【完結】傘に隠れて秘密の話を

塚銛イオ

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傘があるのに

2.

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「大礼っ!!」

 背後で周の声がして、僕は一目散に走った。
 傘を差す余裕なんてなくて、大きな雨粒はみるみる僕の全身を濡らした。

「待て!待てよっ、大礼っ。」

 ストライドの違いなのか、僕は正門をくぐる前に周に捕まった。
 腕を取られ、向き直される。
 はぁはぁ、と息を吐いている周もまた全身ずぶ濡れだ。

「は、離してよっ。雨降ってるんだから、早く帰らないと。」
「離さないっ。離したら、大礼、また逃げるだろう。」
「に、逃げないっ、逃げないよ。」

 そう言い募っても周の手の力は弱まる事はなかった。

「周っ。」

 後ろから遅れて彼女がやってくる。
 彼女はちゃんと傘を差していて、周の姿に驚いていた。

 僕は周と彼女の姿を見るのが嫌で、顔を伏せたままでいた。

「周、彼女、傘持ってるよ。これ以上濡れない内に一緒に帰りなよ。」

 僕の声にピクリと反応した周は、ますますギュっと手に力を込めて僕の腕を掴んだ。

「マネージャー。俺、あなたとは一緒に帰りません。これからも一緒の傘に入る事はありません。何か期待させたのなら謝ります。でも、俺が一緒の傘で帰りたいのはあなたじゃない。すみません。」

 驚いて周を見つめる。
 雨の中、周は真っ直ぐ彼女を見つめていた。
 傘の柄をギュッと握りしめていた彼女は暫くして目元を赤くしながら走り去っていった。

 残されたのは濡れねずみな僕たち2人。
 全く力の弱まらない周に僕はそっと話し掛ける。

「周、腕、痛い…。」

 ハッとしたように力が弱まった。
 もう周から逃げる気なんて全く起きなくて、僕は今更だけど鞄から傘を出して開いた。
 少し逡巡して、



「ははっ、今更だね。……周、入っていく?」



 胸はドキドキとして、果たして僕のこの言葉は正解なのか分からなかった。
 それでも、さっき聞いた周の言葉が僕のなけなしの勇気を後押しした。

 周は、ほんの少し周に向けて差し出した傘をジッと見ていたけれど、微かに「ん」と頷いて僕の隣に入ってきた。

 僕はソッと息を吐き出して、肩の力を抜く。
 そうして、隣に入ってきた周の姿を見つめた。

 久しぶりに間近で見る周の横顔。
 腕が触れて感じる体温。
 柑橘類のような爽やかな周の匂い。

 全部が懐かしくて、それでいて僕の心を騒がせる。前以上に周の存在を意識した。


「傘持ってたのにね。2人ともずぶ濡れだ。」
「本当だな。」

 傘があるのにびしょ濡れなことが凄く可笑しくて、2人で久しぶりに声を出して笑い合った。


 周の頭の向こう。
 空は少しずつ明るくなっているのが見えた―――。


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