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第一章「悪役の運命」
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しおりを挟む例の頼まれごとを引き受けただけで気力が出るって、どんだけ楽したかったんだ……!?
思わず二度見をする。
生気が宿る程の回復ではなかったみたいだけど、とりあえず協力しとこうという面持ちではある。何故そこまでして面倒事を回避……いや、これは僕もよく至る思考だから置いておこう。
何はともあれ、当分生きる気力が出来たなら良かった……けど出来れば僕が力になってあげたかったな。
定番(になる予定)の魔法授業がやっと作戦会議になったところで、現状把握の確認をしていく。
「えーっと、ククーナ嬢が言っていたゲームのことなんだけど、既にオマットには話してあるから」
「あっ、はい」
「オマット。大体の内容は(僕の代わりに)覚えているよね?」
「勿論です」
その言葉と共にテーブルに置かれるのはまたしてもお手製の本。ねえ、君真面目すぎない? 律儀にまとめてきてくれたんだね。ありがとう、メモを埋めなくて済みそうだよ。
心の中で配慮が素晴らしい彼に感謝をしつつ、振り返る。ここがゲームの世界だということ、僕とククーナは悪役であるにも関わらず魔力があまりにも無いこと、オマットは攻略対象らしいこと、今は本編前らしいこと。聖女が登場も気になるけど、全部気になる。
気になることがあればすぐ言うようにと告げると、早速オマットが手を挙げる。
「本編とはいつからなんだ?」
それは僕も気になってたけど果たして覚えているのか。
「私と殿下が十七歳の時です」
おお、覚えてる! でも結構近いなー? おかしいな、後五年……五年しか……。
彼女が覚えていることに感動しながら、焦りを含めてにっこり向かい側に座る二人に微笑む。
「五年以内に僕達は悪役になると?」
「そういうことにだろうな……」
「そうですね。ヤバい何かがその内あるんでしょうね」
「いや見つけようよそこぉ!!」
相変わらず他人事のように言ってのけるし動く気が無さそうなククーナ嬢に対して勢いよく突っ込む。すると不思議と憧憬の念を込めた眼差しで「その調子」と言われた。どの調子?
彼女の隣で笑いを堪えるオマットが見えているのもあり、僕はコントやってる訳じゃないんだよ!? と訴えたくなる気持ちを抑える。
「……で、今まで面倒そうだから訊かなかったけど攻略対象っていうのは?」
「このゲームの主人公……ヒロインは聖女。その聖女が誰か一人を選んで……は言いましたよね? ヒロインに選ばれる可能性のある男性達のことです。婚約者候補ってところですかね」
分かりやすい! いつもより流暢だ!
確実に覚えてる範囲だったんだろうな、良かった……ちょっとでも分かって良かった……。
いや待って? 攻略対象の意味は分かったけど結局僕なんでしょ?
更に増えた疑問を訊いてみる。
「えっ、でも最終的に誰選んでも僕のところに来るんでしょ?」
「はい。来るっていうか、スチルきらきら愛の囁きって感じで」
「いや、それあんまり意味変わってないよね?」
出た、スチルきらきら愛の囁き。前にも言ってたけど一体どんな言葉を言ったんだ未来の僕……。
苦い顔をしていると「……俺はそんな優柔不断な者に好かれるのか……?」と珍しくオマットも苦い顔をした。
でも確かに嫌だよなあ。恋人いるのに他行くんだもんなあ。
まだ見ぬ聖女に警戒心を高める。
「それって何人いるの?」
「えっとですね」
うろ覚えですが、とククーナ嬢が開かれた本の中に羽ペンで書き足していく。
abc……と書いた後に名前を書こうとして断念したようだ。覚えていなかったのかもしれない。頑張って!! 頑張って思い出して!
「……名前……」
あ、そっか。
彼女は死ぬほど人の名前を覚えるのが苦手……! 攻略対象の名前一覧を作るのも一苦労なのか……!
