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41.ルークを助けたい。
「ぐぅ、ぅ…‥。」
ポタリ、ポタリ。
温かい温もりに包まれてそろりと目を開けると、僕の身体は後ろからルークに抱きしめられていた。
本当なら深い安堵に包まれるはずなのに、不安で押し潰されそうになる。
ドクドクと鳴る心臓の音がうるさい。
唸り声のようなくぐもったルークの声が口から漏れて、そのたびに鉄臭い匂いがする。
目の前の床にポタポタと落ちてくるのは赤い色で。
それが血だと、少し遅れて僕の脳が理解した。
「ル、る、く?」
「だ、大丈夫、か……?」
苦しそうに言葉を発するルークの姿が目に入っているのに処理能力が追い付かない。
はぁ……と息を吐く事さえ辛そうなルークの脇腹に長い剣が刺さったままなのが見えた。
「そ、それ……け、血、血が…‥‥。」
「だいじょ…ぶ、だ。」
そう言って僕を安心させようと微かに笑うルークの顔色は青を通り越して真っ白だ。
尋常じゃない様子が僕にだって分かる。
これで大丈夫なはずがない。
後ろでデジット伯爵が数人の近衛兵に取り押さえられているのが見えた。
ルークに刺さったままの剣を見て愉悦に浸る表情を見せている。
「はっ、いいザマだな。その剣、抜いた途端血が噴き出てくるだろうよ。貴様は死ぬっ。はははっ。」
その言葉にハッとルークの顔を見ると、額に脂汗を滲ませて苦しそうにしている。
「ルークっ!!」
ドサリ、と僕の身体の上から横に倒れ込んで、ルークの身体は離れた。
微かに息をするルークの様子に、僕はどうしたらいいのか分からずオロオロとするばかりだ。
「る、ルーク、どうしたらっ。この剣、剣をどうにかしないとっ。」
そう思っても、さっきのデジット伯爵の言葉を聞いている以上剣を抜く事が出来ない。
この剣を抜いてしまったら、致死量の出血になってしまう。
いくら強靭な肉体を持つルークでも、出血量が多ければ死んでしまうのは僕たちと同じだ。
とにかくこの剣をどうにかしないと。
抜いて直ぐに傷を塞ぐ、とかどうだろう。
ああ、でも血が噴き出たら止血なんて出来っこないし。
傷口を塞ぐ方法ってないものなのか。
前にファビアン様が言っていた魔法みたいな奇跡の力で傷を塞ぐ事って出来ないのだろうか。
「き、傷を……。とにか、く、傷、を……。」
ルークの傍に寄る。
僕は涙を流しながらルークの手を取る。
「ルークっ、ルークっ、頑張って、死なないでっ。」
冷たい手だった。
既に体温が失われているかのような。死がすぐそこまで近づいているかのような。
そんな冷たい手を僕は必死に温める。
「冷たいっ。ルーク、ね、目を開けていて。僕を見てっ。お願い、独りにしないでっ。」
必至でルークに呼びかける。
微かに息をしている様子のルークは僕の声にピクリと反応を見せて目をうっすらと開けた。
「ルークっ!!」
「ノ、ア……………。……た。あ………てる……。」
「ルークっ!!!!!」
ガクリ、とルークの身体から力が抜けたのが分かった。
最後に僕に告げた言葉も、掠れて聞こえなかったけれどちゃんと分かった。
それでも僕は認められない。
ルークの魂がこの世からいなくなるだなんて。
そんな事あって良いはずがない。
僕の番。僕の魂。
少しずつ火が消えていくかのように薄っすらとルークの気配も消えていく。
そんなっ、そんな事っ、させないっ!!!
「ルークっ、ダメだよっ。死んじゃダメだっ。行かせないっ。僕を置いてなんて行かせないっ。ルークっ、死なないでっ。ずっと僕と一緒にいてっ。」
僕の中の全てがルークの為に祈っていた。
ルークの存在を繋ぎ止めようと必死で叫んでいた。
ルークッ、ルークッ、ルークッ!!
