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第3章 ケットシー編
38 質問攻めのその先に
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(あぁ、[神々の黄昏]ぶっ放して終わりにしたい……)
マナトは胸中で、これで何回目になるか分からない呟きを洩らした。
頭では分かっている。
そんなことをすれば、確実にバーナードの命はないし、この森一帯が焼け野原になって、ミグ村に迷惑をかけることになることくらいは。
だが、マナトの中の悪魔が囁くのだ。
使ってしまえと。
その甘言は魅力的で、否定して引き剝がしても、すぐにマナトを捕らえ直して全然離してくれなかった。
気絶から回復した後も、何度も子蜘蛛に襲われた。
一体何匹いるのか、途中から考えるのも嫌になってやめてしまったくらいだ。
倒しても倒しても、どこかで湧いてるんじゃないかと思うくらい途切れずに現れる。
そのうちの一体は、食事の途中だったのか、口から鹿に近い動物の足をクチャクチャさせながら現れたりした。
どうりで獲物の数が減っているはずである。
動物たちはケットシーに狩られる前に、蜘蛛たちの餌になっていた。
だか、マナトはそれを見ても冷静だった。
一度は気絶してしまったが、逃げようにも逃げられない状況に変なスイッチが入ってしまったらしい。
胴体を貫いて一刀の元に沈めると、ジュリアンの手を借りることもなく、順調に森の奥へと歩みを進めていった。
「バーナードさんを攫ったハントマンスパイダーって、どの辺りで見かけたんだ?」
「もうちょっと先。東の森が切れる手前くらいかな」
人の慣れとは怖いもので、最初こそ身構えっぱなしだったジュリアンも、マナト一人で余裕だと分かると、弓の間に腕を入れて肩にかけるように持っている。
(この野郎……。なんかムカつくな。
いや野郎じゃないけど)
もちろん、ジュリアンに戦わせるつもりはないから、これで正しいといえば正しいのだが、マナト一人が苦労(主に精神的に)しているようで腹が立つ。
ふと、そのジュリアンの両腕に昨日までなかった紫色の紋様みたいなのがあることに気がついた。
「その腕どうしたんだ?」
「……これ?
えっと、僕たちケットシー族に伝わる戦のお守りみたいなものかな」
聞いた瞬間、ギクリと動揺した素振りといい、取って付けたような言い方といい、どうにも怪しい。
猫耳も穴を塞ぐようにペタンとなってるし、嘘をついているような感じだ。
マナトが疑っているのが分かったのか、ジュリアンは口を尖らした。
「なんだよ、疑うのかよ」
「別にそうは言ってないけど……」
あまり深く突っ込んでも喧嘩になるだけだ。
ただでさえ子蜘蛛に精神力を削られているので、マナトは面倒事を避けるために、話題をそらした。
「そういえば、ランクって知ってるか?」
「ランク?」
ジュリアンは機嫌を直して、素直に話に乗ってきてくれる。
「なんか、俺たちにはなくて、モンスターにはあるっぽい」
「どこで聞いた話だよ?」
この様子では、ジュリアンはステータスを見れないようだ。
「……旅してるときに小耳に挟んだ。誰が言ってたのか、もう忘れたけど」
神や宗教のときの二の舞にならないように、マナトがステータスを見れることは秘密にしておいた。
それに、ステータスが見れると知ったら、個人情報を勝手に盗み見されているようでいい気はしないだろう。
ジュリアンのステータスを覗いてしまったのは、不可抗力だということにしておく。
「そういえば、モンスターの種族や強さによって、ランク分けをしてるのが、都会では一般的だった気がする。
ミグ村は奥地にあるし、モンスターってそんなに数も種類もいないんだ。
だから、必要ないからしてないけどな。
Sが一番強くて、Eが……最低ランクだったかな?
