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第3章 ケットシー編
40 ハントマンスパイダー
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「ジュリア。どこに大蜘蛛が潜んでるか分かるか?」
「んー…………、無理かな。あちこちに気配があって、特定するのは難しいよ。
多分、子蜘蛛の気配だと思うんだけど」
『野生の勘』とピクピクと動かす猫耳で、玄関ホールから大蜘蛛がどこにいるか探ってもらおうとしたが、そう簡単にはいかないようだ。
マナトたちは、地道にバーナードと大蜘蛛の捜索をすることにして、一階からとりかかる。
蜘蛛の糸は、マナトたちが踏んでも靴裏にくっつくことはなかった。その代わり、歩くごとにトランポリンのような弛む感覚があり、少しだけバランスをとられる。
真っ白な通路に、木の茶色いの扉。
白の巣窟の中で唯一それだけが蜘蛛の糸から逃れ、浮かび上がるように残されていた。
とりあえず玄関ホールに一番近い左手通路のドア開けてみる。
そこも窓しかない、真っ白な部屋だった。
外が雷雨で暗いのに、部屋の様子が窺えるのは、蜘蛛の糸自体が仄かに発光しているおかげだ。
マナトたちは松明のような照明を持ってきていなかったので助かった。でなければ、屋敷の捜索の前に松明代わりになるものを探すことからスタートしなければならなかったからだ。
子蜘蛛もいなかったが、代わりに床に白い球体みたいなのがいくつも転がっていた。
バランスボールより少し大きめのそれは、よくよく見ると、一部分だけがぽっかりと穴が空いていて、中身は入っていなかった。
「これ……ハントマンスパイダーの卵、だよね。ここで孵化したってことなのかな……?」
「そうだな……」
「もうちょっと早く、僕たちが気づいてれば、こんなことにはならなかったってこと……?」
少なくともサインはあった。
森の環境は毎年と変わらないのに、動物だけがいなくなった。
疑って森を探索していれば、まだ大蜘蛛だけしかいないこの洋館を見つけていた可能性はあるが——
「難しいだろうな。
狩りが運の要素を含んでる以上、たまたま不調で獲れない時期が続いてるんだって思ってしまう。
今回は仕方のない事故みたいなもんだ。あんまり気にすんな」
「うん……」
納得しきれていないように、ジュリアは言葉を濁す。
自分たちの甘さのツケが、愛する父親にいってしまったのだから、納得しろというほうが無理かもしれないが。
「ほら、ぼーっとしてる暇があったら、さっさとバーナードさんを見つけよう」
それでも、見ているしかできないというのも辛いものだ。
マナトは、落ち込むジュリアを促して捜索を続けた。
捜索の結果、下の階は全て孵化の為の部屋だった。
たまに部屋には子蜘蛛がいたが、孵りたてなのか、それとも部屋のガーディアン的なものなのか区別はつかなかった。
疲れてはいたが、こんな場所で休む気にもなれず、続けて二階に向かう。
二階は、下の階とは少し趣が変わっていた。
左の通路を行くと居室や客室なのか、下の階より広めの間隔でドアが並んでいる。
だが、短い右の通路は突き当たりにドアが一つあるだけで他に部屋はなかった。
直感的にここだとマナトは思った。
ここにバーナードを攫った大蜘蛛がいる。
ジュリアもマナトと同じことを考えたのだろう。
顔を見合わせると、マナトは持っていた剣、ジュリアは弓を、すぐに使える状態にして、物音を立てないようにしながらドアへ近づいた。
ドアノブを握ると、そっと開ける。
ドアの隙間がだんだん大きくなって、向こうの様子が見え始める。
大蜘蛛が正面にいて、すぐにでも襲ってくると思っていたマナトたちは、部屋の中の様子に息を飲んだ。
部屋の中に部屋があるというのが一番近い表現だろうか。
元々はダンスか何かの為のホールのような部屋だったようだ。
だが、人一人通れるほどの通路が奥へと続き、左右にはまるで半透明なカーテンで仕切られたような小部屋がいくつも並んでいる。
それは全て蜘蛛の巣で作られていて、大蜘蛛の高い知性を感じさせた。
小部屋は左と右で用途が異なっていた。
左にはまだ孵化していない卵が、天井にまで達するほどぎっしりと詰め込まれていて、時折ギチギチという声と、孵化直前で卵が揺れているものもあった。
右の小部屋は、捕まえてきたエサの保管場所だった。
完全な姿のものは少なく、何かの動物の身体の一部が、無造作に置かれていた。
血や内臓は茶色く変色し、中には時間が経過したものもあって腐っているのか、鼻を摘みたくなるような異臭が立ち込めていた。
多分、孵った子蜘蛛のエサなのだろう。
顔を青ざめさせたジュリアが、バーナードがいるのではないかと、視線を彷徨わせるが、人間のものは見当たらなかった。
右の小部屋を覗きながらも、ゆっくりと慎重に通路を進んでいく。
その通路を抜けると、丸くて広い空間になっていた。
