははと皆で笑い合う
朧は昔より更に笑うようになった
北の村よりも、明るい。
きっと、自分の手で宗珠に引導を渡せたことが明るくなれたきっかけになっているのだろう。
宗珠はどうなったかは分からない。
でも急所は外していたし、生きているかもしれない。
でも、九尾家の事件も関わって
きっと今は病院で事情聴取されているだろう。そして村人の証言からも、何か一つでも罪が暴かれているはずだろう。
「………おぼ、じゃなかった…雪。」
「……なに?」
「今度こそ、俺たちずっと一緒だから。」
朧に指を差し出す
指切りの合図だ
「………約束だからね。」
小指どうしが強く絡み合う
約束だ
もう、奪われない。
『みぃつけた』
【END】
10
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