縁日ヶ丘物語

尼子猩庵

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新たな埃が積もり始める 3

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 男性二人はよさげな石を選んで水切りをしたり、打ち上げられたクラゲをなるたけ沖へ投げ返したりしていた。

 好きな映画やテレビゲームがふたたびしばらくかみ合わなかったけれど、やがて芸能界の話題に花が咲き、だんだん良助がさっこんの諸々の風潮についてえらく御高説なので、重範も足並みそろえて論を展開し、知らぬ間にいかにも壮大な議論であった。

 けれども、ギアの上がった重範の弁舌に難解なカタカナ語などが闖入ちんにゅうし、議論の偏向を防止せんがため俯瞰的な視点などが足され出したところで、圧倒的な語彙ごいの階級差に辟易した良助が待ったをかけて、

「むつかしいことしゃべるねえ……」
「ああ――すみませんつい、コーフンして」
「いやいや、すごいなって思ってさ。だけどどういうタイミングで覚えるの、そういうカシコ言葉って」
「いえ、しょせん受け売りですよ」
「受け売れるだけすごいよ。こちとら言葉を知らないからね。どうやったら知れるのかすらわかんないんだから。だけどひとたび覚えたら、そうやって色んな場合にぽんぽん使えて、よく言い表すこともできるし、相手の言いたいこともわかるんだろうね」
「いや、でもそれはただ色んな考え方を覚えたってだけで、なんていうか。ある意味では自分じゃ考えなくなって行きますからね――これすら僕の考えじゃない」
「それそれ。そういうこと言えるのが偉いんだよ」
「言えるだけなんですよ。身にこたえてわかってるかって自省すると――いや、こういうことまで言えてしまうのがヤバいんですよ。学問なんて、やればやるほどおのれの無知が明らめられて苦しむべきなのに、浅薄な自己批判が一番たちの悪い慢心なんですよ」

 良助はカァ……と嘆息して、

「もうね、それよ。ほれぼれするんだから。もっかい言って?」
「いやほんとに――大学時代に読み散らしたり聞きかじったりしたのを言ってるだけだから」

 良助はピシッと指を鳴らして、かぶりを振り振り、

「やっぱり大学か。……大学生なんぞ、たいがいが親に金出してもらって学生時代長引かして、それでいざ社会に出たら収入追い抜いて行くんだから、いいご身分のゴロツキだって思ってたけど……そうだよな。子どものころから遊ぶことも我慢して、人生でゆいいつ未成年同士でできるチョメチョメも我慢してさ、受験戦争やったんだから偉いわな」

 そのまま劣等コンプレックスに落ち込んで行くので、

「だけどじっさいは、現に役所でも、夜間高校出の同僚のほうが即戦力で、打たれ強いし機転も利くし、それに比べて僕なんかはいまだに不器用で頭が固くて、バイタリティも乏しいし、なんていうか。やっぱり学力と教養は違いますよ」
「そこなんだよ。わかってっからなァ。こっちはわかんないもの。自分の悪いところがさ」

 これはもうどうしようと思っていると、良助は急に大きく息を吸い込んで、

「まあしかし、最終的には男はアレだよ。根性と、心意気と、それからあっちのほうだ」
「あっちのほうですか。がんばらんといかんですね」
「そうだよほんとに。どんだけ頭よくったって、しょせん生物のオスなんやで」
「ほんとにね、がんばりたいんですけど――」
「まあ美那子さんはビビるよね」
「わかってくれますか」
「くれますよ。でも男として応援しちゃう。美那子さん行ったら尊敬しちゃう。ただの阿呆がトチ狂って手ェ出すんなら、親衛隊として許せんけども」
「親衛隊なんですか」
「そうだよ。会員ナンバー一番」
「何人くらいいるんですか」
「一人」

 重範は笑って、しかし笑った目のまま海を眺め、

「…………僕も、親衛隊がよかったな」

 すると良助はすかさず

「駄目々々。マドンナを守りながらも、そのじつずっと親衛隊を卒業させてくれるオトコの登場を待ってんだから。ホンモノの親衛隊ってのはね。マドンナがふさわしいオトコとくっついたら、幸せを祝福して、安心して卒業できるわけ――魂の浮気もやめれるわけよ」


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