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四章
レオという男 2 ★
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◆◆◆
薄暗い部屋にはぴちゃぴちゃと濡れた音が反響し、甘い喘ぎがひっきりなしに上がっている。
「ふ、っ……ぅ、ん……ぁ、っ」
アレンは漏れる喘ぎをどうにかして押し殺そうと、懸命に唇を噛み締める。
それでもほとんど意味を成しておらず、無意識に口元を手の平で覆ってやり過ごそうとした。
「──は、っ」
しかし熱い吐息が胸元にかかり、びくりと肩が跳ねた。
恐る恐るそちらを見れば、ぎらぎらと情欲に燃える黒曜石の瞳と視線が交わる。
「っ、ぅ……」
かたかたと唇が震える。
この一ヶ月、アレンは部屋の外に出ていなかった。
最初のうちは何度となく『ここから出たい』と尋ねたものの、案の定レオは取り付く島もない。
特に今日は部屋を訪れたかと思えばアレンが口を挟む間もなく、先程からずっと胸や鎖骨を舐められているのだ。
吸ったかと思えば甘く噛まれ、愛されていない反対側も指先で器用に引っ掻いては優しく捏ねられる。
舌や指先で、痛みを感じないほどの強さで押し潰されては堪らない。
いつもレオは丹念にそこを舐めしゃぶるため、いつしか声を我慢することができなくなっていた。
ざらざらとした舌先は、最初こそ痛みがあったものの今となっては快感に変わった。
そんなところで感じる訳がないと思っていたが、胸だけで精を放ってしまったのは片手で数え切れない。
レオに愛されたことで小さな果実はほんのりと赤く色付き、衣服を纏う身体が疼くこともあった。
その時は悲しいかな、自分で弄って慰めるしかないのだが。
「声、我慢するなって言ったろ?」
ふっと片頬を上げ、レオが薄く笑う。
その唇は胸を舐めていたため唾液で濡れ光り、雄の色香を漂わせていていやに扇情的だった。
レオはぐいと乱暴に唇を拭い、アレンの頬を撫でる。
「ゃ、っ……」
そっと撫でてくる手つきは限りなく優しいのに、身体が快感とは別で拒否してしまう。
「……素直になった方がいい、って言ってるんだが」
言いながらレオが身体を沈めてきて、口付けられる気配にぎゅうと瞼を閉じる。
しかし、くすりと小さな笑い声が聞こえただけで一向に温もりはやって来ず、アレンはそろりと目を開けた。
「レ、オ……?」
視界を埋め尽くす男は、悲しいとも愛しいともつかないなんとも言えない表情をしていた。
「っ」
けれどそれも一瞬で、ちゅ、とわざと音を立てて頬に口付けられる。
かと思えばぺろりと舐められ、このまま捕食されてしまいそうな錯覚に陥った。
「なに──ひ、ぁっ……!?」
どうしたのか問う前に、ぐうっと更に身体を沈ませてきた。
その拍子で浅い場所を行き来していた雄槍が、ずぶずぶと侵入する。
胸を舐められても耐えていた雄茎は、唐突にやってきた強い刺激で大きく震えた。
目の前をぱちぱちと閃光が弾け、少し肉付きが良くなった腹を汚していく。
多少酷くされるのは、こちらの言葉を聞いてくれないのはいつもの事だ。
けれど今日は普段よりおかしくて、それを訊ねたいのに口から零れるのは甘い喘ぎだけだった。
「や、ぁ……だめ、それ……っ!」
まだ高みから降りていないのに、レオはがつがつと腰を打ち付けてくる。
先程達したばかりでも尚、ぴゅく、ぴゅるると断続的に白濁が吐き出される。
白いシーツをきつく摑んで快楽を逃がそうとするも、ほとんど意味がないことなどとうに分かりきっていた。
ただ、レオの身体には少しでも縋りたくない──切れそうな理性の糸が、アレンを意固地にさせているだけだ。
