【完結】発現遅めの獣人だと思ってたら、まさかで異世界転移者でした。

塚銛イオ

文字の大きさ
30 / 45

30.力の種類



 倒れ込んでいるファビアン様とルークの姿を見て俺が大きな声を上げたからか、直ぐに隣部屋にいた殿下たちが駆け込んできた。
 一目散にファビアン様に駆け寄るオーレリア殿下の姿は2人の容姿端麗な外見もあって有名絵師が書いた一枚の絵画のように尊いものだった。

(はわわっ。すっごい。)

 一瞬目を奪われたけれど、僕も一目散にルークへ向かう。
 霧状の僕はルークに触れる事さえ出来なかったから、今彼がどういう状態なのか心配でならない。

「ルークっ、ルークっ。」

 呼びかけて身体に触れる。
 いつもはピンと立ち上がっている耳はへにょりと力なく垂れている。
 普段艶やかな尻尾も床に転がされていたからか、埃まみれで薄汚れていた。

 そして何より、ぐるぐると縄が蛇のようにルークに巻き付いて縛られている様子は何だかゾッとする。
 ルークはいつもこんな危険と隣り合わせの仕事をしているのかと思うと胸が締め付けられるようだった。

「ルーク…。縄を解いてあげるからね。」

 勝手に涙が浮かんできた。僕が泣くのは間違っていると分かっているけれど。
 僕は固い結び目を必死になって解いた。後からナイフで切れば良かったのに、と言われ自分がパニック一歩手前だったと思い至った。

「ルーク…痛かったでしょ。ごめん、僕が助けてあげられなくて。」

 ルークの居場所を探したのは僕かも知れないけれど、結果的にルークを助けてくれたのはファビアン様だ。僕は霧の状態でルークの周りをふわふわ漂っている事しか出来なかった。
 願いの玉で万能の力を手に入れられると言われていたって、僕が得たのは番の安否を知るための千里眼のような目に霧状になって番を探す能力でしかない。
 触れる事も出来ず、ただ番の惨状を見つめる事しか出来ないこの力に価値があるのだろうか。

「うっ、うっ…‥。」

 泣きながら縄を解いたルークの身体に触れる。ルークの手首には縛られた縄目の痕がくっきりと残り、擦れて皮膚が赤く剥けていた。
 そっとその手首に触れる。
 きっとこんな風に触れるだけでも痛みがあるだろう。そう思うとまたしても涙が出てきてしまう。

「ノ…ア……?」

 ピクッ、ピクッと指先が動き出す。ルークの掠れた声が僕の名を呼ぶ。

「ルークッ。」

 そろそろと瞼が開き、視点の定まらなかったルークの瞳が僕を映した。

「ノア……。」

 その瞬間、安心したように微笑んだルークの姿を見て、僕は年甲斐もなくオイオイと大声で泣いてしまった。
 今まで何とか抑え込んでいた嗚咽も、全て押さえる事など出来ない。
 ルークの意識が戻った事で、僕の気も緩んだようだった。

「…泣く、な…。俺は…大丈夫だ、から。」

 まだ声を出すのが苦しそうではあったけれど、意識を取り戻し、ルークが言葉を発した事で僕だけじゃなく、周りのみんなもホッとしたのが分かった。

「ルーク、その状態で大丈夫ですか?と聞くのは気が引けますが…大丈夫ですか?」

 ゼア宰相が言ってる事は謎かけ問答みたいだ。
 それでもルークは宰相の言葉に軽く頷いて答えてみせた。

「よろしい。ファビアンの方も問題はなさそうです。とりあえず、あなたとファビアンの意識が戻ってから何があったのか聞こうと思っています。ファビアンが意識を取り戻すのはもう少し時間がかかるでしょうし、あなたも一度医師の診断を受けて下さい。」

