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壱呪 その名を、蘆屋道満
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時は平安。
この日本は公家とそれを守護する武士達の時代であり、中華では龍が滅んでも尚、疫病や悪鬼羅刹が跋扈する平安の字面とは程遠い荒んだ時代であった。
そんな時代の中、播磨国(現在の兵庫県辺り)に、蘆屋道満と呼ばれる陰陽師が居たと言う。
彼は暇を見つけては乳飲み子の居る家に出向き、式神を使って女の裸を覗いたり、夜になったら夫婦の営みをしている家にも出向き、これまた仲間達を連れて覗きに興じる等をしている絵に描いた助平餓鬼であった。
そんな彼も15の頃に元服を済ませ、播磨が誇る野良陰陽師の団体・播磨法師の一員となり、播磨法師の最奥・九字の術を修得し、京の陰陽師と負けずとも劣らない実力を手にした青年に成長した。
……と思っていた。
九字の術を修得し終えた道満は、陰陽道の基礎たる山籠りや瞑想と言った訓練に飽きてしまい中断すると、元服前のだらしのない爛れた生活を再開した事で急速に使役していた式神達が離反し、播磨法師の中で見る見る内に落ちこぼれていった。
道満には父がいた。
父の名は道貞と言い、威厳のある口髭を貯えた道貞は自身のとっておきの式神を3柱寄越した。
その3柱を播磨法師の中での博打の賞品として道満は賭け、見事に失った結果、道貞の口髭はあまりの衝撃でみるみる抜け落ち、髪までも失った結果出家した。
そんなだらしの無い道満にも転機が訪れる。
ある日、播磨法師の荒屋で、術士数人が囲炉裏を囲んで話をしていた。
その時、道満も狸寝入りをしながら話を聞いており、奇怪な話を面白おかしく聞いていた。
「例の話、聞いたか?」
「聞いたわぁ。出たんやろ……天狗が」
「せや。なんでも、東播磨の漁港から積荷に隠れはってここに着いたんやと。これは討伐せなあかうんちゃうか?」
「討伐も何も、天狗は神通力の達人なんやろ? 播磨法師の力を合わせたとこで、勝てるとは思えへんわ」
思いの他、播磨法師は弱腰であった。
播磨は天文学や鉄と言った交易により陰陽道を極めるには適した環境であったが、京に比べて呪術の質は酷く脆弱であった。
と言うのも、荒んだ環境と人が集まるにつれ悪霊の質や数は比例するが、星見に適した豊かな自然とあらゆる念が京に流れた為、悪霊が少なくなり、実戦の経験値が京の陰陽寮で勤める陰陽師と比較しても天と地程の差があったのだ。
「そやけど、現に牛1頭が天狗に攫われとるさかい、次に女子供に目ぇ向けたらたまったもんじゃないやろ? やっぱり討伐せなあかんわ」
一人の術士が決意すると、狸寝入りをかましていた道満は横になっていた体勢からゆっくりと座り出し、胡座をかいて右手で挙手をした。
「それならば、拙僧が行きましょうか?」
道満は丁寧な口調で、仲間の術士に提案を献じる。
「道満⁉︎ 式神はどないすんねん?」
「まあまあ、気になさらないで下さいまし。それと、おそらくそれは天狗ではないかと思いまする」
「? 何やて」
そう言うと道満は右手で刀印を結び、空に九字を切り、霊的な護りを自身に施すと、荒屋の戸を開け煙の様に消えていった。
この日本は公家とそれを守護する武士達の時代であり、中華では龍が滅んでも尚、疫病や悪鬼羅刹が跋扈する平安の字面とは程遠い荒んだ時代であった。
そんな時代の中、播磨国(現在の兵庫県辺り)に、蘆屋道満と呼ばれる陰陽師が居たと言う。
彼は暇を見つけては乳飲み子の居る家に出向き、式神を使って女の裸を覗いたり、夜になったら夫婦の営みをしている家にも出向き、これまた仲間達を連れて覗きに興じる等をしている絵に描いた助平餓鬼であった。
そんな彼も15の頃に元服を済ませ、播磨が誇る野良陰陽師の団体・播磨法師の一員となり、播磨法師の最奥・九字の術を修得し、京の陰陽師と負けずとも劣らない実力を手にした青年に成長した。
……と思っていた。
九字の術を修得し終えた道満は、陰陽道の基礎たる山籠りや瞑想と言った訓練に飽きてしまい中断すると、元服前のだらしのない爛れた生活を再開した事で急速に使役していた式神達が離反し、播磨法師の中で見る見る内に落ちこぼれていった。
道満には父がいた。
父の名は道貞と言い、威厳のある口髭を貯えた道貞は自身のとっておきの式神を3柱寄越した。
その3柱を播磨法師の中での博打の賞品として道満は賭け、見事に失った結果、道貞の口髭はあまりの衝撃でみるみる抜け落ち、髪までも失った結果出家した。
そんなだらしの無い道満にも転機が訪れる。
ある日、播磨法師の荒屋で、術士数人が囲炉裏を囲んで話をしていた。
その時、道満も狸寝入りをしながら話を聞いており、奇怪な話を面白おかしく聞いていた。
「例の話、聞いたか?」
「聞いたわぁ。出たんやろ……天狗が」
「せや。なんでも、東播磨の漁港から積荷に隠れはってここに着いたんやと。これは討伐せなあかうんちゃうか?」
「討伐も何も、天狗は神通力の達人なんやろ? 播磨法師の力を合わせたとこで、勝てるとは思えへんわ」
思いの他、播磨法師は弱腰であった。
播磨は天文学や鉄と言った交易により陰陽道を極めるには適した環境であったが、京に比べて呪術の質は酷く脆弱であった。
と言うのも、荒んだ環境と人が集まるにつれ悪霊の質や数は比例するが、星見に適した豊かな自然とあらゆる念が京に流れた為、悪霊が少なくなり、実戦の経験値が京の陰陽寮で勤める陰陽師と比較しても天と地程の差があったのだ。
「そやけど、現に牛1頭が天狗に攫われとるさかい、次に女子供に目ぇ向けたらたまったもんじゃないやろ? やっぱり討伐せなあかんわ」
一人の術士が決意すると、狸寝入りをかましていた道満は横になっていた体勢からゆっくりと座り出し、胡座をかいて右手で挙手をした。
「それならば、拙僧が行きましょうか?」
道満は丁寧な口調で、仲間の術士に提案を献じる。
「道満⁉︎ 式神はどないすんねん?」
「まあまあ、気になさらないで下さいまし。それと、おそらくそれは天狗ではないかと思いまする」
「? 何やて」
そう言うと道満は右手で刀印を結び、空に九字を切り、霊的な護りを自身に施すと、荒屋の戸を開け煙の様に消えていった。
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