【完結】『人間が太陽と呼ばれている世界で求婚されたけど、それを知らなかった所為で監禁される事になった話』

塚銛イオ

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正体 ①

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「う……ん、ツッ。」


 どこからか微かに物音がしたような気がして、アンセルは意識を取り戻した。
 咄嗟には何も考えられない。

 いったいここはどこだ?という疑問が浮かぶより先に、無意識に動かした身体の隅々からピリッとした痛みが走った。
 痛みから呻き声が出た。


 息が整うのを待ってゆっくりと目を開けた。
 どうやら、アンセルはどこか木造の部屋の床に身を横たえているようだった。


 視界に入るのは砂と埃にまみれた床板で、そこかしこにゴミが散乱している。
 食べ物を包んでいたものもあるのか、食べ物が腐った嫌な臭いが充満していた。
 鼻が曲がりそうなほどの臭気にアンセルは思わず眉間に皺を寄せた。


 場所は分からないが自分が何か大変な事に巻き込まれたような気がしたアンセルはその時になってようやく自分の両手首が紐で縛られている事に気付いた。
 全くぼんやりしているにも程がある。
 後ろ手に縛られた状態で床に転がされていたアンセルは身を起こす事が出来なかった。


 仕方なくその状態のまま周囲の様子を警戒する。
 ゴミで溢れた部屋は広いものではなかったが、割と天井が高かった。
 全面木材で作られているようで、薄汚れ古びていて、民家に置かれた物置が朽ちたもののように思えた。窓は見える範囲で二つ。
 空気の入れ替え専用のように建物の上部に作られている。
 部屋に陽の光が届いている所を見るとアンセルが見えない場所に他にも窓があるのかもしれない。


 出口だろうか、扉が見える。
 特に変わった造りではない。
 ただ、あれを開けるとどこに繋がっているのかはこの位置からは分からなかった。


 どうして自分がこんな目に遭っているのかアンセルには見当もつかなかった。
 確か花屋へ向かって納屋まで行った。

 どこからか喧噪と怒号が聞こえて……。
 その後何か衝撃に襲われた……何があったか…………。

 詳細を思い出そうとすると、頭の後ろに鋭い痛みが走った。


「ツッ………。」


 思わず息をのむ。
 身体の動きも止まってしまう程の痛みだった。

 じっと動きを止め、息を浅く吐く。
 そうしていると少し痛みも収まってくるように思えた。


 ふぅ、と息を吐いて、縛られた腕を軸にしてゆっくりと身体を起こした。
 一つ一つの動作を身体に聞きながら動いているようで、その動きはひどく緩慢で気の遠くなるほど時間がかかった。


 それでもアンセルがやっと起き上がると視界がグンと広がって今まで見えなかったものが見えてくる。

 部屋の片隅に積み上げられていた肥料の類や枯れた花の苗、
 壊れた農具に車輪の外れた手押し車など、それはアンセルにとって酷く馴染みのあるものの残骸だった。


 やっぱりここは、どこかの邸宅や民家に置かれている納屋のような場所らしい。
 時折、風が吹いてくるのは穴が開いているのか、または材木が朽ちてボロボロになり隙間が空いているのかもしれない。
 床の汚れ具合から見て、誰かが使われていない納屋に入り込んで勝手に根城にしているのだろう。
 とすればここは使われていない場所で、誰も入り込まない隠された場所であると言える。


 いったい誰が自分をこんな場所に連れて来たのだろうか。
 アンセルには分からなかった。


 一人朽ち果てた納屋で縛られた状態で放置されていた。
 それはアンセルを拉致した人物がいるということだ。
 ここにアンセルを捨て置いてそのまま、という事も充分考えられるけれど、それよりもまたこの場所に戻ってくる可能性の方が高いように思えた。


 そう思うとアンセルの身体は恐怖に震えだした。
 今にもその扉を開けて、大きくて強く恐ろしい怪物が入ってきてアンセルを襲ってくるかのように思える。


 そうだ、呆けている場合じゃない。
 早くここから逃げなければ。
 陽の光が差し込んでいるとはいっても、明かりは夕暮れに近い色合いをしている。
 早くしないと陽が沈む。


 イスカンダーに黙って出てきたのだ。一刻も早く帰らないと大変だ。
 言いつけを守らなかったアンセルに腹を立てて見限られてしまうかもしれない。
 気を失う前にイスカンダーへの恋心を自覚したばかりのアンセルには、それが恐ろしかった。


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