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第三幕 酔いの月は標(しるべ)を照らす
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トキヤに散々着せ替え人形にされた挙げ句、セカイが連れていかれたのは、村で唯一の雑貨屋だった。
「これなんかどう? あっ、こっちの方が似合うかも」
髪飾りやらブローチやら。手当たり次第にセカイを飾り立てては、キャッキャと黄色い声をあげている。
と思ったら、店の主人と最近の都会の流行について長話を始めてしまった。
これ幸いとばかり、こっそり店を抜けだすセカイ。
「あら、昨日の」
前を通りかかった娘が、セカイに声を掛けてきた。
酒場で女給をしていた看板娘だ。トキヤとたいして年は違わないようだが、こちらは胸元が大きく開いた服を着ている。
店のなかを覗いて、娘は苦笑を浮かべた。
「ありゃ長くなるわね」
娘が手に持っていた籠から、林檎を差しだしてきた。
「これ食べる?」
「ありがとう」
セカイはそれを、左手で受け取った。
「あんた、右手が……」
娘はようやく、セカイの右腕のことに気付いた。だが何も言わず、自分も林檎を取りだし、皮ごと齧りついた。
その様子を見て、セカイも同じように齧りつく。
林檎は少し酸っぱかったが、爽やかな甘味が口いっぱいに広がった。
「美味しい」
「でしょ。この村の土と、太陽をたっぷり浴びてできた林檎だからね」
セカイは頷くと、再び林檎に齧りついた。
その様子を見ながら、娘は微笑んだ。
「しばらく、この村にいるのかい?」
「明日には発つわ」
「そっか……じゃあ、今晩はまたウチの店においでよ。今度こそ、ちゃんとしたメシをご馳走するからさ」
セカイは、林檎を口いっぱいに頬張りながら頷いた。
二人が林檎を食べ終える頃になって、ようやくトキヤが店を出てきた。
「お客さん放っといて、何やってんのよ」
「ごめんごめん」
そしてちゃっかり、友人の籠から林檎を失敬する。
「さ、帰りましょ」
トキヤは右手で、セカイの左手を取った。
「え……」
セカイは少し驚いたように、その顔を見上げた。
そんなことには構わず、トキヤは繋いだ手をぶんぶんと振りながら、鼻歌交じりに歩きだした。
「また後でね」
酒場の娘が、そんな二人に手を振っている。
誰かと手を繋ぐなんて、ずいぶん久しぶりのような気がした。
「これなんかどう? あっ、こっちの方が似合うかも」
髪飾りやらブローチやら。手当たり次第にセカイを飾り立てては、キャッキャと黄色い声をあげている。
と思ったら、店の主人と最近の都会の流行について長話を始めてしまった。
これ幸いとばかり、こっそり店を抜けだすセカイ。
「あら、昨日の」
前を通りかかった娘が、セカイに声を掛けてきた。
酒場で女給をしていた看板娘だ。トキヤとたいして年は違わないようだが、こちらは胸元が大きく開いた服を着ている。
店のなかを覗いて、娘は苦笑を浮かべた。
「ありゃ長くなるわね」
娘が手に持っていた籠から、林檎を差しだしてきた。
「これ食べる?」
「ありがとう」
セカイはそれを、左手で受け取った。
「あんた、右手が……」
娘はようやく、セカイの右腕のことに気付いた。だが何も言わず、自分も林檎を取りだし、皮ごと齧りついた。
その様子を見て、セカイも同じように齧りつく。
林檎は少し酸っぱかったが、爽やかな甘味が口いっぱいに広がった。
「美味しい」
「でしょ。この村の土と、太陽をたっぷり浴びてできた林檎だからね」
セカイは頷くと、再び林檎に齧りついた。
その様子を見ながら、娘は微笑んだ。
「しばらく、この村にいるのかい?」
「明日には発つわ」
「そっか……じゃあ、今晩はまたウチの店においでよ。今度こそ、ちゃんとしたメシをご馳走するからさ」
セカイは、林檎を口いっぱいに頬張りながら頷いた。
二人が林檎を食べ終える頃になって、ようやくトキヤが店を出てきた。
「お客さん放っといて、何やってんのよ」
「ごめんごめん」
そしてちゃっかり、友人の籠から林檎を失敬する。
「さ、帰りましょ」
トキヤは右手で、セカイの左手を取った。
「え……」
セカイは少し驚いたように、その顔を見上げた。
そんなことには構わず、トキヤは繋いだ手をぶんぶんと振りながら、鼻歌交じりに歩きだした。
「また後でね」
酒場の娘が、そんな二人に手を振っている。
誰かと手を繋ぐなんて、ずいぶん久しぶりのような気がした。
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