DTガール!

Kasyta

文字の大きさ
146 / 453
がっこうにいこう!

117話「はじめての」

しおりを挟む
 幾度目かの夜を森の中で明かし、後輩たちの課外授業も後半戦に差し掛かるところ。
 燻ぶる焚火の前に座って朝食の携帯食を取り出して齧り、お茶で流し込んだ。
 昨日は何も獲れなかったので今日の朝食はこれだけである。
 本来の目的である魔物との邂逅は未だに果たせていない。
 おっかなびっくりだった後輩ちゃん達の間にも弛緩した空気が漂っている。

 野営の後片付けを行い、点呼をとった。
 全員問題は無さそうだ。

「さて、そろそろ折り返して良い頃会いかな。」
「少し早くありませんこと?」

「それくらいが丁度良いんだよ。合流できないと置いて行かれちゃうからね。」

 学院まで自力で戻れば良いだけなので大した問題では無いが、まぁ説教は受けるだろう。
 荷物を背負い直し、これまで来た道を逆に辿って進んで行く。
 帰り道ということもありペースは快調で、陽が傾く前に先日使った野営地まで辿り着いた。

「あれ、ここ昨日のとこにゃ?」
「そうだよ。随分早く着いちゃったけど、今日はここで野営かな。」

「ま・・・・・・まだ進めるのではありませんか? わ、私も・・・・・・まだ歩けます。」

 そう言うリヴィアーネの呼吸は乱れ、汗で髪が額に貼り付いている。
 ペースアップした分、疲れも溜まってしまっているのだ。

「そうだけど、今の速度で進んでも次の野営地に着くまでに暗くなっちゃうからね。今日はゆっくり休もう。」

 俺の言葉を聞いて、パッとサーニャが振り向く。

「じゃ、狩り行って来ていいにゃ!?」
「いいよ。晩御飯までには戻って来てね。」

「行って来るにゃ!!」

 そう言ってあっという間にサーニャは森の中へと消えていった。
 ここ数日ですっかり慣れた後輩ちゃん達も黙ってそれを見送る。

「それじゃ、私達も準備しようか。」

 とは言っても作業もさほど時間は掛からなくなっている。
 ララとルラが示し合わせたようにスルスルと木に登り、瞬く間にテントを張ってしまった。
 驚くべきは二人の身体能力。
 道中でもオドオドとした二人からは想像出来ないほどの健脚ぶりを発揮している。
 リヴィアーネとネルシーがバテバテになっていても、ララとルラは汗一つ掻かず、息も乱していないのだ。
 あまり目立たない二人なので俺も最初の内は気付いてなかったが。
 テントも扱い方を覚えてからはご覧の通りである。

