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38 林檎
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例の神社に初詣に行った。僕はマフラーを巻き、蒼士は手袋をして。これだけ人が多いんだ、多少のことはいいだろうと手を繋いだ。
「蒼士ぃ、焼きそば食べたい」
「まずはお参りして、おみくじ引いて、それからや」
僕は蒼士の健康を祈ることにした。ついでに理沙。伯父の顔も出てきた。さらにバイト先のメンバーも追加しておいた。願いすぎなような気がしたが新年だし構わないだろう。
おみくじは二人揃って凶だったので笑ってしまった。逆に運が良くないか、とろくに内容も見ずに結んだ。
「焼きそば、焼きそば」
「美月は食いもんになると目の色変わるなぁ」
他のものも食べたかったので、一つだけ買って二人で分けた。屋台をぐるぐる見て回り、僕が目をつけたのはりんご飴だった。
「蒼士、あれ買って。食べたことない」
「そうなん? 旨いで」
思いっきりかじったが、一口目ではりんごまで届かなかった。僕は歯をたててガジガジやった。
「美月ぃ、俺も一口」
「んっ」
シャキシャキしたりんごの食感が瑞々しくて、僕は一気にハマってしまった。こんなに美味しいものを今まで食べたことがなかったなんて。
「あはっ、美月唇真っ赤やで」
「マジで?」
まだお腹が空いていたので、はしまきも食べた。箸にお好み焼きが巻かれているやつだ。最後にタバコを吸って帰った。
「あーあ、今年はいよいよ就活かぁ。蒼士は髪切らんでええの?」
「そろそろ切ろうかなぁ」
蒼士の髪は結べそうなくらい伸びていた。
「僕みたいなカスがどっか受かるかなぁ……特技は股開くことしかないで……」
「大丈夫やって。バイトもずっと続けとうんやし」
こたつに入ってのんびりしていると、蒼士のスマホに理沙から電話がかかってきた。
「うん。美月んちおるよ。何や、来るんかいな」
理沙は大きな紙袋を三つ持って現れた。福袋らしい。
「えらい人多かったわぁ。目当てのんは買えたからええけど」
開封作業が行われた。二つは服で、もう一つはガラクタばかり入っていたが、蒼士が目をらんらんと輝かせた。
「兄ちゃんこの貯金箱欲しい!」
それは、ピンク色の四角い形で表に顔のようなものがついていて、口の中に小銭を入れて食べさせるようになっている貯金箱だった。
「お兄ちゃん変なん好きやなぁ」
「えー、可愛いやん」
蒼士の可愛いの基準がよくわからない。少なくとも僕の顔は可愛いと思うけど。理沙は受験生になるということで、既に予備校に通っているとのことだった。
「絶対二人と同じとこ行くねん。そんで、文学部にする」
「ほな、あんまり僕のとこばっかり来たらあかんで。勉強しぃ」
「はぁい」
蒼士の前で彼氏の話はできない。気になって仕方がないのだが。こっそりスマホでそれについて聞いてみると、順調とだけ返ってきた。
冬休みが終わって少しすると、母の命日だ。僕は母子手帳を眺めた。健診もワクチンも欠かさず受けさせられており、この頃はまともだったのだなと思った。
何かきっかけのようなものがあったのだろう。母がああなってしまったのには。でも、もう聞けない。聞いたところで失われた時間は埋められない。僕は地獄に落ちると思うけど母も同じところにいるとは限らない。
蒼士が来てくれた途端やっぱり泣けてきて、僕は胸に甘えた。蒼士が見張っていてくれたので腕を切らずに済んだ。
「美月……ほんまはお母さんのこと好きやってんな」
「そうみたい……」
僕は蒼士に尋ねた。
「蒼士のお母さんはどんな人やったん?」
「今思うと子供っぽい人やったなぁ。俺と理沙と一緒に泥まみれで遊んでくれたし」
「ええなぁ……」
蒼士の髪はスッキリと短くなっていた。ツンツンとした毛先を撫でてキスをした。
「蒼士……手錠して……」
「んっ……」
手錠をかけられ蒼士に口に突っ込まれて腰を振られた。喉にあたるくらいがちょうどよかった。たまには物みたいに扱われたいのだ。蒼士もそれをわかってくれたのか僕を張り倒して強引にねじこんできて、僕は奥歯をぐっと噛んだ。
「今日はそういう気分なんやろ、美月ぃ……」
言葉以上のものが僕たちの間にはあったし、これが信頼というものだと僕は思えた。蒼士は僕のダメなラインを言わなくても知っていて決して越えてこない。
ぐったりしてしまった僕の額に蒼士はキスをして手錠を外した。自由になった腕で蒼士を抱き締めた。
「蒼士、好きぃ……」
「美月ぃ、死ぬまで大事にしたるからなぁ」
三月になると就活の説明会が始まり、僕は忙しくなった。受けられるものは全て受けて対策をした。卒論のことも考えなければならなかったし、蒼士との時間は減ってしまったが、誕生日にくれたネックレスを握りしめて僕は耐えた。
