どん、どどん

チゲン

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 平手の音が響き渡り、女が床に倒れた。
「俺のやることに口を出すんじゃねえ!」
 男が、殴り倒した女を睨み下ろす。
「やめてよ、パパ」
 二人の間に、年端としはもいかない少年が割り込んできた。
「うるせえ!」
 逆上した男が、その少年のほおを乱暴に叩いた。少年の軽い体は、たちまち、床に飛ばされた。
「やめて!」
 女が悲鳴をあげ、少年の体におおいかぶさった。
 すると男は、酒臭い歯をきだしにして、再び腕を振り上げた。
 乾いた音が何度も響く。
「お金は、渡すから……」
 平手の応酬おうしゅういながら、女は切れ切れに言った。
「なら、さっさと出せ!」
 最後に男の足が、女の腹を蹴った。あまりの激痛に、女はその場でうずくまり、声を殺しながら呻いた。
 それでも女は何とか立ち上がると、戸棚の奥から数枚の紙幣しへいを取りだし、男に差しだす。
 男はそれを引ったくると、悪態を吐きながら部屋を出ていった。
 やがて女は、力尽きたように床の上に座り込んだ。
「ママ……」
 少年が不安そうに、女の腕に触れた。
「大丈夫よ、パッセ。ママは大丈夫」
 女は悲しげな笑みを浮かべ、赤くなった少年の頬に手を伸ばした。
「パパはね、ちょっと苛々いらいらしてるだけなの。すぐに元のパパに戻るから、心配しないで」
「ママ……」
 少年は、どんな顔をしていいのか判らなかった。
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