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第二章「気力を取り戻せ!」
森、学校へ登校する1
しおりを挟む草を越えて大草原、大草原を越えて生い茂る森。
──それがあたし、生茂森である!
何でこう呼ばれているのかはよく分からないけど、皆が呼びやすいように呼んでって言ったのは自分だし。皆笑ってるし! 良いと思う。
登校前に校門でわざわざ足を広げ腕を組む女子高生。
さも待たせたなと言いたげな瞳で大胆不敵に笑うその姿勢は、格好いいを通り越して空気を読めていないように映る。道行く生徒達にとっては見慣れた光景なのだろうか、彼等は素通りして次々と教室へ向かっていく。
あだ名は「変な方向にポジティブがカンストしてる」という意味で付けられた「ポジモリ」。
褒めてはいないことがよく窺い知れるが、彼女は褒め言葉として受け取っているようだ。
彼女は比較的平凡に生き、比較的平凡な日常を送っている。
「ふっふふーん、今日は推しの薄い本買おーっと!」
部屋には至るところにシルヴィグッズ。
ぬいぐるみやらポスターやら缶バッジやらとにかくくるいけの大ファンなのか、痛バッグまで違う絵柄でそれぞれに用意されている。
「はー……皇子様、今日も格好いい~……やっぱり皆分かってないのよ! シルヴィとククーナなんて組み合わせ、ダメダメ! やっぱヒロインとじゃなきゃ」
ネットにひたすら「シルヴィ×ククーナなんて公式設定にも無い」と熱心に書き込む。
「ヒロインは全員から好かれて当然」とも、まるでアンチの如くわざわざシルククのスレに潜り込み(本人にそのつもりは無いが)荒らしている。
何を隠そう、この少女。ヒロイン過激派なのである。
厄介なことに何か指摘されても褒め言葉として受け取りがちなので、事ある毎に必ず言う言葉がこうだ。
「ごっめーん! そんなにあたしのこと気になってるなんて知らなかったんだ、ごめんね気付けなくって……」
乙女ゲームヒロインあるあるの持ち前の美少女さでもカバーしきれない程のポジティブ。おかげで今では彼女の友人は表向きだけの友人か、自称しか居ない。
それがポジモリの特徴だ。
くるいけの大ファンだからか「一番分かりやすい」とまで言われる攻略サイトを作ったこともある。
サイトに攻略対象クイズを作ったことからも、彼女を応援している者は一定数いる。
そんな彼女の攻略対象キャラでの推しはシルヴィだが、勿論他の攻略対象も大好きなのだ。制作会社に「逆ハーレムルート実装まだですか」と毎月送る程には。
悪意にも負けず敵を恐れず立ち向かうヒロインに対しては、尊敬をも超越した崇拝の念を抱いていた。
だからこそ「ヒロインは愛されて当たり前」だと頑なに決め付けてしまうのだろう。
愛されて当たり前なのに、作中ではいつも悪役令嬢の邪魔が入る。
その姿が、まるで見えない壁によって孤立している自分の姿と重なったのかもしれない。
森がヘイトを溜めるにそう時間はかからなかった。
「ククーナは当て馬なんだから、助からないのは当たり前」だと又してもわざわざ乗り込んで書いた。
関わっても曲解されるだけだと気付いた者達は無視を決め込み、彼女は孤立した。
学校でもそうだ。
彼女は自分のせいで孤立しかけている。
しかし今日も決まって彼女は言った。
「みーんなおっはよー!」
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