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2話 骨の大葬者
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「ねえ、これやったの……君かい?」
舵取りの男が目を覚ますと、目の前に見知らぬ男が牛車の助手席に胡座をかいていた。
黒いマントのフードを被っていた為全貌は分からなかったが男の肌は浅黒く、その地黒の肌とよく似合う艶のある烏の羽の様に青みがかった黒髪は、彼の灰色の瞳がよく映えている色男であると言う事を舵取りの男は理解出来た。
色男の左胸に付いていた髑髏と2羽の飛翔する鷹のバッジを見て舵取りの男は思った。
この男は魔術師組織・『葬者集』の『骨の大葬者』だと言う事を。
「な、何で大葬者なんかがこんな山奥に……?」
「任務だよ。私の仕事は諸国漫遊しつつ弱者の救済や現地でまだ知らぬ魔術を学ぶんだ。もっとも、君達の仕事は私と違って誇れそうになさそうだがね」
骨の大葬者が左人差し指で右側を指し示した。
舵取りの男は指を指された方向を見ると、そこには奴隷達が収容されていた牛車が大破されており、奴隷と傭兵、それに同僚の助手席の男の体が誰が誰の物なのかが確認出来ない程に散乱されていた。
「この子達には気の毒だが、まあ、君達にとっては自業自得の末路だと思ったのだが……君だけが生き残っていてね。教えてくれるかい?」
灰色の瞳で骨の大葬者はジロリと鷹の様に凝視すると、舵取りの男は脂汗を額びっしりとかきはじめ、分かりやすく動揺をし始めた。
「凄いねぇ。全ての遺体が爆発した様な損傷で死んでいるんだ。『山賊のせい』? そう思うのは当然だけど、山賊風情が爆薬を持っているとは考え難いよね。何しろあれは高価だ。地方の騎士団も同様だ。せいぜい奴等が持つものと言えば槍や剣……良くて弓矢ぐらいだ。爆発物を有する山賊なんて、トルマン帝国の異教の山賊組織ぐらいしか持ち合わせない。だから訊く。これ、やったの君かい?」
舵取りの男はトルマン帝国からローリアへと流出した一族の末裔である。
証拠に彼の顔は彫り深く、肌が黄色いのに対し二重でローリア人とは違って多くの髭を貯えていた。
舵取りの男はすぐに両手を座面に触れ、起き上がると同時に逃走の構えを取った。
「あ! 起き上が——」
骨の大葬者が言い終える前に、何故か舵取りの男は前方へと倒れ込み、牛の尻に顔面がぶつかった後、3メートル程ある高さから落下した。
舵取りの男は怪我をしても尚、逃走しようとしていた。
しかし、両足を骨折でもしたのか立ち上がる事も這いながら進む事も出来なかった。
舵取りの男は怪我の具合を確認する為、倒れた状態で足を見ると身に雷が落ちた様な衝撃が走った。
舵取りの膝から先が、無かったのである。
苦悶の断末魔の声を上げた舵取りの男に骨の大葬者は駆け寄ると、右手で刀印を結び『その傷は大河の雫の様に』と唱えると、舵取りの男の痛覚は徐々に徐々にと引いていき、骨の大葬者の技量に彼は驚愕した。
「簡易的な痛覚除去だ。君はもう出血多量でいつ死んでもおかしくない。故郷に残る妻や子供に君の遺体を届けるのを条件に教えてくれ。あれは、本当に君がやったのかい?」
「……俺じゃない。それだけは確かだ。娼婦を傷モノにする娼館の主が居るか? 売り物の野菜を齧って売る八百屋が居るか? 俺じゃない……あのガキがやったんだ……」
「……その子供とは——」
「あぁ……愛しのアイーダ……叶うなら、お前を最期に抱き寄せたかった……フィオレ……お前とは、いずれバージンロードを……共……に……」
舵取りの男はそう言い遺すと、静かに山奥で彼等と同じ様に息絶えた。
骨の大葬者は複雑な気持ちで居た。
「紛れもなく、彼は家族を想う人間であったのに、こうも他者の気持ちが分からないなんてね……」
骨の大葬者はそう言うと、舵取りの男の首を申し訳なさそうにどこからか持ってきたのかも分からない諸刃の剣で、首と胴を断ち別つ。
