【完結】『人間が太陽と呼ばれている世界で求婚されたけど、それを知らなかった所為で監禁される事になった話』

塚銛イオ

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 何とか手首に巻かれた紐を外そうと手首をくねらせ指先を引っ掛けようとするがあと少し届かない。
 何度も掠るように紐の感触を感じるのに指先が紐を捕らえる事は出来なかった。


 縛ってある紐は粗悪品のようでチクチクと毛羽立ちアンセルの白い柔らかな肌に刺さった。
 擦りつけすぎた手首は擦過傷が出来て血が滲み始めジンジンと痛む。
 これ以上やり続ければ皮膚は裂けもっと多くの血が流れてくるだろう。


 そう思ってもアンセルは止める事が出来なかった。
 今逃げ出さなければきっと自分は死ぬよりも辛い目に遭う予感がした。
 それは予感でしかなかったが、全身がピリピリと感じる運命のような気がしてアンセルの身を震えさせた。


「は、早、く。早く。」


 ブツブツ呟きながら何度も指の先を動かして紐を探る。
 すでに手首の感覚はおかしくて、指先もまた震えていた。


 そんな震えた手が奇跡的に紐の端を捕らえた。
 それは細く心もとない糸のようなものだったけれど、アンセルは命綱のようにしっかりと握って捕まえた。


 離してなるものか。


 それは正しく命綱であった。



 何度も何度も身をくねらせたおかげなのか、紐の結び目がさっきよりも緩んでいるのを感じる。
 これを引っ張って一か所、何か鋭利な刃物で切ってしまえばスルリと解けそうだ。


 アンセルは橙色に染まっていく部屋の中をグルリと見回して壊れた鋤の破片を見つけた。
 赤錆が浮いているため鋭利ではないが、それでも元は金属。
 木の板なんかよりは鋭い。
 何度も擦ればこんな縄も切り捨てられるだろう。



 動きにくい状態のまま、這うようにして破片に向かう。
 外の物音にも注意しながら少しずつ進むことが難しい。

 それでも何とか破片の元まで辿り着いて、不自由な身体で反転し破片を指先で掴んで縄へ擦り付けた。

 ザリッ、ザリッ、と聞いた事のないような音が聞こえて破片が縄に切り込みが入っていった。


「あ、あと、少、し。」


 ようやくギリギリと締め付けられていた縄が綻び始めた感触がした。
 あと一息だ。


 何度か外で物音がして作業を中断する。
 その度にアンセルの胸はドクドクと大きな音を立てて、締め付けられるような痛みを覚えた。
 息を殺してジッとしていると、何事もなかったかのように風の音が聞こえてくる。

 なんだ、気のせいか、

 と詰めていた息を吐き出してまた作業に戻る。
 数度それを繰り返した時、プツリ、と縄が切れる音がした。


「やっっ、た。」


 思わず声に出してアンセルはハッとしたように口を噤んだ。


 良かった、風の音しか聞こえない。
 まだアンセルを攫った犯人はいないようだ。


 急いで紐を外して手首の具合を確かめる。
 折れてもいない。これなら大丈夫。
 一刻も早くこの場所を出て、誰かに助けを求めないと…‥。
 そう思っていたアンセルはこの建物の唯一の出口である扉の取っ手に手をかけた。


 さぁ、早くっ。





 ガチャ、ガチャガチャ。


「!!」



 取っ手は引っ掛かったような音を立てて一向に回らない。
 鍵がかかっているのだ。

 全く予期せぬ出来事にアンセルは焦った。


 ボロボロの建物を見て、まさか鍵が掛かっているとは思わなかった。
 鍵など壊れてなくなっていると思ったのに。


 すんなり出ていけると思っていた所にこの結果はアンセルの意欲を大きく削いだ。
 それでもここに留まっていてはダメだ。


 アンセルはともすれば萎えてしまいそうな気持ちを奮い立たせてどうにかして外に出れないか部屋の隅々までを見渡した。
 隙間風が吹いているという事はその場所は綻んでいると言えるからだ。


 ウロウロ歩き回って風の吹いてくる方向は分かった。
 でもどこから、というのが分からない。


 焦る一方のアンセルは壁に手を付いて押してみる。
 非力なアンセルではあっても朽ちている小屋ならば壁だって崩れるかもしれないと思い付いての行動だった。


「う、うぅ……。」

 
 ぐっと両手で押す。
 何も起こらない。


 それでもアンセルは何度も何度も壁を押し続けた。
 きっとどこかが崩れると信じて……。



 そんな奇跡みたいな事を信じていたから―――――
 アンセルは聞き逃した。


 外から聞こえる誰かの足音を。
 じゃり、ズル、じゃり、ズル。
 と不規則でそのくせ重く恐ろしい何かを引きずるような音を。




 ガチャ



 取っ手が回る音がして初めて、アンセルは誰かがやってきた事に気付いた。



 キィ―――



 ゆっくりと扉が開く。
 外から光を浴びて誰かの影が長く長く伸びて床に映った。
 顔は逆光で暗く見えない。


 アンセルの身体はガタガタと震えはじめる。
 止めようと思っても止まらないカチカチという歯が鳴らす音で、唇さえ閉じられないほどの恐怖を感じている事が分かった。


 ニヤリ


 逆光で暗いままの顔の中、笑った白い歯が見えた。
 酷く重そうに一歩踏み出したそいつの顔が見える。


「ハッ!!」


 口を手で塞いでないと叫び出してしまいそうだった。
 息が出来ないほどの衝撃に怯えているアンセルを見つめながら笑ったその男は―――――


「よう、アンセル。探したぜ。」


 と頬に大きな傷跡を残し、片目に黒い眼帯をしたユーゴの姿だった。

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