【R‐18】ホテルの海辺で出会った人は、どうやら恋人のきょうだいだったみたいです

月城雪華

文字の大きさ
15 / 21
番外編

3話 我儘

しおりを挟む
 ◆◆◆




 ──ごめん、仕事で行けなくなった。

 そんなメッセージが来たのが、二十一日の夜。

 既に準備は万端で、あとはその日を指折り数えるだけだったため、あまりに唐突な事だった。

『大丈夫だから! お仕事、頑張って』

 すぐに返信すると、既読が付いた。

 これで中々、光輝は自分を責めてしまうところがある。

 きっと今頃必死になって、謝罪する文章を考えていることだろう。

 光輝の仕事の内容は未だに知らないが、急を要するのあればこちらがとやかく言える立場ではない。

(楽しみにしてたんだけどなぁ)

 イブから二日の休みを取っていたが、この分では有給を取らなくても良かったかも、と頭の片隅で思う。

 光輝に非がある訳ではないと理解しているものの、この行き場のない感情をどう消化したものか。

「……せっかくお休みもらったし、ゆっくりする方がいいよね。仕事が終わったら光輝が来るかもだし、綺麗にして。何か作っておいたら喜ぶ、かな」

 ぽつぽつと思い浮かんだことを言葉にしていくと、わずかに心が落ち着いていく気がした。

 するとメッセージ画面が切り替わり、かすかな振動と共に光輝の名前とアイコンが表示されるのが視界に入る。

「も、もしもし」

 由梨亜は一瞬迷ったものの、逸る気持ちを落ち着かせて応答ボタンを押す。

『あ……由梨亜ちゃん? ごめんね、トラブルがあって』

 どこか申し訳なさそうな声音は、光輝が心からそう思っているのが分かる。

 何をするにしてもトラブルというのは付き纏うものだが、今回ばかりは気が参っているようだった。

「大丈夫って言ったでしょ。……送ったのに、見てないの?」

 けれど慰めるでも、かといって諭すでもなく、不思議と怒った口調になってしまうのはなぜなのか。

 それでも自分の性格で上手い言葉が言える訳もなくて、光輝の返答を待つことしかできない。

『ちゃんと見てるよ。でもね、でも……泣いてないかなって』

「なっ……!?」

 突然何を言うのか、と思った。

 いい年をした大人が、約束を反故ほごにされただけで泣くなどあり得ない。

 それも仕事上のトラブルという明確な理由があり、仕方のない事なのだ。

 怒りや悲しさこそあれ、そこまで感情が動くかといえば否だろう。

(あれ、もしかして普通は思い切り泣く……? でもそれじゃあ子供と同じだし)

 仲がいい女友達があまりいないからか、学生時代は恋人の愚痴や恋愛相談を聞く事が由梨亜には無かった。

 それは就職してからも同じで、今ひとつ距離を置かれていると思う時がある。

 もっとも、それは由梨亜にも問題があるのかもしれないが。

「……これくらいで泣くわけないじゃない。貴方はいつも頑張ってるんだし、そもそも旅館くらいいつでも行けるもの」

 そう言った瞬間、つきりと胸の奥が痛んだ。

『そう? 俺の前だからって強がってない……?』

 尚も光輝は言葉を重ねてきて、その優しさが次第に申し訳なくなった。

 今大変なのは自分なのに、あくまでこちらのことを気遣ってくれているのだ。

(あ、私……)

 光輝と旅館で過ごせる事を楽しみにしていた自分がいて、それが唐突に打ち砕かれたのだ。

 口では強がっていても、感情が乱れないといえば嘘になる。

 けれど何度も『仕方ない』と、自分に言い聞かせるしかないのだ。

 そうでもしなければ、今にも涙が溢れて視界がぼやけてしまう。

 なぜクリスマスくらい側に居てくれないのか、と子供のように思った事をぶちまけてしまう。

『──予約した旅館には行けないけど、一日だけなら休めそうなんだ。だから君さえ良ければ』

 光輝がまだ何かを言っているが、由梨亜には少しも聞こえてこない。

 心では繋がっているのに、今ほど光輝の声を聞きたくないと思ったことはなかった。

「っ、じゃあ……ね。何かあったら連絡して」

『ちょ、由梨亜ちゃん……!?』

 ほんの一言二言話すだけが限界で、由梨亜はまだ何か言おうとしている光輝の言葉を遮るように通話を切る。

 悲痛な声音が耳に残ったが、由梨亜は深く息を吐くとベッドにごろりと横になった。

(私、馬鹿だ)

 考えていることと行動が見合っていない、というのはこの事なのだと思う。

 最後まで聞いていれば、光輝は別な提案をしようとしてくれたのだろう。

 けれど先に由梨亜の心が持たなかったのだ。

「……どうしよう」

 喧嘩とはいかないながらも、光輝を傷付けてしまったかもしれない。

 その証拠に、何度も携帯が振動している。

 メッセージの通知だというのは分かっているが画面を見るのはもちろん、なんと返したらいいのかすら分からなくて、由梨亜はぎゅうと布団を抱き締めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

お見合いに代理出席したら花嫁になっちゃいました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
綾美は平日派遣の事務仕事をしているが、暇な土日に便利屋のバイトをしている。ある日、お見合いの代理出席をする為にホテルへ向かったのだが、そこにいたのは!?

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

卒業まであと七日。静かな図書室で,触れてはいけない彼の秘密を知ってしまった。

雨宮 あい
恋愛
卒業まであと七日。図書委員の「私」は、廃棄予定の古い資料の中から一冊の薄いノートを見つける。 「勝手に見つけたのは、君の方だろ?」 琥珀色の図書室で、優等生な彼の仮面が剥がれ落ちる。放課後の密室、手のひらに刻まれた秘密の座標、そして制服のプリーツをなぞる熱い指先。日曜日、必死にアイロンを押し当てても消えなかったスカートの皺は、彼に暴かれ、繋がれてしまった心と肉体の綻びそのものだった。 白日の下の教室で牙を隠す彼と、誰にも言えない汚れを身に纏う私。卒業証書を受け取る瞬間さえ、腰元に潜む「昨日の熱」が私を突き動かす。 清潔な制服の下で深まっていく、二人にしか分からない背徳の刻印。カウントダウンの果てに待つのは、残酷な別れか、それとも一生解けない甘い呪縛か――。

結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「結婚したらこっちのもんだ。 絶対に離婚届に判なんて押さないからな」 既婚マウントにキレて勢いで同期の紘希と結婚した純華。 まあ、悪い人ではないし、などと脳天気にかまえていたが。 紘希が我が社の御曹司だと知って、事態は一転! 純華の誰にも言えない事情で、紘希は絶対に結婚してはいけない相手だった。 離婚を申し出るが、紘希は取り合ってくれない。 それどころか紘希に溺愛され、惹かれていく。 このままでは紘希の弱点になる。 わかっているけれど……。 瑞木純華 みずきすみか 28 イベントデザイン部係長 姉御肌で面倒見がいいのが、長所であり弱点 おかげで、いつも多数の仕事を抱えがち 後輩女子からは慕われるが、男性とは縁がない 恋に関しては夢見がち × 矢崎紘希 やざきひろき 28 営業部課長 一般社員に擬態してるが、会長は母方の祖父で次期社長 サバサバした爽やかくん 実体は押しが強くて粘着質 秘密を抱えたまま、あなたを好きになっていいですか……?

処理中です...