神の手プロジェクト~新世界創造したつもりが奴に蝕まれていく~

くりくりさん

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第3章 ケットシー編

37 嫌悪感も限度が過ぎると…?

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「ジュリアン。戦闘中は、なるべく俺の後ろに居てくれ」

「そんなことできるわけ——」

「ケットシーにはケットシーの戦い方があるだろ?
 ジュリアンには、後方から俺のフォローを頼みたいんだ」

「……それならいいけどさ」

 ジュリアンの誇りを傷つけないよう重ねて言うと、渋々ながら折れてくれた。

 彼女が重症のときに覗いたステータスでは、多分数匹の子蜘蛛を相手にするのが精一杯だ。前衛に出してしまったら、マナトが来た意味がなくなってしまう。

 だが、そう言いつつもマナトも本格的な戦闘というのはこれが初めてで、一抹の不安を感じる。
 ジャイアントスラッグのあれは、しょぼ過ぎてカウントには入らないだろう。

「でも、マナト武器持ってないだろ。どうやって戦うつもりだよ?」

「武器ならある」

 マナトは空間収納から、この前と同じ武器を取り出した。
 ジュリアンが驚愕に目を丸くする。

「い、今、どこから出てきたんだ?!」

「俺も原理は知らない。どこかの空間から呼び出してるんだと思うけど……、空間収納って普通じゃないのか?」

 ブンブン頭を横に振る。

「そんなの初めて見た! 大神官さまでも使えないんじゃないか?」

「大神官?」

 呟くと、ジュリアンはえっ?と固まった。慌てて説明してくる。

「オリジン教の枢機卿のことだ。……まさか、知らない?」

 知っていて当たり前の雰囲気を出されているのはなぜだろう。
 もしかして、他宗教がある地球と違い、ジェンレーンはオリジン教のみが布教されているのだろうか。だから、オリジン教の全てを知っていていて当たり前だと。

「知ってないとマズイのか?」

 これから旅するのにそのほうが都合がいいのなら覚えようかな、というマナトの言外の気楽な調子を感じとり、ジュリアンはため息をついた。

「それ、大神官さまじゃなくても言わないほうがいいと思う」

「なんでだ?」

 (まさか異教徒扱いされて、魔女裁判みたいに火あぶりにされるとか?)

 だが、ジュリアンの返答は、マナトの想像の遥か斜めにいくものだった。

「……だって。オリジン教ってマナトを唯一神として崇めてる宗教だから」

「——っげほっごほっ! なななななっ!!」

 (なんだそれっ!! )

 もうマジ勘弁してください。
 今回ので精神的にゴリゴリ削られて瀕死だというのに。
 信仰心という名の狂気はもうたくさんだ。

 こんな人たちが、ジェンレーン中にいる。
 思わず遠い目をしてしまうマナトだった。

 動揺が落ち着いてポツリと、でも決意を持って呟いた。

「もう二度とバレないようにする」

「そっちに気をつけるのかよ! マナトらしいけど」

 そう言ってキャハハと笑う。
 絶対口には出せないが、そうやって笑うと、女の子なんだなぁと思う。
 その笑い声が突如止んだ。
 足を止めて後ろを振り返ると、怪訝そうに首を傾げる。

「どうした、敵か?」

 何に気をとられているか分からないマナトは、そう聞いた。
 しばらく探るようにジュリアンは後ろを見ていたが、

「ううん、敵意は感じない。
 何かが僕らの跡をついてきてるような気がしたんだけど……、気のせいかな?」

 そう言って向き直ると何事もなかったようち歩き出した。

 東の森を進んでいくと、ジュリアンが緊迫した声でマナトを止めた。

「マナト、子蜘蛛が来る!」

 (その気配どうやって感じてんの?)

 そういえばジュリアンのアビリティの中に、『野生の勘 Lv2』というのがあった気がする。
 それで敵の気配を感じているのだろうか?

 (いいなぁ、俺も欲しい……)

 『野生の』というくらいだから、獣人専用アビリティだろうか。そうだとすると、ちょっと辛い。
 先に敵の気配に気づかれば、この前のジャイアントスラッグのようにはならないのに。
 気配察知の人間版みたいなのがあれば、種族が神のマナトにも取得できるだろうか。

 ということで、気配察知系のアビリティを持たないマナトにはいつ敵が来るのかさっぱりだ。
 前方に意識を向けること数秒後、ようやくマナトにも相手を捉えることができた。

