【完結】『人間が太陽と呼ばれている世界で求婚されたけど、それを知らなかった所為で監禁される事になった話』

塚銛イオ

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1章

花屋 ①

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 街の割と中央に位置する場所にその花屋はあった。
 裏手には温室が作られ、色とりどりの沢山の花が育てられている。

 アンセルはここで花を育てる花卉栽培かきさいばい用の従業員として雇われていた。
 もちろん店が忙しい時は接客も行わなければならないから、アンセルは雇用主にとって使い勝手のいい人間だった。

 田舎から出てきたアンセルはこれと言った特技はなかったが、昔から花を育てるのが上手かった。
 今にも枯れそうな植物も、アンセルが世話をしだすと徐々にその姿を取り戻す。

 一気に元気にさせる事は出来ないが、アンセルの真摯な気持ちに応えるように、植物たちはアンセルの為に大きく育っていった。

 最初から花屋で働くつもりはなかったが、この世界で「人間」は手先が器用ではあっても力がなかったため働き口は限られた。同郷の知り合いのツテでこの花屋に雇ってもらえた自分は運が良かった、とアンセルは思っていた。

 この世界には人間の他にも獣人や竜人、エルフや精霊など様々な種族が住んでいた。
 力の強い獣人は騎士や冒険者になるものが多かった。竜人は独りを好むものが多かったので普段から人の多い場所には寄り付かなかった。

 エルフや精霊は悪戯好きでも知られ、気まぐれに身を現わしては、その見目麗しい姿で人も獣人もすべてを魅了した。
 ただ、気まぐれはこちらの意図した結果をもたらさない事も多く、エルフたちに人生を狂わされる者も多かった。


 恋愛は自由で、異種間でも盛んだったが、人間以外の種族はあまり子宝に恵まれる事がなかった。そのため、子孫を残す力が強い人間は大切に扱われた。女は特に宝のように大切に隠されていたが、男は女ほど孕む能力が強くなかったため邪険には扱われない程度だった。
 力の強い者ほど子孫を残したい欲求は強く、時には何人もの人間を囲い子どもを産ませる事もあったという。


「外に出てはいけないよ。」


 そう言われて育ったアンセルは、両親が他界し田舎から出てくるまで、殆ど外の世界に触れた事はなかった。
 その所為で、この世界の一般的な知識を持たず。またそれを教えてくれる人間もおらず。
 ただひたすら真摯に花を育てる事だけを考えて生きていた。




 そんなアンセルがイスカンダーと会ったのは、ちょうど春先の、芽吹きの季節を祝って行われる花還祭の時期だった。


 花屋は年中忙しいけれど、この時期は最も忙しい。
『花還』と花を戴く祭りともなれば、色とりどり、様々な花が必要になる事は必死。
 普段は温室や外のこじんまりとした畑で花を育てているアンセルも、その日は店で接客に勤しんでいた。


「はい、お待たせしました。こちらフリージアを中心に花束にしました。」

「わっ、凄い可愛い。」

「そう言っていただけると嬉しいです。この花を長く楽しむには……。」


 客に花の扱いを説明しようとして話し始めた途端、同僚のユーゴから声が掛かる。
 今日はこんな事ばかりだ。


「アンセルっ、こっちに来い。急ぎだ。」

「は、はいっ。」


 目の前のお客さまに「すみません」と頭を下げてユーゴの元へ駆け寄る。


 ユーゴはイタチの獣人で細身の身体に細い目をしていた。案外長身でアンセルよりも背が高かった。
 彼はアンセルよりも先にこの花屋に雇われていたのでアンセルに対して先輩風を吹かせる事が度々あった。
 そうして、時折アンセルを舐めるような目で見ていた。


 アンセルはそんなユーゴの視線に気付いてはいたが、背筋がゾワリとするぐらいで、それが何故なのか分からなかった。ただユーゴが苦手なのだろうと近寄る事をせず避けていた。


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