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2章
酒場 ②
しおりを挟む「お~お~、アンセル。いい感じに酔っ払ったな。よしよし、ちょっと休んでいくか。」
「や、やしゅ、む?」
「ああ、そんなフラフラしてたんじゃ1人で帰れねぇだろ。俺に任せとけって。オヤジ、上空いてるか?」
ユーゴはアンセルの肩を掴んで身体を引き寄せる。
フラ付いたままアンセルの身体は素直にユーゴにもたれかかった。
「ずっと狙ってたんだ。逃がしてたまるかよ。」
「ユ、ゴ?」
「ほら、立てよ。早く上に行くぞ。」
強い力で手を引かれる。いつになく焦ったようなユーゴの様子に回らない頭でこれはマズいと感じた。
「ぼ、僕…行かな、い…でしゅ。」
「いいからっ。こっち来い。」
「やぁ……。」
振り払いたいのに力が入らない。頭はフワフワしているのに、視界はぐるぐるとぐらついて定まらない。
それでも両手を振り回して抵抗した。
周りの客はそんなアンセルとユーゴの様子をはやし立てる。
「おいおい、ユーゴ。手を貸してやろうか?」
「かわい子ちゃん。ユーゴよりもいい思いさせてやるから俺にしないか?」
「ユーゴの太陽って訳じゃねぇんだろ。俺にも寄こせ。」
はやし立てられてユーゴの顔が赤くなる。
酔っ払いのアンセルに抵抗されるとは思っていなかったのだろう。
「てめっ、大人しく来いって言ってるだろうがっ。」
焦れたユーゴはアンセルを担いでいこうとしたのか、アンセルの前にしゃがみ込んだ。
「い、やだっ、だっ。」
連れて行かれたら最後、何か恐ろしい事が起こると本能が危険信号を鳴らしていた。
叫んで助けを求めるのに、誰もアンセルを助けようとはしなかった。
寧ろ、その抵抗が激しければ激しいほど場の興奮は高まって行った。
「いやぁ。」
バチッ
振り回した手がユーゴの顔に当たる。
それほど強い力ではなかったが、か弱い人間に抵抗された事でユーゴのプライドが傷ついた。
「てめぇ、こっちが下手に出てると思って!!」
バシーンッ
ガラガラガシャンッ
勢いよくアンセルの身体が吹き飛ぶ。
ユーゴが力いっぱい頬を叩いたのだ。
「おいおい、お前の力で殴ったら、太陽なんて一発で死んじまうだろうが。」
「あ~あ、可哀想に。太陽ちゃん、怪我してんじゃない?」
言いながら客たちはへらへら笑う。
結局は酒の席での余興みたいなものだ。
「悪い子は躾けてやらないとな。なぁアンセル?」
ユーゴがゆっくりと近づいてくる。
既に腫れてきた目元で塞がれた視界にその姿が見えた。
「…‥‥た、たすけ、て。」
小さく呟いた声は誰に届いただろう。
アンセルは絶望に目の前が暗くなり、意識も朦朧とし出す。
もうダメだ…。
アンセルがそう思った時、何者かがユーゴとアンセルの間に入り込んだ。
人の声が入り乱れ、誰が何を言っているのかも分からない。
薄れゆく記憶の中で、アンセルに触れる手があった。
優しく身体を起こされて抱きしめられる。
状況は分からないが、そのぬくもりに触れてアンセルの口からホッと息が漏れた。
「…よう……俺の……。」
聞き覚えのある声が聞こえる。
静かな夜を思わせるような深く艶やかな声だ。その声を最後に、アンセルの意識はプツンと途切れた。
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