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「約束」のはじまり
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入学すると周は既に名を知られている新入生で、鳴り物入りみたいにバレー部へ入部した。さり気なく僕も誘われたけれど周の友達だからという気遣いが透けて見えて、流石にそんな理由では入りたいとは思えず辞退した。
運の良い事にクラスは同じだった。大人しいというよりも人見知りっぽい僕にとって周が一緒のクラスになった事は凄く運が良い事だと思ったのだけれど。実際に学校が始まると周の周りにはいつも沢山の人がいて、誰も彼もが周と友達になりたがっていた。
そんな輪の中に飛び込んでいく事なんて出来なくて、僕はどちらかと言えば僕と同じように大人しめに見えるクラスメートと仲良くなった。
彼は駒瀬と言って話してみると僕よりもおしゃべりで見た目に反してコミュニケーション能力の高い人だった。それは周りに対する気遣いという点でも勝っていて気付くと僕の隣には今まで通り周がいて、駒瀬くんは周といつの間にか仲の良い友達になっていたのだった。
駒瀬くんのお陰で僕はこれまでと変わらぬ交友関係を結べるようになった。駒瀬さまさまである。
そうは言っても、新しい環境は否応なしに新しい関係へと発展するもので。中学までの始終べったりな関係とはさすがに別れを告げた。
周は部活が忙しく、休み時間は話し掛ける人でいっぱいだった。昼は僕と駒瀬くんと一緒に食べる事が多かったけれど、それでも部活のミーティングやら何やらで、その時間も十分に取れているとは言えなかった。
僕は時折寂しがってないかな、と人一倍寂しんぼな周の顔を思い浮かべたけれど、それは裏を返すと自分の方が周を恋しがっていたのだと思う。
そんな中、一つだけ周が譲らなかったことがある。
それは、雨の日の下校は僕と一緒に帰るということだった。
今日はたまたま部活の休養日に当たったからクラス内で声を掛けられたが、普段は周の部活終わりを僕が待つことが多かった。
小柄で平均身長にちょっと届かない凡庸な僕だったけれど、高校の部活はバトミントン部を選んだ。
文化部じゃなかったことに周は最初驚いていたけれど、見た目よりも運動神経は良い方だと知っていたからか「頑張れ」とひと言激励の言葉をくれた。
バド部は部員25名と小人数ではあったけれど大会ではそこそこ良い成績を残せる実力はあるらしく、それなりに学校内では存在感のある部活だった。強豪で知られるバレー部や、強化選手もいるというサッカー部など華やかな部活に隠れた地味な存在ではあったけれども。
同じ一年は僕の他に7人。
中学からの経験者が5人もいるので、高校から正式にバドミントンをやり始めた初心者は僕の他には2人しかいなかった。
仲間がいるのは心強いものである。
僕がバド部へ入部したのは、もちろんバドミントンが楽しそうだったという理由もあったけれど、バレー部が同じ体育館で練習することが多かったからだった。
体育館は曜日や時間によって練習が割り当てられていたが、バレー部は第二体育館の3分の2スペースを毎日使って練習していた。
バド部は第二体育館を利用していて、僕にとっては同じ時間の同じ空間に周がいるという事に意味があった。
バレー部はほとんど毎日練習があって、休養日は数える程しかない。それでも雨の日みたいな天候が悪い日は監督の意識も家路へ向かうのか、普段よりも少しだけ練習時間が早く終わるのだ。
たまたま部活終わりが同じ時間になった日。その日は朝から天気は晴れで、帰り際ザーッと降ってきた雨はみんなにとって予期せぬものだったろう。僕は歳の離れた妹を心配する母のお天気チェックからのアドバイスで、折り畳み傘を持って登校していた。
「あ、大礼。傘、傘持ってるよな?」
「う、うん。」
「やった。な、一緒に帰ろうぜ。」
体育館入口で声を掛けてきたのは、額に汗を浮かべた周だった。タオルを見つけるのも億劫なのか、着ているTシャツで汗を拭って、割れた腹筋が惜しげもなく見えていた。
その男らしい筋肉にドキリと胸が高鳴った。ドキドキした自分を悟られないようにただ静かに頷いて、その日初めて部室棟の入り口で待ち合わせをした。
他愛もない話をして、同じ傘に2人で入った。
僕よりも身長の高い周は僕の傘を持ってくれたけれど、男子高校生2人に折り畳み傘一本はやっぱり狭くて。結局2人とも左右の肩をそれぞれ濡らして帰ることになった。
「なんかごめん。結局傘の意味なかったね。」
そう言って謝った僕に、
「でもずぶぬれより全然いいよ。それに、大礼と一緒にいたかったし。」
なんて甘い声で言うから僕はそれ以上周の顔を見る事が出来なかった。
「じゃ、また雨の時、周が傘を持ってなかったら僕の傘に入れてあげるよ。僕、高確率で傘持ってると思うし。」
何故か気恥ずかしくて俯いたままそう声を掛けたら嬉しそうな声が返ってきた。
「やっった。大礼、約束だからな。」
嬉しそうな声に思わず周の顔を見ると、眦を下げてにこりと笑う周と目が合った。
胸がきゅうっと締め付けられて、僕は慌てて視線を外した。
「約束、忘れんなよ。」
