どん、どどん

チゲン

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「ママ……」
 石でも踏んだのか、車体が揺れ、パッセは目を覚ました。
 どうやら眠っていたらしい。
 時計の針は十二時を回っている。
「あっ、パッセさん。もう着きまスんで」
「俺は何か寝言を言ってなかったか?」
「いえ、別に」
 ひょっとしたら聞かれたかと思ったが、車のエンジンと砂利じゃりを踏みしだく音のおかげで、恥をかかずに済んだようだ。
「ノーキンの母親は一人で暮らしてるのか」
「へえ、そうらしいっスね」
「……おまえの故郷はどこだ」
 唐突な質問に、運転席のチンピラは目をしばたたかせた。
「コーパンです。ちっこい田舎っスよ」
「家族はいるのか」
「へえ、一応。まあ親父と喧嘩けんかして、家出してきたんスけど。で、腹減って死にかけてたところを、ボスが拾ってくれたんス」
 ファミリーには、そんな食い詰めた連中がごろごろいる。喧嘩。犯罪。借金。いずれも陽の当たる場所には出ていけない者たちばかりだ。
「そういやあ、パッセさんはどこの生まれなんスか?」
「マレンツォだ」
「コーパンからけっこう近いじゃないスか」
「そうだな」
「なんでファミリーに……」
 そこまで言って、チンピラは慌てて口をつぐむ。幹部にしていい質問ではないことに気付いたからだ。
 その様子がおかしかったのか、パッセは軽く鼻で笑った。
「逃げてきたのさ」
「えっ?」
 それ以上、パッセは何も言わなかった。
 チンピラも口を閉じた。
 山道を走る車のエンジン音だけが、しばらく車内に流れた。
 窓の外の景色は、マレンツォとは似ても似つかない。
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