【完結】『人間が太陽と呼ばれている世界で求婚されたけど、それを知らなかった所為で監禁される事になった話』

塚銛イオ

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育てる ②




 微かに身体を強張らせたアンセルだったが、それは一瞬でしかなく、鍵を開けて中に入ってきたイスカンダーには普段と変わらぬアンセルの姿が見えた。


「イスカンダー様。」


 深く礼をとるアンセルの姿に、イスカンダーは眉を顰める。
 前以上にイスカンダーに対するアンセルの対応は酷くよそよそしく、他人行儀であった。

 イスカンダーにはそれが我慢ならない。


「アンセル、何を見ていた?」
「は、はい。イスカンダー様からお預かりした花の鉢植えを見ておりました。未だ芽が出ず、思案している所です。」


 硬い表情でそう答えるアンセルを見て、イスカンダーはまたしても不機嫌そうに鼻を鳴らし、鋭い眼差しで鉢植えへと視線を移した。


「これがそうか?なるほど、芽は出ていないな。」


 咲きほこる花々の中心で、たった一つの芽の出ない鉢を2人は見ていた。


 イスカンダーはあまり花の成長に関しては興味がなさそうに思えた。
 以前アンセルに花の種を渡した時は、その花に興味を持っているようだったのに、何がイスカンダーを変えてしまったのだろうか。

 そう自問して、アンセルは自分の胸に手を当てる。
 その時、偶然胸の突起に触れてしまった。


「あっ……。」


 ビリビリと刺激が身体を走る。
 以前はそんな所、触れても何も感じない場所だったのに。

 この場所でイスカンダーに何度も抱かれるようになってから変わってしまった部分だ。
 ほんの少しの刺激でこの身体は快感を拾うようになってしまった。

 アンセルは頬を赤らめ、俯いてイスカンダーから顔を隠した。


「どうした、アンセル。」
「いえ、何でもありません。」


 慌ててイスカンダーにそう答えるが、揶揄うような様子のイスカンダーにはアンセルが何に戸惑ったのか分かっているのかも知れない。

 恥ずかしい気持ちはあったが、アンセルはイスカンダーの機嫌がさっきよりも上向いているように思えてホッとした。


 毎日、どんなに遅い時間になっても温室を訪れるイスカンダーは時折酷く苛立ったようにアンセルを抱く事があった。
 それはイスカンダーから預かった花の話題に触れた時が多く、今回もそうなるか、と緊張していたアンセルはその強張りを解いた。


 以前よりもイスカンダーの考えを読み取ることは難しく、何が彼の琴線に触れてしまうのかもアンセルにはわからなかった。
 せめて、そのトリガーになりえそうな事柄に触れないように気を付けるぐらいしかアンセルに出来ることはなかった。


「さ、仕事は終わったんだろう?今日は私に付き合ってくれないか?」


 イスカンダーにそう話し掛けられて、アンセルは首を傾げる。
 いつもならイスカンダーは一度アンセルの顔を見に来て、また仕事を片付けに屋敷に戻って行く事が常だったからだ。


「今日は領地の見回りに行く。アンセルもついておいで。」
「え、良いんですか!」


 アンセルはその提案にビックリして思わず大きな声を出してしまった。
 本当に屋敷の外へ出てもいいのだろうか。
 いや、この温室から外で出る事が出来るのだろうか。
 アンセルは疑心暗鬼のままイスカンダーに恐る恐る問いかける。


「イスカンダー様、僕、一緒に行ってもいいんでしょうか。」
「どうしてダメだと?」
「どうしてって……。」


 この温室に閉じ込めたのはイスカンダーだろうに、アンセルは恨めしそうにイスカンダーを見てから首を横に振った。

 イスカンダーの心の中の事など理解できるとは思えなかったし、直接監禁してることを問いただす勇気はなかった。


「私が一緒なら温室の外に出ても許そう。普段はダメだが、今日は特別だ。」


 その『特別』の意味は分からなかったが、久しぶりに温室以外の場所で過ごせるという誘いは魅力的だった。


「はい、ご一緒させていただきます。」


 決定が覆っては大変、とばかりにアンセルは勢い込んで返事をした。
 その必死さがアンセルにとって今の状況が不本意だと言っているように思えて、イスカンダーの胸の内にはもやもやとした霧が生まれている事を本人も知る由はなかった。


「あ、でも午後の分の水やりが残っているんです……。」


 残念そうに項垂れるアンセルの顔を見てイスカンダーは何だそんな事か、という顔をしてエドマンドを呼んだ。

 その時までアンセルはエドマンドが一緒にいる事に気付いていなかった。
 イスカンダーの陰に隠れていたわけでもないのに、その存在を全く感じなかった。


「エドマンド、今日の午後は誰か他の者に水やりをさせろ。」
「はい、分かりました。今日は庭師が来ているはずです。彼なら温室を水浸しにする心配はないでしょう。」


 そう言ったエドマンドに、アンセルは書き留めて置いたこの温室の植物についてのノートを取り出した。


「では、エドマンドさん。このノートに書いてある通りに水をあげてもらえますか?もし分からなかった場合はそのままで。僕が帰ってきてから水やりをするので。」


 そう言って手渡したノートをエドマンドは恭しく受け取った。


「畏まりました。ではアンセル様、外出の準備をさせていただきますね。旦那さまも一度お屋敷に戻ってご準備をお願いいたします。」


 アンセルはエドマンドが持ってきた普段着ないような上質な絹のブラウスを見た。
 いつもならそんな服は必要ありませんと突っぱねて、土いじりに適した洋服を着るのだが、今日はそれさえ気にならないほどイスカンダーからの誘いに心を躍らせたのだった。

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