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アメ
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「今日の数A、宿題どこだっけ?」
今日も周の肩は濡れている。
雨はまだ小降りではあっても細かい雨は身体を濡らすのも早い。
周は僕の代わりに傘の柄を持ち心持ち僕の方へ多く傘を差していた。
あれから突然の雨の日は何度もあったけれど、周は一度も傘を持っていた事がない。
その度に僕の前に現れて、「一緒に帰ろう」と誘ってくる。
帰る方向は同じ。下校時間も待ってあげられない程じゃない。
第一、周が濡れて帰るのは嫌だ。風邪でもひいたら大変だ。
なんて、自分よりも大きな男に掛ける言葉ではないだろうけれど。
それに、僕たちにはあの「約束」があった。
僕から言った事を撤回しようとは思わなかったし、周が律儀に声を掛けるのも寂しがり屋な性だろうと思っている。
「周、授業中寝てたんじゃないの?今日のは範囲広めだったよ。あ~あ、僕数学苦手なのに。今日は帰って宿題しなくちゃ。」
憂鬱さに思わずため息を吐く。高校に入って勉強は格段に難しくなった。
進学校だったのもあったかも知れない。
「大礼、数学苦手だよな。スラスラ解きそうなのに。」
「それは周の方でしょ。昔っから数学とか物理とか難解な問題スラスラ解いてたじゃん。」
羨ましさからちょっと粘着気味な言い方になった。あんまり良い性格じゃないね。
ほら、周がちょっと気まずそうにしている。
「で、でも、分かるまで教えてもらえる先生よりも頼りになる先生がいて、僕助かってるけどね。」
分かりやすいあからさまなフォロー。あ、ちょっと気分が浮上した。
周の顔がホッとしたように緩んで、僕もまたその顔にホッと胸を撫でおろした。
「じゃぁ、今日はウチで一緒に勉強しようぜ。分からない所教えてやるよ。」
「え、う、うん。」
「夕飯も食べて行けばいいよ。」
「え、それは悪いよ。」
「何を今さら。母さんだって喜ぶし。帰りは送ってやるから。」
突然の提案ではあったが周の家で夕飯をご馳走になるのは初めてではない。それこそ中学までは頻繁にあった事だ。特に気にすることじゃない。
問題があるとすれば、周を気に入っている妹の機嫌が悪くなるぐらいか。
僕は携帯で周の家で勉強して夕飯を食べてくると連絡を入れた。
「久しぶりだな、大礼が俺んち来るの。」
「周が忙しすぎるんだよ。」
口では普段のような受け答えを返しつつ、僕は久しぶりに訪ねる周の部屋になぜか緊張が高まるのを感じた。
対して、周は普段と変わった様子はない。
「あ~それにしても腹減った。大礼何か持ってない?」
突然周がそう言った。この世の終わりみたいな嘆きようで、周は大きな手で自分のお腹辺りを擦り眉を下げて窮状を訴える。大柄ワンコみたいだ。
僕はそんなちょっと凹んだ周の表情にめっぽう弱くて、何かお腹の足しになるようなものがなかったか急いでズボンのポケットを探った。
世の中そんなに都合よくは出来ていないようで、僕のポケットには今朝入れたハンカチが一枚入っているだけだった。
これが漫画の世界なら、このポケットの中身は異次元に繋がっていて、周が満足いくような美味しい物が即座に出てくるのだろうに。
僕は結局普通の人で、目の前でお腹を空かせた幼馴染を満足させてあげる物何ひとつ持っていない。それが何だか酷く悲しい事に思えた。
いいって、いいって、とまるで期待してなかったかのような顔で微笑まれるのも僕の惨めな気持ちに拍車をかけた。
「あっ、そうだ。」
そこで思い出した僕は偉いと思う。
背負っていたリュックを胸の前に抱いて、ファスナーを開けた。片手を突っ込んで目当てのモノを探す。
確かここに入れたと思うんだけど…。あ、あった、あった。
「はい、これあげる。」
差し出した手の平には2つのノドアメ。
