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傘があるのに
1.
しおりを挟む土砂降りの荒天に早々に部活を辞めて帰宅するように、と校内放送が流れた。
バド部の面々はいそいそと帰り支度を始めて、我先にと昇降口へ急ぐ。
僕はそんな仲間から1人外れてゆっくりと歩を進めた。僕は周と一緒に帰っていたこともあって、一人遅れている事に注意を払われる事はなかった。
土砂降りの雨の中、学校の置き傘を利用する生徒や、準備良く折り畳み傘を取り出す者でごった返す。ワイワイ賑わっていた昇降口はそれでもしばらくすると徐々に人が減っていった。
僕は迷っていた。
鞄の中にはいつものように入れてある折り畳み傘。
このまま僕一人で帰るのが当然の事なのに、そうしてしまったらもう、僕と周の関係も本当に終わってしまうような気がしたから。
それでもどうすればいいのか、決定的な判断が出来なくて僕は下駄箱の前をウロウロと歩き回った。
その内、遠くの方からバタバタと大人数の足音が聞こえて、聞こえてくる話し声からバレー部の面々だと分かった。
僕は咄嗟に物陰に隠れてしまった。僕の姿を誰にも見られたくなかったからだ。
「うわっ、すっげー雨。」
「あ、俺傘持ってる。」
「置き傘ゲット!まだあと2本あるぜ。」
「俺にも貸して。」
どうやらみんな傘を持ってないらしい。普段なら雨の中飛び出していく人間が何人かいるのに、流石の大雨で無謀に出ていくやつはいなかった。
そんな中、周の名前を呼ぶ声がする。
「周はどうする?傘はもうないから、俺のに入っていくか?」
「ばっか、周はいいんだよ聞かなくて。」
「え、何で?あ、ああ~そっか。周にはあの子がいるんだった。」
「そうそう。じゃ、またな。」
「いいなぁ、周。」
「仲良くなぁ。」
あっという間に去っていったバレー部員の言葉に僕は動きが止まる。
きっと彼女がここにやって来るんだ。
待ち合わせをして、2人で並んで一緒に帰るんだ。
分かっていたじゃないか。周はもう僕と一緒の傘には入らないって事を。
グッと唇を噛みしめた。
そうしないと泣いてしまいそうだった。
パタパタと軽い足音がして、彼女が来たのが分かった。
あ、本当に待ち合わせしてたんだ、と思ったら胸が苦しくなった。
僕は一刻も早くこの場を去りたくてしょうがなかったけれど僕が帰るには周の目の前を通らなければならない。
そんな勇気が持てなくて2人が出て行くまで息を潜めて隠れているしかない。
「あ、いたいた。周、今日こそ一緒に帰ろうよ。雨も酷いし、ね、入っていくでしょ?」
彼女の声は静かになった昇降口では割と響いて、僕の下にも届いた。
その反面、答えた周の声は低すぎて聞き取れなかった。
「え、だって凄い雨だよ。もう校舎に残っているのウチらぐらいだし。一緒に帰ろうよ。傘、私持ってるし。」
何だかもうダメだった。
これ以上聞いていられない。
僕は今まで必死に見つからないように隠れていた事も忘れてわざと大きな音を立てて周たちの前を横切った。
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