得手不得手の定めを見た僕は、あまりにも進まない手の動きを遮り「いいよ。それぞれの内容とかでも」と勧める。あまりにも名前で唸っていたので、僕とオマットの名前は僕達で書き足すことになった。
ひとまず書いてもらった内容を見る限り、全部で五人。五人の内一人は隠しという、条件を満たせば攻略出来る人物らしい。
「殿下がaで、デモットがdのはずなんですけど……まあ出会えばなんとなく思い出せると思います」
「ククーナ嬢。手遅れの時に出会ってもいいかと考えているなら思い直した方がいい」
その時には敵対しているだろうから必然的に俺の魔法(恐らく移動手段)、使えないぞ。とにっこり言う彼の言葉にさーっと青ざめていく彼女。
どんだけ楽したいんだ。というか本編始まっても移動頼る気満々だったんだね?
怠惰の為に何か考え出し、思い付いたように言う。
「……隠しは! 皇族だったと思います」
「へー、皇族……えぇ……」
皇族といっても多いから絞るのは難しいのでは……男性である弟達だけでも五人いる。その五人全員と会うのはなかなかに……厳しいんじゃないかな、普段スパルタな勉強とかに追われているし。
皆熱心だからね。部下に押し付けてる僕とは違って……あ。熱心だから夜会とかには出るかな、一応僕皇太子だし。婚約者にも挨拶しようと来てくれるかも。
「ククーナ嬢、夜会に出れば全員と会えるかもよ?」
可能性の高い提案したつもりだが、彼女にとっては凄く嫌なことだったらしい。「夜会なんて面倒なの嫌です」と断られてしまった。分かるけど。
他に書いてある内容はざっとこう。
a
『シルヴィ=クイント・ガーラ。ガーラ帝国第一皇子である皇太子。傲慢で常に相手より優位に立っていないと気が済まない性格で、民を虐げる暴君として君臨している。未だに皇太子であることには何か理由があるようで……?』
b 何かチョコレートみたいな……
『名前省略。◯◯の息子。勘が鋭く洞察力に長けており、◯◯あるところに◯◯と呼ばれる程◯◯に目がない。趣味は読書』
c 何か牛乳みたいな……?
『名前省略。◯◯◯◯の息子』
d
『オマット・スイートヘリー。天才魔術師と名高い公爵子息。辛辣で手厳しめな一面もあるが、常に中立であろうと心掛けている生真面目な性格をしている。神獣の話題に反応しやすい』
e(隠し) 確か皇族
『ガーラ帝国第◯皇子。才色兼備な◯◯◯で、兄である◯◯◯◯とは仲が良い。民に好かれ、他の兄妹とも上手くやれている為、主人公の相談にも快く乗ってくれる。毒舌なのが玉に瑕』
顔を手で覆いながら「紹介の時点で俺の趣味が公開されている……」と恥ずかしげな様子を見せるオマット。確かに紹介文に趣味とか好みが書かれるのは羞恥心が込み上げるね、不特定多数にバレるもんね。
ん、でもよく見たら隠しのこの内容……思い当たる誰かが一人いるような……。
毒舌な皇子と言えばゼアが過るけど、僕とは仲が悪いし……まさかね。
「殿下? 誰か思い当たる者でも?」
「いや……ちょっとゼアに似てるかな~と思ったくらいで」
あはは、と笑って過ごそうと思った瞬間「あ」と声を洩らす。
「それですそれ。良かったーちょっと埋められますよ」
「え?」
そんな、人の弟の名前をクロスワード埋めみたいに……。
嘆きを入れる間もなく埋められるe。e、君ってゼアのことだったんだねー、そっかー……って
「僕の誇りでもあるゼアが……? 聖女の婚約者候補……?」
「ゼア殿下と言えばかなりの努力家で勤勉な方では……」
絶句している僕達を置き去りにして「あーそれですそれです、努力家……っと」とマイペースに埋める彼女。
嘘でしょ……。なんて驚きながらもまた何回も名前を間違えそうになっていたので名前は代わりに書くことになった。
e(隠し)
『ゼア=ユニコント・ガーラ。ガーラ帝国第二皇子。才色兼備な努力家で、兄であるシルヴィとは仲が良い。民に好かれ、他の兄妹とも上手くやれている為、主人公の相談にも快く乗ってくれる。毒舌なのが玉に瑕』
仲が良いとか嘘吐かないで貰えます?