「うへぇぇぇ……」

 その姿に、マナトは嫌悪感で鳥肌が立った。
 
 でっぷりと丸みのある茶色の尻と頭。頭のてっぺんには赤い四つの目。
 それに不釣り合いな、身体の数倍はある長さの、すらりと伸びた八本の脚には棘のような毛がモサモサと生えている。
 獲物を見つけて歓喜するように開閉を繰り返す牙のような口からは、よく分からない液体が垂れていた。

 蜘蛛だ。それが三体。
 マナトが思い浮かべる地球の蜘蛛と姿形は変わらないのだが、明らかに違う点があった。
 それは——

「これが子蜘蛛であってたまるかっっっ!」

 マナトは絶叫に近い声を上げた。
 それは、子蜘蛛というにはあまりにも大き過ぎたことだ。
 マナトの腰にまで高さが及ぶのはもちろん、広げた脚の長さは二メートルを超えている。
 普段は目を逸らして注視しないアレコレが丸見えで、あまりのグロテスクさに吐きそうになった。

「チックショォォォォォっっ! 本当にヤだ、この仕事!!  
 なんだこの世界のモンスターは、俺の精神力を試してんのか? ふざけんじゃねぇぞ!
 こちとら、虫一匹殺せない都会人だって言うのに!」

「だ、大丈夫なのか?」

「……大丈夫そうに見えるか?」

 目が据わっているマナトを見て、ジュリアンがひいた。

「……見えない」

 こいつあんなに大口叩いておいて本当に大丈夫なのかよ、と思われているに違いなかった。

 だって、気持ち悪いものは気持ち悪いのだ。
 気の持ちようとかそんなレベルの問題ではない。マナトを構成する細胞レベルで拒否反応を起こすのだから、これはもう先天性の病気みたいなものだ。

 (言ったからには、責任を持ってやり遂げないと。
あぁでも、気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い——)

 呪文のように『気持ち悪い』を唱えていたが、途中からそれを『これは仕事』にすり替えていく。

 (これは仕事これは仕事これは仕事——よしっ!)

 仕事が嫌なのは当たり前だ。
 投げ出すくらいなら、最初から引き受けなければいい。だが、それをして失われるのはジュリアンの命だ。
 放り出すわけには絶対にいかない。
 マナトは前職を思い出し、この気持ち悪さから逃げたければ、さっさと片付けるべし、と結論づけた。

 マナトは剣を持って、子蜘蛛と対峙した。


__________________________


種族  :ハントマンスパイダー幼体
ランク :D

Lv    :8
HP     :201/201
MP    :46/46
攻撃力  :82
防御力  :58
魔法攻撃力:39
魔法防御力:22
素早さ  :73


アビリティ:共喰い Lv1
     
スキル :[捕縛の糸ホールドストリングス
   

__________________________


 ステータスの数値からしても、マナトを凌駕するものは見当たらない。

 覚悟を決めると、右の一体に向かって駆け出した。
 一気に距離を詰めるマナトに反応できずに硬直する子蜘蛛の頭に振り下ろす。

 ジャイアントスラッグの時とは違い、一瞬グッと反発するような手応えを感じる。
 ティシュ越しに手で虫を殺す感覚だ。
 気持ち悪さと少しの罪悪感。
 それだけなら、あとは中を見ずにティシュを丸めてゴミ箱へ捨てればいいだけだが。
 子蜘蛛の頭は見事に真っ二つに分かれていた。

「~~~~っ!! 」

 その中身を見てしまったマナトは、ぞわっと背筋を走る寒気に、勘違いだと必死に自分を誤魔化す。
 絶命したのを確認すると、続けて真ん中にいた子蜘蛛の腹に剣を突き立てた。

「マナト、前!」

 ジュリアンの言葉に前を向くと、最後の一体が硬直から解けて、飛びかかってくるところだった。

「!」

 応戦しようとしたが、咄嗟に子蜘蛛の腹から剣が抜けなくて焦る。
 視界の片隅で、マナトの様子を見てとったジュリアンが素早く矢をつがえる姿を捉えつつも、マナトは剣から手を離して素手で子蜘蛛の目を殴って潰し、蹴りを放って弾き飛ばした。
 子蜘蛛は木に叩きつけられ、ぐしゃと嫌な音をさせて沈黙する。

「す、凄い! 三体があっという間に……。
 しかも、素手で倒すなんて」

 後方で待機していたジュリアンがそう呟きつつ、マナトに近づいてくる。

「あれ、マナト?」

 反応しないマナトを不審に思ったのか顔を覗き込んだジュリアンが絶句した。

「ちょっ、ちょっと、マナトしっかりしろ!
 こら、こんなところで気絶するな!」

 直接、手で触るという禁断の手段を取ってしまったマナトは、立ったまま寝る、もとい、気絶するという新たな方法を見出したのだった。
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