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寂しい金魚
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「久しぶりだなぁ。大礼も高校生か。早いよなぁ。」
「要さん、その言い方オヤジ臭いよ。」
「そんな言い方するなって。でも俺にとってみれば大礼は周と同じ可愛い弟なんだって。久しぶりに会ってその成長ぶりを愛でたって良いだろう。」
それが親戚のおじさんみたいだって思ったけれど言葉を飲み込んだ。
確か要は大学の陸上部に所属していたはずだった。
夏は遠征、遠征の毎日で実家に帰ってくる暇はないらしい、と周から聞いていたので今ここにいる事が不思議だ。
「ちょっと荷物を取りに実家に戻ってきてたんだ。そしたら今日は夏祭りだっていうからさ。寮に帰る前にちょっと寄ってみようかと思ってさ。」
要はそう言って僕に笑った。笑うと周にちょっと似てる。
目元が弓形に柔らかく形を変えて、優しい雰囲気に変わる。
「駅まで来たら何だか知ってるような奴がいるだろう。だから声を掛けてみたって訳。」
要は僕が一人でいると知って少しだけ夏祭りに付き合って、と言った。あまり時間がないから触りだけ見て帰る予定だそうだ。
周がいないならもう帰ってしまおうかと思っていた僕は少し迷ったけれど要の優しい微笑みを見て思わず「うん」と頷いた。
「そっか、周は練習試合か。遠征だと時間も読めなくて困るよなぁ。」
要はそう慣れたように言った。要もまた陸上部で同じような経験があるんだろう。苦笑いと共に伝えられる。
「昔から周と大礼は仲が良かったよな。今もずっと仲良しでいてくれるのは単純に嬉しいよ。」
「僕は暇だし、周といるのは楽しいから…。周は優しいから僕が心配なのかも。」
「まぁ、周は忙しいだろうなぁ。バレー部、そこそこ強い高校なんだろう?」
「うん。この辺じゃ一番じゃないかなぁ。弱肉強食って言ってたし。」
「ははっ、弱肉強食か。それは気が抜けないよなぁ。」
不思議だけれど、お祭りの提灯の灯りが連なる参道の中を要と歩いているとまるで隣を周が歩いているかのように感じる。
声が……似てるんだ。
低くて落ち着いた声は暗がりの中僕の胸をトクトクと高鳴らせた。
人込みにはぐれないように要の姿を追う。それでも普段から人の多い場所は苦手で殆どいかないからどうやって見失わないようにすればいいのか分からない。
「あぁ、大礼は昔から人込み苦手だったな。うーん、じゃ手でも繋ぐか?」
「流石にそれは…。」
「そうか?周とは繋がない?」
聞かれて、そう言えば周とはどうしていたっけ?と考える。
周はいつも僕に何かを捕まらせていたっけ。周の洋服だったり、リュックの紐だったり。手は…繋いでいただろうか。
「大丈夫だよ。ピッタリ張り付いているから。」
「オッケー。まぁはぐれても大丈夫だろうけど。もう高校生だもんな。」
周と違って要は僕を甘やかさない。歳相応の対応をしてくれる。けれど、それが寂しいとは思わなかった。
周と要は違う。
声が似ていても。同じ仕草や優しい笑みが重なる事はない。
「あっ、大礼、金魚、金魚すくいやろうっ。」
要が金魚が入った水槽の前にしゃがみ込んで僕を呼ぶ。
思わず顔が強張る。
金魚すくいは周とやりたい。周とだけやりたい。
その思いが一瞬顔に現れてしまったのか、要は僕の顔を見て、にっこりと笑うと
「いや、いいよ。でも俺がやりたいから、大礼は見ていてね。」
そう言って腕まくりをした。
―――結果
「ごめん。もっと取れると思ったんだけど。俺、昔はすっごく金魚すくい得意だったんだ。」
「知ってるよ。要さん、いつもお土産に持ってきてくれたもんね。」
ふふ、と思い出し笑いをする。
今、僕の腕には金魚が3匹入ったビニール袋が下がっている。
赤い金魚が2匹、黒い金魚が1匹。
狭いながらもぶつかることなくスイスイと袋の中を泳いでいる。
