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苔むす石を慈しむ 2
しおりを挟むある日二人とも空腹で、けれども冷蔵庫になにもない。いっそこのまま空腹状態を突き詰めて、濁った心身を浄化せしめ、神経を研ぎ澄まそうという話になった。
手が震えたけれど頭がよく回る。不安感がひしひしとふくれ上がるけれど目が大きくなって輝いている。地面が際限なく揺れている気がするけれど舌がたいそう速く回るので、美那子がひさかたぶりの落とし噺。
「『おめえも、いつまでも独りでいちゃァいけねえからな、どうだいこのあたりでひとつ所帯を持ったら』
『いやおじさんね、あたしも持てるもんなら所帯持ちてえんですけど、相手がいねえんですよ』
『相手だったら俺が世話してやるからな。ちょうど一人いるんだけども、器量がね――』
『はァ。悪いですか』
『いや、いいんだよ。器量はいいんだ。気立てがな――』
『悪い』
『いや、気立てもいいんだ。それで、よく働くんだ』
『――……それなら欲しいですよ』
『ただね、何度かしくじってんだ。悪い癖があってな』
『なんです、悪い癖てえのは』
『まァ早ェ話が、ろくろッ首なんだ。ほかはなんてことないんだよ、ふつうと変わらないんだけども、ただ夜中になるってえと首がにゅうっと伸びて行燈の油をぴちゃぴちゃ舐めるんだ』
『…………それから?……』
『まあ、それくらいだな』
『――ァ、それだけですか? じゃああとはもう、器量はよくって気立てはよくって――それなら欲しいですよ、くださいッ!』
ってんで、婚礼の式を挙げまして、一軒の家を借りました。器量はいいし気立てはいいし、よく働く、優しくしてくれるってんで嗚呼おれは果報者だと喜んでおりましたが、さあ夜になって寝てるってえと、となりでもぞもぞ動いている。こっそり見るってえと、首がにゅうっと伸びて、行燈の油をぴちゃぴちゃ舐めている。話で聞くのと目の前で見るのとでは大違い。キャァァァ……ってんで駆け出して、(ドンドンドン!)
『おじさァん! おじさァん!』
『どうしたッ!』
『とても無理です。もう、うちに帰ります』
『そうか……残念だな。おめえのおっ母さんも、いつ孫の顔が見られるかと、首を長ァァァくして待ってるのに』
『嗚呼、うちにも帰れねえ』――」
それから、
「見世物というものは、珍しいものを見せて御足をいただこうてんで、中にはアヤシイものもずいぶんあったそうで、
『これは頼朝公のしゃれこうべ、近う寄って御拝遂げられましょう』
『へえ、これが頼朝さまのかい?』
『左様』
『しかしなんだね、頼朝さまてえと頭が大きかったてえけども、これはずいぶん小せえね』
『これは幼少の時のしゃれこうべ』――」
それから、
「『俺ァうまい米の炊き方を知ってるよ』
『そうかい?』
『ああ。水加減が大事なんだ』
『水加減ね。どうすればよく炊けるんだ』
『一升の米を炊くのに、こう手を入れて、くるぶしの高さまで水を張ると、うまく炊ける』
『へええ初めて聞いたね。一升の米には手を入れて、くるぶしの高さまでね』
『そうだ』
『じゃあ二升なら、どこまで水を張りゃいい』
『そりゃおめえ……両手を入れるんだ』――」
まだまだ、
「職人というものは、腕の確かな人もいれば頼りない人もまたずいぶんいましたそうで、
『親方に作ってもらった棚が落っこっちまいましたよ』
『ほんとか? そりゃおかしい、落っこちるわけがねえがなァ。……なんか乗せたんじゃないかい?』――」
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