優しい声がまたしても僕の頭上から聞こえて、僕も同じように「うん」と小さな声で答えた。
どうか優しく聞こえますように、と願いを込めながら。
それが、僕と周の約束の始まり。
運の良い事にクラスは同じだった。大人しいというよりも人見知りっぽい僕にとって周が一緒のクラスになった事は凄く運が良い事だと思ったのだけれど。実際に学校が始まると周の周りにはいつも沢山の人がいて、誰も彼もが周と友達になりたがっていた。
そんな輪の中に飛び込んでいく事なんて出来なくて、僕はどちらかと言えば僕と同じように大人しめに見えるクラスメートと仲良くなった。
彼は駒瀬と言って話してみると僕よりもおしゃべりで見た目に反してコミュニケーション能力の高い人だった。それは周りに対する気遣いという点でも勝っていて気付くと僕の隣には今まで通り周がいて、駒瀬くんは周といつの間にか仲の良い友達になっていたのだった。
駒瀬くんのお陰で僕はこれまでと変わらぬ交友関係を結べるようになった。駒瀬さまさまである。
そうは言っても、新しい環境は否応なしに新しい関係へと発展するもので。中学までの始終べったりな関係とはさすがに別れを告げた。
周は部活が忙しく、休み時間は話し掛ける人でいっぱいだった。昼は僕と駒瀬くんと一緒に食べる事が多かったけれど、それでも部活のミーティングやら何やらで、その時間も十分に取れているとは言えなかった。
僕は時折寂しがってないかな、と人一倍寂しんぼな周の顔を思い浮かべたけれど、それは裏を返すと自分の方が周を恋しがっていたのだと思う。
そんな中、一つだけ周が譲らなかったことがある。
それは、雨の日の下校は僕と一緒に帰るということだった。
今日はたまたま部活の休養日に当たったからクラス内で声を掛けられたが、普段は周の部活終わりを僕が待つことが多かった。
小柄で平均身長にちょっと届かない凡庸な僕だったけれど、高校の部活はバトミントン部を選んだ。
文化部じゃなかったことに周は最初驚いていたけれど、見た目よりも運動神経は良い方だと知っていたからか「頑張れ」とひと言激励の言葉をくれた。
バド部は部員25名と小人数ではあったけれど大会ではそこそこ良い成績を残せる実力はあるらしく、それなりに学校内では存在感のある部活だった。強豪で知られるバレー部や、強化選手もいるというサッカー部など華やかな部活に隠れた地味な存在ではあったけれども。
同じ一年は僕の他に7人。
中学からの経験者が5人もいるので、高校から正式にバドミントンをやり始めた初心者は僕の他には2人しかいなかった。
仲間がいるのは心強いものである。
僕がバド部へ入部したのは、もちろんバドミントンが楽しそうだったという理由もあったけれど、バレー部が同じ体育館で練習することが多かったからだった。
体育館は曜日や時間によって練習が割り当てられていたが、バレー部は第二体育館の3分の2スペースを毎日使って練習していた。
バド部は第二体育館を利用していて、僕にとっては同じ時間の同じ空間に周がいるという事に意味があった。
バレー部はほとんど毎日練習があって、休養日は数える程しかない。それでも雨の日みたいな天候が悪い日は監督の意識も家路へ向かうのか、普段よりも少しだけ練習時間が早く終わるのだ。
たまたま部活終わりが同じ時間になった日。その日は朝から天気は晴れで、帰り際ザーッと降ってきた雨はみんなにとって予期せぬものだったろう。僕は歳の離れた妹を心配する母のお天気チェックからのアドバイスで、折り畳み傘を持って登校していた。
「あ、大礼。傘、傘持ってるよな?」
「う、うん。」
「やった。な、一緒に帰ろうぜ。」
体育館入口で声を掛けてきたのは、額に汗を浮かべた周だった。タオルを見つけるのも億劫なのか、着ているTシャツで汗を拭って、割れた腹筋が惜しげもなく見えていた。
その男らしい筋肉にドキリと胸が高鳴った。ドキドキした自分を悟られないようにただ静かに頷いて、その日初めて部室棟の入り口で待ち合わせをした。
他愛もない話をして、同じ傘に2人で入った。
僕よりも身長の高い周は僕の傘を持ってくれたけれど、男子高校生2人に折り畳み傘一本はやっぱり狭くて。結局2人とも左右の肩をそれぞれ濡らして帰ることになった。
「なんかごめん。結局傘の意味なかったね。」
そう言って謝った僕に、
「でもずぶぬれより全然いいよ。それに、大礼と一緒にいたかったし。」
なんて甘い声で言うから僕はそれ以上周の顔を見る事が出来なかった。
「じゃ、また雨の時、周が傘を持ってなかったら僕の傘に入れてあげるよ。僕、高確率で傘持ってると思うし。」
何故か気恥ずかしくて俯いたままそう声を掛けたら嬉しそうな声が返ってきた。
「やっった。大礼、約束だからな。」
嬉しそうな声に思わず周の顔を見ると、眦を下げてにこりと笑う周と目が合った。
胸がきゅうっと締め付けられて、僕は慌てて視線を外した。
「約束、忘れんなよ。」
優しい声がまたしても僕の頭上から聞こえて、僕も同じように「うん」と小さな声で答えた。
どうか優しく聞こえますように、と願いを込めながら。
それが、僕と周の約束の始まり。
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