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1章
花屋 ②
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今日は忙しさにそんなことを言ってられず、アンセルはユーゴの指示のまま動き回る。
花を運び終わった途端、新しくアレンジメントを任された。
朝から働き通しだ。ひと時の休憩さえ取っていない。
空腹を訴える腹の虫がくぅくぅと鳴く。
それでも、何人もの人が並んでいる様子を見ると休みたいとは言えなくなった。
「すみません、お待たせして。どんな花束にいたしましょうか?」
ずっと下を向いて花束を作っていたので目を上げるとクラクラする。
ほんの少し瞳を閉じてから目を開けて驚いた。アンセルの目の前にいたのは見た事もない美丈夫だった。背はアンセルよりもはるかに高く、アメジストのような紫色の瞳が優しくアンセルを見ていた。
その視線に背筋がゾクリとした。普段ユーゴを前に背筋が凍るような感覚とはまるで違う。この人に感じるのは甘やかな刺激だ。
「あ、あの……。」
「ああ、そうだな。優しいイメージで作ってくれないか?控えめで可憐で。でも優しくて暖かい。そんな花束にしてもらいたい。」
そう言った男の顔が、どこか愛おしい者を見るかのように見えて、アンセルは男からこの花束を貰える人物が酷く羨ましくなった。
「……それでは、ミモザの花束などどうでしょう。色も優し気ですし、ふわふわとした雰囲気が柔らかく可愛らしいです。」
「ああ、いいな。それで作ってもらおう。」
ずっと優しい顔でアンセルを見ていた男は静かに頷いた。
殊更丁寧に作ったのは、男の注文したものだからだろうか。
仕上がりに満足して男に向き直る。
「こちらでどうでしょう。」
「ああ、素晴らしい。注文の通りだ。」
男はにこりと笑って花束を受け取る。これで男とはもう会う事はないだろう。
それが当たり前なのに酷く残念がっている自分がいる事をアンセルは感じ取っていた。
そんなアンセルの様子を気にする事なく男がアンセルに話かける。
「もしよかったら、名前を教えてくれないか?」
「え……。」
「こんな、注文以上に素晴らしい花束を作ってくれた君の名前を知りたいと思って。」
照れたようにそういう男の顔を見て、アンセルもまた顔を赤らめた。
「ア……アンセル、と言います。」
「アンセル……。良い名だな。私はイスカンダー。また来よう。」
そう言って背を向けた男の姿をもっと眺めていたかったが、次のお客が目の前に立ってそれは叶わなかった。
(……イスカンダー様……。)
それから、新しい花束の注文を受けながらも、アンセルはずっと心の中で男の名を呟き続けた。
何故かは分からないが、もう一度彼に会いたいと願いながら――――。
花を運び終わった途端、新しくアレンジメントを任された。
朝から働き通しだ。ひと時の休憩さえ取っていない。
空腹を訴える腹の虫がくぅくぅと鳴く。
それでも、何人もの人が並んでいる様子を見ると休みたいとは言えなくなった。
「すみません、お待たせして。どんな花束にいたしましょうか?」
ずっと下を向いて花束を作っていたので目を上げるとクラクラする。
ほんの少し瞳を閉じてから目を開けて驚いた。アンセルの目の前にいたのは見た事もない美丈夫だった。背はアンセルよりもはるかに高く、アメジストのような紫色の瞳が優しくアンセルを見ていた。
その視線に背筋がゾクリとした。普段ユーゴを前に背筋が凍るような感覚とはまるで違う。この人に感じるのは甘やかな刺激だ。
「あ、あの……。」
「ああ、そうだな。優しいイメージで作ってくれないか?控えめで可憐で。でも優しくて暖かい。そんな花束にしてもらいたい。」
そう言った男の顔が、どこか愛おしい者を見るかのように見えて、アンセルは男からこの花束を貰える人物が酷く羨ましくなった。
「……それでは、ミモザの花束などどうでしょう。色も優し気ですし、ふわふわとした雰囲気が柔らかく可愛らしいです。」
「ああ、いいな。それで作ってもらおう。」
ずっと優しい顔でアンセルを見ていた男は静かに頷いた。
殊更丁寧に作ったのは、男の注文したものだからだろうか。
仕上がりに満足して男に向き直る。
「こちらでどうでしょう。」
「ああ、素晴らしい。注文の通りだ。」
男はにこりと笑って花束を受け取る。これで男とはもう会う事はないだろう。
それが当たり前なのに酷く残念がっている自分がいる事をアンセルは感じ取っていた。
そんなアンセルの様子を気にする事なく男がアンセルに話かける。
「もしよかったら、名前を教えてくれないか?」
「え……。」
「こんな、注文以上に素晴らしい花束を作ってくれた君の名前を知りたいと思って。」
照れたようにそういう男の顔を見て、アンセルもまた顔を赤らめた。
「ア……アンセル、と言います。」
「アンセル……。良い名だな。私はイスカンダー。また来よう。」
そう言って背を向けた男の姿をもっと眺めていたかったが、次のお客が目の前に立ってそれは叶わなかった。
(……イスカンダー様……。)
それから、新しい花束の注文を受けながらも、アンセルはずっと心の中で男の名を呟き続けた。
何故かは分からないが、もう一度彼に会いたいと願いながら――――。
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