そうこうしていると今度は蒼士の誕生日だ。去年よりもいくらかお金はあった。理沙に頼らず探すことにして、僕は合間の時間を検索に費やした。
「蒼士ぃ、焼きそば食べたい」
「まずはお参りして、おみくじ引いて、それからや」
僕は蒼士の健康を祈ることにした。ついでに理沙。伯父の顔も出てきた。さらにバイト先のメンバーも追加しておいた。願いすぎなような気がしたが新年だし構わないだろう。
おみくじは二人揃って凶だったので笑ってしまった。逆に運が良くないか、とろくに内容も見ずに結んだ。
「焼きそば、焼きそば」
「美月は食いもんになると目の色変わるなぁ」
他のものも食べたかったので、一つだけ買って二人で分けた。屋台をぐるぐる見て回り、僕が目をつけたのはりんご飴だった。
「蒼士、あれ買って。食べたことない」
「そうなん? 旨いで」
思いっきりかじったが、一口目ではりんごまで届かなかった。僕は歯をたててガジガジやった。
「美月ぃ、俺も一口」
「んっ」
シャキシャキしたりんごの食感が瑞々しくて、僕は一気にハマってしまった。こんなに美味しいものを今まで食べたことがなかったなんて。
「あはっ、美月唇真っ赤やで」
「マジで?」
まだお腹が空いていたので、はしまきも食べた。箸にお好み焼きが巻かれているやつだ。最後にタバコを吸って帰った。
「あーあ、今年はいよいよ就活かぁ。蒼士は髪切らんでええの?」
「そろそろ切ろうかなぁ」
蒼士の髪は結べそうなくらい伸びていた。
「僕みたいなカスがどっか受かるかなぁ……特技は股開くことしかないで……」
「大丈夫やって。バイトもずっと続けとうんやし」
こたつに入ってのんびりしていると、蒼士のスマホに理沙から電話がかかってきた。
「うん。美月んちおるよ。何や、来るんかいな」
理沙は大きな紙袋を三つ持って現れた。福袋らしい。
「えらい人多かったわぁ。目当てのんは買えたからええけど」
開封作業が行われた。二つは服で、もう一つはガラクタばかり入っていたが、蒼士が目をらんらんと輝かせた。
「兄ちゃんこの貯金箱欲しい!」
それは、ピンク色の四角い形で表に顔のようなものがついていて、口の中に小銭を入れて食べさせるようになっている貯金箱だった。
「お兄ちゃん変なん好きやなぁ」
「えー、可愛いやん」
蒼士の可愛いの基準がよくわからない。少なくとも僕の顔は可愛いと思うけど。理沙は受験生になるということで、既に予備校に通っているとのことだった。
「絶対二人と同じとこ行くねん。そんで、文学部にする」
「ほな、あんまり僕のとこばっかり来たらあかんで。勉強しぃ」
「はぁい」
蒼士の前で彼氏の話はできない。気になって仕方がないのだが。こっそりスマホでそれについて聞いてみると、順調とだけ返ってきた。
冬休みが終わって少しすると、母の命日だ。僕は母子手帳を眺めた。健診もワクチンも欠かさず受けさせられており、この頃はまともだったのだなと思った。
何かきっかけのようなものがあったのだろう。母がああなってしまったのには。でも、もう聞けない。聞いたところで失われた時間は埋められない。僕は地獄に落ちると思うけど母も同じところにいるとは限らない。
蒼士が来てくれた途端やっぱり泣けてきて、僕は胸に甘えた。蒼士が見張っていてくれたので腕を切らずに済んだ。
「美月……ほんまはお母さんのこと好きやってんな」
「そうみたい……」
僕は蒼士に尋ねた。
「蒼士のお母さんはどんな人やったん?」
「今思うと子供っぽい人やったなぁ。俺と理沙と一緒に泥まみれで遊んでくれたし」
「ええなぁ……」
蒼士の髪はスッキリと短くなっていた。ツンツンとした毛先を撫でてキスをした。
「蒼士……手錠して……」
「んっ……」
手錠をかけられ蒼士に口に突っ込まれて腰を振られた。喉にあたるくらいがちょうどよかった。たまには物みたいに扱われたいのだ。蒼士もそれをわかってくれたのか僕を張り倒して強引にねじこんできて、僕は奥歯をぐっと噛んだ。
「今日はそういう気分なんやろ、美月ぃ……」
言葉以上のものが僕たちの間にはあったし、これが信頼というものだと僕は思えた。蒼士は僕のダメなラインを言わなくても知っていて決して越えてこない。
ぐったりしてしまった僕の額に蒼士はキスをして手錠を外した。自由になった腕で蒼士を抱き締めた。
「蒼士、好きぃ……」
「美月ぃ、死ぬまで大事にしたるからなぁ」
三月になると就活の説明会が始まり、僕は忙しくなった。受けられるものは全て受けて対策をした。卒論のことも考えなければならなかったし、蒼士との時間は減ってしまったが、誕生日にくれたネックレスを握りしめて僕は耐えた。
そうこうしていると今度は蒼士の誕生日だ。去年よりもいくらかお金はあった。理沙に頼らず探すことにして、僕は合間の時間を検索に費やした。
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