確か、規準はファンファルロー王国の王室か騎士団が作ってたはず。
どうやってランク付けしてるかは聞くなよ。僕も知らないから」
また分からない単語が出てきた。
マナトは片手間に子蜘蛛を倒しながら、今度も変な顔をされるかなと思いつつ、確認した。
「ファンファルローが、ミグ村が属してる国?
大陸を統一してたりするのか?」
「確かにミグはファンファルロー王国の領土だけど、大陸は統一してない。
ジェンレーンは東西でほぼ二等分されてて、東は種族平等を掲げる竜神族の若き英雄セレネイ様が統治されているファンファルロー王国、西には人族至上主義で他種族は奴隷だと掲げる人族のコンドウが統治するレーデントス国。
残虐で卓越した兵法家のコンドウは、ジェンレーンを統一しようと狙ってて、何度も戦争を仕かけてきてるらしい。
今は和解して表面上は平和だけど、いつまた狙ってくるか分からないって話だ」
コンドウという名前がいかにも日本人っぽい名前だったので引っかかったが、それ以上に気になることがあった。
「……人間に見える俺は、ファンファルロー王国で虐待されたりしないのか?」
もしかしたら、最初にマナトが降り立つ地点は、ファンファルロー王国ではなく、レーデントス国のどこかだったのかもしれない。
人間のみの人権を許すレーデントスに被害を被ってきたファンファルローからすれば、逆に人間だけは平等から外そうと考えてもおかしくない。
虐待されて反撃したら殺してしまうかもしれない以上、逃げ出すしか方法がないのだが、何事にも心構えは必要だ。
マナトの懸念を吹き飛ばすように、ジュリアンは笑った。
「まさか! セレネイ様はそんな心の狭い方じゃないさ。
むしろ周囲で囁かれる声を窘めて、平等に垣根はないって断言するくらい、ファンファルロー王国の民を大切に思ってくれてる」
ジュリアンがセレネイ王に会えるはずはないから、巷ではそう語られているのだろう。
「へぇー、じゃあよかった」
ひとまず安心するマナト。
腹を見せて飛びかかってきた子蜘蛛を切り捨てた視界の先に、森の出口が見えた。
マナトは胸中で、これで何回目になるか分からない呟きを洩らした。
頭では分かっている。
そんなことをすれば、確実にバーナードの命はないし、この森一帯が焼け野原になって、ミグ村に迷惑をかけることになることくらいは。
だが、マナトの中の悪魔が囁くのだ。
使ってしまえと。
その甘言は魅力的で、否定して引き剝がしても、すぐにマナトを捕らえ直して全然離してくれなかった。
気絶から回復した後も、何度も子蜘蛛に襲われた。
一体何匹いるのか、途中から考えるのも嫌になってやめてしまったくらいだ。
倒しても倒しても、どこかで湧いてるんじゃないかと思うくらい途切れずに現れる。
そのうちの一体は、食事の途中だったのか、口から鹿に近い動物の足をクチャクチャさせながら現れたりした。
どうりで獲物の数が減っているはずである。
動物たちはケットシーに狩られる前に、蜘蛛たちの餌になっていた。
だか、マナトはそれを見ても冷静だった。
一度は気絶してしまったが、逃げようにも逃げられない状況に変なスイッチが入ってしまったらしい。
胴体を貫いて一刀の元に沈めると、ジュリアンの手を借りることもなく、順調に森の奥へと歩みを進めていった。
「バーナードさんを攫ったハントマンスパイダーって、どの辺りで見かけたんだ?」
「もうちょっと先。東の森が切れる手前くらいかな」
人の慣れとは怖いもので、最初こそ身構えっぱなしだったジュリアンも、マナト一人で余裕だと分かると、弓の間に腕を入れて肩にかけるように持っている。
(この野郎……。なんかムカつくな。
いや野郎じゃないけど)
もちろん、ジュリアンに戦わせるつもりはないから、これで正しいといえば正しいのだが、マナト一人が苦労(主に精神的に)しているようで腹が立つ。
ふと、そのジュリアンの両腕に昨日までなかった紫色の紋様みたいなのがあることに気がついた。
「その腕どうしたんだ?」
「……これ?