孵化前の卵が壁際にあり、中央にいたのは——
「ハントマンスパイダー!! 」
マナトはその名前を、見上げながら口にした。
「んー…………、無理かな。あちこちに気配があって、特定するのは難しいよ。
多分、子蜘蛛の気配だと思うんだけど」
『野生の勘』とピクピクと動かす猫耳で、玄関ホールから大蜘蛛がどこにいるか探ってもらおうとしたが、そう簡単にはいかないようだ。
マナトたちは、地道にバーナードと大蜘蛛の捜索をすることにして、一階からとりかかる。
蜘蛛の糸は、マナトたちが踏んでも靴裏にくっつくことはなかった。その代わり、歩くごとにトランポリンのような弛む感覚があり、少しだけバランスをとられる。
真っ白な通路に、木の茶色いの扉。
白の巣窟の中で唯一それだけが蜘蛛の糸から逃れ、浮かび上がるように残されていた。
とりあえず玄関ホールに一番近い左手通路のドア開けてみる。
そこも窓しかない、真っ白な部屋だった。
外が雷雨で暗いのに、部屋の様子が窺えるのは、蜘蛛の糸自体が仄かに発光しているおかげだ。
マナトたちは松明のような照明を持ってきていなかったので助かった。でなければ、屋敷の捜索の前に松明代わりになるものを探すことからスタートしなければならなかったからだ。
子蜘蛛もいなかったが、代わりに床に白い球体みたいなのがいくつも転がっていた。
バランスボールより少し大きめのそれは、よくよく見ると、一部分だけがぽっかりと穴が空いていて、中身は入っていなかった。
「これ……ハントマンスパイダーの卵、だよね。ここで孵化したってことなのかな……?」
「そうだな……」
「もうちょっと早く、僕たちが気づいてれば、こんなことにはならなかったってこと……?」
少なくともサインはあった。
森の環境は毎年と変わらないのに、動物だけがいなくなった。
疑って森を探索していれば、まだ大蜘蛛だけしかいないこの洋館を見つけていた可能性はあるが——
「難しいだろうな。
狩りが運の要素を含んでる以上、たまたま不調で獲れない時期が続いてるんだって思ってしまう。
今回は仕方のない事故みたいなもんだ。あんまり気にすんな」
「うん……」
納得しきれていないように、ジュリアは言葉を濁す。
自分たちの甘さのツケが、愛する父親にいってしまったのだから、納得しろというほうが無理かもしれないが。
「ほら、ぼーっとしてる暇があったら、さっさとバーナードさんを見つけよう」
それでも、見ているしかできないというのも辛いものだ。
マナトは、落ち込むジュリアを促して捜索を続けた。
捜索の結果、下の階は全て孵化の為の部屋だった。
たまに部屋には子蜘蛛がいたが、孵りたてなのか、それとも部屋のガーディアン的なものなのか区別はつかなかった。
疲れてはいたが、こんな場所で休む気にもなれず、続けて二階に向かう。
二階は、下の階とは少し趣が変わっていた。
左の通路を行くと居室や客室なのか、下の階より広めの間隔でドアが並んでいる。
だが、短い右の通路は突き当たりにドアが一つあるだけで他に部屋はなかった。
直感的にここだとマナトは思った。
ここにバーナードを攫った大蜘蛛がいる。
ジュリアもマナトと同じことを考えたのだろう。
顔を見合わせると、マナトは持っていた剣、ジュリアは弓を、すぐに使える状態にして、物音を立てないようにしながらドアへ近づいた。
ドアノブを握ると、そっと開ける。
ドアの隙間がだんだん大きくなって、向こうの様子が見え始める。
大蜘蛛が正面にいて、すぐにでも襲ってくると思っていたマナトたちは、部屋の中の様子に息を飲んだ。
部屋の中に部屋があるというのが一番近い表現だろうか。
元々はダンスか何かの為のホールのような部屋だったようだ。
だが、人一人通れるほどの通路が奥へと続き、左右にはまるで半透明なカーテンで仕切られたような小部屋がいくつも並んでいる。
それは全て蜘蛛の巣で作られていて、大蜘蛛の高い知性を感じさせた。
小部屋は左と右で用途が異なっていた。
左にはまだ孵化していない卵が、天井にまで達するほどぎっしりと詰め込まれていて、時折ギチギチという声と、孵化直前で卵が揺れているものもあった。
右の小部屋は、捕まえてきたエサの保管場所だった。
完全な姿のものは少なく、何かの動物の身体の一部が、無造作に置かれていた。
血や内臓は茶色く変色し、中には時間が経過したものもあって腐っているのか、鼻を摘みたくなるような異臭が立ち込めていた。
多分、孵った子蜘蛛のエサなのだろう。
顔を青ざめさせたジュリアが、バーナードがいるのではないかと、視線を彷徨わせるが、人間のものは見当たらなかった。
右の小部屋を覗きながらも、ゆっくりと慎重に通路を進んでいく。
その通路を抜けると、丸くて広い空間になっていた。
孵化前の卵が壁際にあり、中央にいたのは——
「ハントマンスパイダー!! 」
マナトはその名前を、見上げながら口にした。
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