「「お、終わりました、アリス先輩。」」
「なら後は・・・・・・自由時間かな。あまり離れなければ森の中を散策しても構わないよ。」

「おっ、じゃー食べられそうなの探してきまーす。」

 ネルシーがひらひらと手を上げる。
 野草や茸でも探しに行くつもりだろう。
 それがあるだけでも携帯食のみよりはマシになる筈だ。

「ララとルラで着いて行ってあげてくれるかな? 何かあったらすぐに知らせて。」
「「わ、わかりました!」」

 本当なら俺が着いて行ってやりたいところだが、サーニャも居ない状態で此処を空けるわけにもいかない。
 まぁ、あの二人が付いていれば大丈夫だろう。

「ん~、私達はお茶でも飲もうか、フラム。」
「ぅ、うん。」

「リヴィアーネさんもどうかな?」
「・・・・・・頂きますわ。」

 サッと魔法でお湯を作ってお茶を淹れる。
 お茶で満たしたカップを二人に渡し、自分のカップを手にとってから腰を落ち着けた。
 隣にちょこんとフラムが座る。

「随分と仲がおよろしいのですね、貴女方は。」
「ぅ、うん。えへへ・・・・・・。」

 純粋に嬉しそうな反応をするフラムに毒気を抜かれ、溜め息を吐くリヴィアーネ。

「えーと・・・・・・二人は幼馴染、なんだよね?」
「よ、よく・・・・・・一緒に遊んでた、の。」

「昔の話・・・・・・ですわ。」

 二人はそれきり口を開く事は無く、夕食の時間を迎えた。

*****

 肉の焼ける匂いが焚火の熱で広がり、鼻からお腹の奥を刺激する。

「う、美味そうだにゃ~・・・・・・まだ食べないにゃ?」
「もー少しですよー、にゃー先輩。もー少しで一番美味しい状態になりますー。」

 いつもは澄ましているリヴィアーネでさえもゴクリと生唾を飲む。
 携帯食ばかりだったのでそれも仕方ないだろう。

「それにしても、野ウサギ二匹なんて運が良かったね。」
「フフン、あちしにかかればこんなもんにゃ!」

 うむ、いかんな。俺の腹も早く食わせろと催促している。

「できましたよー。熱いうちにどーぞ。」

 出来上がった料理を盛られた皿を受け取る。
 小さくぶつ切りにしたウサギの肉と、茸と野草を炒めただけのシンプルなものだ。
 まずは一口。
 ジュワリと肉汁が口の中に広がり、一緒に口に入れた野草と茸に染み込んでいく。
 それぞれの素材の味が主張する中、少量だけ振られた塩がそれらを統率し、舌の上を踊らせる。

「どーですか、先輩?」
「美味しいよ。塩しか使ってないのに凄いね。」

 気付けば手に持った皿は綺麗に空になっていた。
 サーニャは空になった皿をペロペロと舐めている。
 気持ちは分からんでもない。

 俺は皿と箸を土に戻して立ち上がり、ぐるりと周囲を見渡した。
 近づいてくる魔力を感知したのだ。

「サーニャ、数は分かる?」
「一匹、ヴぉるふにゃ!」

 俺とサーニャのやりとりに首を傾げるリヴィアーネ。

「ど、どうかしたのですか?」
「魔物が近づいてきてるんだよ。匂いに釣られたかな?」

 これで課外授業の目的は達成できそうだ。

「ま、魔物!? 何を呑気にしているのですか!?」
「あー、そうだね。こら、サーニャ。いつまでもペロペロしてないの。・・・・・・というかもう味しないでしょ。」

 サーニャの皿を取り上げ、土へ戻す。

「あう~・・・・・・あちしのご飯~・・・・・・。」
「私とサーニャで相手するから、皆は焚火の傍を離れないようにしてね。」

「いいえ、私がいきますわ・・・・・・!」

 リヴィアーネが立ち上がる。

「い、いや・・・・・・相手は魔物だよ?」
「だからこそ、私の力を証明するに相応しいですわ!」

 今まで良い所を見せられなかった分をここで挽回したい、というつもりなのだろう。

「・・・・・・分かったよ。それじゃあよろしくお願いするね、リヴィアーネさん。」

 息巻くリヴィアーネを止める理由も無く、とりあえず任せる事に。
 まぁ、そのための課外授業である。生徒の自主性を重んじる、としておこう。
 彼女の実力であればヴォルフ一匹に後れを取ることもない筈だ。
 こちらもきちんとフォロー出来る態勢をとっておけば大怪我させる事も無いだろう。
 俺はフラムとサーニャにこっそりと耳打ちする。

「二人とも。他の子達はお願いね。」

 それだけで意図を解した二人はコクリと頷いた。

*****

 ギラギラとした瞳で睨め付け、鋭い牙を剥き出しにしてリヴィアーネを威嚇するヴォルフ。
 普段見かけるものよりも一回りほど大きいが、毛並みも悪く身体はガリガリ。
 先の戦いで逃げた内の一匹で、碌に食べていないのだろう。
 だが、その空腹分が上乗せされ、異様な殺気を放っている。
 向こうも必死のようだ。

 対するリヴィアーネの膝は小さく震え、表情は青く、歯も噛み合っていない。
 ・・・・・・これはちょっとダメそうだ。
 リヴィアーネの近くに触手を待機させ、いつでもフォローできるように準備しておく。

「ぁ・・・・・・ぁ・・・・・・≪水弾≫!」

 リヴィアーネの魔法が発現し、俺に見せた時よりも大きく威力の高い水弾がヴォルフに向かって一直線に飛び出した。
 しかしあっさりと躱され、水弾はヴォルフの背後にあった木を穿って消える。
 立て続けに二発目、三発目と放つが、それらは容易く避けられてしまう。
 いくら威力が高くても散発的で単調な攻撃であるため、特にヴォルフの様に素早い相手であれば効果が無いのと同じだ。

