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30.力の種類
倒れ込んでいるファビアン様とルークの姿を見て俺が大きな声を上げたからか、直ぐに隣部屋にいた殿下たちが駆け込んできた。
一目散にファビアン様に駆け寄るオーレリア殿下の姿は2人の容姿端麗な外見もあって有名絵師が書いた一枚の絵画のように尊いものだった。
(はわわっ。すっごい。)
一瞬目を奪われたけれど、僕も一目散にルークへ向かう。
霧状の僕はルークに触れる事さえ出来なかったから、今彼がどういう状態なのか心配でならない。
「ルークっ、ルークっ。」
呼びかけて身体に触れる。
いつもはピンと立ち上がっている耳はへにょりと力なく垂れている。
普段艶やかな尻尾も床に転がされていたからか、埃まみれで薄汚れていた。
そして何より、ぐるぐると縄が蛇のようにルークに巻き付いて縛られている様子は何だかゾッとする。
ルークはいつもこんな危険と隣り合わせの仕事をしているのかと思うと胸が締め付けられるようだった。
「ルーク…。縄を解いてあげるからね。」
勝手に涙が浮かんできた。僕が泣くのは間違っていると分かっているけれど。
僕は固い結び目を必死になって解いた。後からナイフで切れば良かったのに、と言われ自分がパニック一歩手前だったと思い至った。
「ルーク…痛かったでしょ。ごめん、僕が助けてあげられなくて。」
ルークの居場所を探したのは僕かも知れないけれど、結果的にルークを助けてくれたのはファビアン様だ。僕は霧の状態でルークの周りをふわふわ漂っている事しか出来なかった。
願いの玉で万能の力を手に入れられると言われていたって、僕が得たのは番の安否を知るための千里眼のような目に霧状になって番を探す能力でしかない。
触れる事も出来ず、ただ番の惨状を見つめる事しか出来ないこの力に価値があるのだろうか。
「うっ、うっ…‥。」
泣きながら縄を解いたルークの身体に触れる。ルークの手首には縛られた縄目の痕がくっきりと残り、擦れて皮膚が赤く剥けていた。
そっとその手首に触れる。
きっとこんな風に触れるだけでも痛みがあるだろう。そう思うとまたしても涙が出てきてしまう。
「ノ…ア……?」
ピクッ、ピクッと指先が動き出す。ルークの掠れた声が僕の名を呼ぶ。
「ルークッ。」
そろそろと瞼が開き、視点の定まらなかったルークの瞳が僕を映した。
「ノア……。」
その瞬間、安心したように微笑んだルークの姿を見て、僕は年甲斐もなくオイオイと大声で泣いてしまった。
今まで何とか抑え込んでいた嗚咽も、全て押さえる事など出来ない。
ルークの意識が戻った事で、僕の気も緩んだようだった。
「…泣く、な…。俺は…大丈夫だ、から。」
まだ声を出すのが苦しそうではあったけれど、意識を取り戻し、ルークが言葉を発した事で僕だけじゃなく、周りのみんなもホッとしたのが分かった。
「ルーク、その状態で大丈夫ですか?と聞くのは気が引けますが…大丈夫ですか?」
ゼア宰相が言ってる事は謎かけ問答みたいだ。
それでもルークは宰相の言葉に軽く頷いて答えてみせた。
「よろしい。ファビアンの方も問題はなさそうです。とりあえず、あなたとファビアンの意識が戻ってから何があったのか聞こうと思っています。ファビアンが意識を取り戻すのはもう少し時間がかかるでしょうし、あなたも一度医師の診断を受けて下さい。」
「あのっ、僕は一緒にいてはいけませんか?ルークの傍にいたいんです。」
宰相にそう願い出た。
ずっと離れていた番の傍を離れたいなどと誰が思うか。
ゼア宰相は僕とルークを見て、次にファビアン様とオーレリア殿下の姿を見た。
そして、納得した顔で頷くと、僕に許可をくれた。
「いいですよノア、ルークと一緒にいて下さい。いいですか、ルークは直ぐに仕事をしようとするので体力が回復するまで無茶は厳禁です。絶対安静。ちゃんと守らせて下さいね。」
そう言ってにっこり笑うゼア宰相の顔は怖い。
僕はコクコクと頷くしか出来なかった。
近くにいた侍従に指示を出し、ルークが別室に運ばれた。
僕もその後を追おうとした時、ゼア宰相に呼び止められる。
「ノア、さっきの話ですが…。」
「はい、ファビアン様の力の…。」
「シッ。誰が聞いているか分からないんですよ。もっと小さな声で話なさい。」
咎められて身が引き締まる。
「その話はここでは御法度。殿下とファビアン様がいらっしゃる時にしましょう。あなたにして欲しいのは、ルークの傍から離れず、誰も近寄らせないようにしなさい。今回の事…内通者がいる可能性が高い。この城だって安全とは言い難いのかも知れません。いいですね、ルークの傍を離れず、そしてルークから出来るだけ情報を引き出して下さい。覚えてない事も多いでしょうが私たちが気付いてない事を知っているかもしれません。」
大役を仰せつかった騎士さまみたいに。僕はゼア宰相に頭を下げた。
「絶対にルークの傍を離れません。僕、ルークを守ってみせます。」
その言葉にゼア宰相は破顔して僕の頭を撫でる。
「頼みましたよ、ノア。」
もう一度大きく頷くと、僕はルークの後を追った。
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