もちろん、身体だけでなく理性まで悦楽に支配されればそれまでなのだが。
「アレン、アレン……っ」
ぶつぶつとうわ言のように、自分の名を呼ぶ掠れた声が聞こえる。
左右に突かれた手は時折震え、しかし体重を掛けないようにしてくれているようだった。
普段から嫌というほど丁寧に解され、鮮烈な刺激を与えられるため段々と身体がおかしくなっていく錯覚に陥る。
「まっ、も……むり、むり……ぃ!」
ぐぽぐぷと出し入れされる度に肉壁が収縮し、触れられていない雄が腹に付くほど反り立った。
このまま快楽に支配されるのが怖くて、無意識にレオの腰に脚を回す。
「っ」
するとレオはかすかに目を瞠り、数瞬動きを止めた。
くんくんと甘えたような声も、ふんわりとした尻尾がレオのそれに緩く絡み付くのも、快感の海に投げ出されているも同然のアレンには気付いていなかった。
「本当に……そういうとこが」
ぼそりと低くレオが呟いたのと同時に、腹を埋め尽くすものの質量が増す。
「あっ……!?」
アレンは既に蕩けた瞳をいっぱいまで見開いた。
なぜ大きくなったのかもとんと分からないまま、声を殺すことも忘れて反射的にレオの首筋に腕を回す。
艶のある黒髪は少し汗ばみ、自分よりもがっしりとした逞しい身体は安定感があった。
けれど快楽に打ち震えた身体は意識を繋ぎ止めるのに精一杯で、自分が何を口走っているのかも何を摑んでいるのかも、最早分からない。
「ゃっ、あぁ……!」
最奥を熱く長大なもので力強く打ち付けてきたかと思えば、アレンの弱い場所を的確に捏ね回す。
その度に声が甘く震え、自分がただの『獣』になってしまったかのような錯覚に陥った。
「あ、あぁ……!」
いつしか跡が付くほどきつく腰を摑まれ、際限なく揺さぶられる。
ベッドがぎしぎしと悲鳴を上げ、次第に啜り泣く声と荒い息遣いが大きく響く。
「アレン……っ」
くらくらと目眩がするほどの色香を漂わせ、レオが噛み付くように口付けてくる。
すぐに割って入り込んだ舌先はアレンの縮こまったそれを見つけ、甘く吸い上げられる。
それと同時にどちゅんと大きく突き上げられ、最奥よりももっと奥へ熱い飛沫が弾ける感覚があった。
「ふ、っん、ぅ……!」
舌を絡められたまま、唇の端から堪え切れない嬌声が零れ落ちる。
息苦しいのに力いっぱい突き放せなくて、びゅるびゅると吐き出される快楽を追ってアレンの身体は二度目の高みへ上りつめた。
◆◆◆
「おはようございます、アレン様!」
「ホゥッ!」
「痛っ……!?」
突き刺さるような光を瞼の裏に感じ、次いで頭を何か固いものでつつかれる。
アレンは痛みと眩しさで目を眇めつつ、うっすらと瞼を開けた。
「ホッ!」
丸く大きな黒目がじっとこちらを見ており、アレンが起きたのに気付くと翼を羽ばたかせて更につついてくる。
「痛って、痛! ちょ、やめ、ティアラ……!」
アレンが手で頭や耳を守るのに合わせて、ばさばさと白い羽が舞う。
フクロウ──ティアラがこうして起こしにくる事にも慣れた。
隙を見て指の腹で頭を撫でると満足したのか、ティアラはピィピィと小さく鳴くとマナの元へ飛び立っていく。
ティアラを追って鮮やかな鴇色の髪が視界に入ったかと思えば、窓際に居た少女がにこやかにこちらを振り向いた。
少女──マナと目が合い、口角を上げたまま続ける。
「本日はいいお天気ですよ! ずっとベッドに座っていたり横になっているのもなんですし、こうしてお日様にあたるだけでも」
「いい」
言いながら椅子を持ってこようとしたマナの言葉を半ば遮り、アレンはベッドから起き上がろうと力を込めた。
「っ……!」
(い、痛い!)
