【完結】発現遅めの獣人だと思ってたら、まさかで異世界転移者でした。

塚銛イオ

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19.殿下への報告


 泥だらけで薄汚れた僕とルークの姿を見て、門番は素早く城門を開放した。
 切羽詰まった様子のルークにただ事じゃない何かが起こったと思ったのだろう。

「ご苦労。殿下にお目通しを。ノア、休ませてあげたいけどお前を一人には出来ない。俺と一緒に殿下に謁見してもらいたい。」

「う、うん。」

 一刻も早く報告する必要があるとルークが判断したんだろう。足早に通りを駆け抜けどこかを目指している。

「今なら執務室だ。宰相もいるだろう。」

 ルークの後ろを必死に追いかけながら内心で「ひぇ」と悲鳴を上げた。

 そんな偉い人たちのいる部屋に僕なんかが押しかけて怒られない?
 え、僕ただの庶民、平民、異世界人。
 あ、異世界人ってのは珍しいからOK?

 最早何のために執務室へ向かっているのか、混乱していたノアには分からない。
 ただルークの背中を見失わないようにとだけ心がけた。




 コンコン

「入るぞ」


 返事を待たずにルークが部屋へ入る。
 息も絶え絶えなノアは扉にしがみ付くようにしてルークの後を追うと、ドアを閉めたまま扉の前にへたり込んだ・

「はぁっ、はぁっ。」

 歩いてたのに、こんなに息切れしたの初めてだよ。
 まぁ、歩いてたっていうか早歩き?いや、小走り?だったけど、もう。
 く、苦しかった~。

 僕の姿をチラっとみてルークは問題ないと判断したのか、ルークが入ってきた時から緊張を滲ませているオーレリア王太子殿下と(多分)宰相に歩み寄った。

 2人は大きなマホガニーのテーブルの上に地図らしき羊皮紙を広げていた。地図の上には小さなコマのようなチップが置かれていて何か軍事的戦略を練っていたのかもしれない。
 遠目ではよく分からなかったけれど、僕には殆ど関係のないものなので寧ろ見ないようにそっと視線を外した。

 宰相さまはファビアン様と同じ銀狐の獣人のようだった。
 度のきつそうな眼鏡をかけていて、知性的でちょっと冷たい感じがした。

 ルークが近づいて3人がテーブルを囲むように立つとそれだけで名のある絵師が書いた絵画のように見えた。
 3人が3人とも見目が良くて獣人としての力も突出しているように感じられるからだ。
 あれ?でもルークって近衛の副団長じゃなかった?団長の方がきっと強いよね。何でここにいないの、という素朴な疑問はルークの低い声によって遮られる。

「時間を取ってもらってすまない。殿下とゼアには一刻も早く伝えなければと思ってな。」

「ああ、前置きはいいから早く話せ。」

 ゼア宰相はせっかちにそう言う。

「ノアとヴェリタス山脈に智の宝玉を探しに行っていたのは知ってるな。」

「ああ、あのおとぎ話の。」

「まぁそう茶化してやるな、ゼア。」

 殿下のとりなしでルークの一瞬荒くなる気が治まった。

「おそらく山の中腹辺りだと思う。俺たちは突然起きた地面の陥没に巻き込まれてな、そのまま地底まで落ちた。」

「落ちたの、君が。戦闘になれば向かう所敵なしな君が。」

 いちいちゼア宰相がルークに突っかかる。何か2人にはあるんだろうか。

「ああ落ちた。感覚的にはそれ程深くない。ただどこかの横穴と繋がっていたようでな、ノアとその出口に向かっていたんだ。」

「で、何を見た?」

 殿下の瞳がキラリと光って鋭さを増した。

「結論から言えば、俺たちが追ってた大元の物だ。あの出回っている薬物の原料になってるサミラが栽培されていた。洞窟内で隠されて栽培されていたなんてな。」

「そうか、やはり。あれだけの流通量だ。何処かに栽培拠点もあると思っていた。」

「それがヴェリタス山脈だったって訳だ。あそこは確かにおとぎ話のモデルでもあるけれど、主人公が辿ったように、頂上まで登るには険しい山道だし近くに大きな街もない。あるのは既に廃れたような小さな村に、手入れのされていない山道。夜になると襲ってくる野生の動物。あまり人が行きたいような場所ではないからな。」

「ま、そこが狙い目だったんだろうけどね。犯罪者には。」

「犯罪者と言えば…居たか、その場に?」

 その問いに、ルークはチラっとこちらを見た。
 視線が合ってドキリとしたが、ルークは僕を傍に呼ばなかった。

「俺は見ていない。とりあえず栽培されてたサミラの畑を一通り見て回ってた。面積としてはそれ程広くないと思ったんだけどな。洞窟内のどの辺りまで栽培されているのか全貌が掴めなくてな。とにかく犇めきあってそこら中サミラだらけだった。」

「そうか。」

「犯罪者を見てはいないが、ノアは声を聞いたらしい。そうだな、ノア。」

「ひゃっ、ひゃいっ。」

 気が抜けていた僕はルークに突然呼ばれて変な声で返事をしてしまった。あまりにも情けない。
 3人のキラキラしい目が僕を一斉に見ていた。これで緊張するなって言う方がおかしいよ。