 ヴォルフはリヴィアーネの魔法を躱しながらも距離を詰め、あっという間に剣の届く間合いにまであと少し、というところまで達してしまった。
 だがリヴィアーネの身体は恐怖で凍り付き、迫るヴォルフに対応できそうもない。
 年端もいかない女の子が、魔物を相手に命の奪い合いをしようと言うのだ。
 本物の殺気に当てられ、身が竦んで動けなくなるのも当然だろう。

 ・・・・・・こんなところか。

 俺は一斉に触手を動かし、今まさに飛び掛かろうとするヴォルフを絡め取って締め上げる。
 断末魔を残す間もなくヴォルフの身体はあらぬ方向へと曲がり、折れ、絶命した。

「大丈夫、リヴィアーネさん?」
「ぅ・・・・・・ぁ・・・・・・。」

 腰を抜かしてしまっているが、それ以外は問題無さそうだ。

「怪我とかは・・・・・・してないみたいだね。それより邪魔しちゃったかな、二人とも?」
「「い、いえ・・・・・・! そんなことはありません!」」

 慌てた様子でララとルラは構えていた短刀をいずこかへと仕舞った。
 俺が助けに入らなければ、二人が割って入っていたかもしれない。
 この課外授業の目的を鑑みれば二人に譲っていた方が良かったか?

「まぁ、いいか。立てる、リヴィアーネさん?」
「ほ、放っておいて下さいまし・・・・・・!」

「はいはい、それじゃあ皆の所に戻りましょうね・・・・・・っと。」

 地にへたり込んでいたリヴィアーネを抱え上げる。

「な、何するんですの!?」
「お姫様抱っこ。」

「ば、馬鹿にしないでくださいまし!」
「しないよ。初めての実戦お疲れ様。頑張ったね。」

「フン・・・・・・!」

 リヴィアーネを焚火の前に座らせ、俺もその隣へ腰を落ち着けた。
 膝に顔を埋める彼女に誰も声を掛けられず、パチパチと火の爆ぜる音だけが静かに響く。
 ・・・・・・こういう時はさっさと寝かせちまった方がいいだろう。
 そう思って口を開きかけると、フラムが腰を上げ、リヴィアーネの前に立った。

「ぁ・・・・・・あ、あのね・・・・・・リヴィ・・・・・・す、すごかった、よ。」

 フラムの言葉にリヴィアーネが顔を上げ、キッと睨み返す。

「・・・・・・随分と皮肉がお上手になりましたわね。」

 堪えていた涙が堰を切ったように溢れ、リヴィアーネは嗚咽を漏らしながらまた顔を埋めてしまった。

「ち、ちが・・・・・・あ、あの・・・・・・・・・・・・ご、ごめん。ごめん、なさい・・・・・・ぐすっ。」
「ちょ・・・・・・ちょっとちょっと、二人とも泣かないで・・・・・・ね?」

 泣き出してしまった二人の間に慌てて入る俺。

「え、えーと・・・・・・と、とりあえずフラムの話を聞いてあげてくれるかな? フラムも、ちゃんと話してくれるかな?」

 涙を拭いながら頷くフラムと、俺の言葉に反応を示さず顔を埋めたままのリヴィアーネ。
 ま、まぁ聞いててくれるだろう。

「それじゃあ、フラムはリヴィアーネさんの何がすごいと思ったのかな?」
「あ、あのね・・・・・・私、は怖くて、アリスが居ないと出来ない、けど・・・・・・リ、リヴィは一人で、戦って、それで・・・・・・。」

「一人で魔物と戦ったリヴィアーネさんは凄いねって言いたかったのかな?」
「ぅ、うん・・・・・・!」

「えーと、そういう事だから、フラムはリヴィアーネさんを侮辱する気なんてなくて――」
「そんな事・・・・・・分かってますわ。」

 ふらふらとリヴィアーネが立ち上がる。

「今日は・・・・・・一人にして下さいまし。」

 そう呟き、覚束ない足取りでテントの中へと入っていった。
 いや、そのテントは他の子達も使ってるんだけど・・・・・・。
 他の後輩ちゃん達は「どうしよう」と顔を見合わせる。

「はぁ・・・・・・。小屋を広げれば問題無いから、ネルシー達は私達と一緒でお願いね。」
「はーい。」

 気付けば、辺りはすっかり夜に呑まれてしまっていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...