しかし腕に少し力を入れるだけでも辛く、堪らず顔を顰める。
ともすればじんじんと腰や下半身まで痛み、知らず尻尾が股の間に入り込んだ。
「アレン様っ!」
すると見る間にマナが慌て、ベッドまでやってくると身体を支えてくれ起き上がらせてくれる。
毎日のようにレオに身体を開かれているため、いつしか身体の節々がいうことを聞かなくなっていた。
起き上がる時は誰かに、それこそ朝起こしにくるのはマナがほとんどのため、その都度手伝ってもらわないといけない。
さすがに今日こそは一人で起きられると思っていたのだが、どう足掻いても無理なようで気分が沈む。
「起き上がる時は必ず仰ってください、と昨日も言ったのに……けれど陛下よりは素直な分、私も楽ではあるんですが」
小さく溜め息を吐き、マナはベッドの端に置いていた衣服を手渡してくる。
「本日は甘い香りを中心に焚き染めてみたんです。どう、でしょうか……?」
おずおずと訊ねてくる瞳は自信なさげだが、その奥にはアレンへの期待が見え隠れしている。
というのもマナは香りの調合が得意なようで、レオと繋がった日の朝、アレンが『いい匂い』と小さく零したのが始まりだった。
『本当ですか!? あの、実は私が香りが強い方と取り違えてしまったんです。それを陛下は気付かずに着せていたみたいで……大丈夫なら良かったんですが』
年頃の少女の口からあけすけに放たれる言葉に頬が熱くなるも、アレン以上に紅潮した頬は興奮を抑えきれないようだった。
『他の方は臭いと仰るので。アレン様が気に入ってくれたのなら、改めて調合させてもらいたいんですが……構いませんか?』
そう言ったマナの表情は年相応で可愛らしく、アレンはつい一も二もなく頷いてしまった。
まさか二日に一度、少しずつ香りを変えた衣服を持って来られるとは思わなかったのだが。
(お陰で退屈しないで済むけど)
この日はこういう花や草木を使った、と毎回必ず伝えてくれる。
アレンでも読みやすい植物の本を持ってきてもらい、マナの時間がある時は一から十までしっかりと教わるため時間が過ぎるのが早かった。
この部屋で過ごすようになってから、文字通りマナは懇親的にアレンの世話をしてくれている。
しかしその実、己の監視役だということも十二分に理解していた。
レオに命じられたからだと知っているが、にこにこと笑う少女が味方ではない事実がアレンの心を疑心暗鬼にさせる。
本当はレオにしたように突き放したいのに、異性で年下というのもあって無碍な態度を取れずにいた。
アレンはマナから衣服を受け取り、そろりと鼻を近付ける。
ふんわりと鼻腔に入ってくる匂いはマナの言った通り甘く、後から爽やかな香りが残る。
「……今着てるのよりこっちの方が好き、かな」
淡く口角を上げてマナに視線を向けると、みるみるうちに満面の笑みを浮かべた。
「そうですか、良かった……! ではこちらを基準にして、また作りますね!」
「……ほどほどにな」
香の調合がどれくらい掛かるのか分からないが、きっと膨大な量を試すのは確実だ。
マナがいつ寝ているのか知らないが、うっすらとした隈があるためほとんど不眠不休でいるのは目に見えている。
部屋を後にした後も仕事があると言っていたから、そのうち倒れやしないか心配になってしまう。
「あ、そういえば」
するとマナは何かを思い出したようにポンと手を打ち鳴らし、次いで唇を開いた。
「ここ数日、特にお昼過ぎから廊下が騒がしくなるかもしれないんです。あまりうるさいようでしたらお部屋を変えるので、すぐに仰ってくださいね」
「騒がしく……?」
アレンは緩く首を傾げ、同じ言葉を尋ねる。
扉に耳を近付けても何も聞こえない、とこの部屋で目覚めた時に学習したが、どれほど騒がしくなるのだろうか。
「えっと、あのー……詳しい事は私からは言えないんですが、確かに伝えたので! では!」
「え、ちょ」
アレンが呼び止めるよりもわずかに早く、マナは部屋を出ていった。
