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プロローグ

4 殺害の動機は、まさかの…

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「……さすがにそれは引くわ。マジで?」

 その言葉が本当なら、今、真人の目の前にいる女神ルキナが犯人ということで——
 三文芝居も甚だしいサスペンスだ。女神が犯人なんて、視聴者は絶対に納得しない。

「おや、突然人間臭さが出てきたじゃないか。私が君を殺したら、何か問題あるのかな?」

「なんか勘違いしてません? 俺、歴とした人間なんで。
 自分を殺した犯人と会話するってありえないっていうか……」

 普通、目の前に自分を傷つけた相手がいたら、警察呼ぶか、掴みかかってやり返すかするはずだ。
 それを傷つけるどころか殺されているのに、引くぐらいで済ませる真人も、人間としては十分変人の部類に入ることを、本人は全く気がついていなかった。

「そうだな。普通、死んだら殺した相手と会話することはできないからな」

「ダメだわ、こいつ。話通じねぇ」

「うん? 何か言ったか?」

「限りなく面倒くさいんで、話進めちゃって下さい。で、俺は結局どっちに行くんだ? 
 天国か? それとも地獄か?」

 真人は人間として平凡な人生を送ってきたと思う。
 慈善事業に積極的に関わってきたとかプラス面がない代わりに、警察にお世話になったマイナス面もない。
 無難に人生事なかれ主義を貫いてきたつもりだ。
 まあ、それは人間主観であって、神の基準ではどうかは分からないが。

 どちらでもいいから、とりあえず丸一日ぐっすり寝かせて欲しい。
 その後は、仕事から逃れられるのなら、うふふあはは、な天国でも、今すぐ殺してくれぇぇ、な地獄でもどっちでもいいと真人は本気で思っていた。

「申し訳ないが、君はどっちにも行けないよ。
 天国も地獄も全神共用で、他の世界の者も集まるからな。
 ミスを表沙汰にして、他の神に笑われたくないんだ」

「はあっ?」

 だが、女神ルキナが下した判決は、天国でも地獄でもなかった。
 あっさり全否定されて、少なからず覚悟を決めていたマナトは脱力した。

 (どっちも行けないってどういうことだ?
 今までのやり取りは全くの無駄だったってわけか?)

 眠気もあって、さすがにちょっもイラッとくる。

 神はどうか知らないが、人間の時間は有限なのだ。一々つきあってたら、ヨボヨボの老人になってしまう。
 死んでしまったら歳とらねぇんじゃないの、という指摘はともかく。時間の感じ方の問題である。
 
『いやいやいやいや、ちょっと待てよ!
 神のミスをなんで俺が代わりに被んなきゃならないの?!
 ふざんな!』

 そう怒鳴れたら、どんなに心がスッキリすることか。

 (どの世界にもいるんだな、上司みたいに立場の弱い奴に丸投げする奴……)

 そんな真人に追い打ちをかけるように、深刻そうな表情で女神ルキナは続ける。

「実際は、直接私の手で君を殺した訳じゃないんだ。それこそが問題でね。

 自由に見える神にもルールがあって、管理者モードであるときに、創造物を殺すことはルール違反なんだ。
 リンクさせて、自分の手で直接殺すなら許されるんだけど。

 今回は、私の嫌いなアレが出て、つい力を使ってしまってね。すぐ消したつもりだったんだけど、結果君を殺すことになったってところかな」

「アレ?」

 エイリア○か?
 女神ルキナは口に出すのも嫌そうに身を震えさせ、その豊満な胸の存在を見せつけるように自分を抱きしめた。

「アレと言えば決まってるだろう。
 地球を創造した中で唯一最大の誤算——ゴッキーだ!!」

 俺はどうやら、ゴキブリに殺されたようです。
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