そして、何故か骨の大葬者はその首を持ちながら沢の音が聞こえる方へと向かい憐れみの表情を浮かばせながら更に森深くへと入った。
舵取りの男が目を覚ますと、目の前に見知らぬ男が牛車の助手席に胡座をかいていた。
黒いマントのフードを被っていた為全貌は分からなかったが男の肌は浅黒く、その地黒の肌とよく似合う艶のある烏の羽の様に青みがかった黒髪は、彼の灰色の瞳がよく映えている色男であると言う事を舵取りの男は理解出来た。
色男の左胸に付いていた髑髏と2羽の飛翔する鷹のバッジを見て舵取りの男は思った。
この男は魔術師組織・『葬者集』の『骨の大葬者』だと言う事を。
「な、何で大葬者なんかがこんな山奥に……?」
「任務だよ。私の仕事は諸国漫遊しつつ弱者の救済や現地でまだ知らぬ魔術を学ぶんだ。もっとも、君達の仕事は私と違って誇れそうになさそうだがね」
骨の大葬者が左人差し指で右側を指し示した。
舵取りの男は指を指された方向を見ると、そこには奴隷達が収容されていた牛車が大破されており、奴隷と傭兵、それに同僚の助手席の男の体が誰が誰の物なのかが確認出来ない程に散乱されていた。
「この子達には気の毒だが、まあ、君達にとっては自業自得の末路だと思ったのだが……君だけが生き残っていてね。教えてくれるかい?」
灰色の瞳で骨の大葬者はジロリと鷹の様に凝視すると、舵取りの男は脂汗を額びっしりとかきはじめ、分かりやすく動揺をし始めた。
「凄いねぇ。全ての遺体が爆発した様な損傷で死んでいるんだ。『山賊のせい』? そう思うのは当然だけど、山賊風情が爆薬を持っているとは考え難いよね。何しろあれは高価だ。地方の騎士団も同様だ。せいぜい奴等が持つものと言えば槍や剣……良くて弓矢ぐらいだ。爆発物を有する山賊なんて、トルマン帝国の異教の山賊組織ぐらいしか持ち合わせない。だから訊く。これ、やったの君かい?」
舵取りの男はトルマン帝国からローリアへと流出した一族の末裔である。
証拠に彼の顔は彫り深く、肌が黄色いのに対し二重でローリア人とは違って多くの髭を貯えていた。
舵取りの男はすぐに両手を座面に触れ、起き上がると同時に逃走の構えを取った。
「あ! 起き上が——」
骨の大葬者が言い終える前に、何故か舵取りの男は前方へと倒れ込み、牛の尻に顔面がぶつかった後、3メートル程ある高さから落下した。
舵取りの男は怪我をしても尚、逃走しようとしていた。
しかし、両足を骨折でもしたのか立ち上がる事も這いながら進む事も出来なかった。
舵取りの男は怪我の具合を確認する為、倒れた状態で足を見ると身に雷が落ちた様な衝撃が走った。
舵取りの膝から先が、無かったのである。
苦悶の断末魔の声を上げた舵取りの男に骨の大葬者は駆け寄ると、右手で刀印を結び『その傷は大河の雫の様に』と唱えると、舵取りの男の痛覚は徐々に徐々にと引いていき、骨の大葬者の技量に彼は驚愕した。
「簡易的な痛覚除去だ。君はもう出血多量でいつ死んでもおかしくない。故郷に残る妻や子供に君の遺体を届けるのを条件に教えてくれ。あれは、本当に君がやったのかい?」
「……俺じゃない。それだけは確かだ。娼婦を傷モノにする娼館の主が居るか? 売り物の野菜を齧って売る八百屋が居るか? 俺じゃない……あのガキがやったんだ……」
「……その子供とは——」
「あぁ……愛しのアイーダ……叶うなら、お前を最期に抱き寄せたかった……フィオレ……お前とは、いずれバージンロードを……共……に……」
舵取りの男はそう言い遺すと、静かに山奥で彼等と同じ様に息絶えた。
骨の大葬者は複雑な気持ちで居た。
「紛れもなく、彼は家族を想う人間であったのに、こうも他者の気持ちが分からないなんてね……」
骨の大葬者はそう言うと、舵取りの男の首を申し訳なさそうにどこからか持ってきたのかも分からない諸刃の剣で、首と胴を断ち別つ。
そして、何故か骨の大葬者はその首を持ちながら沢の音が聞こえる方へと向かい憐れみの表情を浮かばせながら更に森深くへと入った。
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