えっと、僕たちケットシー族に伝わる戦のお守りみたいなものかな」
聞いた瞬間、ギクリと動揺した素振りといい、取って付けたような言い方といい、どうにも怪しい。
猫耳も穴を塞ぐようにペタンとなってるし、嘘をついているような感じだ。
マナトが疑っているのが分かったのか、ジュリアンは口を尖らした。
「なんだよ、疑うのかよ」
「別にそうは言ってないけど……」
あまり深く突っ込んでも喧嘩になるだけだ。
ただでさえ子蜘蛛に精神力を削られているので、マナトは面倒事を避けるために、話題をそらした。
「そういえば、ランクって知ってるか?」
「ランク?」
ジュリアンは機嫌を直して、素直に話に乗ってきてくれる。
「なんか、俺たちにはなくて、モンスターにはあるっぽい」
「どこで聞いた話だよ?」
この様子では、ジュリアンはステータスを見れないようだ。
「……旅してるときに小耳に挟んだ。誰が言ってたのか、もう忘れたけど」
神や宗教のときの二の舞にならないように、マナトがステータスを見れることは秘密にしておいた。
それに、ステータスが見れると知ったら、個人情報を勝手に盗み見されているようでいい気はしないだろう。
ジュリアンのステータスを覗いてしまったのは、不可抗力だということにしておく。
「そういえば、モンスターの種族や強さによって、ランク分けをしてるのが、都会では一般的だった気がする。
ミグ村は奥地にあるし、モンスターってそんなに数も種類もいないんだ。
だから、必要ないからしてないけどな。
Sが一番強くて、Eが……最低ランクだったかな?
確か、規準はファンファルロー王国の王室か騎士団が作ってたはず。
どうやってランク付けしてるかは聞くなよ。僕も知らないから」
また分からない単語が出てきた。
マナトは片手間に子蜘蛛を倒しながら、今度も変な顔をされるかなと思いつつ、確認した。
「ファンファルローが、ミグ村が属してる国?
大陸を統一してたりするのか?」
「確かにミグはファンファルロー王国の領土だけど、大陸は統一してない。
ジェンレーンは東西でほぼ二等分されてて、東は種族平等を掲げる竜神族の若き英雄セレネイ様が統治されているファンファルロー王国、西には人族至上主義で他種族は奴隷だと掲げる人族のコンドウが統治するレーデントス国。
残虐で卓越した兵法家のコンドウは、ジェンレーンを統一しようと狙ってて、何度も戦争を仕かけてきてるらしい。
今は和解して表面上は平和だけど、いつまた狙ってくるか分からないって話だ」
コンドウという名前がいかにも日本人っぽい名前だったので引っかかったが、それ以上に気になることがあった。
「……人間に見える俺は、ファンファルロー王国で虐待されたりしないのか?」
もしかしたら、最初にマナトが降り立つ地点は、ファンファルロー王国ではなく、レーデントス国のどこかだったのかもしれない。
人間のみの人権を許すレーデントスに被害を被ってきたファンファルローからすれば、逆に人間だけは平等から外そうと考えてもおかしくない。
虐待されて反撃したら殺してしまうかもしれない以上、逃げ出すしか方法がないのだが、何事にも心構えは必要だ。
マナトの懸念を吹き飛ばすように、ジュリアンは笑った。
「まさか! セレネイ様はそんな心の狭い方じゃないさ。
むしろ周囲で囁かれる声を窘めて、平等に垣根はないって断言するくらい、ファンファルロー王国の民を大切に思ってくれてる」
ジュリアンがセレネイ王に会えるはずはないから、巷ではそう語られているのだろう。
「へぇー、じゃあよかった」
ひとまず安心するマナト。
腹を見せて飛びかかってきた子蜘蛛を切り捨てた視界の先に、森の出口が見えた。
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