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18.その電話、無音である。

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「靖さん!? 靖さんっ!!!」

 私の25年という人生の中で、恐らく一番大きな声を張り上げただろう。

「……靖……さん……」

 私はその場に泣き崩れた。

 いや、違う、今日の私の運勢は
 私の中の将棋占いが、そう言っていたのを咄嗟に思い出した。

 涙も鼻水も垂れ流しながら、急いでスマホを耳に当てる。


 ――無音。


 私は急いで立ち上がり、冷静にスマホの画面を操作して119番に電話を掛け、会社の正面玄関へと走った。

「――もしもし、火事ですか。救急ですか」

「救急です!」

 玄関を飛び出すと、真っ直ぐ近くの歩道橋を目指して駆ける。

「京橋駅東口から――はい、そうです。そのファーストフード店の近くで、事故が発生しました」

 あの時、通話が途切れる瞬間。
 私もたまに行くファーストフード店のドアが開閉する特徴的な音がしたのだ。

 さぁ、落ち着け私。
 現場を推測して、盤面を並べろ。

 靖さんは会社方面へ向かっていたとすると、道路の車線はあっち側。

「――はい、そちらの車線です」

 目撃情報もあるだろうし、救急車の手配も、現場に居合わせた人が通報したはずだ。

 1秒でも早く、彼を助けたい。

「――はい。私は、紀国安奈です!!」

 最低限の情報で救急車を手配し、同時に現場近くまで走ってきた。
 息が苦しい。心臓がはち切れそう。

「はぁ……はぁ……靖さん……」

 ミニバンが車線をはみ出して歩道へ突っ込み、電信柱に衝突している状況だった。
 車両のフロントガラスは大破して、周囲に散乱している。

 近くで泣いている子供とその親がいる。
 怪我をしている様子は無かった。

 そう、どこにも血痕が見当たらないことが幸いだった。

 靖さんは無事なのだろうか。姿が見当たらない。


 ――突如、背中から誰かが私の名前を呼んだ。

「ひゃうっ!!?」
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