その後をティアラが続き、ぱたんと静かに扉が閉まる。
「……うん?」
しかしかすかに何か金属が落ちる音が聞こえ、アレンは痛む身体を叱咤して、ゆっくりとした動きながら扉の前に近付いた。
「なんだろ、これ」
小指が通るほどの隙間から光るものが見え、そっと拾い上げる。
それは丸みを帯びた鍵で、まさかと思い扉に手を掛けた。
ガチャ、と聞こえた音に耳を疑いつつもなけなしの力を腕に込めると、思っていたよりも滑らかに扉が開く。
「え、っ……」
開いたと思ったと同時に、薬にも似た嫌な臭いが鼻を突く。
反射的にアレンは扉を閉め、しかしすぐに耳を澄ませながら細い隙間から廊下を見た。
すると他の獣人の姿はおろか、廊下を見回る衛兵の足音一つ聞こえなかった。
薄暗い部屋にはぴちゃぴちゃと濡れた音が反響し、甘い喘ぎがひっきりなしに上がっている。
「ふ、っ……ぅ、ん……ぁ、っ」
アレンは漏れる喘ぎをどうにかして押し殺そうと、懸命に唇を噛み締める。
それでもほとんど意味を成しておらず、無意識に口元を手の平で覆ってやり過ごそうとした。
「──は、っ」
しかし熱い吐息が胸元にかかり、びくりと肩が跳ねた。
恐る恐るそちらを見れば、ぎらぎらと情欲に燃える黒曜石の瞳と視線が交わる。
「っ、ぅ……」
かたかたと唇が震える。
この一ヶ月、アレンは部屋の外に出ていなかった。
最初のうちは何度となく『ここから出たい』と尋ねたものの、案の定レオは取り付く島もない。
特に今日は部屋を訪れたかと思えばアレンが口を挟む間もなく、先程からずっと胸や鎖骨を舐められているのだ。
吸ったかと思えば甘く噛まれ、愛されていない反対側も指先で器用に引っ掻いては優しく捏ねられる。
舌や指先で、痛みを感じないほどの強さで押し潰されては堪らない。
いつもレオは丹念にそこを舐めしゃぶるため、いつしか声を我慢することができなくなっていた。
ざらざらとした舌先は、最初こそ痛みがあったものの今となっては快感に変わった。
そんなところで感じる訳がないと思っていたが、胸だけで精を放ってしまったのは片手で数え切れない。
レオに愛されたことで小さな果実はほんのりと赤く色付き、衣服を纏う身体が疼くこともあった。
その時は悲しいかな、自分で弄って慰めるしかないのだが。
「声、我慢するなって言ったろ?」
ふっと片頬を上げ、レオが薄く笑う。
その唇は胸を舐めていたため唾液で濡れ光り、雄の色香を漂わせていていやに扇情的だった。
レオはぐいと乱暴に唇を拭い、アレンの頬を撫でる。
「ゃ、っ……」
そっと撫でてくる手つきは限りなく優しいのに、身体が快感とは別で拒否してしまう。
「……素直になった方がいい、って言ってるんだが」
言いながらレオが身体を沈めてきて、口付けられる気配にぎゅうと瞼を閉じる。
しかし、くすりと小さな笑い声が聞こえただけで一向に温もりはやって来ず、アレンはそろりと目を開けた。
「レ、オ……?」
視界を埋め尽くす男は、悲しいとも愛しいともつかないなんとも言えない表情をしていた。
「っ」
けれどそれも一瞬で、ちゅ、とわざと音を立てて頬に口付けられる。
かと思えばぺろりと舐められ、このまま捕食されてしまいそうな錯覚に陥った。
「なに──ひ、ぁっ……!?」
どうしたのか問う前に、ぐうっと更に身体を沈ませてきた。
その拍子で浅い場所を行き来していた雄槍が、ずぶずぶと侵入する。
胸を舐められても耐えていた雄茎は、唐突にやってきた強い刺激で大きく震えた。
目の前をぱちぱちと閃光が弾け、少し肉付きが良くなった腹を汚していく。
多少酷くされるのは、こちらの言葉を聞いてくれないのはいつもの事だ。
けれど今日は普段よりおかしくて、それを訊ねたいのに口から零れるのは甘い喘ぎだけだった。
「や、ぁ……だめ、それ……っ!」
まだ高みから降りていないのに、レオはがつがつと腰を打ち付けてくる。