 無言の圧を向けられて僕は及び足でルークに近づいた。一番僕を守ってくれそうな人の所に向かうのは本能だよね。
 ルークの隣に着いたと思ったらすかさずゼア宰相が僕に言った。

「君がノアだね、ルークの番の。ファビアンから聞いてるよ。僕はファビアンの兄でこの国の宰相をしているゼアだ。よろしく。」

 ああ、なるほど。ファビアン様のお兄様だったんだ。ひどくすんなりと頭に入ってきたのはファビアン様とゼア宰相の容姿が似ているからかも知れない。どちらも綺麗で知性的だ。

「ファビアン様のお兄様でしたか。ご無礼いたしました。ノアです。ルークの、つ、つ、番です。……まだですけど。」

 最後は真っ赤になって申告してしまった。
 だって、まだルークを受け入れてませんよって申告と同じじゃん。
 やっぱりこれ恥ずかしい。

「そんな事より、ノア、誰の声を聞いた。知っている声だったか?」

 僕とルークが番ってことをそんな事呼ばわりした殿下は僕に近づいてくる。
 ま、そんな事よりも犯罪の方が重要って、分かるけど。

「どんな話だったんだ?一人か?姿は、見たのか?」

 どんどん僕に詰め寄ってくる殿下の圧に元々猫獣人だと思っていた弱小獣性の本能らしきものが反応して僕の身体がプルプル震える。

「殿下、それ以上は近づかないでいただきたい。」

 気付くと、ギュッとルークの胸に抱きしめられていた。
 泥と埃にまみれた旅服のまま謁見にやってきた僕らの服は王族に会うにしてはあまりにも場違いだったけれどルークの匂いが仄かに感じられて安心する。
 プルプルと震えていた身体は次第に治まっていった。

「ほら、殿下はもう少し下がって下さい。はは、凄い面白い。」

 眼鏡の奥でにこやかに笑うゼア宰相は最初の印象よりも笑い上戸で親しみやすいみたい。
 そんなゼア宰相の姿をちょっと睨んでオーレリア殿下は僕から距離を取ってくれた。優しい。

「ノア、大丈夫か?話せる?」

 ルークの心配そうな声にコクンと頷いて、顔を上げる。
 獣人としての性質だから仕方ない事だし、僕は異世界人だけど今まで生きてきた刷り込みみたいな本能的な物でもあるからしょうがないよね。

「え、と。僕、姿は見ていません。でも声は聞きました。2人…3人だったかもしれません。確か直ぐここも見つかるとか、あれが見つかれば破産だ、とか言ってたと思います。」

「ふん、馬鹿なやつらだ。」

「奴らが見られたくなかったのはサミラで間違いないだろう。あれだけ大規模に栽培していたんだ、山裾にあった小さな村の獣人に手伝いを頼んでいたかも知れない。加工なんかも村でやっていたかも知れん。調べてくる余裕がなかった。」

「村には早速調査団を送ろう。洞窟内の調査も一緒にな。」

「でもそうすると犯罪者を捉える事が出来なくなりますよ。向こうもこちらが探っている事は気付いていたみたいですし。」

「既に処分する方向で動いているかも知れないな。」

「その可能性は濃厚かと。せめてノアが洞窟で聞いた声が誰のものだったか分かれば探りも入れやすくなるんだが。」

「何か特徴はなかった?ダミ声だったとか高い声だったとか。何でも良いんだけど。何かヒントになるものが欲しい。」

 うーん、あの時、彼らは特別な事は話してなかったと思う。
 酷く焦っていて大声で話していた事は確かだけど……。

 あ、そうそう、暗くて僕は全く相手の姿が見えなかったんだけど、あの人たちは平気だったな。夜目が利く獣人なんだな。
 ワシって言ってたからちょっと年配者って事かな?
 逃げる前に…何だろう、何か言ってたんだけど…。良く聞こえなかったんだよね。少しずつ離れていくみたいだったし、とにかく僕も怖くてよく分からなかったし…。

「夜目が利くって事ぐらいかも。何か持って歩いていたけどそれが何かは分かりません。逃げる前に何か……何かするって言ってました。それが何か聞き取れなくて…。うーん、何だったかなぁ。よく聞き取れなかった…。でも凄くがめつい感じの話し方だったから出来るだけサラミを売り払いたいって事かも。何かを運び出している感じもしたから…。」

「そうか、分かった。もし何か思い出したら教えてくれ。ルークもご苦労だった。一度家に帰るといい。少しサッパリして休みたいだろう。」

「そういう訳には…。」

 ルークがそう言って断ろうとすると、ゼア宰相は僕の方へ目配せした。

「ノアは疲れてそうだぞ。お前の力はもちろん必要だ。後でもう一度こっちへ顔を出してくれ。それまで対策を考えておこう。」

 ルークは僕の姿に眉を下げると2人に頭を下げて僕を抱きあげた。
 正直、僕はへとへとで立っている事も億劫だったから抱き上げられる事に文句もなかった。

 殿下たちの前で何てことを、と頭の片隅では思ったけれど、もう身体は限界で、僕はルークの腕の中で既にうつらうつらしていたし、何とか気合で殿下に挨拶はしたと思う。
 その記憶さえないけれど。

「さ、帰ろう。」

 ルークがそう言って額にキスを落とした瞬間、僕はスンと眠りに入った…。
 ルークのキスは魔法みたいだった。


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