【完結】傘に隠れて秘密の話を

塚銛イオ

文字の大きさ
2 / 20
「約束」のはじまり

1

しおりを挟む
 

 *

「げ、降ってきた。」
「え、俺、傘持ってきてない。誰か持ってる奴いない?」
「わー、俺入れて行って。」

 HRも終わってちょうど下校時刻に差し掛かったタイミングで空から雨が降ってきた。
 まだパラパラと降っている雨も、黒く厚い雲が広がる空模様を見れば、これから雨脚は強くなっていくだろうと予想できた。

 クラスの大半は天気予報でも確認してきたのか、傘持ち、もしくは折りたたみ傘を持っているようでそこかしこで帰りの同伴者を募る風景が見られた。
 この機会に、と目当ての女子に言い寄って断られて撃沈している男子もいるが概ねOKの返事をもらえたのか、教室の中はワイワイと楽し気な雰囲気が漂っていた。

大礼おおら、帰ろうぜ。」

 掛けられた声に振り返れば、そこには幼馴染の姿。今日は元々部活の休養日でバレー部のあまねは制服のまま鞄を持って立っていた。バレー部所属という事から分かるように、周の身長は190に届こうかというほど高身長だ。

「うん、今行く。」

 机の中に物がないか軽く確認してから席を立つ。忘れ物チェックではないけれど、毎日のルーティーンになっているからしょうがない。


 家も近くで幼稚園からずっと同じ学校に通ってきた。中学でもバレー部だった周はその身長から繰り出されるスパイクに定評があって、バレー強豪校からスカウトが来ていた。
 しかし、周りのみんながどんなに進めても、周はそのスカウトを断った。
 家から離れたその高校に通うには寮に入らなければならないと聞いたからだ。

「いいの、周?みんなあっちに行った方が良いって言ってたよ。」
「大礼までそんな事言うのかよ。俺、一人ぼっちになっちゃうじゃんよ。」

 お道化たようにそう言って笑った周の本心は分からなかったけれど、周が寂しがり屋だっていうのは本当だ。小さな頃からお互いの家に寝泊まりして同じベッドで眠った。暗闇が怖いって泣いて僕の布団に潜り込んできたのは周だったし、いつも僕と一緒がいいって言っていたのも周の方だった。

 見た目小柄で凡庸な僕が出来の良い周から頼られるのは正直気分が良かった。それが何処か刷り込みのようなものであったとしても。

 周には要さんという5つ年上の兄がいて、近いとは言えない年齢差からか要さんに対して何処か遠慮がちな所があった。要さんもまた文武両道を地でいく人で、彼は勉強だけでなく、陸上競技でも素晴らしい成績を残していた。周は、そんな兄の存在にほんの少し劣等感を持っていたのかも知れない。要さんが高校進学と同時に陸上に力を入れている進学校へ進むために家を出て寮で暮らすと決まった時どこかホッとしていたようにも見えた。

 だから、周が同じように高校からスカウトを受けた時、周囲は兄と同じようにバレー強豪校へ進むと思っていたし、大礼もまたそう思っていた。
 スカウトを断ったと聞いて会いに行った時も理由はきっと「一人ぼっち」だけじゃないんだろうと思ったけれど、そんな周の心の奥まで踏み込んでいいとは思えず、僕は曖昧に微笑んで頷いただけだった。

 ただ、周が自分と一緒の高校へ進むつもりだと言っていたので、行こうと思っていた所よりも2つほどレベルの高い、バレー部が割と強い高校へ志望を変えた。
 それが自分の義務であり責任だと思ったからだ。

 受験は厳しかった。元々行ければいい、行ける所でいいという考えの自分が途中から偏差値を数個上げなければならないのだ。何処をどうしたら偏差値が上がるのかさえ分からず途方に暮れた。
 それでも成績を上げたいと相談した教師はとにかく勉強量を今より5倍、いや、3倍でもいいから増やせと結構無茶なアドバイスを寄こした。
 塾にも通っていなかった僕にとって、どうやったらそんなに勉強できるのか。どう勉強していけばいいのかは漠然としていたけれど、不安そうな顔を心配した周に根掘り葉掘り聞き出され、結局周が行ってる進学塾へ入塾した。

 周と一緒の進学塾はマイペース寄りの僕にとって付いていくだけで精一杯な場所だった。宿題は多く、進む授業も学校の授業より数倍早かった。3年の夏休み前には中学で習う範囲は全て終了していたぐらいだから実際僕がそのスピードに付いていける訳はなかった。