先程達したばかりでも尚、ぴゅく、ぴゅるると断続的に白濁が吐き出される。
白いシーツをきつく摑んで快楽を逃がそうとするも、ほとんど意味がないことなどとうに分かりきっていた。
ただ、レオの身体には少しでも縋りたくない──切れそうな理性の糸が、アレンを意固地にさせているだけだ。
もちろん、身体だけでなく理性まで悦楽に支配されればそれまでなのだが。
「アレン、アレン……っ」
ぶつぶつとうわ言のように、自分の名を呼ぶ掠れた声が聞こえる。
左右に突かれた手は時折震え、しかし体重を掛けないようにしてくれているようだった。
普段から嫌というほど丁寧に解され、鮮烈な刺激を与えられるため段々と身体がおかしくなっていく錯覚に陥る。
「まっ、も……むり、むり……ぃ!」
ぐぽぐぷと出し入れされる度に肉壁が収縮し、触れられていない雄が腹に付くほど反り立った。
このまま快楽に支配されるのが怖くて、無意識にレオの腰に脚を回す。
「っ」
するとレオはかすかに目を瞠り、数瞬動きを止めた。
くんくんと甘えたような声も、ふんわりとした尻尾がレオのそれに緩く絡み付くのも、快感の海に投げ出されているも同然のアレンには気付いていなかった。
「本当に……そういうとこが」
ぼそりと低くレオが呟いたのと同時に、腹を埋め尽くすものの質量が増す。
「あっ……!?」
アレンは既に蕩けた瞳をいっぱいまで見開いた。
なぜ大きくなったのかもとんと分からないまま、声を殺すことも忘れて反射的にレオの首筋に腕を回す。
艶のある黒髪は少し汗ばみ、自分よりもがっしりとした逞しい身体は安定感があった。
けれど快楽に打ち震えた身体は意識を繋ぎ止めるのに精一杯で、自分が何を口走っているのかも何を摑んでいるのかも、最早分からない。
「ゃっ、あぁ……!」
最奥を熱く長大なもので力強く打ち付けてきたかと思えば、アレンの弱い場所を的確に捏ね回す。
その度に声が甘く震え、自分がただの『獣』になってしまったかのような錯覚に陥った。
「あ、あぁ……!」
いつしか跡が付くほどきつく腰を摑まれ、際限なく揺さぶられる。
ベッドがぎしぎしと悲鳴を上げ、次第に啜り泣く声と荒い息遣いが大きく響く。
「アレン……っ」
くらくらと目眩がするほどの色香を漂わせ、レオが噛み付くように口付けてくる。
すぐに割って入り込んだ舌先はアレンの縮こまったそれを見つけ、甘く吸い上げられる。
それと同時にどちゅんと大きく突き上げられ、最奥よりももっと奥へ熱い飛沫が弾ける感覚があった。
「ふ、っん、ぅ……!」
舌を絡められたまま、唇の端から堪え切れない嬌声が零れ落ちる。
息苦しいのに力いっぱい突き放せなくて、びゅるびゅると吐き出される快楽を追ってアレンの身体は二度目の高みへ上りつめた。
◆◆◆
「おはようございます、アレン様!」
「ホゥッ!」
「痛っ……!?」
突き刺さるような光を瞼の裏に感じ、次いで頭を何か固いものでつつかれる。
アレンは痛みと眩しさで目を眇めつつ、うっすらと瞼を開けた。
「ホッ!」
丸く大きな黒目がじっとこちらを見ており、アレンが起きたのに気付くと翼を羽ばたかせて更につついてくる。
「痛って、痛! ちょ、やめ、ティアラ……!」
アレンが手で頭や耳を守るのに合わせて、ばさばさと白い羽が舞う。
フクロウ──ティアラがこうして起こしにくる事にも慣れた。
隙を見て指の腹で頭を撫でると満足したのか、ティアラはピィピィと小さく鳴くとマナの元へ飛び立っていく。
ティアラを追って鮮やかな鴇色の髪が視界に入ったかと思えば、窓際に居た少女がにこやかにこちらを振り向いた。
少女──マナと目が合い、口角を上げたまま続ける。
「本日はいいお天気ですよ! ずっとベッドに座っていたり横になっているのもなんですし、こうしてお日様にあたるだけでも」
「いい」
言いながら椅子を持ってこようとしたマナの言葉を半ば遮り、アレンはベッドから起き上がろうと力を込めた。
「っ……!」
(い、痛い!)