飴玉ぐらいじゃお腹の足しになる訳ないけれど、それでも口寂しくは無くなるだろうと思ってのことだ。
今日も周の肩は濡れている。
雨はまだ小降りではあっても細かい雨は身体を濡らすのも早い。
周は僕の代わりに傘の柄を持ち心持ち僕の方へ多く傘を差していた。
あれから突然の雨の日は何度もあったけれど、周は一度も傘を持っていた事がない。
その度に僕の前に現れて、「一緒に帰ろう」と誘ってくる。
帰る方向は同じ。下校時間も待ってあげられない程じゃない。
第一、周が濡れて帰るのは嫌だ。風邪でもひいたら大変だ。
なんて、自分よりも大きな男に掛ける言葉ではないだろうけれど。
それに、僕たちにはあの「約束」があった。
僕から言った事を撤回しようとは思わなかったし、周が律儀に声を掛けるのも寂しがり屋な性だろうと思っている。
「周、授業中寝てたんじゃないの?今日のは範囲広めだったよ。あ~あ、僕数学苦手なのに。今日は帰って宿題しなくちゃ。」
憂鬱さに思わずため息を吐く。高校に入って勉強は格段に難しくなった。
進学校だったのもあったかも知れない。
「大礼、数学苦手だよな。スラスラ解きそうなのに。」
「それは周の方でしょ。昔っから数学とか物理とか難解な問題スラスラ解いてたじゃん。」
羨ましさからちょっと粘着気味な言い方になった。あんまり良い性格じゃないね。
ほら、周がちょっと気まずそうにしている。
「で、でも、分かるまで教えてもらえる先生よりも頼りになる先生がいて、僕助かってるけどね。」
分かりやすいあからさまなフォロー。あ、ちょっと気分が浮上した。
周の顔がホッとしたように緩んで、僕もまたその顔にホッと胸を撫でおろした。
「じゃぁ、今日はウチで一緒に勉強しようぜ。分からない所教えてやるよ。」
「え、う、うん。」
「夕飯も食べて行けばいいよ。」
「え、それは悪いよ。」
「何を今さら。母さんだって喜ぶし。帰りは送ってやるから。」
突然の提案ではあったが周の家で夕飯をご馳走になるのは初めてではない。それこそ中学までは頻繁にあった事だ。特に気にすることじゃない。
問題があるとすれば、周を気に入っている妹の機嫌が悪くなるぐらいか。
僕は携帯で周の家で勉強して夕飯を食べてくると連絡を入れた。
「久しぶりだな、大礼が俺んち来るの。」
「周が忙しすぎるんだよ。」
口では普段のような受け答えを返しつつ、僕は久しぶりに訪ねる周の部屋になぜか緊張が高まるのを感じた。
対して、周は普段と変わった様子はない。
「あ~それにしても腹減った。大礼何か持ってない?」
突然周がそう言った。この世の終わりみたいな嘆きようで、周は大きな手で自分のお腹辺りを擦り眉を下げて窮状を訴える。大柄ワンコみたいだ。
僕はそんなちょっと凹んだ周の表情にめっぽう弱くて、何かお腹の足しになるようなものがなかったか急いでズボンのポケットを探った。
世の中そんなに都合よくは出来ていないようで、僕のポケットには今朝入れたハンカチが一枚入っているだけだった。
これが漫画の世界なら、このポケットの中身は異次元に繋がっていて、周が満足いくような美味しい物が即座に出てくるのだろうに。
僕は結局普通の人で、目の前でお腹を空かせた幼馴染を満足させてあげる物何ひとつ持っていない。それが何だか酷く悲しい事に思えた。
いいって、いいって、とまるで期待してなかったかのような顔で微笑まれるのも僕の惨めな気持ちに拍車をかけた。
「あっ、そうだ。」
そこで思い出した僕は偉いと思う。
背負っていたリュックを胸の前に抱いて、ファスナーを開けた。片手を突っ込んで目当てのモノを探す。
確かここに入れたと思うんだけど…。あ、あった、あった。
「はい、これあげる。」
差し出した手の平には2つのノドアメ。
飴玉ぐらいじゃお腹の足しになる訳ないけれど、それでも口寂しくは無くなるだろうと思ってのことだ。
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