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監禁 ②
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「誰に会った。」
「え…‥。」
「誰に会ったんだ。」
イスカンダーに詰め寄られたアンセルは一瞬何を言われているのか分からなかった。
新たに運び入れたベッドに投げ出され、アンセルの身体は跳ねた。
その上に乗り上げ、頭上からイスカンダーはアンセルを見下ろしている。
その瞳は怒りの炎に燃えている。
キラキラと光るその炎は青白く、時に輝くような銀色に変わる。
アンセルは動きを止め、今自分がどんな状況であるかを忘れた。その交互に色を変えるその炎に魅入られたようにただジッと見つめ続けていた。
「言いたくないという事か……。」
苦虫を噛み潰したような顔でイスカンダーがそう呟いた。
アンセルは、困惑した顔でイスカンダーを見上げるばかりだ。
「もう一度聞こう……アンセル、今日お前は誰に会ったんだ?」
ひどく威圧的な表情でそう問いかけられたアンセルはやっと言葉が脳に届いたかのように一瞬遅れて反応を返した。
「え、ぼ、僕……だ、誰にも、誰にも会ってなんか……。」
アンセルの言葉にイスカンダーの眉が上がる。
その仕草はアンセルの言う事など全く信じていないと語っているかのように見えた。
そしてそんな仕草一つでアンセルは自分の言葉がイスカンダーの耳には届いていないのだと分かった。
それでもアンセルは気持ちを奮い立たせてイスカンダーへ瞳を向ける。
ゆらゆらと揺れる炎をジッと見て、そして口を開く。
「ぼ、僕……今日はエドマンドさんにしか会ってません。土を……土を運んでもらったんです。本当です。」
「ほう、先ほどは花商の誰それとも会ったと言ってなかったか。」
目を眇め、アンセルを見つめる。
イスカンダーはさも腹立たしいとでも言うようにフンと鼻を鳴らした。
「そ、それはお話をしただけです。決して顔を合わせてはいません。」
アンセルはこれまでの経験から、イスカンダーがアンセルの顔を自分以外の誰かに見せる事を極端に厭っている事に気付いていた。
イゾルデがいた頃もほんの僅かに感じていたその感情が、アンセルを抱いてからより顕著になり、今では誰に隠すでもなくイスカンダーはアンセルを隠しておきたがった。
「僕、温室の扉の前に行ったんです。でもそこで止まって扉越しにお話をしました。」
「何?」
「え、ええ。決してイスカンダー様との約束を破った訳ではないのです。僕は決して、決してイスカンダー様の言葉を蔑ろにしたのではないのです。」
必死に言い募るアンセルの額にはうっすらと汗が滲んでいた。
温室の中は適度な室温に保たれている。
ただそれは植物にとっては、だ。
温室の中は時に、じめじめとした湿地帯のような空間になり、その湿度の高さがじんわりとアンセルの身体に纏わりついていた。
今もイスカンダーに見下ろされているその状態で、ベッドシーツの柔らかな感触がじんわりと熱を持ち、肌に張り付いているようだった。
「イスカンダー様、僕、イスカンダー様の言いつけも守っているでしょう?だから……だから……。」
ブルブルとアンセルの握られた手が震えだす。
イスカンダーの怒りが解かれなければ、この後どんなことが起こるのかアンセルには分かっているのだ。
「ああ、お願いです、イスカンダー様。僕にはイスカンダー様を悲しませるつもりなんてないんです。」
アンセルの言葉を聞いているのかいないのか。
イスカンダーはそのままアンセルへ身を倒し、殆ど隙間のない位置まで近づいてピタリと動きを止めた。
アンセルの顔を挟んで両肘をついて顔と顔を近づける。
四つん這いの状態でアンセルを見下ろすイスカンダーは、その吐息さえ感じられる距離でアンセルを見つめる。
「アンセル。私が温室から出るなと言ったのはお前を誰にも見せたくないからだ。」
「え、ええそれは分かっています。だから扉越しに話をしたんです。」
「はぁ、アンセル。私はね。誰にもお前を見せたくない。それはつまり、お前が誰かと話をすることも嫌だという事だ。」
「え……。」
「むしろ、何故、扉の傍などで話をした?もし、その花商とやらが卑しい者であったならばお前と直に話そうと温室の中へ入り込んだやもしれない。いや、その隙間からお前をちらとでも見たとしたならば、お前は直ぐに連れ去られていたやもしれぬ。」
「そ、そんな事は……。」
イスカンダーは自分の言葉でますます怒りを募らせたのか、いまや青白い炎は鳴りを潜め、銀色に輝く炎は徐々に赤銅色へと変化していった。
それは怒りそのもののようで、熱く、そして痛いほど強かった。
「イ、イスカンダーさまっっ、ああっ。」
アンセルの口がイスカンダーの名を呼ぶのと、イスカンダーの唇がアンセルの唇を奪うのは同時だった。
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