縁日ヶ丘物語

尼子猩庵

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命子の思念が野菜になって届く

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 美那子のマンションに重範・日南子兄妹が遊びに来ている。日南子は〽テレビもねえ、タブレットもねえ、と騒いだあと、家具やら食器やらについて「外国みたい」と言った。

「外国ってどこの外国?」と美那子が尋ねると、
「えっとね……北欧? 中欧?」
「北欧にはどこの国があって、中欧にはどこの国が――」と重範が言いかけると日南子は即座に「わかったわかった。やめてやめて」。

 しばらくだらだらと無駄口をたたいて、さあどうしようか。なにか面白いことをしたいけれども。しかし空間自体の持つ活力が不足しているかのごとく、誰もなにも思いつかなかった。

 とりあえず、まあしないだろうと思いながらトランプでもしますかと提案して始まってしまったババ抜きは、なにか思いつくまでのつなぎだ、こういう退屈なことをやっているうちに発想の転換も起ころうじゃないかと、言っているあいだに白熱し、完全にババ抜きへ閉じ込められた。

 そのうち少しくらいは賭博の様相を呈したかもしれなかった。日南子が経済的に最もリスキーな勝負だったけれども、彼女が勝利したのでなにも問題は生じなかった。

 そのようなことをしていると命子からメールが来た。「お元気ですか」という件名で、

「久美子はずいぶん明るくなりました。もう毎日振り回されています。でもすごくしっかり者で、なんだか久楽々のお姉さんを見ているような気がします。わたしはちょっと太りました。うちの畑で取れた野菜をお送りしたいのですが、賢也が持って行くと言って聞かないから、託します。わたしも行きたいけれど、賢也と一緒には行きません。それではなにとぞ、おんみお大切に遊ばしますよう」

 ――賢也がなにをしたのか命子は知らないから……と美那子は思い、しかしもし知ったら命子は弟を許さないだろう、キンテキの一つや二つはやっつけてしまうかもしれないとも思われた。

 日南子が兄にたしなめられつつ堂々と盗み読みしていた。たいへん興味を覚えたらしく、賢也の来る日にも遊びに来てよいかと問うた。美那子はよいと答えた。

 そうして後日、招き入れられた賢也は美那子の目をまっすぐ見つめ、あれ以来苦しみ悶えた日々を経て万端用意して来たものと察しられる台詞をいざ述べんとしたらしいところが日南子に気づいて丸つぶれになった様子であった。一瞬美那子を非難するような気色から、しかし当然のことかと思い直すような葛藤のしおしお。

 元気な野菜の詰まった段ボール箱を置くと、「ちょっと友だちのところに行くついでだったので」と言って帰ろうとするから女二人で引き留めた。

 とりわけ日南子の強引な無邪気さに引っぱり込まれて、お茶を出されたからには飲み干さなければ帰られないと思うのかすぐに口をつけたが、たいへん熱くいれられていた。

「賢也さん、お仕事はなにをしてられるの」

 と日南子が少々変な敬語で聞いた。賢也は素っ気なく

「バイク屋です」
「へえすごい。賢也さんのお店ですか」
「いや、地元の先輩の店です」
「ああ、そうですか」

 そのまま次々と質問を浴びて、今日は実家の軽トラで来たこと、バイクは姉の影響で乗るようになったこと、誕生日、血液型、星座等々その場に相応しいも相応しくないもないようなことをどんどん引き出された。

 けれども、盛んにしゃべりかけていた日南子がだんだん、目に見えて熱を失して行った。賢也が飲み干すマグカップへ保温ポットから熱々のお代わりを即座に入れようと構えていたのも、いざその段になるとやらなかった。

 疲労困憊したものの美那子への罪は許されたかのように軽やかになった賢也が帰ると、唇をとがらせて、

「けっきょく、オトナ美女の魅力なんだな……」

 そう言うと、荒々しくお菓子を頬張った。それから賢也のモノマネをするのを、美那子は全力でやめさせた。

 笑い過ぎて、呼吸困難になりそうだったので。


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