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31 物騒

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 僕の左腕は酷い有り様だったので暑かったが長袖を着ていた。他の奴らに聞かれて日焼けしたくないからと答えたが果たして信じてくれただろうか。
 そのまま幸せな毎日を享受していればいいのに、蒼士に愛されれば愛されるほど、不安もまた育っていった。
 蒼士が誰かと笑って話していればそれだけで妬いたし、相手が女なら尚更だった。

「なぁ……美月ぃ……今度はどうしたん……」

 僕はベッドに横になり壁を向いていた。蒼士がつんつんと肩をつついてきていた。僕はそれを振り払った。

「蒼士は僕が消えても困らへんやろ……」
「困るって。なぁ、どうしたんやってば」

 つまらない嫉妬の話なんてしたくなかったし僕は黙っていた。蒼士も諦めたのかタバコを吸いだした。

「あー! 腹減ったなぁ! 久々にラーメン食いに行きたいなぁ!」

 わざとらしく蒼士は叫んだ。

「チャーシュー丼とギョーザもつけたいなぁ! そんなに食べられへんから誰か一緒に行ってくれへんかなぁ!」
「……僕は行かへん」

 誰が食べ物に釣られるものか。いや、釣られていた時期はあったんだが。

「もう、寂しい寂しい! 美月ぃ機嫌直してやぁ!」
「直らん」

 蒼士が出ていったので軽く目を閉じた。帰ったのならそれでいいと思っていた。すると三十分くらいして戻ってきた。

「あそこ、持ち帰りもやってんねんで」

 旨そうな匂いがしてきてついそちらを見てしまった。蒼士と目が合った。

「冷めるで、美月」
「……うん」

 本音を言うと腹は減っていたので食いつくした。ラーメンは多少冷めていたのでやっぱり食べに行けばよかったと思った。

「なんぼか気ぃ紛れたか」
「まぁな……」

 片付けを蒼士に任せて僕はタバコを吸った。しばらく二人とも黙りこくって灰皿の中身はどんどん増えていった。

「僕さぁ……蒼士のこと監禁したい」

 何を言い出すんだとは自分でも思ったが出てきたのがそんな単語だったのだから仕方ない。

「手足切り落としてもええなぁ……どこへも行けんようにしたい……」
「ちゃんと切ったとこ縫えるか?」

 それは自信がなかった。僕はスマホで検索した。

「四肢切断の本あるなぁ、医者向けの」
「買うんか?」
「高っ……一万円以上する」
「そら専門書はそんなもんやろ」
「諦めるか」

 どうやったらこの部屋に閉じ込められるのか、真剣に調べてみると、手間も金もかかることがわかった。食事も排泄もどうにかしなければならないし。現実的ではない。

「美月ぃ、そんなに不安?」
「うん」
「どうしたらええんやろなぁ」

 蒼士が寄ってきて僕の頬を両手で挟んだ。

「ぷにゅー」
「やめぇや」

 それからついばむような遊びっぽいキスをした。僕は手錠の存在を思い出した。

「つけよか」
「んっ……」

 蒼士を脱がせて後ろ手に手錠をかけ、膝で立たせた。僕は蒼士の乳首を爪でひっかいた。

「痛ぁ……」

 それからいくつも噛み痕をつけた。服で隠せない場所にもだ。赤くなっていく蒼士の身体は美しかった。蒼士をしごき、反応を見ながら手を止め、また始めるということを繰り返した。

「美月っ、もういかせてっ」
「あかん」

 どれぐらいいたぶっていたのだろうか。蒼士はプルプルと膝を震わせた。

「美月ぃ、俺どっこも行かへんから、美月のもんやから」
「そろそろええか……」

 口の中に出させ、手錠を外すと、蒼士はへなへなと床に崩れ落ちた。

「キツぅ……」

 僕はタバコに火をつけた。

「蒼士ぃ……こんなんでも僕のこと好きなん?」
「うん。好きやで。俺さぁ、縛るん好きみたいやし縛られるんも好きみたい」

 追い討ちとばかりに蒼士の顔に煙を吐いた。それでも蒼士は笑っていた。その夜僕はそれで満足してしまい、二人寄り添って眠った。
 翌日蒼士は痕なんか気にしていないのかいつもの半袖の柄シャツを着て大学に行き、僕たちの仲は知れ渡っていたので距離を置かれた。噛んでよかったと思った。
 僕の髪は鎖骨まで伸びていた。昼休みに蒼士が二つ結びにしてきてそのまま講義を受けた。

「はぁ……俺の彼氏は何しても可愛いなぁ」

 喫煙所で蒼士は僕の毛先を指で触った。そうしていると透が現れた。セブンスターを持っていた。

「蒼士さん、美月さん」

 蒼士が透の肩を叩いた。

「なんや、透も吸うようになったんか」
「へへ……それでね、彼女できました」
「ほんまかー!」

 透は最後に会った時より顔色がよく、多少身体もしっかりしているように感じた。蒼士がさらに絡んだ。

「写真とかないん?」
「ありますよ」

 茶髪のストレートロングのなかなか可愛らしい女の子だった。僕は言った。

「よかったなぁ。幸せになりや」
「蒼士さんと美月さんこそ」

 透を残して僕たちは帰路に着いた。

「実はさぁ……透に惚れられててさ。振ったけど。ハグだけしたった」
「えー? それ聞いてない。ハグだけでもあかん。もうそんなことしたら怒るで」
「ごめんって」

 スーパーに寄って買い出しをした。今夜はそうめんだ。蒼士は錦糸玉子を作ってくれて、それをたっぷり入れて食べた。
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