すると…ぼわっと僕の身体が白く光って、次第にその光は大きく強くなった。
あまりの眩さに僕は目を開け続ける事が出来ずギュッと目を瞑る。
それでも繋いだルークの手は離さない。
絶対に、何があっても離さない。
光は暖かく僕とルークの身体を包み込んでいく。そう、この光には覚えがあった。
ああ、これはきっと願いの玉だ……。
僕が持っていた最後の一つが、僕の想いに応えてくれたんだ。
僕がルークを助けたい、と願ったその想いを受け止めてくれたんだ。
そう気付いた時、僕の心は大きな安心感に包まれた。
もう大丈夫。
きっとルークは大丈夫だ。
ルークの身体に必死にしがみ付いていた僕はそう確信すると呼応するように意識が途切れた。
「…ノアちゃん。……もう起きなさい、ノアちゃんっ。」
「ふえっ?」
鼻をギュッと抓られたような気がした。
目の前には光り輝く金色の美人なお姉さん。
「ネ、ネフェリリスさま?」
「そう、ネフェリリスよ。ノアちゃん、おはよう。」
「おはようございます?」
「や~~ん、やっぱりノアちゃん可愛いっ。久しぶりねっ。元気だった?」
「げ、元気?です…よ?あ、あれ?」
キラキラした光に包まれたネフェリリスさまの姿は以前会った時と同じように美しく、温かいオーラのようなものに包まれているようだった。
僕はその姿に圧倒されて、いまさっきまでの自分が置かれた現状を忘れてしまい、ぽうっと惚けてしまった。
「ノアちゃん?ちょっと大丈夫?」
「え、え?」
「もうっ、しっかりして。ノアちゃんさっき願いの玉使ったでしょ。」
「あ、はいっ。使いましたっ。そう、ルークっ、ルークの為にっ。」
「落ち着いて。ルークなら大丈夫。あなたの願いを受けて傷は全て治っているし、剣は抜け落ちたわ。」
その報告を聞いてホッとする。
ルークの命が助かったと女神さまが言っているんだ。間違いないだろう。
「良かった……本当に良かった……。」
泣きながら安堵する僕の姿を見つめながら、ネフェリリスさまはにっこりと笑う。
「あなたったら自分の為に願いの玉を使わないんだもの。本当お人好しねぇ。」
ネフェリリスさまの指摘に何となく照れる。
そんな良いものでもない。
僕の力がなかっただけだ。
だから願いの玉にお願いするしかなかったのに。
「ファビアンにもルークにも、ノアちゃんが受け取るべきスキルをあげてしまったんだもの。それはやっぱりお人好しだと思うのよ。」
「でも、僕には分不相応な力でしたよ。そんなに持っていても僕はうまく使えません。」
「ふふふ。ノアちゃんは欲がないのねぇ。」
ネフェリリスさまはそう言って慈愛のこもった瞳で僕を見た。
「あの…ルークはどんな力をもらったんですか?僕はルークが死なないで欲しいって願ってしまった。もしかして僕のせいでルークは不老不死になってしまったんじゃ……。」
その可能性に思い当たって僕は顔色を無くした。
勝手に不老不死にしてしまったなんて言ったらルークはどう思うだろう。
おろおろと慌てだす僕にネフェリリスさまはまた、ほほほ、と笑った。
「大丈夫よ。ルークは不老不死にはなってないわ。そうねぇ、前よりももっと強靭な肉体を得たって位かしら。もちろん他にも不随した力はあるけれど、あなたが願った思いはほぼ完全に叶ったと思うわ。」
「僕が願った事?」
「そう。ノアちゃん僕を独りにしないでって願ったでしょう?だからあなた達の命は一つになっているわ。どちらかが死ねばどちらも死ぬ。同じ命を共有することになったの。」
「ええっ、そんなっ。」
「いいじゃない。番なんだもの。きっとルークも満足してくれると思うけど。」
「で、でも勝手にそんな事にして、僕、ルークに何て言ったらいいのか……。」
それなら、止める?
とネフェリリスさまの言葉が聞こえた。
「ノアちゃんが気に病むなら、その願い変えてあげてもいいわ。もちろんルークの怪我は直してあげるし、命も元に戻してあげる。」
「ほ、本当ですかっ。」
「ええ、完全に元通りにしてあげてもいいわ。ただ、条件があるの。」
「条件?」
「ええ、条件は……ノアちゃんが元の世界に戻る事。」
「え?」
「そして、こっちの記憶も全て忘れてしまう事、よ。」
衝撃から、ニッコリと笑ったネフェリリスさまの顔に笑い返す事は出来なかった……。
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