「これ、本当にもらっていいの?」
「いいって。大体俺これから寮に帰るのに金魚持って電車には乗れないだろ。」
「確かに。」
「透子ちゃんにお土産ね。」
「はい、ありがとうございます。」
軽く頭を下げた。
要はよしよし、と下げた頭を撫でて笑った。
これ以上遅くなると寮に入れてもらえなくなるから、と要は僕に謝りながら金魚すくいだけやって帰ると言い出した。
駅まで見送ると言いながら僕も要について駅へ向かった。
あれから1時間ちょっと。もしかしたら周が帰ってくるかも知れないと期待していたのもあった。
駅への道は益々増える人の波に前へ進むのも苦労した。
行きのように穏やかに会話が出来なくて、僕は要を見失わないように気を付けていたけれど、不意に足を取られて転びそうになり、前を歩いていた要にぶつかった。
「うわっ。」
「ご、ごめんっ要さんっ。」
「やっぱり人多いな。」
苦笑いと共に要が僕の手を取って歩き出した。
「転ばないように、な。」
昔から変わらない優しさが伝わる。
僕と周にとって、要はいつも頼れる兄で、憧れの兄だった。
「……あのさ。」
「ん?」
「周…大礼に気を使って一緒にいる訳じゃないと思うよ。あいつ、昔からお前大好きじゃん。」
「…………。」
「忙しいのは確かで、環境が変わって変化した事だって確かにあるけど、根本的な所は変わってないと思うよ。」
「ど、して?」
不安に思っていたことを言い当てられて驚く。
だって何も言ってない。
世間話みたいな僕たちの近況を話しただけなのに。
「何か悩んでいるみたいだったから、大礼。想像でしかないけど周のことかなって。」
「僕、そんなにあからさまだった?」
「いや、昔からお前たちはニコイチだったから。単純にそう思っただけだよ。」
恥ずかしさに顔が赤くなる。
「でもさ、そんな幼いころからずっと一緒にいたいって人間と巡り会うのって凄い確率なんだってお前たちには気付いて欲しかったんだ。今も一緒にいたいって思うことが大事なんだって思って欲しい。」
要の話はちょっとだけ僕の心を浮上させた。僕が周と一緒にいたいって気持ちを無条件で認めてもらったみたいに思えたから。
「じゃ、また来るよ。今度は周と大礼、2人揃ってるときに会いたいしな。」
軽く手を振って改札をくぐる要の姿を見送る。
姿が見えなくなって、僕はふぅと大きく息を吐いた。
「―――大礼?」
強張った声。
肩に置かれた大きな手。
仄かに香る周の匂い。1日の終わりのちょっと汗臭い匂い。
「周…。」
振り返ると鋭い視線が僕を見ていた。
チラっとさっきまで僕が見ていた改札を見据えて、もう一度視線を僕に戻す。
「あれ、要?要と一緒だったの?」
「う、うん。たまたまここで会って…。」
沈黙が重い。視線は僕の持つ金魚を見つめた。
「金魚すくい、やったんだ……。」
「ちがっ。」
身を捩って周と向き合う。ちゃんと説明したい、そう思って反論しようとしたその時。
「周っ。やっと見つけた~。」
僕と周の間に入ってきた女の子の姿。
周の腕に手を掛けて、嬉しそうに話し掛けている。
「急にいなくなっちゃうんだもん。夏祭りやってるからみんなで行こうって言ったじゃん。」
僕、この子知ってる。この間見たマネージャーだ。
「みんなあっちで待ってるよ。ほら、一緒に行こうよ。あれ?知り合い?」
彼女の目が僕を見つけた。不思議そうに僕と周を見る。
どちらの視線も耐え切れなくて、僕は一番卑怯な事をした。
何も言わず逃げたのだ。
「大礼っっ。」
僕の行動は周にとっては予想外の事だったのか、僕はその一瞬で周の前から姿を消した。
人込みの中を縫うようにただ走る。
後ろから周の僕を呼ぶ声が聞こえたけれど、今の僕は酷く醜い顔をしているから。
だから今は追いかけてこないで、と手首に下げた金魚の袋がプラプラと揺れるのにも構わず走り続けた。
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