しかし腕に少し力を入れるだけでも辛く、堪らず顔を顰める。
ともすればじんじんと腰や下半身まで痛み、知らず尻尾が股の間に入り込んだ。
「アレン様っ!」
すると見る間にマナが慌て、ベッドまでやってくると身体を支えてくれ起き上がらせてくれる。
毎日のようにレオに身体を開かれているため、いつしか身体の節々がいうことを聞かなくなっていた。
起き上がる時は誰かに、それこそ朝起こしにくるのはマナがほとんどのため、その都度手伝ってもらわないといけない。
さすがに今日こそは一人で起きられると思っていたのだが、どう足掻いても無理なようで気分が沈む。
「起き上がる時は必ず仰ってください、と昨日も言ったのに……けれど陛下よりは素直な分、私も楽ではあるんですが」
小さく溜め息を吐き、マナはベッドの端に置いていた衣服を手渡してくる。
「本日は甘い香りを中心に焚き染めてみたんです。どう、でしょうか……?」
おずおずと訊ねてくる瞳は自信なさげだが、その奥にはアレンへの期待が見え隠れしている。
というのもマナは香りの調合が得意なようで、レオと繋がった日の朝、アレンが『いい匂い』と小さく零したのが始まりだった。
『本当ですか!? あの、実は私が香りが強い方と取り違えてしまったんです。それを陛下は気付かずに着せていたみたいで……大丈夫なら良かったんですが』
年頃の少女の口からあけすけに放たれる言葉に頬が熱くなるも、アレン以上に紅潮した頬は興奮を抑えきれないようだった。
『他の方は臭いと仰るので。アレン様が気に入ってくれたのなら、改めて調合させてもらいたいんですが……構いませんか?』
そう言ったマナの表情は年相応で可愛らしく、アレンはつい一も二もなく頷いてしまった。
まさか二日に一度、少しずつ香りを変えた衣服を持って来られるとは思わなかったのだが。
(お陰で退屈しないで済むけど)
この日はこういう花や草木を使った、と毎回必ず伝えてくれる。
アレンでも読みやすい植物の本を持ってきてもらい、マナの時間がある時は一から十までしっかりと教わるため時間が過ぎるのが早かった。
この部屋で過ごすようになってから、文字通りマナは懇親的にアレンの世話をしてくれている。
しかしその実、己の監視役だということも十二分に理解していた。
レオに命じられたからだと知っているが、にこにこと笑う少女が味方ではない事実がアレンの心を疑心暗鬼にさせる。
本当はレオにしたように突き放したいのに、異性で年下というのもあって無碍な態度を取れずにいた。
アレンはマナから衣服を受け取り、そろりと鼻を近付ける。
ふんわりと鼻腔に入ってくる匂いはマナの言った通り甘く、後から爽やかな香りが残る。
「……今着てるのよりこっちの方が好き、かな」
淡く口角を上げてマナに視線を向けると、みるみるうちに満面の笑みを浮かべた。
「そうですか、良かった……! ではこちらを基準にして、また作りますね!」
「……ほどほどにな」
香の調合がどれくらい掛かるのか分からないが、きっと膨大な量を試すのは確実だ。
マナがいつ寝ているのか知らないが、うっすらとした隈があるためほとんど不眠不休でいるのは目に見えている。
部屋を後にした後も仕事があると言っていたから、そのうち倒れやしないか心配になってしまう。
「あ、そういえば」
するとマナは何かを思い出したようにポンと手を打ち鳴らし、次いで唇を開いた。
「ここ数日、特にお昼過ぎから廊下が騒がしくなるかもしれないんです。あまりうるさいようでしたらお部屋を変えるので、すぐに仰ってくださいね」
「騒がしく……?」
アレンは緩く首を傾げ、同じ言葉を尋ねる。
扉に耳を近付けても何も聞こえない、とこの部屋で目覚めた時に学習したが、どれほど騒がしくなるのだろうか。
「えっと、あのー……詳しい事は私からは言えないんですが、確かに伝えたので! では!」
「え、ちょ」
アレンが呼び止めるよりもわずかに早く、マナは部屋を出ていった。
その後をティアラが続き、ぱたんと静かに扉が閉まる。
「……うん?」
しかしかすかに何か金属が落ちる音が聞こえ、アレンは痛む身体を叱咤して、ゆっくりとした動きながら扉の前に近付いた。
「なんだろ、これ」
小指が通るほどの隙間から光るものが見え、そっと拾い上げる。
それは丸みを帯びた鍵で、まさかと思い扉に手を掛けた。
ガチャ、と聞こえた音に耳を疑いつつもなけなしの力を腕に込めると、思っていたよりも滑らかに扉が開く。
「え、っ……」
開いたと思ったと同時に、薬にも似た嫌な臭いが鼻を突く。
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