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28.救出劇②
「ルークッ!」
僕は力の限り叫んだ。
けれどルークには聞こえてないかのようにピクリとも動かない。
僕の方には自分の身体として認識できる物体があるのに、向こうから見ると僕の身体はモヤと一体化してしまって見当たらない空気と一緒になってしまっている。
これじゃルークの姿を見る事は出来ても、触れられないし、話せない。
ルークが怪我をしているのなら助けてあげたいのに何も出来ない…。
僕は悲しみのあまり涙が出てきた。一体どうしたらいいのだろう…。
「んっ…。な、何?この霧…。」
声がして、ハッと気づく。
ルークの陰になってよく見えなかったけれど、ファビアン様が縛られたままの状態で横に転がされていた。
普段サラサラと流れるような銀色の髪は薄汚れ、ぐしゃぐしゃと絡まりいつもの面影がない。
殴られたような跡はないが、土埃にまみれたせいで、頬にも黒い筋が付いていた。
こんな姿をオーレリア殿下が見たらと思うと肝が冷える。
(ファビアン様っ、ファビアン様っ)
霧の状態のまま同じようにファビアン様を呼ぶ。
ルークは気を失ったままだから僕の声が届かなかったのかも知れないし、ファビアン様は転生者だ。
僕とは違う能力があるかもしれない。
(ファビアン様っ、気付いてっ)
ふわん、ふわん、と霧状の僕は必死で手を伸ばす。
すると、風もないのに、霧がふわふわと揺れた。
「あれ?この霧変だ…。何か僕の方に向かってきているような…。」
(そうです、そうです。僕です。ノアです。)
「ううん、と。何か霧の話を何処かでしたような…。」
(そうです!僕がネフェリリスさまとお会いした時、霧のような状態になったって話ましたよね!)
うんうん唸って何かを思い出そうとしているファビアン様に、応援するかの様に霧を巻き付ける。
傍から見たら、そこだけモヤに包まれていてきっとおかしな状態になっているだろう。
(僕なんです。ノアなんです。助けに来たんです。怪我は?ルークも大丈夫なんでしょうか?)
滅多な事では獣人は死なないと聞く。特にルークのような力の強い獣人は。
それだけ身体が頑丈何だろう。
僕よりも儚げで淑やかな風情のファビアン様だって、埃にまみれてはいても怪我をしたようには見えない。
「あっ!これもしかしてノア?ノアじゃない?」
ビンゴ!!
ファビアン様の柔軟な思考と記憶力で僕の事を思い出してくれたようだ。
「この纏わり付く感じ。嫌いじゃないね。で、ノアがルークの安否を求めて霧になって探しにきたって訳だね、おそらく。」
こんなに頭の回転の速い人だっただろうか。ほぼ正解な答えを導きだしたファビアン様に嬉しくなって抱き着いた。
すると、ひんやりとした心地がしたのか、ファビアン様がブルリと震えた。
(あ、すみません。)
慌てて距離を取ると、白い霧もまた一緒にその場を離れた。
「へ~面白い。よく見れば口とか手とかあるのかな?」
状況が状況だけに、ゆっくりとファビアン様の話に付き合ってはいられない。
焦る僕とは対照的にファビアン様は霧状の僕に興味深々だ。
(今はそれどころじゃないんです!)
そう訴えるように、今度はルークの方へ手を伸ばす。
ルークの身体をファビアン様から隠すかのように僕で覆い尽くす。
霧であっても、ルークの身体が暖かくなるように祈る。
「うっ、うぅ……。」
(ルークっ、ルークっ!)
呻き声が聞こえて徐々に意識が戻ってきている様子が見えた。
僕は急いでファビアン様の元へ戻り、何とかこの場所を知りたい事を伝えようと思った。
(ファビアン様、ここって何処ですか?知ってる事があるなら教えて下さいっ)
ふわふわ、ふよふよ。
まるっきり空中を漂ってばかりでラチがあかない。
(あ~どうしたらいいんだっ。)
僕はファビアン様の周りをウロウロしているだけで何も助けになってない。
ああ、本当にファビアン様に僕とは違う特別な力があればいいのにっ。
自分の不甲斐なさが悔しいとファビアン様に抱き着いてワンワン泣いた。
霧が湿っぽい感じになって、ヒンヤリ感が増したようだ。
「うわっ、冷たっ。」
ファビアン様が慌てて霧から離れるとコロコロとこぼれ出てくる物がある。それは仄かに輝いてキラキラと光っていた。
(あっ!願いの玉だっ。そうだっ。こうすればっ!)
僕は願いの玉へ霧の手を伸ばし、願いを唱える。
(願いの玉よ、お願いです。ファビアン様に今この状況を打開できる能力を与えて下さい。そして僕の大切な番を無事に僕の下へ返して下さい。お願いです、お願いです。)
具体的な能力が思いつかなくて、あまりにも無責任なお願いだって分かってる。
それでも、今、意識がハッキリしているのはファビアン様だけで。
転生者であるファビアン様なら僕よりも特別な能力を活用できる力を持っているだろうと思われる。
そして、きっと悪用するような危険性もない。
だからこそ、僕はファビアン様へ能力を与える決断をした。
玉はあと2つあった。
まだ大丈夫。僕の為にあと1つ使える。
玉へと願いを込めながら、僕は玉が光り輝き、パリッンと割れる音が響いた。
そして僕の意識は薄れ始め―――ファビアン様とルークの前から消えて行く。
「ファビアン様っ。王宮へっ、王宮で殿下が待ってますっ」
僕の声が聞こえたかのように、ファビアン様は僕の言葉に力強く頷き返した。
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