絶賛壁作られ中な僕に対して喧嘩を売っているとしか思えない紹介文に心底腹が立った。
つまり聖女がゼアを選んだ場合、僕はゼアの敵になりゼアの恋人を奪うことになると。
……っえ、何それ凄く嫌。
「良いですね。動かずして後二人だけ不明状態。先行き良いですよ」
そりゃ移動範囲狭ければその分判明も遅いからね。この怠惰を貫いて後二人は……確かに……順調……なのかな?
多大なる不安と疑問が押し寄せたところでオマットが割って入る。
「俺含めた二人はどちらも殿下との繋がりがある……そのことを踏まえれば、後の二人も恐らく殿下と無関係ではない者だと考えられそうじゃないか?」
あ、なるほど。確かにゼアもオマットも僕と関わりのある人物だ。
これはゲームの終着点が僕だからなのかな?
指で指し示しながら言う彼に頷いて同意する。
「だとすれば……怪しいのは側近候補……かな。残念ながらオマット以外覚えてないけど」
「側近候補は皇帝陛下が決めているからな……俺自身も父上に聞いて初めて知った」
「だよね」
メモし忘れたみたいで他の「側近候補かもしれない」って一文が無いんだ、悪いね……記憶力が無いからこうなるんだけどこればっかりは仕方ない。
このことに関しては一応部下に聞いたりオマットも公爵に聞いたりしてみることになったが、あまり期待は出来そうにない。
控えめなそよ風を足元にやりながら溜め息を吐く。
「因みに、ついでで訊くけどゼアが隠しってことは条件があるんだよね? どういうのかな」
「クリア後ですね。一回殿下とのエンディング……殿下を攻略した後にもう一回やると出来るようになるんです、彼。凄く良いですよ」
「もう一回やる? そんなことが出来るのか、ゲームとやらは」
「はい。まあ実際現実になるとどうなるのかは分からないですけど……凄く良いですよアアルート」
何故か生き生きして凄く良いですよとかいう婚約者を横目に見ながら思った。
──ゼアと敵対するとか嫌すぎる……!
何としてでも回避しなければと思いを強め、ククーナ嬢へ視線を戻す。
「何か……ヤバいそれって言ってたの思い出せない……?」
「と言っても……クーンヨがヤバいのを見つけて……って流れだったはずなので、放っておけばその内私が何か見つけるとは……」
「それ見つけたら終わりって言ってなかった? ねえ」
目を逸らしながら「動きたくない」と揺らがない意思を発揮するククーナ嬢。
一方的な睨み合いの末、喋り出したのはオマットだった。
「……いっそククーナ嬢に見つけてもらってはどうだろう?」
「へっ?」
すっとんきょうな声を上げる僕とは反対に、「考えてみたんだが」と落ち着いて話を続ける。
「見つけてすぐにということではないなら、見つけてもらって……どうせ近くにいるだろう俺に話せば魔法で殿下に報告も行けるし、様子を見ることも出来るのではと……」
「い」
い、移動手段ーッ!
役立ちそうだね移動手段任命ー!!
そんなところで彼女の怠惰が役立つのか、と唖然すれば隣でどや顔をしてのけるククーナ・ビターミネントとかいう公爵令嬢の姿。
……僕の二年間は一体……などと虚しくなってきたのでまあ今はこれでよしとしよう。
疲れきったところで結論は様子見、だったのだが解散宣言をした時にククーナ嬢が突然言い出す。
「夜会に出ます。準備よろしく殿下」
「……んっ?」
驚くオマット。驚く僕。
「……はい?」
返事が遅れたものの、祝、初めての婚約者との夜会出席……が叶うことになったのだった。
応援ありがとうございます!
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