「あのっ、僕は一緒にいてはいけませんか?ルークの傍にいたいんです。」

 宰相にそう願い出た。
 ずっと離れていた番の傍を離れたいなどと誰が思うか。

 ゼア宰相は僕とルークを見て、次にファビアン様とオーレリア殿下の姿を見た。
 そして、納得した顔で頷くと、僕に許可をくれた。

「いいですよノア、ルークと一緒にいて下さい。いいですか、ルークは直ぐに仕事をしようとするので体力が回復するまで無茶は厳禁です。絶対安静。ちゃんと守らせて下さいね。」

 そう言ってにっこり笑うゼア宰相の顔は怖い。
 僕はコクコクと頷くしか出来なかった。

 近くにいた侍従に指示を出し、ルークが別室に運ばれた。
 僕もその後を追おうとした時、ゼア宰相に呼び止められる。

「ノア、さっきの話ですが…。」

「はい、ファビアン様の力の…。」

「シッ。誰が聞いているか分からないんですよ。もっと小さな声で話なさい。」

 咎められて身が引き締まる。

「その話はここでは御法度。殿下とファビアン様がいらっしゃる時にしましょう。あなたにして欲しいのは、ルークの傍から離れず、誰も近寄らせないようにしなさい。今回の事…内通者がいる可能性が高い。この城だって安全とは言い難いのかも知れません。いいですね、ルークの傍を離れず、そしてルークから出来るだけ情報を引き出して下さい。覚えてない事も多いでしょうが私たちが気付いてない事を知っているかもしれません。」

 大役を仰せつかった騎士さまみたいに。僕はゼア宰相に頭を下げた。

「絶対にルークの傍を離れません。僕、ルークを守ってみせます。」

 その言葉にゼア宰相は破顔して僕の頭を撫でる。

「頼みましたよ、ノア。」

 もう一度大きく頷くと、僕はルークの後を追った。



感想 1

あなたにおすすめの小説

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って? いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

引きこもり魔法使いが魔法に失敗したら、ヤンデレ補佐官が釣れた。

零壱
BL
──魔法に失敗したら、脳内お花畑になりました。 問題や事件は何も起こらない。 だが、それがいい。 可愛いは正義、可愛いは癒し。 幼児化する主人公、振り回されるヤンデレ。 お師匠やお師匠の補佐官も巻き込み、時には罪のない?第三者も巻き込み、主人公の世界だけ薔薇色・平和が保たれる。 ラブコメです。 なんも考えず勢いで読んでください。 表題作、2話、3話、5話、6話再掲です。 (同人誌紙版需要アンケート実施中) アルファ表紙絵は自力©️零壱

聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。 三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。 そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。 BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない

波崎 亨璃
BL
ーーー呪われた辺境伯に捕まったのは、俺の方だった。 異世界に迷い込んだ駆真は「呪われた辺境伯」と呼ばれるレオニスの領地に落ちてしまう。 強すぎる魔力のせいで、人を近づけることができないレオニス。 彼に触れれば衰弱し、最悪の場合、命を落とす。 しかしカルマだけはなぜかその影響を一切受けなかった。その事実に気づいたレオニスは次第にカルマを手放さなくなっていく。 「俺に触れられるのは、お前だけだ」 呪いよりも重い執着と孤独から始まる、救済BL。 となります。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

推しの運命を変えるため、モブの俺は嫌われ役を演じた

月冬
BL
乙女ゲームの世界に転生した俺は、ただのモブキャラ。 推しキャラのレオンは、本来なら主人公と結ばれる攻略対象だった。 だから距離を置くつもりだったのに―― 気づけば、孤独だった彼の隣にいた。 「モブは選ばれない」 そう思っていたのに、 なぜかシナリオがどんどん壊れていく。 これは、 推しの未来を知るモブが、運命を変えてしまう物語。

転生?憑依? 中身おっさんの俺は異世界で無双しない。ただし予想の斜め上は行く!

くすのき
BL
最初に謝っておきます! 漬物業界の方、マジすまぬ。 &本編完結、番外編も! この話は――三十路の男が、ある日突然、ラシェル・フォン・セウグとして異世界におりたち、ひょんな事から助けた8歳の双子と婚約して、ゴ◯チュウもどきから授かった力で回復薬(漬物味)を作って、なんか頑張るコメディーBLです!

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。