 それでも必死にしがみ付いてがむしゃらに勉強した。人生であんなに英単語を詰め込んだ事なんてなかったんじゃないかと思う。周は普段から僕には優しいけれど、あの時だけは鬼監督さながら僕に付きっ切りで勉強を教えてくれた。正直塾に行かなくても周がいてくれれば事足りたんじゃないか、なんて思ったけれど周自身の勉強もあったからそこはしょうがなかっただろう。

 兎にも角にも、僕のそして周の努力が実って僕たちは同じ高校に進学出来た。僕はきっとギリギリ合格だったんだろうけれど周はやっぱり周囲に惜しまれながらその高校に進路を決めていたのでもっと偏差値の高い高校にもいけたんじゃないだろうかと今では思う。その当時は気付かなかったけれど。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ
BL
【あらすじ】 高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。 二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。 そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。 青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。 けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――? ※本編完結済み。後日談連載中。

可愛いがすぎる

たかさき
BL
会長×会計(平凡)。

【完結】口遊むのはいつもブルージー 〜双子の兄に惚れている後輩から、弟の俺が迫られています〜

星寝むぎ
BL
お気に入りやハートを押してくださって本当にありがとうございます! 心から嬉しいです( ; ; ) ――ただ幸せを願うことが美しい愛なら、これはみっともない恋だ―― “隠しごとありの年下イケメン攻め×双子の兄に劣等感を持つ年上受け” 音楽が好きで、SNSにひっそりと歌ってみた動画を投稿している桃輔。ある日、新入生から唐突な告白を受ける。学校説明会の時に一目惚れされたらしいが、出席した覚えはない。なるほど双子の兄のことか。人違いだと一蹴したが、その新入生・瀬名はめげずに毎日桃輔の元へやってくる。 イタズラ心で兄のことを隠した桃輔は、次第に瀬名と過ごす時間が楽しくなっていく――

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

隣に住む先輩の愛が重いです。

陽七 葵
BL
 主人公である桐原 智(きりはら さとし)十八歳は、平凡でありながらも大学生活を謳歌しようと意気込んでいた。  しかし、入学して間もなく、智が住んでいるアパートの部屋が雨漏りで水浸しに……。修繕工事に約一ヶ月。その間は、部屋を使えないときた。  途方に暮れていた智に声をかけてきたのは、隣に住む大学の先輩。三笠 琥太郎(みかさ こたろう)二十歳だ。容姿端麗な琥太郎は、大学ではアイドル的存在。特技は料理。それはもう抜群に美味い。しかし、そんな琥太郎には欠点が!  まさかの片付け苦手男子だった。誘われた部屋の中はゴミ屋敷。部屋を提供する代わりに片付けを頼まれる。智は嫌々ながらも、貧乏大学生には他に選択肢はない。致し方なく了承することになった。  しかし、琥太郎の真の目的は“片付け”ではなかった。  そんなことも知らない智は、琥太郎の言動や行動に翻弄される日々を過ごすことに——。  隣人から始まる恋物語。どうぞ宜しくお願いします!!

路地裏の王子様と秘密のカフェ ―10年ぶりに再会した親友はトップアイドルでした―

たら昆布
BL
大学生の千秋がバイト帰りの路地裏で助けたのは、今をときめくアイドル『GALAXY』のセンター、レオだった。 以来、レオは変装して千秋の働くカフェへ毎日通い詰めるようになる。 ​「千秋に会うと疲れなんて全部消えちゃうんだ」 トップアイドルとは思えないほど素直に懐いてくるレオに、千秋は戸惑いながらも多忙な彼を支えたいと願うようになる。 ​しかし、千秋はまだ知らない。 レオが10年前に「また絶対会おう」と約束して別れた泣き虫な親友の玲央本人だということに。

君はアルファじゃなくて《高校生、バスケ部の二人》

市川
BL
高校の入学式。いつも要領のいいα性のナオキは、整った容姿の男子生徒に意識を奪われた。恐らく彼もα性なのだろう。 男子も女子も熱い眼差しを彼に注いだり、自分たちにファンクラブができたりするけれど、彼の一番になりたい。 (旧タイトル『アルファのはずの彼は、オメガみたいな匂いがする』です。)全4話です。

処理中です...